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Xboxの厳しい道のり --東京ゲームショウで挽回なるか


●ゲーム機のチキンアンドエッグ

 ゲーム機は離陸に失敗すると、「ゲーム機の普及台数が伸びない→本数が見込めないためソフトメーカーがゲームを出さない→ゲーム機がますます売れない」というネガティブスパイラルに陥ってしまう。いったんこのスパイラルに入ると、チキンアンドエッグ状態(タイトルが先かゲーム機の普及が先か)になってプラットフォーム(ゲーム機)は死んで(撤退の憂き目)しまう。プラットフォームベンダーにとって、これほど怖いことはない。

 そのため、まずゲーム機の立ち上げでは、(1)発売前にプラットフォームに対する期待が大きく盛り上がること、(2)発売時と発売後しばらくの期間で良質なタイトルが揃うこと、(3)主要なゲームベンダーが主力の開発ラインを新プラットフォームに割り当て支持を明確にすること、が重要となる。PlayStation 2の場合は、(1)は200%の大成功、(2)はまあなんとか、(3)は当然のごとくだった。

 では、Xboxの場合はどうなのか。まず、(1)は米国こそ一部ではそこそこ盛り上がっているが日本では最低の状態、(2)については米国ではなんとかなるかもしれないが日本では相当に厳しそう、(3)については米国のゲームパブリッシャとPCゲーム系デベロッパを惹きつけることはできたがそれ以外はどうかという状態だ。Xboxは、米国ではPCゲーム+ゲームコンソールという独特のポジションを得ることができる可能性がある。しかし、日本では、この調子で秋まで行ってしまうと、にっちもさっちもいかなくなる可能性が高い。Microsoftにとってその流れを変える最大のチャンスは、今週の東京ゲームショウだ。逆を言えば、ここでMicrosoftがXboxを盛り上げそこなうと、日本での離陸は危機に陥るだろう。

●最低のXboxへの期待度をどうするか

 Microsoftにとって、日本市場でともかく急務なのは、最低水準にあるXboxへの期待度をなんとかすることだ。とくに、日本では普通のゲームユーザーのほとんどが全然Xboxに期待していないように見える。正直な話、昨年構想を発表した時の方が、ハードウェアのスペックもあって、まだしも(半信半疑ながらも)期待されていたような気がする。あれから期待を持続/発展させることができなかったことは、明らかにMicrosoftのマーケティング戦略のミスだ。

 エンドユーザーの期待度が上がらないプラットフォームが離陸に失敗するのは目に見えているわけで、この状態が続くとゲームベンダーの方も当然開発に力が入らない。ファーストタイトルはコミットで作っているので出るが、後続で力を入れて開発したタイトルが出てこなくなる。そうすると、ますますXboxが普及しないというネガティブスパイラルになってしまう。

 もちろん、Microsoft側もそれはわかってはいる。そのための東京ゲームショウでのビル・ゲイツ会長兼CSA来日というイベントになっている。先々週のGamestock米国のデベロッパコミュニティに訴え、東京ゲームショウで日本のデベロッパとエンドユーザーに訴え、そして5月のElectronic Entertainment Expo (E3)で一気に盛り上げるという、ホップステップジャンプ戦術だ。

 ただし、日本での状況はゲイツ氏が来ればOKというほど簡単なものではない。話題になって報道はされるだろうが、ポジティブに回り始めるかどうかわからない。洋ゲーの画面でハードウェアのパフォーマンスを示しても普通のゲームユーザーはそれほど感心してくれない。これだけ期待度が下がっていると、日本のゲームベンダーからの、あっと驚くようなタイトルの発表がないと、盛り返すのは難しいだろう。例えば、セガ・エンタープライゼスがバーチャファイター4をXboxだけで出すとか、それくらいの大きな発表があって、ようやく盛り返すきっかけになるという程度だと思われる。

 日本での立ち上げでは、欧米のタイトルはほとんど助けにならない。これまでの歴史を見る限り、欧米タイトルの移植は、よほどのことがない限り日本で大きく受けることはない。Gamestockで見ても、技術的には面白いタイトルでも、そのまま日本でヒットするとは思えないものばかりだ。ゲームに関しては、日本→米国の流れはあっても、その逆はほとんどない。そのため、Xboxの成功には、日本でのタイトル開発がどうしても必要となる。

●日本のXboxタイトルはどうなる

 Xboxのタイトルを揃えることについては、Microsoftにできることは、まず政治的にはゲーム会社にコミットを出してのソフトのリクルーティング。それから、Microsoft自身でのタイトル開発のための人材のリクルーティング。そして、プラットフォームの技術的な利点をアピールして中堅以下のゲームデベロッパをひきつけることになる。

 そもそも、プラットフォームの立ち上げ時は、ビジネスだけを考えたら誰もタイトルなど出したくはない。例え、短期間に100万台が出荷されたとしても、市場規模はマックスで100万なわけで、絶対にミリオンセラータイトルは出ないからだ。よく言われるのは300万台出荷がミリオンセラーの最低条件という説だが、PlayStation 2タイトルでミリオンセラーがこれまで出なかった(先日「鬼武者」が達成した)ことでわかる通り、なかなか難しい。

 だから、本当を言えばゲームベンダー側は、プラットフォームがある程度普及するまではタイトルを出したくない。しかし、それでは魅力的なタイトルがないため、ゲーム機自体が売れなくなってチキンエッグになってしまう。そこで、プラットフォームベンダーはどうするかというと、ゲーム業界関係者がよく言及するのはコミットだ。プラットフォームベンダーは、立ち上げ時には、ゲームベンダーにタイトルを出してくれるならこれこれというコミットメントをしばしば出すという。ゲームベンダー側は、コミットでビジネス面では安心できるし、新プラットフォームの勉強になるのだからと、タイトルを開発するわけだ。

 もちろん、こうした話はすべて水面下なので、今回、Microsoftがどう動いているかはわからない。だが、Microsoftの資金力があれば、こうした展開は可能だ。そのため、とりあえずサードパーティタイトルがそこそこ揃う可能性は高い。ただし、Xboxに社運をかけてXboxだけでしかプレイできない強力なオリジナルコンテンツを出してくれるかというと、それはまた別な話だ。そして、それがない限り日本での成功は難しいだろう。

 また、日本のゲーム業界が冬の時代に入ったことも、Xboxへの逆風になる可能性が高い。主要ゲームベンダーが軒並み利益を落とし、消極的になりかかっているこの状況で、どうやってXboxに火をつけるのか。去年、PlayStation 2が発売(ローンチ)した時とはゲーム業界の状況が一変していることを、Microsoftの米国側が認識しているのかどうかが重要なポイントだ。

●中堅ゲームベンダーの動向

 Microsoft自体の日本でのXboxタイトルについては、Gamestock2001で多少の情報があった。Microsoftのゲームソフト開発を統括するエド・フリーズ副社長(Game Publishing)が、「日本にワールドクラスの開発チームを作った。ソニーのファーストパーティの開発者だった人物などが集まった。最終的には100名程度のスタッフが集まるだろう。すでに複数のプロジェクトが走っている」とぶちあげたのだ。実際、Microsoftがゲーム開発者を日本でリクルーティングしているのは、有名な話となっている。このあたりは、東京ゲームショウでもう少し情報が出てくると思われるが、Microsoft自身が開発するにしても、やはりサードパーティが百花繚乱でタイトルを出してくれなければXboxは立ち上がらない。

 Microsoftがサードパーティに対して強調するXboxの利点の1つは、ハードウェアの優位だ。ゲーム機のスペックは、エンドユーザーにとって決定的なほど重要なことではない。エンドユーザーにとっては、自分のやりたいタイトルがあるかどうかだけが本当に重要なことだからだ。しかし、ハードウェアスペックは、デベロッパにとっては最重要事だ。どんなソフトを作れるかが決まるからだ。新プラットフォームでは、そのハードウェアの性能を引き出して、驚かせるようなことをやって目立とうというゲームベンダーが必ずでる。

 その文脈で言うなら、Microsoftにとって、日本での希望は、おそらく中堅以下のゲーム会社だ。新しいゲームプラットフォームの登場は、常に、中堅以下のゲーム会社にとってチャンスとなる。初期タイトルで技術力を見せることで、目立つことができるからだ。例えば、PlayStation 2の立ち上がり期では、テクモやフロム・ソフトウェアが光っていた。こうした中堅がどれだけXboxに注力し、その性能を活かしたタイトルを開発してくれるかが、Microsoftの日本での戦略のカギの1つとなるだろう。

●Xboxの開発環境は魅力となるか

 もう1つ、Microsoftが、Xboxにゲームベンダーを引きつける場合のポイントとしているのは、開発の容易性だ。ライブラリとOSが整っているXboxの環境は、初期の段階ではほとんど何のライブラリもSCEI自体からは提供されなかったPlayStation 2とは対照的だ。しかも、昨年のコラム「PlayStation2はLinuxボックスになるか?」や「X-Boxの勝算とPlayStation2の死角」などで説明した通り、PlayStation 2のCPU&ベクトル演算ユニットである「Emotion Engine(EE)」はプログラマの悪夢と言っていいほどプログラミングが難しい。そのため、当初は中堅以下のゲーム会社にとって、PlayStation 2は非常にハードルが高かった。

 だが、Xboxのこの利点は、残念ながら十分には発揮されないだろう。それは、PlayStation 2との時間差があるからだ。もし、XboxがPlayStation 2と同時期にスタートしたら、タイトルの開発に膨大な労力とコストが必要なPlayStation 2と、比較的容易にできるXboxという対比をMicrosoftは強力に打ち出すことができた。それは開発側にとって、大きな魅力となっただろう。

 ところが、現在はすでに大手ベンダーはPlayStation 2の自社ライブラリやツールをすでに開発してしまっている。つまり、すでにいちばん大変な初期開発は終わっているわけで、そうなると作る側にとってXboxの魅力は薄い。せいぜい、PCへの移植のついでにXbox版が開発できる、という程度の魅力でしかない。

 ただし、自前でライブラリやツールを開発する余力のない中小にとっては、Xboxの環境はまだある程度は魅力だろう。PlayStation 2でも、今は、SCEIとサードパーティのミドルウェアメーカーからいくつかのレベルのライブラリやライブラリ構築を支援する環境が提供されているが、Xboxの方が整っていると言えば整っているからだ。とくに、PC環境での開発に慣れているところに対しては、Xboxは米国同様のアピール力がある。これまでゲームを開発したことはなかったが、一発狙いで参入したいという新興メーカーにとって魅力があるかもしれない。

 もっとも、それもXboxが離陸してある程度のポジションを築くことができるというメドが立っての話。そうした浮動票デベロッパを取り込むためにも、MicrosoftはXboxの盛り上げを、この春、成功させなければならない。

□関連記事
【2000年5月10日】PlayStation2はLinuxボックスになるか?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000510/kaigai01.htm
【2000年3月30日】X-Boxの勝算とプレイステーション2の死角
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000330/kaigai01.htm


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(2001年3月26日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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