元麻布春男の週刊PCホットライン

Windows XP OEM版の抱える問題点


●パッケージ版に先駆け「OEM版」が発売に

 10月25日、米国での正式発売に合わせるかのように、国内でもWindows XPプリインストールPCの販売がスタートした。同時に、「OEM版」と呼ばれるWindows XPがリリースされ、事実上Windows XPの販売が開始された。現在販売されているのは、11月にリテールパッケージとして発売されるWindows XP Home EditionおよびWindows XP Professionalに加え、Windows XP ProfessionalにPlus! for Windows XPを加えた3種類。価格はそれぞれ13,000円前後、19,000円前後、2万円前後となっている(後述のように、このほかに対象となるハードウェアを同時に購入することが必須)。

 Home EditionはProfessionalのサブセット。つまり、Home Editionにある機能でProfessinalにないものはないのに対し、Home EditionはProfessionalの機能のうち、いくつかが欠けている。たとえばそれは、デュアルCPUへの対応であったり、ドメインログオン(Windowsネットワークのドメイン。Internetで言うドメインとは異なる)や、オフラインフォルダの有無などだ。ドメインログオンがない関係で、Home EditionとProfessionalでは、インストールの手順も若干異なっている。

 また、Plus!は、これまでWindows 9x系のOSに提供されてきたものと同様、追加のゲーム、ビジュアルエフェクト、MP3コンバータ、スクリーンセーバー(水族館のスクリーンセーバーはちょっと秀逸)などが収められた、主にパーソナルユーザー向けのパッケージだ。パッケージの性格から考えると、Home Editionにバンドルする方が自然なハズだが、Professinalに対し実質的に1,000円の追加でPlus!を提供することで、高価なProfessionalに割安感をかもし出し、少しでも多くProfessionalを個人ユーザーに売ろう、というMicrosoftの戦略がうかがえる。


●各バージョンで異なるサポート

 さて、今回リリースされたのは「OEM版」であり、正式なリテールパッケージの発売は、まだ半月以上も先のことだ。リテールパッケージに先立ってOEM版がリリースされるのは、OEM(特に中小規模のPCシステムベンダ)が自社のPCにリリースされたWindows XPをインストールし、PCを出荷・流通させる時間的な余裕を見込んでいるからにほかならない(大手PCベンダは、異なる形態でOSの提供を受ける)。本来は、こうした措置を行なうことで、正式発売日にリテールパッケージとWindows XPプリインストールマシンが同時に店頭に並ぶ、というのが正しい姿である。しかし、折からのIT不況で低迷する市場のカンフル剤としての期待から、まず大手PCベンダが正式発売を待たずにWindows XPプリインストールマシンのリリースを求め、Microsoftもこれを認めた。それに連動するかのようにOEM版のリリースも始まり、かくして、プリインストールマシンとOEM版の両方が正式な発売日の前に並ぶ、という事態を招いてしまったわけだ。

Windowsの製品とサポートの流れ
 ここで注意しなければならないのは、OEM版とリテールパッケージとの違いだ。市場の大半を占める大手PCベンダのシステムの場合、OSに関するユーザーサポートは、OSベンダであるMicrosoftではなく、PCを提供するPCベンダが行なう(図1)。これに対して、リテールパッケージは、Microsoft自らがユーザーサポートを行なう(図2)。本来OEM版は、大手PCベンダの場合と同様、PCを提供するハードウェアベンダがユーザーサポートを行なうことを前提としたパッケージである。特にパッケージとしての「OEM版」の主対象であるショップブランドPCのような場合、図3のような販売店がサポートする形態となる(OEMと販売店は分離していることもあれば、同一の場合もあるだろう)。この場合、OEM版であっても、サポートが受けられる。

 しかし、現在OEM版のOSは、必ずしもこのような流通形態をとっていない。中小規模のベンダによるPCにプリインストールされて出荷されるのではなく、PCを構成するパーツとセット販売されている、というのが実情だ。しかも、OEM版OSの単独販売が始まった当初は、OEM版OSを購入する「条件」となるハードウェアは、マザーボード(PCを構成する中核となるパーツであるためか)やハードディスク(OSのインストール先)に限定されていたが、今回のWindows XPではもはや何でもあり。マザーボードやハードディスクはもちろん、CPUやメモリ、果てはFDDとの組合わせさえ見られる。極端に単価の安い64MBのDIMMやFDDとの組合せ販売は、事実上の自由販売に等しい。


●OEM版の2つの問題点

 OEM版のこうした販売は、多くの問題をはらんでいる。代表的なものの1つはユーザーサポートの問題、もう1つはライセンスの問題だ。上述した通り、本来OEM版はOEM版のOSをプリインストールしたPCを提供するOEMがサポートするべきもの。しかし、OEM版OSをFDDにバンドルされて販売した場合、一体誰がユーザーをサポートするのだろう。FDDベンダやDRAMベンダに、Windows XPのユーザーサポートを期待する方がそもそも間違っている。第一、バンドルの対象となっているFDDやメモリそのものが、いわゆるバルク品であり、メーカーサポートのない性質のものなのである。

 となると、残るのは販売店だが、それに大きな期待をするのは現実的ではない。Windows XPのバンドル対象となるバルク品のサポートからして、初期不良交換1週間、といった条件がつくのである。もちろん、その店で買ったお客さんである以上、相談にはのってくれるかもしれないが、あくまでもサービスの範疇を出ないものであり、サポートの「義務」を負うと表明する販売店などないものと思われる。

 逆に言えば、ユーザーはOEM版を購入するにあたり、こうした「事情」を十分理解しておかねばならない。何か問題があった場合、頼れるのは自分だけである、という自覚がない限り、OEM版を購入すると不幸になる可能性がある、ということだ。また、可能性として考えられるのは、販売店でその販売店ブランドのPC(当然、OSはプリインストール)を買えば、OSを含めてトータルでのユーザーサポートの義務を販売店が負うが、いわゆるベアボーンとOEM版OSのセット販売の場合、ユーザーが手にするものが極めて似通っているにもかかわらず、販売店はサポートの義務を負わない可能性がある、ということである。もし自分はサポートや保証が欲しい、というのであれば、事前にこのあたりの関係について、明確な回答を引き出しておくべきだろう。

 もう1つの問題であるライセンスだが、まず確認しておきたいのは、Windows XPのライセンスは、「1台のPC」に対して与えられる、ということだ。ここで特に意識しておかねばならないのは、ライセンスは人(ユーザー)に与えられるものではなく、機械(PC)に付くものである、ということと、そして「1台のPC」という概念がOEM版の場合極めてあやふやなことだ。

 まず、Windows XPのライセンスがユーザーに与えられるものではない、ということだが、これはMicrosoftが掲げるWindows XPの改善された機能の1つに、複数ユーザーによる1台のPCの共用が容易になったことからも明らかだ。Windows XPをインストールしたPCが、家族、あるいは職場などで、複数のユーザーによる共用を認めるということは、1ライセンスで利用可能なユーザー数には制約がないことを意味する。

 代わりにライセンスの制約となる要件が、「1台のPC」ということである。たとえば、大手PCベンダが出荷したプリインストールマシンの場合、1台のPCに1ライセンスというのは、比較的わかりやすい。ATXなど標準フォームファクタのマザーボードが使われている場合、それを交換可能か、という議論はあるにせよ、確かにOSのライセンスは「PC」に付属しているからだ。

 しかし、単体で販売されるOEM版のOSはどうだろう。FDDとバンドルで販売されたOEM版のOSにとって、1台のPCとは何を意味するのだろう。あるいは、CPUにバンドルされたWindows XPは、そのCPUを使う限り、どのような使い方をしても許されるのだろうか。特にこれが問題になるのは、Windows XPからプロダクトアクティベーションなるものが導入されたからだ。


●新たに導入されたプロダクトアクティベーション

各方面で話題を呼んでいるプロダクトアクティベーション
 プロダクトアクティベーションは、ハードウェア情報とプロダクトキー(インストールの際に用いる25桁の英数文字)をまとめて管理することで、1台に1ライセンス(あるいは1コピー)のWindows XPが用いられることを確実にするための技術。つまり、すでに登録されたプロダクトキーが、前回と異なるハードウェア構成のシステムでは有効にならないようにすることで、複数システムへのインストールを防ぐものだ。

 このアクティベーションを厳密にやり過ぎると、たとえばCPUをアップグレードしただけでシステムが使えなくなったり、ビデオカードを交換するだけで、再アクティベーションが必要になる。それを防ぐために、アクティベーションが収集しているハードウェア情報10個のうち、6個が変わっていると、再アクティベーションが必要になるといわれている。また、大手PCベンダが出荷するPCにプリインストールされているWindows XPは、アクティベーションが不要な代わりに、特定のBIOSでしか利用できなくなっていると言われている(Microsoftはアクティベーション破りを防ぐため、アクティベーションに関する詳細な情報は公開していない)。

 このアクティベーションは、10月25日にリリースされたOEM版にももちろん存在するわけだが、FDDやメモリにバンドルされたWindows XPにおける「1台のPC」の範囲ははっきりしない。前述したように、CPUにバンドルされたWindows XPが、そのCPUを使う限りどんなPCにもインストール可能だとしても、いずれかの段階で再アクティベーションが必要になるのは避けられない。アクティベーションは、Internet経由の自動処理のほか電話でも可能だが、この場合自動処理は不可能だ。

 となると、電話でアクティベーションを求めなければならないわけだが、これではまるでハードウェアの構成を変更するのに、Microsoftの許可が必要であるのに等しい。いつからMicrosoftのOSをインストールするシステムの構成とその変更について、Microsoftの認証が必要になったのだろう。これは、CPUにバンドルして売られるOEM版だけでなく、アクティベーションが必要なリテール版にも共通する問題である。が、「PC」という概念と無関係に自由販売される現状のOEM版の流通形態が、問題を余計に複雑にしている。

 このOEM版の流通問題については、それを販売する販売店、販売店に出荷する代理店にも責任があることは明らかだ。しかし、それを事実上黙認しているMicrosoftも、責任を逃れることはできない、というのが筆者の考えである。

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【10月30日】【本田】OEM版Windows XPのライセンスとアクティべーション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011030/mobile124.htm

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(2001年10月31日)

[Text by 元麻布春男]


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