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“PCのXbox化”がNVIDIAのnForceの狙い


●nForceはPC版Xboxチップセットの先触れ

 グラフィックス統合チップセット「nForce(NV Crush:NVクラッシュ)」を発表したNVIDIAの戦略は明快だ。それは、“PCをXbox化する”ことだ。PCの中でもっとも重要なチップの座を、CPUから奪うことだと言い換えてもいい。

 nForceは、基本的にXboxチップセット(XGPU+MCPX)の弟分だ。もちろん、対応CPUは違うし、グラフィックスコアも1世代違う。つまり、XboxチップセットはPentium III対応でGeForce3相当コアだが、nForceはAthlon/Duron対応でGeForce2相当コアだ。だが、それでも、nForceがPCのXbox化戦略の最初の一歩であるのは間違いがない。そして、NVIDIAは1年もすれば、XGPUと同レベルの機能を持つチップをPC向けにも登場させるだろう。

 Xboxでは、もっとも重要なチップはIntelのPentium IIIではない。NVIDIAの提供するXGPUとMCPXが核にある。XGPUとMCPXはXbox向けに開発されたが、CPUはPC向けを流用するだけだ。MicrosoftはXGPUとMCPX開発ではNVIDIAと密接に協力したが、CPU選択ではほとんど価格だけが選択のポイントだった。XboxのコストのうちのNVIDIAの取り分も、おそらくIntelより多い。トランジスタ数も約6,500万と、Pentium IIIの2,800万個の2倍以上(ロジック部分だけならもっと比率は高い)だ。つまり、Xboxのコアは明瞭にNVIDIAチップセットなのだ。

 NVIDIAが構想しているのは、おそらく、PCの世界でこうした逆転を実現することだ。実際、数年前にNVIDIAに取材した時からすでに、将来はCPUではなくグラフィックスがPCの差別化のポイントとなり、ユーザーはCPUのクロックを気にしなくなる、という趣旨のことを彼らは言っていた。つまり、CPUの性能が一定以上になると、もうユーザーはそれ以上を求めなくなり、ローエンドのCPUで満足するようになる。だが、グラフィックスはまだまだ性能が必要なので、今度はグラフィックスチップでPCを選ぶようになるというのだ。

 NVIDIAはそのために、とりつかれたようにハイパフォーマンスを求めるグラフィックスチップ開発を進めてきた。そして、次のステップとして、CPU以外のPCのパーツを呑み込み始めた。それが、現在のステップだ。NVIDIAのPCのXbox化構想では、PCの箱を開けるとCPUとメモリ以外の主要パーツはオールNVIDIAになっている。CPUは、IntelかもしれないしAMDやVIAかもしれない。しかし、人々がPCを買うときに注目するのは、CPUのブランドやクロックではなく、NVIDIAのどのチップセットなのかという点になる。おそらく、NVIDIAはそうした構図を夢想している。


●PCの中心に位置するNVIDIA

 NVIDIAの意気込みを端的に示すのは、NVIDIAの最近のプレゼンテーションだ。nForceのプレゼンテーションでは、CPUはPCのブロック図の左の隅に押しやられ、中央にnForceが来ていた。ほかのチップセットベンダーはCPUをいちばん上に据えるのに、NVIDIAだけは左隅、つまり、これまでグラフィックスチップのあった場所にCPUを据えている。ブロック図を借りて、PCの中心がCPUではなくNVIDIAのプロセッサになると宣言しているようだ。

 また、nForceの価格もそうしたNVIDIAの強気を反映しているようだ。ある情報筋によると、nForceの価格は60ドル以上だと言う。実際に、本番でどうなるかはわからないが、もし本当に60ドルレベルだとしたら、チップセットとしては破格の価格(Intelの最新チップセットでさえ40ドル台)になる。CPUのローエンドが60ドルを切っているのだから、CPUより高いとも言える。

 NVIDIAは、nForceを他社のグラフィックス統合チップセットとは明確に違うポジションに位置づける。バリューPC向けではなく、パフォーマンスPC&メインストリームPC向けとなる。GeForce2 MXシリーズクラスの外付けグラフィックスチップを置き換えるというのだ。

 そう、彼らは自分たちの市場を食うつもりなのだ。これまでは、グラフィックスベンダーが統合チップセットを開発(あるいは共同開発や技術提供)する場合は、防衛的な意味合いが強かった。つまり、ローエンドグラフィックスチップ市場を統合チップセットに食われてしまったために、防衛的に統合チップセットを作ろうとしていた。しかし、NVIDIAの発想は根本から違う。GeForce2をnForceに置き換えようと狙っているのだ。つまり、GeForce3クラスが欲しい本当のハイエンド以外は、もう統合チップセットでいいというのがNVIDIAのメッセージだ。


●互換性と安定性がnForceのハードル

 もっとも、彼らもバリューPC市場を考えていないわけではないだろう。これはNVIDIAの伝統的な戦略だ。NVIDIAは、RIVA128以降は常に1時代先の製造プロセスに合わせてチップを開発してきた。これは、最初はダイサイズ(半導体本体の面積)が大きくコストが高いため、高価なチップとなることを意味する。しかし、次のプロセス世代になると、同じアーキテクチャが経済的なダイサイズに収まるようになり低価格チップになる。

 そのため、nForceはプロセスが進めば、バリューPCスペースにも侵入して来るだろう。それと入れ替わりで、パフォーマンスPC&メインストリームPC向けにはGeForce3アーキテクチャを統合したチップセット、つまりXGPUの派生品が投入されると思われる。そして、1~2年後にはそれがまたバリューセグメントに降りてくる。つまり、2~3年後にはローエンドPCがXboxになってしまうわけだ。

 じつに野心的なNVIDIAの統合チップセット戦略だが、今のnForceだけを取ってみると、その成功の可能性は未知数だ。台湾でも、複数のベンダーが、nForceの完成度はまだまだだとこぼしている。それは、PC向けチップセット開発ではグラフィックスチップとは違ったスキルが必要となるからだ。

 統合チップセットの老舗SiSのアレックス・ウー(Alex Wu)ディレクタ(Integrated Product Division)は、次のように指摘する。「チップセットは、PCの中心で膨大な種類のデバイスをサポートしなければならない。それも、ただ動かすだけでなく安定させて動作させないとならない。非常にデバイスが多いので、チップセットの設計は極めて難しい。バグフリーのチップセットがないのはそのためだ」、「しかし、グラフィックスベンダーはチップセットで直面する互換性のレッスンをまだ学んだことがない。だから、チップセットに参入しようとすると、多くのレッスンとコストが必要で、時間とリソースが必要となる」

 実際、現在、nForceが直面しているのも、この問題のようだ。出荷時期までに、NVIDIAが互換性や安定性の問題を全てクリアできるかどうか。そして、それらを確保した上でユーザーの期待するパフォーマンスを実現できるかどうか。それらのチャレンジに失敗すると、NVIDIAはXbox化戦略の出だしてつまずいてしまうことになる。


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(2001年6月7日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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