第99回:バッテリ駆動時間の新しい基準!?



 ノートPCに限らず、電子デバイスでもっともアテにならないカタログスペック。それがバッテリ寿命だ。ほかの数値はカタログから見えてくる。細かなデザインも何種類か写真を見れば想像できる。質感や操作感も、実物に触れることができれば、その場で確認することもできる。

 しかしバッテリ持続時間は、バッテリ自身の性能から「まぁ、こんなもんだろう」とは予測できても、2つの製品を並べてどちらが長持ちとは判断できない。使ってみるほかないのだ。実際のところ、使い方や条件が異なれば持続時間は異なってくる。「バッテリ寿命3時間」といった数字は、必ず3時間使えることを保証していないのだ。

 だが、せめて相対的に「これとこれを比べると、こっちの方が長持ち」程度の参考資料にはなってほしいものだ。そんな声に応えJEITA(電子情報技術産業協会)は、前身であったJEIDA(日本電子工業振興協会)時代からバッテリ寿命計測の標準を決めるべく話しあっていた。

 ではその結果、僕らの疑問は消えるのだろうか? 残念ながら、完全に疑問を消すことはできそうにない。


●標準バッテリテスト

 バッテリ持続時間のテストツールとして、業界標準となっているのは、米ZD Publishingが開発しているBatteryMarkである。BatteryMarkは実アプリケーションを動かし、キー入力をシミュレートし、間に休み時間を入れながら電池がなくなるまでのログを取り続け、バッテリがなくなって再起動したときに、どこまで動いていたかを自動的に確認する。

 動作するアプリケーションが日本語版ではない、IMEが動いていないなど、細かなことを言えばキリがないが、きちんと条件を整えて計測すれば、かなり公平な値を引き出すことができるはずだ。

 日本におけるバッテリテストの標準も、これをベースとしたものにしよう、という提案があったのだが、どうやら違う方法に決まったようだ。“ようだ”というのは、まだ正式に発表されていないためである(もしかすると、発表までに内容が変わってしまうかもしれない)。

 ここでは敢えて、どこが何を提案していたかは書かないが、JEIDA時代からBatteryMark派とMPEG再生派にわかれていたようだ。さて、MPEG再生案とはいったいなんなのだろう? これは特定のMPEG-2動画ファイルをハードディスク上に置き、特定再生ソフトを用いたとき、連続再生可能な時間を計測しようという案だ。

 果たしてそうした計測に意味があるのだろうか? と思うのは僕だけではないはずだ。ノートPCを利用している間、ずっと動画再生を続けている人が、世の中にどれほどの数いるというのだろうか。何より問題なのは、電源管理を工夫してもそれが数値となって現われにくい点にある。動画再生時、PCには一定の負荷が常にかかった状態になるためだ。キー入力の一瞬、一瞬にプロセッサが動く高度な電源管理を行なっている現在のノートPCに向いた測定方法ではない。

 僕が聞き及んだ話によると、結果的に動画再生による測定結果とキー入力を行なわず電源を入れて放置した結果を両方測定し、平均した数値をバッテリ持続時間の標準値とすることになったという。連続負荷時と、省電力動作時の間を取ろうという意図だ。なお、測定時間の結果提出時には、資料としてノーカットで測定の様子を収めたビデオテープを添付する必要があるそうだ。測定用の動画データもJEITAのホームページからダウンロード可能になる予定。

 あまりふざけて揶揄したくはないが、日本を代表するメーカーが集まって測定ツールの標準を開発することを期待していた僕にとっては、かなり残念な結果ではある。一流企業の有能なメンバーが集まり、何カ月も議論するコストを考えれば、第三者に依頼してツールを開発してもらった方が安上がりだったのではないか。


●液晶パネルの輝度がキーポイント

 愚痴を言っても仕方がないので話を先に進めよう。測定方法がどんなものであっても、機種間の相対的な評価が行なえるなら、それも立派な標準として参考になるハズだ。しかし、相対評価の基準として利用するには、液晶のバックライト輝度をどのように設定するか、という問題を避けて通れない。

 BatteryMarkの測定基準では、バックライトは輝度を最大にして測定することになっている。雑誌によるBatteryMarkの結果がカタログ値よりも悪いのは、この設定によるところが大きい(もっともきちんと設定しているかどうかはわからないが)。ただ、この方法だと省電力技術による差が出にくく、また最大輝度の高い機種が不利になるという問題がある。

 一方、JEITAのドラフト案では測定輝度として、最低xxカンデラ以上であること、という条項が含まれているようだ。xxがいくつになる予定かも聞いているのだが、正式の仕様で変更される可能性もあるので、ここでは「見えるかどうか、ギリギリの低い輝度」とだけ表現しておく。

 おそらくメーカーは、決められた値ギリギリの暗い液晶画面で計測するだろう。しかし、それがリーズナブルな値かは疑問が残る。中には規定の値まで輝度を落とせない製品もあるかもしれない。また液晶パネル以外の部分で省電力化が進んでいるPCは、そうでないPCと比較して、輝度が低い状態でのバッテリ持続時間の伸びが顕著になる。逆に言えば、輝度をある程度上げるとグンと持続時間が短くなり、カタログ値でより短い持続時間の機種との差が詰まってしまう可能性もある。

 ここは実用的なところで、100カンデラ程度(かなり明るめのパネルで150カンデラ程度。消費電力を抑えた暗めのパネルが100カンデラ程度)と20~30カンデラ程度の両方を計測して併記すればいいのに、と思うのだが、何か不都合があるのだろうか?

 いずれにせよ測定基準が今回の記事で紹介したような方向で設定されることは決まっている。各PCベンダーによるとJEITAの測定方法を用いると、現在表記しているカタログ値よりも数字は伸びるそうだ。願わくはエンドユーザーの感覚から遊離した、名前だけの標準にならないことを祈りたい。明確な基準と基準設定の理由付け、その評価方法が納得のいく形で公開されることを期待しよう。

[Text by 本田雅一]


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