鈴木直美の「PC Watch先週のキーワード」
第75回:4月19日~4月23日


■■キーワードが含まれる記事名
●キーワード


4月19日

■■メガソフト、テキストエディタ「MIFES」にATOK12を搭載したVer.5.0
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990419/mifes.htm

バイナリエディタ(binary editer)

 バイナリデータで構成されるファイルを編集できるアプリケーション。
 バイナリは、単に2進という意味だが、可読文字であるテキストに対する用語として用いられることがあり、可読文字で構成された「テキストデータ」や「テキストファイル」に対し、アプリケーション固有のデータファイルや、実行ファイルなどを「バイナリデータ」あるいは「バイナリファイル」と呼んでいる。

 エディタは、編集プログラムのことだが、一般には、プログラムのソースファイルなどのプレーンなテキストファイルの編集用に用いられるテキストエディタを指す(例えばWindowsのメモ帳のようなタイプ)。このテキストエディタに対し、バイナリファイルを直接扱えるようにしたものをバイナリエディタという。

 可読文字を前提としたテキストエディタは、データをできるだけ文字として表示することにように作られているため、場合によっては、可読文字以外の情報が異なるデータに変換されてしまったり、削除されたり、誤って解釈されたりといったことが起こる。入力も同様で、テキスト以外のコードが、正しくは入力できないケースが多い。これに対し、バイナリエディタはあらゆるコードを透過的に扱えるように作られており、必要に応じて、16進数による表示や編集等も行なえるようになっている。ただし、一般のエンドユーザーがこのようなソフトウェアを必要とするケースは、まずない。



 
■■ラトックシステム、CardBus対応UltraWide SCSI PCカードほか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990419/ratoc.htm

スキャッタ・ギャザー(Scatter/Gather)

 DMA(Direct Memory Access)転送やバスマスタ(bus master)転送等時に、散り散りになっている(scatter)メモリブロックに対して、まとめて(gather)連続転送が行なえる機能。

 Windowsをはじめとする仮想記憶(virtual memory)を採用しているシステムでは、アプリケーション等に対しては、仮想的なメモリアドレスを与え、システム側でそれを物理的なアドレスに変換して運用するやり方が採られている。これは、ハードディスクをメモリの延長として使えるようにするための仕組みで、必要に応じてシステムがメモリ上のコードやデータを一時的にディスクに書き出したり(スワップアウト)、メモリ上に読み込んだり(スワップイン)しながら、限られた物理メモリをやりくりし、物理メモリ以上の大きなメモリ空間を利用できるようにしているのである。

 仮想記憶では、メモリはページという単位で管理されており、物理メモリへのマッピングやスワップ等は、すべてこのページ単位で行なわれている。したがって、仮想アドレス上は連続しているメモリブロックが、物理メモリ上では散り散りになっているということが起る。

 DMA転送やバスマスタ転送では、デバイスはCPUを介さずに、直接メモリ間でデータ転送を行なう。この場合、(少なくともPC/ATでは)デバイスは物理アドレスを使用するのだが、アドレスは必ずしも連続しているとは限らない。このような飛び飛びのアドレスに対して、連続してデータを転送できる機能を、スキャッタ・ギャザーと呼んでいる。デバイスやドライバがこの機能を備えていない場合には、転送するブロックごとに仕切りなおしを強いられるため、SCSIのようなコマンドオーバーヘッドの大きなインターフェイスでは、転送速度が著しく低下してしまうことになる。

【参考】
□バスマスタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981217/key58.htm#bus_master


■■週刊スタパトロニクス「4月14日到来!! cdmaOne端末ゲット!!」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990419/stapa43.htm

EVRC(Enhanced Variable Rate Codec)
イーブイアールシー

 cdmaOneに用いられている、音声符号化方式。
 オーソドックスな音声や楽音の符号化は、波形情報そのものである音圧レベルを数値化してゆくやり方で、一般の公衆回線で使われているPCM(※1)や、PHSで使われているADPCMは、このタイプの符号化方式に分類される。ちなみに両者のビットレートは、PCMが64kbps、ADPCMはその半分の32kbpsで、純粋な符号化器だけで評価した場合には、これらは同程度の音質が得られる。

 一方、デジタル携帯電話(PDC~Personal Digital Cellular)に使われているVSELP(Vector Sum Excited Linear Predictive Coding)やPSI-CELP(Pitch Synchronous Innovation Code-Excited Linear Prediction)、そしてこのEVRCなどでは、波形合成の手法が用いられており、このようなタイプを、分析合成符号化あるいはボコーダ(vocoder~VOice CODER)と呼んでいる。このタイプには、波形の分析やモデル化、原音の生成方法などの異なる様々なバリエーションがあるが、基本的には、波形の元となる特徴的なパラメータとそれを原音に近づけるための情報という形にして伝送。これをもとに、受信側で音を生成するスタイルをとる、(もちろんこのほかにも、符号の最適化や聴感特性を利用した圧縮も併用している)。ADPCM等と比べると処理は重くなるが、低ビットレート向けの効果的な圧縮技術であり、フルレートのPDCに使われているVSELPでは6.7kbps、ハーフレートのPSI-CELPでは3.45kbpsと、通常の回線の5~10分の1のビットレートを実現している(さすがにPCMやADPCM並みの音質とはいかないが)。

 cdmaOneに採用されているEVRCは、'97年にTIA/EIAの標準規格(IS-127)となった新しいコーデックで、先の2つと同系のRCELP(Relaxation Code Excited Linear Prediction)をベースに、可変ビットレート(0.8~8kbps)に対応したコーデックで、エコーキャンセラー(echo canceller)やノイズサプレッサ(noise suppressor)の機能も内包。VSELPよりもさらに処理は重くなるが、このビットレートでPCMやADPCM相当の高音質を実現している。

(※1)CDに使われているリニアなPCMと違い、電話のPCMは振幅レベルを対数的に扱い、聴感上の歪みを押さえる(ダイナミックレンジを稼ぐ)方法がとられている。国内で用いられているのは一般に「μ-Law」と呼ばれているタイプで、8bitでリニア12bit相当の符号化を行なっている。ちなみにアナログ回線も中継路はデジタル化されており、音声は局でいったん符号化してから伝送している。

【参考】
□PCM
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980917/key46.htm#PCM
□MP3 (MPEG 1 Audio Layer 3)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980924/key47.htm#MP3


パスダイバ(ー)シティ(path diversity)

 直接波や反射波が混ざり合った信号の中から、適切な信号を選択する技術。マルチパスダイバシティとも。

 異なる通信経路を通ってきた信号の中から、最適な信号を選択する技術をダイバシティという。一般にダイバシティ受信といった場合には、位置の異なる複数のアンテナを用意し、もっともコンディションのよいアンテナに切り替える、「空間ダイバシティ(spatial diversity)」あるいは「アンテナダイバシティ(antenna diversity)」と呼ばれるスタイルのものを指す。安定した受信を実現するためのこの技術は、身近なところでは、携帯電話や自動車電話等に使われている(※1)

 高周波の電波は光とよく似た性質を持っており、障害物に遮られたり、反射したりといった現象が起こる。このため市街地や山間部では、直接波と反射波が混ざり合った状態で受信されることがあり、これをマルチパス(multipath)と呼んでいる。異なる経路を通って来た微妙な時間差を持つ電波は、互いに干渉し合い正常な受信の妨げとなるため、マルチパス成分を除去し、適切な信号を取り出さなければならない。これをパスダイバシティという。一般には有害な電波障害であるマルチパスだが、スペクトル拡散を使うCDMAでは、レーク受信(RAKE receiver[※2])を用いることによって、このマルチパスを除去すると同時に有効に活用している。

 CDMAでは、信号を特定の符号(PN:Pseudo Noise~擬似雑音)を使って広い周波数帯域に広げるスペクトラム拡散を行ない、各ユーザーの信号を変調。それを合成しひとつの電波として送信している。各ユーザーは、それぞれの符号を使って逆拡散することにより、自分の信号成分だけを復調する仕組みになっており、もともとが、信号の干渉や雑音の影響を受けにくい性質を持っている(※3)。レーク受信機は、この逆拡散器を複数(cdmaOneでは3つ)備えた構造になっており、時間差を持つパスを各逆拡散器使って個別に逆拡散。それらをひとつに合成することによって、受信特性そのものを向上させている。

(※1)IDO系の基地局等では、電波の振幅方向(偏波面)を利用しタイプ(アンテナは見かけ上1本に見えるが、垂直偏波用と水平偏波用のアンテナを組み合わせている)が使われており、こちらは「偏波ダイバシティ(angular)」と呼んでいる。ちなみに、複数の基地局を次々に渡り歩いていく「ハンドオン」も、ある意味ではダイバシティ技術のひとつといえよう。

(※2)レークは、土を均す時などに使うクシ状の歯が付いた農耕具で(一種の熊手で小型の奴は潮干狩りの必須アイテム)、クシ状に分散したエネルギーをひとつにまとめるところからこの名が付けられている(コンセプトは'56年に発表)。なお本来の発音は「reik」だが、この耕具の方は国内では「レーキ」と呼んでいる。

(※3)このような仕組みのため秘匿性が高く、かつては主に軍事用として用いられていた。

[Text by 鈴木直美]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp