後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Tualatinの足を引っ張ったトラブル連続のIntel 830Mチップセット


●Tualatinを揺るがせた830チップセット

 「Intel 830M(Almador-M:アマドール-M)」チップセットのおかげで、「0.13μm版モバイルPentium III-M(Tualatin:テュアラティン)」はあやうく沈没するところだった。モバイルでTualatinとペアになる830Mチップセットが、ひたすらトラブルを抱えて、うまく動かなかったからだ。Tualatinノートに関係した人々が、口を揃えてチップセットで苦労したと訴えるのだから本当だろう。「Intelが、ひさびさに大チョンボしちゃったと思った」と言った人もいた。そのためか、PC EXPOでも、TualatinノートPCを展示できたメーカーは限られた。また、Tualatin自体のリリースも後ろへ少しずれている。

 830のトラブルの内容は、ここでは突っ込まないが、問題の根はかなり深い。根本的には、Intelがモバイル専用のチップセットを開発したがらないことと、モバイルではIntel以外のチップセットの選択肢がほぼないところに問題があると、ある関係者は指摘している。つまり、Intel内部で、モバイル専属部隊がモバイルに特化したチップセットを開発してくれない(440MXだけはモバイル専用に開発された)ところに問題があるのでは、というわけだ。

 Intel 830Mはモバイル向けにしか提供されないチップセットだ。しかし、本来の830はデスクトップ版Tualatin向けチップセットと兼用で開発された。つまり、Intel 815と同じような位置づけのチップセットだったのだ。ところが、デスクトップでは830チップセットの投入が断念されてしまったため、モバイル専用になってしまったという経緯がある。つまり、830は440MXのように始めからモバイル専用に開発されたチップセットではなかった。しかも、830MではGMCH(Graphics Memory Controller Hub)チップだけでなく、サウス側のICH(I/O Controller Hub)チップも従来の「ICH2」から新しい「ICH3-M」に変わる。Intelのモバイルチップセットの場合、デスクトップ兼用チップセットで、2チップが同時に変わる時は、リスクが大きいと言われている。


●グラフィックスは性能強化だが機能はほとんど増えず

 ここでいったん830Mを整理しておこう。モバイルの場合、815EMチップセットがTualatinをサポートしないため、原則としてA4クラスのTualatinノートPCは830系チップセットを使うことになる(440MXはTualatinサポート版がある)。

 830Mは、133MHzシステムバスのみサポートし、メモリはPC133 SDRAMに対応する。また、先週の笠原氏のレポート「Intelが0.13μmプロセスのモバイルPentium III-Mや搭載ノートパソコンを世界初公開」( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010626/pcexpo1.htm )にある通り、830Mには3タイプがある。ベースとなる830Mは、グラフィックスコアとAGP外付けグラフィックスの両方を使うことができる。外付けAGPグラフィックスのみをサポートするのが830MP。その逆に、内蔵グラフィックスのみでAGPをサポートしないのが830MGだ。このうち、内蔵グラフィックス版はドライバのWHQL認証のために9月に出荷がずれ込むことになっている。

 830Mのグラフィックスコアは815系の機能拡張版だ。815のグラフィックスコアは133MHz駆動だが、830系では倍速(266MHz)駆動になると言われる。また、2Dグラフィックスは256bitエンジン、3Dグラフィックスは32bitエンジンになるようだ。しかし、逆を言えば機能拡張はほとんどそのレベルで、今年の後半以降のモバイルグラフィックスとして考えると機能的には貧弱だ。しかも、内蔵グラフィックスを動かすと、消費電力が意外と高いと言われている。

 830Mでは内蔵グラフィックスを使う時はメインメモリの一部をシステムと共有する。しかし、面白いことに830MはRDRAMインターフェイスも備えており、グラフィックスメモリとして使えるようになっている。メモリ帯域を1.6GB/sec増やすことで、メモリボトルネックをなくして内蔵グラフィックスの性能を上げようというわけだ。しかし、このアプローチを支持する人に出会ったことはない。


●モバイルで切実に必要とされる統合チップセット

 ノートPC開発では、開発者はできれば統合グラフィックスを使いたい。それは、利点がいくつもあるからだ。1つは省電力効果で、ワンチップ化によりAGPなど電力を食うインターフェイスを削減できる。グラフィックスチップ(とビデオメモリ)を削減できるため、マザーボードの設計が容易になる。ノートPCのマザーボードは、複雑な形状に押し込むためアクロバティックな構造になっていることも多いため、チップ数はできるだけ減らしたい。性能的にも、メモリ帯域を圧迫する3Dやビデオなどをがんがん動かすわけではないから、共有メモリでなんとかなる。

 だから、Intelがまともなモバイル用グラフィックス統合チップセットを作ることができれば、PCメーカーはそれでオンの字だ。ところが、現状はそうなっていない、つまりトラブルが多いし、機能にも不満がある。かといって、ACPI回りなどがクリティカルなノートPCでは、サードパーティのチップセットはなかなか使いにくい。そのため、ノートPCは、このところチップセットで行き詰まりが見えてきている。

 こうした不安はこの先さらに続く。というのは、Intelのグラフィックスコア開発は事実上ストップしており、機能拡張が進まない見込みだからだ。Intelは、2002年第1四半期に、モバイルPentium 4(Northwood:ノースウッド)向けDDR SDRAMチップセットIntel 845MP(Brookdale-M:ブルックデール-M)を出す。しかし、このチップセットはまたデスクトップ用の845と兼用だ。しかも、その後、845MPのグラフィックス統合版(845MG?)も登場すると見られているが、そのグラフィックスコアは830Mと基本的には同じものだと言われている。その時点では、完全に時代遅れの機能になっているだろう。

 そのため、ノートPCベンダーの中には、真剣にIntel以外のグラフィックス統合チップセットを検討するところが出ている。つまり、Tualatin/Northwoodの2種類のCPU向けの、比較的ハイパフォーマンスのグラフィックス統合チップセットが求められている。そうした状況で、チップセットベンダーやグラフィックスチップベンダーも、モバイル向けグラフィックス統合チップセットに力を入れ始めた。これまでは、モバイルは片手間だったのが、AMD向けチップセットの需要もあるため、リソースを割き始めている。

 その中でもATI Technologiesの動きは要注意だ。ATIはIntelとライセンスを結び、チップセット開発を始めている。Intelには、グラフィックスコアを使うものは、ATIに任せようという意図があるのかもしれない。


●モバイルではDDR SDRAMを推進

 最後に蛇足でモバイルのメモリ動向を説明すると、IntelもモバイルではDDR SDRAMを積極的に推進する。845M系チップセットからは、DDR200(PC1600)をサポートするからだ。そのため、PC1600のSO-DIMMについては、Intelもサポートする方向で動いていると言われる。ただし、今のところまだ目立った動き、例えば、積極的にバリデーションプログラムなどでベンダーに働きかけるといったことないという。そのため、Intelの本気度がわからないが、IntelがPentium 4ノートを実現するために、Pentium 4の性能を引き出せる広帯域のメモリを必要としているのは確かだ。今のところモバイルでRDRAMチップセットの計画はない。

 ちなみに、845MPは、現行のPentium 4チップセット同様に400MHzシステムバスをサポート、AGPは2X/4Xで1.5Vのみ対応。830M同様にICH3-Mとの組み合わせで提供される。そして、830M同様に、拡張版のSpeedStep(デマンドベーススイッチング)とDeeper Sleepモードをサポートする。省電力インターフェイスでは、ACPI 2.0をサポート。そして、IMVP(Intel Mobile Voltage Positioning)技術は、現在のIMVP IIからIIIに拡張される。IMVPではダイナミックな電圧引き下げでピークの消費電力を減らし、IMVP IIではDeeper Sleepで平均消費電力を減らした。IMVP IIIでは何が減らされるのかは、まだわからないが、より省電力になることだけは確かだ。


バックナンバー

(2001年7月5日)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.