元麻布春男の週刊PCホットライン

2001年はRDRAMが飛躍する!?


●SDRAM価格の価格下落は米国経済の停滞

 今年に入って一服した感はあるものの、2000年後半のSDRAM価格の値下がりは凄まじいものがあった。夏には1万5,000円前後した128MB PC133 SDRAM DIMMは、あれよあれよという間に値を下げ、年末には最安値が5,000円を切る水準まで下がってしまった。この暴落? をもたらした原因はハッキリしている。世界的な経済の減速、特に米国景気の後退と、それにともなうPCの売上げ減少だ。SDRAM、それも64Mbitや128Mbitといった大容量のものは、ほとんどがPC向けであるため、その価格はPCの売れ行きに大きく左右される。世界で最大のPC市場である米国での売上げにブレーキがかかったことでSDRAMに余剰感が出て、価格が一気に下がったというわけだ(日本国内のPC需要は比較的堅調なのだが)。

 では今年はどうなるのか。現時点で米国のPC需要が回復するというハッキリとした兆しは見えない。年明け早々に打った2本のカンフル剤(利下げ)の効果もその場限りで、米国の株式市場はパッとしない。後半は回復するというアナリストや、企業の業績予想もあるものの、現時点では不透明というのが精一杯のところではないかと思う。

 どうも、今年の見通しはあまり芳しくないようだが、Intelはこの低迷期を利用して、Pentium IIIからPentium 4への移行を加速させたようだ。1月16日に発表されたIntelの2000年通年および2000年第4四半期の決算報告に伴うプレス向けのカンファレンスコールによると、当初、2002年になると見られていたPentium IIIとPentium 4の販売量のクロスオーバー(逆転)を、年内に前倒ししたい、としている。

 問題は、いつからPentium 4のプッシュを始めるのか、ということだ。ご存知のように、現在TVでオンエアされているCMは、日米を問わずPentium IIIに関するもの。これがいつPentium 4に切り替わるのか注目される。現在、Pentium 4に対応した唯一のチップセットであるIntel 850がサポートしているのは、Direct RDRAMのみ。Direct RDRAMしか利用できない状況で、Pentium 4の市場セグメントをボリュームゾーンまで広げることができるのかどうか、疑問が残る。Direct RDRAMは価格が高いだけでなく、ボリュームゾーンをカバーするだけ供給できるのか不明だからだ。

 もっとも、冒頭で触れたSDRAMの暴落は、Direct RDRAMに追い風をもたらすかもしれない。半年もしない期間に価格が3分の1になるという急落は、メモリメーカーの採算を著しく苦しくしているハズ。かといって、工場の操業を停止するわけにもいかない。作れるものなら、SDRAMより高く売れるデバイスを作りたいと考えたとしてもおかしくない。


●メモリ価格の急落がDirect RDRAMを救う?

筆者がCrucial Technologyから購入した128MB PC1600 DIMM。価格は77ドル39セントだった。Crucial Technologyの保証シールはあるものの、親会社であるMicron Technologyのエンジニアリング・サンプルのシールが貼られているところが、DDRの現状を物語る
 現在、SDRAMの後継と考えられているのは、Direct RDRAMとDDR SDRAMだが、DDR SDRAMのウリの1つは、価格が安いことである。しかも(言わなきゃいいのに?)一部のメーカーは、DDR SDRAMには価格のプレミアがない(通常のSDRAMと価格は同じ)とまで、言い切っている。実際、Micronの子会社でモジュールベンダであるCrucial TechnologyはPC133 SDRAM DIMMとPC1600 DIMMを同じ価格で販売している。この公約を守る限り、作る側にとってDDR SDRAMはSDRAM暴落の救世主にはなれない。

 価格が高いというのは、Direct RDRAMの普及に「No」をつきつけた、最大の要因である(逆に価格が安い、というのがDDR SDRAMの最大のセールスポイントだったハズであり、それだけに大っぴらに値段が高くなるとは言いにくい)。だが、現時点でDirect RDRAMの価格が高いということは、作る側にとってはメリットがある、ということになる。もちろん、価格を高く設定しても売れなければ話にならないが、少なくとも今ならPentium 4が売れた数の2倍は、必ずRIMMが売れることが保証される。現時点でPentium 4はシングルプロセッサ構成のみのサポートであり、Pentium 4にはDirect RDRAMのみをサポートした(しかもデュアルチャネル構成の)Intel 850チップセットしか存在しないからだ。

 ただ、これでDirect RDRAMが一気に普及すると見るのは、さすがに早計に過ぎるだろう。Intelは今年の後半にSDRAMをサポートしたチップセット(Brookdale)をリリースすると公表している。もし、IntelがPentium 4の本格的なプッシュをBrookdaleのリリースに合わせるとすれば、本格的に数が出るのは結局SDRAM、ということになる(Brookdaleは、当初はSDR SDRAM対応になるといわれている)。


 また、そうでなくとも、現在生産量上位のDRAMメーカーはRambusを量産する組(Samsung、エルピーダメモリ、東芝)と、量産しない組(Micron、現代電子、Infineon。ただしバリデーションは行なっているため、技術的には量産可能。作れないのではなく、作らないメーカー)に、真っ二つに割れている。量産する組が、地道に製造を続けた結果、かなり歩留まりが向上しているものと思われる反面、量産しない組の歩留まりはそれほど良くないと思われる。量産しない組は、競争力の点でいまさら作れない状況にあるかもしれない。Direct RDRAMも、間もなく256Mbit/288Mbit DRAMテクノロジ世代への移行が始まるハズだ。世代の切り替え期は、量産しない組が、量産に参入する大きなチャンス。量産しない組が、結束? を維持するのか、それともこの世代からDirect RDRAMの量産に踏み切るメーカーが出てくるのか、ちょっと見ものではある。

 いずれにしても、近い将来にDirect RDRAMの価格がPC133 SDRAMと同じになるとは到底考えられない。これだけで、メインストリームに用いるのは厳しくなってくる。Direct RDRAMやDDR SDRAMは、PCのメモリ帯域の拡大に貢献するものの、一般のPCにはこうした帯域拡大の恩恵にあずかるようなアプリケーションがほとんど存在しない。つまり、一般的なアプリケーションを用いたベンチマークテストを行なっても、Direct RDRAMによる性能向上は極めて限定的なものにしかならないわけで、高価格は受け入れにくい。

 ただし、去年前半のように128MBあたりの価格がPC133の1万5,000円に対し、Direct RDRAMが10万円というのでは箸にも棒にもかからないが、同じ6倍の価格差でも1,000円に対する6,000円なら話が変ってくるのが微妙なところ。ここまで極端ではなくても、5,000円のPC133に対し、PC800の価格が1万円まで下がれば(現在、秋葉原ではPC700ならこの価格で購入可能になっている)、たとえ性能面でのメリットが顕著でなくても、買う側のDirect RDRAMに対する抵抗感は大幅に軽減される(少なくともPerformance PCセグメントなら受け入れられる可能性が出てくる)。と同時に、メモリメーカーは、量が出てSDRAMの2倍の価格で売れるDirect RDRAMの量産に意欲が出るかもしれない。おそらく、これがRambusにとってのベストシナリオだろう。

 DDR SDRAMが辛いのは、ここまでSDRAMの価格が落ちるとは、おそらく予想していなかったことだろう。米国は未曾有の好景気に湧き、PCの需要はうなぎ上りで、DRAMの需要も右肩上がりを続けていた。その時代なら、DDR SDRAMとSDR SDRAMの価格が同じと言うことができたのだろうが、SDR SDRAMさえ採算が厳しくなってきた状況で、いつまでそれを言い続けられるのか。結局、DDR SDRAMの価格はSDR SDRAMより高く、Direct RDRAMより安いという至極常識的なところに収まるような気がする。


●注目されるIntelの選択

 最も無難なシナリオは、Intelは春あたりから、先行する形でPentium 4のマーケティングを強化するものの、ボリュームゾーンまでPentium 4をプッシュするのは、やはりBrookdaleを待ってからというあたりだろう。ボリュームゾーンには、メモリの帯域に大きく影響されるようなアプリケーションはないから、メモリはSDR SDRAMで十分。少なくとも価格も、SDR SDRAM、DDR SDRAM、Direct RDRAMの中では最も安い。

 このBrookdaleがサポートするメモリだが、IntelはSDRAMとしか言っていない。一般にPC133 SDRAMと考えられているようだが、Pentium 4のベースクロックは100MHz(データレートが4倍で400MHz相当)。これまでのIntelのチップセットの伝統(メモリバスとCPUバスは同期)からいくと、Pentium 4対応チップセットのメモリバスは100MHzになり、BrookdaleがサポートするメモリはPC100ということになる。DDRをサポートするとしても、PC1600になってしまう。あるいはBrookdaleのリリースと同時にPentium 4のFSBも133MHzに引き上げられるのかもしれない。

 この場合、データレートは533MHzでFSBの帯域は4.2GB/secとなり、2チャンネルのDirect RDRAMとFSBがマッチするという、現在のIntelのセールストークに矛盾が生じてしまう。それでも、この時点でハイエンド向けのメモリについて、Direct RDRAMからDDR SDRAMに切りかえるという決断を下すのであれば可能性としてあるだろう。今年の半ばあたりまでに、Direct RDRAMの価格(特にPC800の価格)がリーズナブルなところまで降りてこなければ、こういうシナリオも十分考えられるところだ。

(2001年1月17日)

[Text by 元麻布春男]


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