元麻布春男の週刊PCホットライン

CyrixブランドがPC向けCPU市場から撤退する意図とその影響



■ 既定路線か、社内に複数の意見が存在したのか

 ゴールデンウィーク明けの6日(米国時間5日)、National SemiconductorはPC向けのプロセッサから撤退すると発表した。こう書くと、同社のCyrix部門が手がけるx86互換プロセッサ事業が打ち切られたような印象を受けるが、これは正しくない。撤退を表明したのは、2路線ある同社プロセッサ製品のうち、ソケットを利用するスタンドアロンプロセッサのみ。これに伴い、最先端プロセッサの量産向けの工場(メイン州サウスポートランド)の持分についても売却する意向であるものの、MediaGXやPC Chip(System on a Chip)など、情報家電を指向したインテグレートタイプのプロセッサについては今後も開発が続けられる。

 実は、筆者はある雑誌の仕事で、昨年秋にNational Semiconductor/Cyrixの副社長であるSteve Tobak氏にインタビューを行なった。その時のインタビューを元にした記事で、筆者はまさに今回の発表のとおりのことを書いている(ウソだと思う人は、Hello!PC誌'98年10月24日号82ページの記事を読むこと)。ただし、別に筆者は先見の明を自慢したいわけではない。先見の明も何も、筆者は聞いたママのことを書いたに過ぎず、独自に何か新しいことを見つけたわけではないからだ。

 ところが、この話には後日談がある。この記事が掲載された直後、ナショナルセミコンダクタージャパンから連絡があり、当該の記事には事実の誤認が含まれている、もう1度説明したい、ということが伝えられた(念のため断っておくが、抗議とかそういう物騒な口ぶりではなく、丁寧な対応であったことを付け加えておきたい)。そりゃいかんというわけで、再取材した原稿で筆者は、Cyrixが今後もスタンドアロンプロセッサを続ける意思があることを明記し、筆者による推定として、CyrixはSocket 370互換の道を歩むであろうと述べた(こちらは同誌'98年12月8日号掲載)。もちろん、今回の正式発表で、Socket 370互換のCyrixプロセッサは、永久に登場しないことになる。

 断っておくが、別に筆者は、結局当初の記事通りになったことで、ナショナルセミコンダクタージャパンやNational Semiconductorを責めたいとか、恨みに思っているということは全くない。2度に渡る取材は極めて友好的な雰囲気のもとに行なわれた。ただ今にして思えば、当時から社内には異なる路線を主張する様々な意見が存在したのだなぁ、ということだけである。

 もう1つうがった見方としては、最初のインタビューの時点で、すでにPC向けプロセッサからの撤退は社内的には決まっていた、という可能性もなくはない。だが、正式発表前に情報が伝えられては、在庫の処理を含めた近い将来の商談に影響が出てしまうし、これは株価にも影響が出かねない。もうしばらくは伏せておきたかった、というシナリオだ。これだと話としては面白いのだが、それにしては意思決定から発表までに要した時間が長すぎる(半年以上)。やはり決定までには、さまざまな逡巡があったのだろう(決定打になったのは、CeleronプロセッサとK6-2間の価格競争かもしれない)。




■ 情報家電にフォーカスするNational Semiconductor

 それはともかく、ソケット用のスタンドアロンプロセッサから撤退し、MediaGXシリーズやPC Chip路線に集中することは、おそらくNational Semiconductor的には正しいように思う。単体のチップセットを持たない同社にとって、スタンドアロンプロセッサのビジネスは、常にサードパーティ製のチップセットに依存したビジネスである(同社から見ればIntelもサードパーティということになる)。これはビジネスとしては、自社で完全なイニシアチブを握れないということを意味する。ハッキリいってあまり良いビジネスとは思えない。

 となると、進むべき道としては、自社でプロセッサだけでなく、チップセットの開発・販売も行なうIntel型か、今回National Semiconductorが発表したように情報家電にフォーカスした家電型か、ということになる。いずれの道も、サードパーティを拒むものではないが、主要コンポーネントを自前で揃えられるということでは一致する。そして、現時点では同じようなサードパーティ頼みの状況にあるAMDがK7向けチップセットを自社開発するなどIntel型を選んだのに対し、National Semiconductorは家電型を選んだわけだ。

 いずれの道も、サードパーティに依存せず自分の道を自分で決められるという点で、今よりずっとベターだと思う。問題は、それぞれの路線をどれくらいうまくやれるか、ということだ。この点において、National Semiconductorが選んだ道は、現時点での市場規模が小さいというデメリット(ただしPCを超える市場に化ける可能性はある)があるものの、ビジネスの立ち上げ時において、とりあえず最大手のIntelと競合しなくて済む、というメリットがある(家電市場が大きくなれば、すかさずIntelは参入するだろうが、その時はCyrixが迎え撃つ形になれる)。




■ Cyrix撤退で、AMDへの影響は

 今回の発表のもう1つの影響は、Socket 7に対するマイナスイメージの増加だろう。Socket 7対応のチップセットやマザーボードは、事実上AMD向けということになってしまう。これまでSocket 7には複数社による業界標準的なイメージがあったが、Intelに続きCyrixも撤退することで、AMDだけがサポートし続ける1世代前のプラットフォームという印象が強くなる(もちろん、正確にはIDTやRise TechnologyもSocket 7対応なのだが、両社の市場シェアはあまりにも少ない)。おそらくK6-IIIをしばらくは売り続けなければならないAMDにとって、K-7と対応チップセットの本格的な量産体制が整うまで(0.18μプロセスによる量産体制。おそらく来年)、辛い戦いになるかもしれない。

 AMDのウルトラCとしては、0.18μにも対応可能なサウスポートランド工場を買う、ということも考えられるが、さすがに年内にK7の量産をサウスポートランドで行なうことは難しいだろう(長い目で見た場合の判断はまた別だが)。願わくば、Cyrix MIIが持っていたシェアを少しでも多くK6-2で奪いたい、というところだ。ただし、この市場はIntelがCeleronで奪取をもくろむ上、IDTやRiseも当然狙っている。決してたやすいことではない。

□ニュースリリース(National Semiconductor、英文)
http://www.national.com/news/item/0,1735,377,00.html

[Text by 元麻布春男]


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