リレーエッセイ「モバイル人集合!」第1回 ゲスト:本田雅一

カローラはお好き?

 IBMでThinkPadを担当していた竹村譲氏に話を伺ったときのことだ。
 薄くて軽くて高機能なノートPCって、どの程度のものなら技術的に可能かを聞いてみた。僕はせいぜい、ThinkPad 560に毛が生えた程度(失礼)の製品を考えていたのだが、氏の話はそれをはるかに超越していた。

 現在のノートPCは、大量に生産しやすく、しかもローコストにできる工夫が随所にされており、それにより製品設計の時点で妥協しなければならない点が非常に多いということだ。コスト優先で、しかも顧客に満足してもらえる機能を備える。
 以前、国産車がどれも似たような車ばかりになり、すべてがカローラの親戚のように見えた時期があった。「今はすべてのノートPCがカローラなんだよ」と、竹村氏は話す。だから今のPCは、デスクトップもノートも、同じようにしか見えない製品が氾濫しているのだろう。

 もしカローラじゃなくてフェラーリF50なら、ノートPCはどうなるのか。
 きょう体にはABSやカーボングラファイトではなく、高価な軽金属素材を使う。はめ込みによる組み立てをやめて、ここにも軽金属のネジを使う。ネジを使えると強度が上がるので、きょう体はより薄く仕上げられる。また、プリント基板の素材を工夫したり、実装するチップセットをベアチップ(シリコンのままでプラスティックなどに封入していないもの)を多用するなど、いろいろなことができる。これらの工夫を汎用部品(液晶パネルやCD-ROMドライブキーボードのスイッチなど)にまで適用したら、かなりすごい製品が出来上がるに違いない。

 竹村氏によると、コストを度外視すれば、厚さ25ミリ前後で重さは1.5kg以下、A4サイズでキーボードを犠牲にせず、CD-ROMドライブまでを内蔵したフル機能のノートPCを作ることができるのだそうだ。CD-ROMドライブを取り付けない場合などを考えると、もっと軽いPCだって作れるだろう。
 ただし、値段のほうは200万円以上になってしまうのだという。「それでも買いますか?」と聞かれたときに、一瞬どう答えるか迷った。もちろん、実際には買えるわけはないのだけど、それでも迷うほどに魅力的に感じる。

 まぁ、200万円というのは極端な話としても、ユーザー層が広がってきているのだから、もっといろいろなタイプの製品が出てきてもいいと思う。どこかの外車のキャッチコピーじゃないけれど、「所有欲」を満たしてくれる。そんなパソコンが欲しいものだ。


 

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