元麻布春男の週刊PCホットライン

Age of EmpireのMSとBiztalk ServerのMS
--Microsoftの分割について


●Microsoft分割論者になったわけ

 早いもので21世紀を迎えて1カ月が経とうとしている。海の向こうでは、さんざんすったもんだしたあげく、ようやくブッシュ政権が船出した。新政権がこれまでのクリントン政権とどのような違いを見せるのか、特にハイテク分野の政策において、どのような違いを見せるのかは分からないが、良くも悪くも前政権よりは介入を避けるのではないか、と言われている(小さな政府というのが共和党の基本的なスタンスでもある)。これに関連してブッシュ政権はクリントン政権ほどMicrosoftに対する制裁、特に企業分割に熱心ではない、とも言われている。

 Microsoftは分割されるべきなのか、そうでないのか、ということについては、米国でもさまざまな意見がある。クリントン政権下の司法省が検討していたとされているのは、Microsoftをアプリケーション会社とOS会社の2つに分割する案だった。ハッキリ言えば、筆者はこの分割案に反対だったし今も反対だが、それはこの分割が誰の利益にもつながらないと信じているからだ。アプリケーション会社とOS会社に分割したとしても、それぞれの分野で独占的なシェアをもつ企業が存続し続けることに何の変わりもないのである。

 だが、Microsoftという会社そのものの分割に反対かというと、必ずしもそうではない。むしろ最近は、Microsoftを分割した方が、全体の利益につながるのではないか、それどころかMicrosoft自身にとってもプラスなのではないか、と思うようになっている。

 そう考える最大の理由は、PC市場全体を覆う沈滞感にある。日本では、PCの普及が遅れたこともあり、昨年の国内でのPC出荷台数は過去最高を記録した。が、全世界的に見るとPCの出荷台数は明らかに頭打ちになっている。また、PCの主要なコンポーネントである、CPU、メモリ、ビデオチップ、ハードディスク、サウンドチップ等の開発を行なうベンダの数は、ここ数年でめっきりと減ってしまった。

 確かに、CPUでトップシェアのIntelの市場シェアはAMDに食われて減少傾向にあるものの、3位以下の会社のシェアも減少、IntelとAMD2社の寡占体制が確立しつつあるように思う。かつてグラフィックスといえば、星の数ほどのベンダがひしめいていたのだが、現在ではNVIDIAとATIのほかは、数えるほど。しかも、そのシェアは極めて限られており、かつての群雄割拠の情勢とは様変わりしてしまった。吸収合併や事業撤退等で、メモリやハードディスクベンダの数も減ってしまった。こうしたベンダ数の減少に、PC市場やPC産業全体の停滞が現れているように思う。こうした停滞の全責任がMicrosoftにあるというのは言い過ぎだが、責任の何割かはMicrosoftにあるのではないだろうか。


●競争相手のいないMicrosoft

 かつてPC産業は、どのセグメントも熾烈な競争を繰り広げていた。しかし、あるセグメントで競争を勝ち抜き独占的な地位を築いた企業が誕生し、そのセグメントに停滞が始まると、それがほかのセグメントにも伝染したかのように、ほかのセグメントからも競争と活力が失われていった、というのが筆者の感じるところだ。もちろん、最初に競争が失なわれたセグメントこそソフトウェアのセグメントであり、その勝者がMicrosoftであることは言うまでもない。

 現在PCソフトウェアの分野で、Microsoftが半ば独占的な立場にあることは、市場での競争を勝ちぬいた結果であり、そのこと自体が問題なのではない(その過程において不公正な競争がなかったかどうか、ということが裁判で争われているわけではあるが)。問題は、Microsoftが独占的な立場を築いた結果、PC産業全体に停滞をもたらしているのではないか、ということである。また、これは当のMicrosoft自身をも蝕んでいるのではないか、と思われることだ。

 最近、そのシェアとは裏腹に、Microsoftの製品が話題になることが減っているように思う。話題だけでなく、実際の売上げもかつてほどの勢いがないように感じられる。Office 2000、Windows 2000、Windows Meといった製品は、かつてなら間違いなく話題になり、爆発的なセールスを記録したハズの製品だが、実際にはこれらの売れ行きは、あまり芳しくない。世間では、OSの時代の終焉などとも囁かれているが、筆者はそれだけではないと思っている。これらの製品は、ライバルを失った結果、製品としての魅力という点でも、製品を売りこむマーケティングという点でも、かつての力を失っているのだと思う。

 たとえばWindows Meだが、Microsoftはこの製品を売るのにベストを尽くしたと言いきれるだろうか。筆者は製品発表会にも出席したが、「当社としてはWindows 2000の方が本命」といったエクスキューズが各所で聞かれた。端的に言えば、Windows Meの発売をきっかけに、Windows 2000の需要を掘り起こしたい、といった思惑があからさまに見てとれた。これではWindows Meが売れるハズがない。Windows Meを売るのであれば、Windows 2000を駆逐する覚悟で売る、というのが競争のあるべき姿だし、逆にWindows 2000を出す以上は、Windows 9x系OSを市場から叩き出す決意が求められるハズだ。それこそが競争であり、そうしてこそ初めて需要が喚起されるのではないか。しかし、今やWindows 9x系OSとWindows NT/2000は同一事業部のプロダクトであり、そこにこうした緊張感を見ることはできない。

 こうした企業内の事業部間の競争も、企業外のライバルとの競争に比べれば、まだ穏やかなものだ。かつてMicrosoftのOfficeには、米国ではWordPerfect、国内では一太郎というライバルが存在した。こうしたライバルとの競争が製品を磨き、製品の低価格化を促進し、市場の活性化を促した。Excelが備えるPivot ViewのアイデアがImprovにヒントを得たものであることは、誰もが認めるところだろう。しかし、こうした切磋琢磨をするライバルは、事実上いなくなってしまった。外部に敵がいなくなったことによる緊張感の欠如は、否定しがたいものであるように思う。


●Microsoftは、パーソナル事業とエンタープライズ事業で分割すべき

 ではどうすれば良いのか。社外にライバルを作るといっても、現在のMicrosoftは「Micro」という名前とは裏腹に、あまりに巨大になりすぎた。それに見合う巨大なライバル企業など、存在しないし、作り出すこともできない。唯一考えられる方法は、Microsoft自身を分割することだ。

 だが、冒頭でも述べた通り、現在のMicrosoftの事業部構成に基づいて、アプリケーションの会社と、OSの会社に分割しても、それぞれの分野において競争は促進されない。真に有効な分割は、Microsoftをパーソナル事業分野の会社と、エンタープライズ事業分野の会社の2社に分割することではないか、というのが筆者の考えだ。すなわち、Windows 9x系OS、Officeを始めとするアプリケーション、ゲームおよび入力デバイスを手がける会社と、Windows 2000系OSおよびBack Officeを手がける会社に分割するのである。短期的にはクライアント用OSの分野でWindows 9x系OSとWindows 2000系OSの競争を期待するが、長期的にはパーソナル事業会社によるWindows 9x系OSの後継OS(新しいアーキテクチャに基づく)の開発が必要になるだろう(さすがにWindows 9xのアーキテクチャは古さが否めない)。逆に、エンタープライズ会社には、Officeの対抗にもなりうる、Back Officeのクライアントアプリケーションの開発を期待したい。

 現在、MicrosoftのOSに対する対抗馬としては、Linuxを支持する声が高い。確かにサーバーOS分野においてLinuxがポテンシャルを持つことは認めるし、大学などアカデミックな環境においては、クライアントOSとして使われることもあるだろう。だが、一般向けのクライアントOSとしてLinuxがMicrosoftのOSにとって代われるとは筆者には思えない。万が一それが実現するとしてもかなり先の話だろう。現在のような停滞が続けば、PC産業はそんな先までおそらく持ちこたえられない。即効性のある競争回復策には、Win32 APIをサポートし、今のMicrosoft Officeがそのまま利用できるライバルが必要なのではないかと思う。

 先日筆者は、21世紀に入って初めてマイクロソフトの製品発表会に出席した。それは、BizTalk Server 2000をはじめとする大企業向けサーバー製品の発表会であり、価格も1ライセンスで数百万円と極めて高価だ。こうした製品の必要性を否定するものでは全くないが、「どうしてこうした製品をリリースする会社が、Age Of Empireやゲームパッドを売らなければならないのだろう」という疑問は頭から離れなかった。これだけ製品の性格も、技術内容も異なってしまえば、人事的な交流もほとんど不可能だろうし、異なる性格の製品を抱えることによる相乗効果があるとも思えない。むしろ分社した方が、それぞれの事業分野について新たな成長が見こめるのではないか。それが、ユーザー、PC産業、Microsoft自身、そして株主にとっても利益があることなのではないか、と筆者は思うのである。

(2001年1月31日)

[Text by 元麻布春男]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.