特別編:OEM版Windows XPのライセンスとアクティべーション



 先週末にOEM版のWindows XPが発売されたが、そのライセンスとプロダクトアクティべーションの運用について、今週の月曜日になってマイクロソフトからの公式な見解を得たので、ここにそれをまとめたい。問題の切り分けを行なうため、ライセンス方式とアクティべーションの運用の両面について、分けて説明することにする。


●そもそもOEM版Windowsとは何なのか?

 まずOEM版Windowsのライセンス形態について詳しく説明しよう。アクティべーションとは切り離して考えて欲しい。

 Windows 95よりも前のマイクロソフト製OSは、PCへの標準装備は行なわれていなかった。しかし、Windows 95を発売するにあたって、メーカー製PCと共にOSがきちんと機能することが保証されたPCを出荷するため、PCベンダーに対してOSを供給し、PCベンダーが自社の製品の一部としてOSを組み込んで販売するようになった。この提供形態が、マイクロソフト製OSにおける「OEM版」である。

 したがって、OEM版Windowsのサポートはマイクロソフトではなく、PCベンダーが行なうことになる。OEM版Windowsは、元々Windows互換なメーカー製PCの一部となっているからである。また、組み合わされたPCの一部という扱いであるため、OEM版Windowsは共に出荷されたPCから他のPCへと使用権を移すことはできない。

 この考え方からすると、それ単体ではPCとして機能しない単品パーツにはOEM版Windowsはバンドルできないことになる。しかし、マイクロソフトによると「自作でPCを構築する人向けに」マザーボードやプロセッサなど、一部のパーツと共にOEM版Windowsを販売することを許可するように方針変更を行なった。もっとも、実体としてはショップ側の希望をマイクロソフトが受け入れたということのようで、Windows XPではこの制限がさらに緩和され、メモリモジュールなどと組み合わせた販売も行なえるようになっている。

 OEM版の使用権に関する契約(End User Licence Agreement)は、元々PC本体へのプリインストールを想定したものになっているが、

「本契約書において「本コンピュータ」とは、お客様が入手された本ハードウェアが単一のコンピュータシステムである場合、本ハードウェア自体をさしますが、お客様が入手された本ハードウェアがコンピュータシステムコンポーネントの場合、その本ハードウェアと共に作動するコンピュータ システムをさします。」

と付け加えられており、セットで購入するパーツが組み込まれたPCと共に使用する限り、利用が認められることとなっている。

 マイクロソフト広報によると、このライセンスは常にバンドルされたパーツとともに移動する。たとえばメモリモジュールとのバンドルで購入した場合、そのメモリモジュールを別のPCに移すと、移動先のPCでは使用が認められるが、メモリモジュールを外してしまったPCでは、OEMライセンスのWindowsを利用し続けることはできない。また、メモリモジュールを入れ替えなどで破棄した場合、OEMライセンスのWindowsを利用する権利を失う。


●OEM版と通常パッケージ/アップグレードパッケージ版の違いは?

 次にOEM版と通常パッケージ/アップグレードパッケージ版の違いを、ライセンスの観点から比較してみよう。

 OEM版では、共に販売されるハードウェアと共に利用することが定められている。また、このときの使用許諾契約はシステム製造者とマイクロソフトの間で行なわれるもので、エンドユーザーが直接マイクロソフトからWindowsのライセンスを取得しているわけではない。ユーザーが購入するハードウェアのベンダー(秋葉原のバンドル品で言えばマイクロソフトシステムビルダーとして登録し、OEM契約でライセンスを購入しているショップ)の得たOEMライセンスが、ハードウェアに付属しているのである。

 これに対して通常パッケージ版のWindows XPは、ライセンスを取得したユーザーとマイクロソフトの間で取り交わされた契約となる。ユーザーは自分が所有する1台のPCにWindowsをインストール可能で、元のPCから完全にWindowsを削除すれば、PCから別のPCへとWindowsを移すこともできる。つまり、同時に2台のPCにインストールされていなければ、どのPCで利用しても構わない(ただし、同時に使わないからといって2台のPCに同時にインストールすることはできない)。

 つまり、OEM版はバンドルされていたハードウェアの機能として付属している使用権なのに対して、通常パッケージ版はユーザーに対して使用権が与えられるという点が大きな違いだ。OEM版Windowsを購入するということは、Windowsを購入しているのではなく、ハードウェアの方を購入しているということだ。買ったハードウェアと一蓮托生なのである。


●プリインストール用と添付用では扱いが異なるアクティべーションの方法

 さて、ライセンスについてまとめたところで、アクティべーションの話に移ろう。OEM版のWindows XPには2種類があり、アクティべーションの方法が異なっている。

 まずPC本体にプリインストールされているWindows XPの場合、その多くはWindows XPがアクティベートされた状態でPCが動作するようになっている。これはOEM先のPCへとWindowsを組み込む際に、OEMプリインストール用の特殊なツールでBIOSを登録することにより、アクティベートを不要にしているためである。

 このようにしてプリインストールOSとして組み込まれたWindows XPは、ハードウェア変更の情報を一切チェックしない。異なるハードウェアへと移動されたかどうかのチェックはBIOSが他PCのものに変更されたかどうかをチェックすることで行なわれる(なお、BIOSアップデート程度では異なるPCとは判断されない)。このため、ハードディスクごと別PCに付け替えない限り、そのWindows XPでアクティべーションを求められることはない。

 これに対してパーツに付属するWindows XPや、プリインストール版でも自分でアクティベートが必要な状態でインストールされたPCの場合、最初にパッケージ版と同様のハードウェア構成を元にしたコードをインターネット、もしくは電話で登録する必要がある。このときのコードは次に挙げる10要素を元に作成されるものだ。

・グラフィックカード
・SCSIホストカード
・IDEインターフェイス
・ネットワークインターフェイスのMACアドレス
・メモリ容量の範囲
・プロセッサの種類
・プロセッサのシリアル番号
・ハードディスクの種類
・ハードディスクのシリアル番号
・CD-ROM、CD-RW、DVD-ROMなど光ドライブの種類

 これら10要素が何であるかは、作成されるコードから推定できないようになっているが、コードが変化したとき、どの要素が変わったのかを検出できるようになっている。そして、以下に挙げる条件の範囲に入っている場合は、何度でもインターネットを経由したアクティべーションを行なうことが可能になっている。

・ネットワークインターフェイスが存在しない場合は4要素までの変更
・ネットワークインターフェイスが存在する場合は6要素までの変更
・ドッキングステーション機能があるPCの場合は8要素までの変更

 これらの条件の範囲内であれば、ハードウェアの内容が変更されていても、電話をかけてアクティベートしなくていい。また、ハードウェアを追加してもコードは変更されない。コードが変化するのは、最初に参照していたハードウェアを交換した場合だけだ。

 また、変更するハードウェアの種類のみが関係しており、同じハードウェアを何度変更しても、それがカウントアップされてハードウェアの大幅変更と判断されることもない。たとえば、グラフィックカードを2回変更した場合、それは1要素の変更としかカウントされない。

 先週の私のコラムの中で「マザーボードを交換したら……」というくだりがあったが、これはマイクロソフトが記者向けに開いた説明会の会場で、Windows XPの担当者にアクティベートの件について質問したところ「拡張ボードを少々変えたぐらいでは、再アクティベートを求めることはない」との返答があり、それに対してマザーボードの変更は? と問い直すと「その場合は、再アクティベートが必要になると思う」と受け答えしていたところから来ている。

 実際、ネットワークインターフェイスやグラフィックカードがオンボード実装されているマザーボードを交換すると、一発でハードウェアの大幅な変更となってしまうハズだが、オンボードインターフェイスの少ないマザーボードを交換するだけならば、再アクティベートが不要であることも多いハズだ。この点を質問すると、当の担当者は「マザーボードを交換するほどの大がかりな変更の場合、再アクティベートが必要になる可能性が高いという意味だった」と話している。

 また、アクティベートに使われるハードウェア構成のコードは120日で消えるため、120日以上の間隔をあけて新規インストールを行ない、そこでアクティベートを行なうと新しいコードが登録し直される。さらに大がかりな(しかし許容される範囲の)ハードウェア変更を行なったユーザーが、新しい構成を元にしたハードウェア構成のコードへと登録し直すことも可能となっている(年最大4回)。登録し直すことで、一番最初の構成ではなく、最新の構成を元にハードウェアの違いを検出するわけだ。この再登録を利用すれば、頻繁にハードウェアを変更するユーザーであっても、電話によるアクティべーションを避けることができると思われる。

 なお、これらの仕組みは、OEM版も通常パッケージも全く同じとなっている。


●電話での再アクティベートの手順

 ネットワークでアクティベートを行なえない環境のユーザーや、ハードウェアの大幅な変更制限でオンラインアクティベートが行なえなくなったユーザーに対しては、電話によるアクティベートコードの発行が行なわれる。この場合、Windows XPのアクティベートウィザードで表示されるインストレーションIDを伝えると、マイクロソフトから42桁のコンファメーションIDを得ることができるので、これをアクティベートウィザードで入力することにより、Windows XPのアクティベートを完了することができる。

 OEM版と通常パッケージ版の再アクティベートに関するポリシーは、どちらも変わりない。“ライセンスが正しく運用されている限り”、電話によるアクティベートは常に受け付ける。したがって、OEM版と通常パッケージ版の電話アクティベートに関する違いは、ライセンス形態の違いによるものだけ、ということになる。

 電話による再アクティベートを行なう際、オペレータがなぜ再アクティベートが必要になったのかをユーザーに質問するようになっているが、その際、OEM版ライセンスを異なるハードウェアへと移動させるためと伝えると、アクティベートを行なうことはできない。ライセンスに違反してしまうためだ。マイクロソフトでは、プロダクトアクティべーションをカジュアルコピー(ライセンス契約の内容を知らずに、悪意無く違法な複製を行なう行為)を防ぐことを目的としており、これをもって不正コピーを撲滅できるとは考えていないという。

 したがって、(あくまでもライセンスの話と切り離して考えれば)OEM版でも通常版でも、単にハードウェアの変更によって再アクティベートが必要になったと話せば、問題なく登録作業を完了させることができる。OEM版をバンドルされていたハードウェアとは別に使用しても、ライセンスには抵触するがアクティベートは可能ということになる。この点についてマイクロソフト広報は「不正コピー防止の啓蒙やカジュアルコピーの防止が目的であるため、それ以上に深く厳密にチェックは行なわない」と話す。知らないうちに不正利用することを防ぐのが目的ということだ。


●懸念は杞憂だったが

 よって、OEM版を利用した時の再アクティベートに関する懸念は杞憂に終わったわけだ。OEM版でも通常パッケージ版でも、アクティべーションに関する違いは全くない。しかし、ライセンス形態が異なるのは事実である。

 今回の件に関して、秋葉原のショップに勤める古くからの友人に問い合わせてみたが、共に販売するパーツとWindows XPは、切り離して利用できないライセンス形態となっていることは、販売時に説明していないという。OEM版と通常パッケージ版のサポートに関するポリシーの違い(OEM版のインストレーションや動作に関するサポートは、システムビルダーが行なう)についても、あまり意識していないようだ。

 すべてのショップがそうだとは言わないが、アクティべーションとは切り離し、提供形態の違いについては、バイヤーに対してアナウンスする責任があると思う。また、マイクロソフトも、パーツにバンドルするOEM版Windowsという、少々特殊なライセンスの扱いについての態度を明らかにしておくべきだった。

 今回の件について、前回の筆者のコラム「Windows XP導入前、8つの疑問」が無用な不安を煽ったという批判もあるようだ。その点についてはお詫びしたいと思う。マイクロソフトからの正式見解を得てからOEM版を購入したいとメールを頂いた方は、安心してOEM版を購入して欲しい。冒頭で説明したライセンス条件に違反しない限り、OEM版も何度でもアクティベートを行なうことができる。


□関連記事
【10月23日】【本田】Windows XP導入前、8つの疑問
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011023/mobile122.htm

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(2001年10月30日)

[Text by 本田雅一]


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