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AMDがPalomino(次世代Athlon)のスケジュールを公式に明らかに


●AMDのPalominoロードマップ(改訂版)が明かされた

 AMDがAthlon 1.33GHz発表とともに今後のロードマップを明らかにし始めた。今回の焦点はもちろんAthlonの改良版「Palomino(パロミノ)」の動向。AMDは、Palominoコアの「モバイルAMD Athlonプロセッサ」が昨年12月からサンプル出荷しており、「量産出荷は従来の計画通り、2001年第1四半期に実施する予定」であることを明らかにした。また、サーバー&ワークステーション向けのPalominoは第2四半期から出荷、デスクトップ向けのPalominoは第2四半期にサンプルで、第3四半期に量産になるという。業界関係者からの情報では、サーバー&WS版Palominoの供給は4月頃、デスクトップ版Palominoの正式発表は7月頃と言われているという。また、Duronの改良版である「Morgan(モルガン)」は、現在モバイル版のサンプル出荷中で、量産出荷は第2四半期中と、これも当初の予定の期間内に行なう。デスクトップ版Morganは、第2四半期サンプルの第3四半期出荷となっている。業界関係者によると、デスクトップのMorganはデスクトップPalominoと同じ7月頃に出荷と伝えられたという。

 AMDのスケジュールを整理すると次のようになる

Palomino サンプル 量産
サーバー&WS第1四半期第2四半期(4月?)
デスクトップ第2四半期第3四半期(7月?)
モバイル昨年12月第1四半期末予定
Morgan サンプル 量産
デスクトップ第1四半期第2四半期(7月?)
モバイル第2四半期第3四半期

 簡単に言うとAthlon/Duronの新コアは、モバイルを最優先し、次にサーバー&WS、最後にデスクトップの順番で1四半期以上のタイムラグで投入して行くということだ。AMDはPalominoの投入を今年第1四半期と予告していたが、モバイルに関しては滑り込みセーフで間に合う予定ということになる。だが、デスクトップ版は昨年11月のアナリストミーティングで発表した第1四半期量産というスケジュールでは登場しない。

 じつは、このスケジュールは、この1カ月、Web上のCPUウオッチングサイトなどで流されていたものとだいたい大筋で同じだ。Webでは昨年末ごろから「(デスクトップ版)Palomino遅れ話」が広く流れていた。製造面でもたついているとか、スペックがターゲットにミートしなかったらしいとか、意図的に遅らせているとか、みんなここまでPalominoに関心があったのね、と感心するほど様々な情報が流れていた。

 もちろん真相はわからないが、おそらく今回のAMDの失敗は製造面にあったのではない。失敗は、マーケティング面、有り体に言えば、あまりにPalominoへの期待をもり立て過ぎた点にあった。というのは、デスクトップに関しては、現行のAthlon(Thunderbird:サンダーバード)のままでも、それほど実害がないからだ。

●一気には進まないPalominoへの移行

 Palominoは現行のThunderbirdと、物理設計も大きく違うし、省電力化のためにリーク電流を抑えた回路設計など、細かな改良が施されていると言われる。通常、これだけ大きく変えたコアを投入する場合には、デバイスメーカーはかなり慎重になる。いきなりFab(工場)に投入するウェハのすべてを、一気に新コアに替えるようなことはしない。全部新コアにしてしまうと、テスト段階で思わぬ問題が見つかった場合に、製品が全滅してしまうからだ。そのため、新コアはラインの一部で流し始めて、徐々に増やすというプロセスを経るという。その間にも、小刻みにマスクに改良を加えて、歩留まりの向上や製品ミックスの向上を図るわけだ。

 そして、半導体デバイスの場合、ウェハを流し始めてからのタイムラグがどうしても生じてしまう。つまり、新コアのウェハをラインに流しても、それが後工程のパッケージングやテストを終えて市場に出るまで2~3カ月かかってしまうのだ。そのため、AMDが今すぐに、Fab30(独ドレスデンのAthlonの主力Fab)での製造をフルにPalominoに切り替えたとしても、十分なボリュームで立ち上がるのは第2四半期の終わりとなってしまう。

 今回のスケジュールを見る限り、12月に最初のカスタマサンプルで、1四半期後にある程度の量を出荷し、2四半期後にフルボリュームのアウトプットというのは、じつのところ妥当なペースだ。逆を言えば、一気にPalominoにコアチェンジする的な、当初のAMDのニュアンスの方が無理があったと言える。

 それから、Palominoに関してはコードネームが勝手に一人歩きをして、過剰な期待を招きすぎた。昨年9月にPalominoの存在が明らかになって以来、この新コアについては、様々な情報が乱れ飛び、話がどんどんふくらんでいた。しかし、大枠で言うなら同じ0.18μm世代のプロセス技術で製造するPalominoが、Thunderbirdと比べて飛躍的にクロックが伸びる可能性は低い。ようは、Palominoはちょっとhype(あおりたて)が過ぎたということだ。

●まだ余力があるThunderbirdのクロック向上

 そもそも、Thunderbirdコアも、現在のクロック向上ペースを見る限りは、まだ余力があるように見える。例えば、1月のPlatform Conferenceでは、AMDはThunderbirdベースで1.4GHzまでの熱設計のガイドラインをプレゼンテーションしている。

 このセッションで興味深かったのはCPUのマックスのダイ温度だ。これは、CPUをどのくらい冷却しないとならないかを示すスペックだ。CPUの高クロック化が限界に達してくると、温度がちょっと高くなるだけで熱暴走しやすくなるため、このスペックが下がる傾向がある。例えば、Pentium III(Coppermine:カッパーマイン)の場合は866GHzまではこの値(Tjunction)が80度C台だが、最初に1GHzを出した時は60度Cと極端に低かった。つまり、ちょっと温度が上がると動作が不安定になるくらい無理をしていたわけだ(Pentium III 1GHzの冷却が大変だったのはこのため)。

 ところが、AMDの説明ではThunderbirdは1.4GHzでもこのダイ温度スペックが現行のThunderbirdと同様に95度Cとなっていた。おそらく、AMDはThunderbirdでも、予定している第2四半期中に1.4GHzの出荷を達成できるだろう。もちろん、Palominoへ移行した方が全体の製品ミックスで高クロック品の比率が高くなる可能性は高いが、1.33GHz以上を当面のハイエンドニーズを満たす程度に供給することはThunderbirdでも可能だと推測される。

 そのため、AMDは、今回の発表で、Thunderbirdと現行Duron(Spitfire:スピットファイア)ベースでも、これまで発表していたロードマップ通りのクロック向上を達成できると強調している。Palominoが遅れたためにクロック向上も遅れるのでは、という懸念を払拭しようと慌てているように見える。昨年、派手にPalominoをぶち上げてしまった、マーケティング戦略上の失敗の代償を支払っているわけだ。もっとも、AMDの現場レベルでは、ぶち上げ好きの幹部の言動をぼやいているかもしれない。

 まあ、AMDにすれば、Palominoへの期待がここまで高まるとは思っていなかったのだろう。それは、AMDが、“Athlonファン”層の盛り上がりをまだ読み切れていないということだ。AMDは、今後もこうした問題に悩まされるだろう。

●モバイルでは1.4Vで駆動か

 実際、Palominoはデスクトップ市場でよりモバイル市場での方がはるかにAMDにとって重要だ。それは、Palominoの最大の特徴が低消費電力にあるからだ。言うまでもなく、Athlonの最大の弱点は高い消費電力で、そのためこれまでAthlonをノートPCに載せることが難しかった。Palominoなら、その壁を破ることができるというわけだ。

 AMDによると、出荷予定のモバイルAthlonのクロックは、最高1GHzだという。また、業界関係者によると、AMDはPalominoベースのモバイルAthlonを1.4Vの電源電圧で提供する予定だという。このモバイルAthlonの熱設計電力(TDP:Thermal Design Power)は24~25W程度になるとも言われている。

 現行のデスクトップ版ThunderbirdのMTP(Maximum Thermal Power:最大熱設計電力)は、Platform Conferenceでの説明では1GHzで51W、900MHzで49Wとなっていた(従来と多少値が違う)。しかし、電圧がデスクトップの1.75Vから1.4Vに下がることでまず電力消費は64%に低減できる。さらにPalominoにコアチェンジすることで、もし、20%程度サーマルパワーが下がるなら、モバイルAthlonは900MHzで25Wの枠に収まり、1GHzでそれを少しオーバーする程度になる計算になる。

 この24~25WというTDPは、ノートPCベンダーにとってぎりぎり許容の範囲だ。例えば、IntelのモバイルPentium III(Coppermine) 1GHz版のTDP(TDPtyp)は25W程度だという。IntelとAMDのTDPのスペックは違いがあるので単純には比較できないが、熱設計は難しいものの対応ができないわけではない。

 ここで面白いのは、トランジスタ数の少ないPentium IIIとトランジスタ数の多いAthlonで、なぜ同クロック時のTDPが同程度になるのかだ。通常なら、Athlonの方がTDPが高くなってしまう。それは、Athlonの方が1GHz品の電圧を下げられるからだ。Intelは、Coppermineを1GHzで駆動するために、モバイルでも1.7Vの電圧を供給しないとならない。それなのに、AMDは1.4Vで駆動できる。これが、モバイルでのAMDの利点となっている。

 もっとも、モバイルAthlonの採用はスムーズには進まないかもしれない。それは、AMDの最大の泣き所であるチップセットが、ここでもネックになるからだ。クリティカルなACPI回りの安定が求められるモバイルチップセットが、PCメーカーにとって安心して使えるレベルのクオリティにならないと、大手メーカーでの採用は難しい。AMDによると、モバイルAthlonを搭載したノートPCは、第2四半期中に広範に市場投入される予定だという。このスケジュールで、どのあたりのメーカーが出してくるかで、モバイルAthlonの今後の勢いが決まる。


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(2001年3月23日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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