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●VALUESTAR発表に合わせてデータシートをWebで公開
Intelがデスクトップ版Tualatinの詳細を事実上公開した。NECのPentium III 1.2GHz搭載VALUESTAR発表に合わせて、データシートをWeb( http://developer.intel.com/design/pentiumiii/datashts/249765.htm )にアップしたのだ。これで、TualatinベースのPentium IIIは、サーバー版が製品が秋葉原へ流出、モバイル版は概要がPC Expoで公開、デスクトップ版はデータシートがWebに登場と、ほぼ情報が出そろったことになる。以下がデスクトップ版Tualatinと現行のPentium IIIのスペック比較だ。
Tualatin | Coppermine | |
---|---|---|
クロック | 1.13/1.2GHz | ~1.13GHz |
システムバス | 133MHz AGTL 1.25V | 100/133MHz AGTL+ 1.5V |
パッケージ | FC-PGA2 | FC-PGA/FC-PGA2 |
電圧(VccCORE) | 1.475V(typ) | 1.6~1.75V |
L2キャッシュ | 256KB | 256KB |
TDP | 29.1W/29.9W | ~37W(1.13GHz時) |
Tcase | 69度 | 85~77度(Tjunction) |
データシートによると、デスクトップ版Tualatinは、サーバー版と同様にダイ(半導体本体)がヒートスプレッダ(IHS:Integrated Heat Spreader)に覆われたFC-PGA2になっている。クロックは1.13GHzと1.2GHz。1.13GHz版は現行の0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)1.13GHzとの区別のために「1.13A GHz」となっている。
システムバスは1.25VのAGTLになった。また、CPU自体はシングルエンドクロッキングとディファレンシャルクロッキングに自動対応となっている。ただし、デスクトップでは当面はシングルエンドしかチップセットが対応しないようだ。将来を見越しての仕様ということだと思われる。
●デスクトップ版もやっぱり“熱い”Tualatin
スペックで顕著なのは、やはりデスクトップ版でもTDP(Thermal Design Power:熱設計電力)がそれほど下がらないことだ。従来のFC-PGA版Coppermine 1.1GHz版のTDPが33Wに対して、Tualatinでは1.13GHz版が29.1W。10%程度しかTDPは下がらないことになる。
ただし、これはFC-PGA2パッケージのせいでもあるようだ。というのは、同じCoppermineでも、FC-PGA2版だと1.13GHz版でTDPが37.5Wに跳ね上がるからだ。1.13GHzのFC-PGA2同士でCoppermineとTualatinを比べると、37W対29.1Wで、TualatinのTDPは77%にまで下がる計算になる。つまり、TualatinはIHSの熱抵抗があるおかげでTDPのスペックが上がってしまっているようだ。デスクトップ版Tualatinが、IHSを持たないモバイル版と比べてもクロック当たりのTDPが高いことは、これを裏付ける。
それでも、Tualatinは一応日本のスリムタワーで要求されているTDP 35W以下というスペックを満たしている。しかし、Tcaseは69度で、Coppermineと比べてもサーマルバジェットは著しく少ない。つまり、CPUのケース温度が69度を超えたら正常な動作は保証されないわけで、その分ガンガン冷却しなければならない。ケース温度が低いのも、IHSの熱抵抗があるからだ。そのため、熱設計は相変わらず厳しい。
こうして見ると、IHSなんてない方がいいように見えるかもしれないが、そうではない。それは、Tualatinの電力密度(Power Density)が高いため、IHSで電力密度を下げる必要があるからだ。
●ダイサイズの縮小で電力密度がクリティカルに
電力密度は、最大消費電力÷ダイ面積で算出される。Coppermineの場合、これは1.1GHzで51W/平方cmにも達する。電力密度はイコール単位面積当たりの発熱であり、これが高いとクリティカルな問題がいろいろ発生する。その顕著な例が、“CPUが燃える”という現象だ。
自作でAthlonを燃やしてしまったという話は、結構ポピュラーだ。これは、Athlonの方がPentium IIIよりも、消費電力のわりにダイサイズが小さいからで、Athlon 1.33GHzだと電力密度は60W/平方cm近くに達する。その分、ヒートシンクなどの装着は慎重に行なわなければならない。それは、電力密度が高まって行くと、ちょっとヒートシンクとの接着面に隙間ができただけで、オーバーヒートしてしまうからだ。Athlonの場合、ダイサイズを小さくできたという技術的な利点が、皮肉なことに電力密度の向上という問題を招いてしまった。しかし、同じことはダイサイズの小さなTualatinでも起こってしまう。
TualatinのIHSをはがしてみると、Tualatinはダイがかなり小さいことがわかる。正確に計ったわけではないが、11mm×7mm強くらいで、およそ約80平方mm程度に見える。正確なサイズは、ダイがむき出しのモバイル版のスペックが出てこないとわからないが、80平方mmで、それほど間違えてはいないはずだ。形状は、0.18μm版Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)よりも、かなり長方形になっている。
それに対して、Coppermineのダイは100平方mmなので、もしTualatinとCoppermineのマックスのTDPが同じなら、Tualatinの方が25%も電力密度が高くなってしまう。つまり、より“燃えやすく”なるわけだ。Tualatin 1.2GHz程度ならそれほど問題はないが、今後、サーバー版で1.4GHzあたりが登場すると、これは結構クリティカルな問題になる。そうなると、IHSで広い面積にいったんダイの熱を伝播し、電力密度を下げる必要が出てくるというわけだ。Intelとしては、IHSは難点はあるものの、デスクトップへの実装を考えたら必要なソリューションだと判断したのだろう。
●サーバー版Tualatinは1.4GHzまで登場
補足として、以前のサーバー版Tualatinの解説に訂正を。サーバー版は1.26GHz止まりではなく、1.4GHzまで提供される。これはフロントエンドサーバー向けの通常電圧版で、現在供給されている1.13GHz、次の1.26GHzに加えて、来年前半には1.4GHz版も追加されるようだ。この訂正を含めた“サーバー版”Tualatinを描き込んだIntelのデスクトップCPUのロードマップを更新した。
サーバー版とデスクトップ版の違いは、L2キャッシュを2倍の512KB搭載し、デュアルプロセッサ構成をサポートすることのようだ。L2キャッシュの量を考えると、性能はクロック以上に上がることになり、自作では魅力のあるCPUとなる。ただし、Intelの目的はあくまでもフロントエンドサーバーでサーバー密度を高めながら性能を向上させることにある。そのため、供給量などはわからない。
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【7月9日】NEC、VALUESTARにPentium III 1.2GHz搭載機など追加
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010709/nec4.htm
(2001年7月9日)
[Reported by 後藤 弘茂]