第98回:人気のPocket PC“iPAQ”を試用する



 先日、コンパックから発表されたiPAQが話題だ。初期出荷の少なさも手伝ってか、主要な量販店では予約だけで入荷数を越えてしまっているところばかりだという。ワールドワイドで70万台を越えるバックオーダーを抱えるというiPAQを試用してみた。

 と、本題に入る前に、ひとつだけ先週の訂正をしておきたい。Webサーバに対してファイルの読み書きが可能となるWebDAVは、IIS 5.0に標準搭載されており、FrontPage Server Extentionのインストールは不要だった。

 FrontPage Server Extentionが有しているのは、HTTP Putというプロトコルだが、WebDAVは単にファイルの書き込みを行なうだけでなく、データの属性を含めて入出力可能なプロトコル。XMLベースで構造化された情報の取得、保存が可能になっており、単なるファイル入出力以上に、XMLによる構造化されたデータの送受信をHTTPで行なえる。ご指摘いただいた方に感謝します。



●唯一成功したCEベースの手のひらデバイス

 1年前、ニューヨークで大々的な発表会が行なわれたPocket PCだが、その営業成績は決して芳しいものではなかった。シンプルなユーザーインターフェイスを備え、チューニングが進んだソフトウェアと高速化されたプロセッサの組み合わせは、それまでのPalm-size PCとは一線を画す製品のハズだった。

 しかし1年を振り返った今、ある1機種を除いて鳴かず飛ばずの状況と言っていい。目立って売れているのは、コンパックのiPAQ Pocket PC(H3630)だけと言ってもいいだろう。Pocket PCになって、以前よりは性能も使い勝手も向上しているとは言え、特にPalmのシェアが高い米国では、かなりの苦戦を強いられている。

 ではなぜ、iPAQだけが成功したのだろうか?「生産量が少ないだけで、実際にはそんなに売れていないのでは?」と言う方もいるかもしれないが、実際に米国で取材をしていると、iPAQを使う記者を数多く見かけるのだ。米国もさることながら、欧州、香港、台湾のプレスに所有者が多い。

 その理由は、各種あるだろうが、僕が見たところ、パワフルな高性能プロセッサとPocket PCでもっとも軽量な筐体、そして新コンセプトの拡張性がiPAQの魅力だと思う。

●イメージを一新するハイ・レスポンス

 iPAQの電源を入れて、最初に気づくのはその速度だ。明らかにレスポンシブなのだ。アプリケーションを起動すると、おもむろに時間差でトロトロと立ち上がる、といったことは全くない。モノクロのPalmよりも、スケジューラの操作を行なったときのレスポンスがいいほどだ(僕の手元にあるのはVisor DeluxeとCLIE N700C)。

 これまでのWindows CEをベースにしたPDAのプラットフォームにはなかった軽快さ。それがiPAQ最大の魅力と言えるだろう。こうしたPDAは、じっくり長時間使い込むものではない。必要なときに取り出して、必要な情報を取り出す、という使い方が主である。これまでPalmにあって、Pocket PCにはなかった要素がひとつ埋まったと感じた。その上で、プロセッサパワーを生かした使い方ができる。PDAにとっては重いはずの、Pocket IEやNetFrontでWebにアクセスしても、あまりストレスを感じない程度には高速だ。iPAQは軽快な動きとプロセッサの力を兼ね備えたパワフルなPDAだ。

 一口に速度、レスポンスと言うが、手早い情報の参照を行ないたいデバイスでは、ちょっとしたレスポンスの悪さが操作感を大きく害する。レスポンスが良くなっただけで、今までのPocket PCとは全く異なる製品のように思えてきた。これ以上、何も言う必要はあるまい。

●拡張スロットはどこに?

 拡張スロットはどこか? SDカード? CFスロットはないのか?

 確かにこれだけ高機能な製品なのだから、拡張性もあってほしい。しかし、iPAQ本体に拡張スロットはない。標準でコンパクトフラッシュType2を備えたCFジャケットが添付されるが、これを装着すると70g重くなり、厚みも大きく増してしまう。

 な~んだ。と思うのも無理からぬことだが、拡張スロットに何かを差し込むのではなく、iPAQ本体を拡張デバイスとして挿すと考えれば、なるほどと思うかもしれない。ジャケットコンセプトという機能拡張のポリシーは、iPAQをさまざまな機能を持つ周辺機器に挿し込むというもの。

 まぁ、ヘリクツと言えばヘリクツ。しかし、ジャケットはホットプラグなのだから、常に装着しておく必要はないと思う。試用期間中は、180gと軽量な本体をポケットにつっこみ、ジャケットは鞄の中に入れておいた。

 常にP-in Comp@ctなどで、通信しながら使うなら話は別だが、実際に使ってみるとあまり苦ではなかった。パケット通信専用カードで、擬似的に常時接続のような環境で利用するなら話は別だが、毎回ダイヤルアップで繋ぐPHSなら、常にカードを装着しておくメリットはあまり感じないからだ。

 また、ジャケットは異なる種類のものを利用することで、iPAQそのものが変化する。標準で用意されているPCカードジャケットだけでも、iPAQの印象は大きく変化した。

●ヘビーな使い方にも応えるバッテリー内蔵ジャケット

 PCカードジャケットは、単にPCカードの挿せるジャケットではない。もちろん、PCカードも利用できるが、カードの電源として自前のリチウムポリマー電池を内蔵しているのだ(その分、価格も高く約15,000円もする。

 今回はこれに、無線LANカードを組み合わせてみた。無線LANカードはPCカードの中でも電力消費の大きなカードだが、ジャケット内に電池を持つことで、iPAQ本体のバッテリーに影響を与えず無線LANを利用できる。手持ちのアイ・オー・データ機器製の無線LANカードはWindows CE用ドライバをサポートしていないため、コンパックのWL100ワイヤレスLANカードをお借りし、家庭内のLANからインターネットに接続してみたが、これもなかなか快適だ。

 もちろん、本来は社内システムのフロントエンドでも組み込んで、社内を移動しながら利用するのが本筋。しかし、リビングでテレビを見ながら、ふと気になったことをネット経由で情報収集するのも、なかなか楽しい。前述したように、iPAQのWebブラウザは速度的に十分高速なため、Webへのアクセスが苦にならない。おそらく、バッテリー内蔵のジャケットがなければ、こんな使い方をしようとは思わなかっただろうが、これはこれで実用になるものだ。

 以前、PDA好きで知られる塩田紳二氏と話したとき「いやぁ、このジャケットとカードエッジ、それにターガスのキーボードでもあれば、他に何もいらないんじゃないの ? 俺がノートPCを持ち歩かない人だから思うのかもしれないけど」と話していたが、なるほど、そういう見方もできる。ターガスの4つ折りキーボードは、iPAQ用日本語版が近く発売される予定だ(もっとも、便利なのは間違いないだろうが、それなりに恥ずかしくもありそうだ)。

●日本の環境に合わせた周辺デバイスが課題

 個人的にはかなり気に入ったiPAQだが、課題を敢えて挙げるとすれば、日本の環境に合わせた展開が行なえるかどうか、だろう。ジャケットコンセプトそのものはおもしろいが、実際に登場している周辺機器を見ると、CF Type2やPCカードを使ったモノばかり。もちろん、汎用品だけに種類も豊富で価格もそこそこ安いわけだが、それがベストというわけではない。

 たとえば携帯電話やPHSを使った通信は、本体下にあるコネクタに通信ケーブルを繋ぐことが出来れば、手持ちの電話端末に接続できるはずだが、今回、そうしたオプションは用意されていない(日本メーカーのカシオは同様のオプションを用意している)。iPAQの特徴を生かしたサードパーティ製品が登場するかどうかで、iPAQの価値も上下するだろう。

 「こんな大きなジャケット使わないよ」、「いや、こいつは便利だ」などなど、iPAQの拡張性にはいろいろな意見があるだろう。しかし、オプション次第でさまざまなカタチを持つようになる、というところが、iPAQの最大の長所だ。

 すでにヒット製品となった米国や欧州では、iPAQをターゲットとしたソフトウェアが、数多く発表されており、サードパーティ製ジャケットも徐々にではあるが増えつつある。最初はそうした製品の輸入からスタートするとしても、将来はiPAQ向けに日本で企画された商品が店先に並んでほしいものだ。そうなれば、iPAQはさらに魅力的な製品になると思うのだが、少々欲張りすぎだろうか?

□間連記事
【4月11日】コンパック、ジャケット着脱式Pocket PC「iPAQ」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010411/compaq.htm

[Text by 本田雅一]


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