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激化する超低電圧版Pentium III 500MHzとCrusoeの争い

● バッテリ駆動時には300MHzで0.975V

 Intelの対Transmeta戦略の最初の成果がCOMDEX/Fall 2000で公開された。1カ月前のMicroprocessor Forumで技術発表されたばかりの、超低電圧版Pentium III 500MHz搭載の「ThinkPad 240Z」だ。一応、技術デモということになってはいるものの、Intelによるマスコミ向けのモバイル戦略発表会でデモをしたということは、製品化宣言をしたと言ってもいい。

 デモ機は、COMDEX/Fall前日の「MobileFocus 2000」で公開されたものと同じ。山田久美夫氏によるMobileFocus 2000のレポートにある通り、CPUは、SpeedStepによりAC電源時に500MHz/1.1V、バッテリ駆動時に300MHz/0.975Vで駆動するようになっている。もっとも、300MHz時の0.975Vというスペックはまだ暫定的なもので、製品スペックはまだ決まっていないという。実際、10月のMicroprocessor Forumの時には、300MHz/0.95Vで動作していた。

超低電圧版Pentium III 500MHz搭載のThinkPad 240Z

 これまでのThinkPad 240Zは、低電圧版Pentium III 600MHzか低電圧版Celeron 500MHzを搭載していた。そのため、超低電圧版Pentium III搭載機では、熱設計電力(Thermal Design Power:TDP)が9.5Wから5.4W(いずれも典型値TDPtyp)へと一気に4W下がることになる。TDPが下がった分、冷却機構は簡略にできるため、新ThinkPad 240Zでは冷却ファンを省くことができるようになった。Intelによると、TDPが7Wというのが、ファンレスにできるかどうかのボーダーラインだという。

 電池駆動時間は大容量バッテリ使用時で6時間という。従来のThinkPad 240Zが4時間なので、50%伸びることになる。もっとも、CPUの消費電力減だけでこれだけバッテリ駆動時間を延ばすのは不可能だ。バッテリ駆動時のクロック/電圧は、現行モデルが500MHz/1.1Vに対して超低電圧版は300MHz/0.975Vで、ピークの消費電力であるTDPを比較すると超低電圧版の方が半分以下になる。しかし、バッテリ駆動時間に影響する平均消費電力は、アイドルタイムも多いためそれほど差がでない。そのため、IBMがこのスペックを実現するとしたら、CPU以外の部分で消費電力を下げる工夫(液晶ディスプレイの輝度を下げるなど)をすると思われる。


●宗教戦争化するCrusoe対超低電圧版Pentium III

並んだCrusoeマシンを手に取る人々

 Intelは、10月のMicroprocessor Forumで超低電圧版Pentium IIIを発表したものの、採用メーカーなどについてはこれまでアナウンスできなかった。その意味では、IBMの技術デモは、IntelにとってThinkPad 240は対Transmetaの初の反撃となる。しかも、それがIBMだというのは意味が大きい。それは、IBMが、今年6月のPC Expoでは同じThinkPad 240にCrusoe 600MHzを搭載してデモを行なっていたからだ。

 つまり、Intelにとって、IBMはCrusoe支持で先陣を切った1社を切り崩したことになる。しかも、ThinkPad 240ZはIBMの中でも日本が開発を担当している。ということは、Crusoeの進出を許した日本で逆転できたことになり、インテル日本法人も本社に言い訳が立つだろう。

 こうした泥臭い状況で、Crusoeか超低電圧版Pentium IIIかという究極の選択は、ほとんど宗教戦争に近い様相を見せ始めた。COMDEX/Fallでも、Transmetaのパーティと同時刻にIntelがパーティを開いたらしい。まさに踏み絵状態だ。


 色分けとしては、今のところ、日立製作所、富士通、ソニー、NECがCrusoe派。IBMが超低電圧版Pentium III派。それ以外のメーカーは様子見か、水面下で進めている状態だ。Intelは、この戦いを勝ち抜くため、超低電圧版Pentium IIIでは価格も競争力のある数字に設定するという。あるOEMメーカー関係者によると、超低電圧版Pentium III 500MHzは200ドル戦後、超低電圧版Celeronは100ドルちょっとの価格設定だという。

カシオはCrusoe搭載FIVAを展示 日立のCruose搭載機
GatewayのCrusoe搭載インターネットアプライアンス Rebel.comのCruose搭載ゲートウェイ

 はたして、サブノートカテゴリで勝利を握るのはどちらになるだろうか。春モデルが出てくる時には新しい勢力地図が明らかになっているだろう。低TDP&低消費電力レースで出遅れたIntelが、どこまで巻き返すことができるだろうか。


●トースター型のPentium 4コンセプトPCが登場

 このほか、IntelはCOMDEX/Fallのバックステージで、様々な技術デモを公開した。その中で目を引いたのは「Pentium 4」ベースのコンセプトPCだ。これは、IntelとHewlett Packard(HP)が共同開発したもので、名前は「Deep Forest Concept PC」。写真のように非常にコンパクトだ。発熱量の多いPentium 4をこれだけ小さな筺体に押し込めた秘密は、独特の筺体。筺体の側面には写真のように無数の横長の穴が開いており、2基の高速ファンで吸い込んだ空気を効率よく排出している。

IntelとHPのコンセプトPC

 デスクトップパソコンでは、冷却能力の基準となる値は、CPUと筺体内の空気との温度差だ。この差が大きいほど冷却は容易になる。CPUのダイの温度の最大値は、Intelの場合「Tj(junction)」で示される。それに対して、筺体内の空気温度は「Ta(ambient)」で示される。(Tj-Ta)÷W(消費電力)で冷却システムに必要な熱抵抗が割り出される。つまり、Taを下げれば、それだけ冷却機構は簡略化できるというわけだ。Deep Forestは、まさにこのTaの低減をどうやって実現するかのコンセプトPCということだ。

 また、会場ではMobile Pentium III 1GHz搭載機やDVIのコンテンツプロテクション機能なども展示されていた。

Mobile Pentium III 1GHz機 DVIのコンテンツプロテクション実装


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(2000年11月16日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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