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なぜグラフィックス統合チップセットへ向かうのか


●すでにスカスカのノースブリッジ

 グラフィックスベンダーのNVIDIAが、グラフィックス統合チップセット「nForce(NV Crush:NVクラッシュ)」を発表。さらに、ATI Technologiesも統合チップセットの開発をウワサされている。ともかく、誰も彼もが統合チップセットへと向かっているように見える。これはどうしてなのか。

 大きな流れで見ると、チップセットとグラフィックスの統合をプッシュする要因は確実にある。そのひとつは、ノースブリッジがすでにスカスカになっていることだ。

 ノースブリッジのコアロジックに必要なロジック数は、技術が進歩しても、それほどリニアには増えてゆかない。そのため、プロセスの微細化が進むにつれて、ノースブリッジに必要なダイサイズ(半導体本体の面積)は小さくなりつつある。ところが、チップはボンディングパッドやバンプが必要で、パッドやバンプの間の距離はある一定以上小さくできない。そのため、パッドやバンプに必要な面積を確保するために、ある程度以上のダイサイズにしなければならないケースが増えている。つまり、不必要に大きなダイになり、チップの中に無駄な使われていないダイ部分ができてきているのだ。

 そのため、チップセットでは、経済的なダイサイズの中に、もっとトランジスタを詰め込めるようになってきた。つまり、より多くの機能を統合しても、チップのコストはそんなに増えなくなってきったのだ。そして、統合する場合、それがサウスブリッジであるより、グラフィックスの方がチップ数の計算では合理的だ。というのは、サウスを統合してもワンチップ減るだけだが、グラフィックスを統合すればグラフィックスチップとメモリで3~5チップが減るからだ。

 これは逆の観点から見ても合理的だ。グラフィックスチップはすでに膨大なトランジスタ数に達しており、ダイサイズも大きい。それなら、そこに多少のコアロジックを足しても大したダイサイズの増大に感じられないというわけだ。実際のところ、DRAMコントローラはすでにグラフィックスチップは持っているわけで、プラスするのはそれ以外のブロックだけですむ。

●DRAMのトレンドが帯域向上へシフト

 DRAMのトレンドがメモリ帯域向上重視へとシフトしていることも要因だ。DRAMは、以前の容量増大重視から、現在では帯域の引き上げを最重視する方向へと変わっている。今後もDDR SDRAMのクロック向上とDDR2などで帯域が上がるメドが立っている。

 これまで、グラフィックス統合チップセットの最大のボトルネックはメモリ帯域だった。チップセットのグラフィックスコアとCPUがメインメモリを共有するために、競合によりメモリ帯域が足りなくなるケースが多発するからだ。そのため、統合チップセットでは高性能なグラフィックスチップを統合しても、メモリ帯域がネックとなり性能はガタ落ちになってしまう。特にメモリ帯域が必要な3Dグラフィックスでは、この問題は大きい。

 しかし、DDR SDRAMになるとメモリの実効帯域がある程度上がるため、この制約は緩和される。つまり、もっと高性能なグラフィックスコアを統合しても、そこそこの性能は引き出せるようになってくる。実際、統合チップセットの方が、DDR SDRAMによって得られる性能向上は大きいだろう。さらに、nForceのように、デュアルチャネル(128bit幅インターフェイス)構成も可能にして、性能を引き出そうという発想も出てくるわけだ。

●メモリのグラニュラリティの制約

 もうひとつの要因は、メモリのグラニュラリティ(Granularity:粒度=最小増設単位)の壁だ。製造プロセスが微細化するに従って、DRAMの容量はどんどん高まる。そして、DRAM容量の増大に従って、PCに搭載するメモリの最小の容量であるグラニュラリティも増大してしまう。つまり、メインメモリとビデオメモリのサイズはどんどん大きくならざるをえない。ところが、メモリのニーズはそれに見合うほどのペースでは増えてゆかない可能性がある。

 メインメモリは、コストが重視されるため、通常、経済的なダイサイズ(半導体本体の面積)に収まる最大の容量で、x16以下のコストの安い語構成のチップを使う。それに対して、ビデオメモリは、容量は比較的小さくてOKだが帯域は必要とされる。そのため、一世代容量が小さい(=ビット当たりのコストが高い)なメモリチップで、しかも、x32といったコストの高い語構成も使われる。ビデオでは、容量当たりのコストでは割高になっても、チップ数が少ないのでOKなのだ。

 では、このトレンドが続くとして、メモリのグラニュラリティがどうなるかを見てみよう。メインメモリが現在と同じ64bit幅インターフェイスのままで、メモリデバイスがx16までの構成だとすると、メモリチップは最低4個となる。一方、ビデオメモリは128bit幅か64bit幅インターフェイスでx32までだとすると、メモリチップは最低2~4個となる。そうすると、もし今年後半にメモリの需要が持ち直せば、近いうちに次のようなシフトが起こる。

・メインメモリ:256Mbit 128MB
・ビデオメモリ:128Mbit 32~64MB

 さらに、次の世代交代となる3~4年後になると、グラニュラリティは次のようになる。

・メインメモリ:512Mbit 256MB
・ビデオメモリ:256Mbit 64~128MB

 もちろん、メモリインターフェイス幅を半分に狭めればグラニュラリティは小さくなるのだが、その場合はメモリの帯域が半減してしまう。実際、グラフィックスでは、本当のローエンドは32bit幅インターフェイスもあり、その場合はグラニュラリティは128Mbitで16MB、256Mbitで32MBとなる。ただし、グラフィックスの場合は、帯域が性能の大きな制約になるため、このクラスはあまりリテールでは魅力がない。

 こうしてグラニュラリティが上がると、段々、必要以上のメモリをPCが積むようになってくる。メインメモリはまだ多ければそれなりに使い道があるが、ゲーム以外に使わないのに64MBもビデオメモリを積みたくないという声は当然出てくる。そうすると、バリューPCではポピュラーな統合グラフィックスが、もっと上のセグメントまで上がってくる可能性がある。

 ただし、現在のようにSDRAMが暴落すると、グラフィックス用メモリの価格もかなり下がる。そうすると、メモリ価格の圧迫は大きく減るため、こうした動きにはならない。今の価格なら、メモリが2個くらい増えても、コストは全然気にならないからだ。また、メモリの低価格が続くと容量世代のシフトも遅れる。出荷されるDRAMの総bit数の増加で、メモリの価格下落に拍車がかかることを恐れるためだ。現在はこの状況にある。

 ただし、長期的な流れとしては、確実にグラニュラリティの制約はある。

 というわけで、大きなワクで見ると、グラフィックス統合化がさらに進んで行く可能性は高い。統合チップセットへの流れの背景には、こうしたトレンドがある。


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(2001年6月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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