Click


第53回 : サブノートPCベンダーの悩みは深い



 松下電器産業が久々にトラックボールを復活させた。Let's Note B5シリーズは、かつて人気を誇ったMMX PentiumモデルのLet's Note/S2xシリーズと似た筐体に、XGAの液晶パネルとPentium III/Celeronを組み込んだモデルだ。
 全レガシーポートに加え、LAN、モデム、携帯電話/PHS、PCカード2枚、IrDAと、なんでもアリの構成は、各種レガシーポートを排除したソニーのVAIOノートSRと対照的。加えるならば、薄型軽量を目指した最近のLet's Noteとも方向性が異なる。

 前々回までの連載で、個人的にCD-ROM内蔵の出張用ノートPCを探していると書いた。したがって個人的な興味は、同時に発表されたLet's Note M2シリーズにあるのだが、実物に触れる機会もあったため、ここではNIFTY-Serveのパナソニックユーザーフォーラムで展開されたトラックボール復活署名運動をきっかけにリリースされたというLet's Note B5シリーズを中心に、近頃のサブノートPC事情をお伝えしたい。

■ イメージよりも実利?

 元々「すべてのビジネスマンの鞄に入るように」と開発されたLet's Noteシリーズは、カッコよりも実用性を重視した設計が特徴だった。尖った部分はないが、実際に使ってみると具合がいい。そんな姿勢がウケて、一時はB5サブノート市場の半分以上のシェアを持っていた時期もある。

 しかしその後、ソニーからVAIOノート505シリーズが出て、薄型サブノートPC全盛時にはシェアを落とすことになる。松下も携帯電話を直接取り付けたり、35万画素カメラを装備可能なLet's Note/commシリーズや、無線インターネット接続の軽量薄型ノートLet's Note A1シリーズは販売面で苦戦したが、Pentium IIの薄型ノートLet's Note/S51やCD-ROM内蔵サブノートのLet's Note/Aシリーズ、Mシリーズは、一定の人気を誇った。

 Let's Noteは、明らかな高級感を感じる外観と、軽量さと相反するしっかりとした作り、高密度の実装など、多数のノートPCを評価する立場の我々が他の機種と比較して、自分のために購入したいと思うようなノートPCだ。トラックボールの代わりに高機能なパッドユーティリティ、高容量の標準バッテリの代わりに豊富なバッテリオプション、ポート類の代わりにコンパクトなポートリプリケータを用意した。
 ある面では実利よりも、外見やイメージ作りを優先させ、従来ユーザーもフォローするためにオプション類を強化するという方向性だ。しかしユーザーの反応は、相変わらずビジネス向けの質実剛健なノートPCというものだったように思う。アルミ外装はカッコいいが、可愛くはない。本当のところはわからないが、そんなちょっとしたイメージの違いだったのかもしれない。松下の開発陣からは「指名買いの顧客はほとんどVAIO。店頭顧客は外装をどんなに美しく仕上げても、なかなか見てもらえない」との話も聞かれた。

 しかし、新機種のLet's Note B5シリーズはシリーズの原点にもどり、実利を最優先させたようだ。トラックボールの採用はファンにとって重要な要素だろうし、全てのポート類が揃っていることも、いざという時に便利ではある。松下が驚くほど薄型かつ軽量モデルを作れることは昨年のLet's Note A1を見ればわかるが、そうした“VAIO 505的”アプローチを捨てることで個性を出している。


■ Intelの発熱は治まらない

 原点に返ったLet's Note B5シリーズの行く末は、この夏のボーナス商戦が答えを出すだろうが、ひとつだけ気になっている点がある。僕自身がM1シリーズの後継として注目していたLet's Note M2を含め、松下の新製品を見ると、かつてのシャープな印象がなくなっていることだ。

 トラックボールモデルのB5シリーズは致し方ないが、M2シリーズはM1シリーズより3ミリも厚くなってしまった。おかげで将来、BluetoothやPHSカードなどでの利用を考えているというCFスロット(しかもType2が利用可能)が取り付けられているのだが、デザインが丸みを帯びているせいもあり、かなりずんぐりとして見える。
 松下によると、厚みが増した原因はCD-RWを搭載可能にするためCD-ROMスロットを大きくしたのが主要因だという。だとすれば仕方がない……と言えなくもないが、それ以上に熱処理の問題があったのではないだろうか。実際、B5シリーズも超薄型というわけではないのに、熱対策のためかなりの空間を開けて設計しているそうだ。

 M1シリーズ最後に搭載されたもっとも高速なプロセッサは低電圧(1.35V)版Pentium III 500MHzだったが、M1シリーズの筐体ではこのプロセッサが、搭載可能なギリギリの消費電力だったという。
 放熱処理をサボっているわけではない。ヒートパイプなどを用いて熱を分散させながら冷やすといった対策は、今では常識的に行なわれている。しかし、そうした対策をしても、フルパワーで連続稼働させるような状況ではプロセッサ温度が上がり、プロセッサを意図的にパワーダウンしなければなくなってしまう。近頃のモバイルPentium IIIはそれほど熱いということだ。1.6Vの製品しかないモバイルCeleronでは、なおさら厳しい。

 穿った見方かもしれないが、M2シリーズは熱対策のために筐体の厚みを増さざるを得ず、しかたなく増した厚みをCD-RWドライブやコンパクトフラッシュスロットの装着といった付加価値で埋めたのかもしれない。今回の新モデルが使う筐体は、おそらく今後1年は使い続けることになるはずだ。現行の600MHzから、年末、来年と少しづつ高性能化していかなければならない。それに耐えられるだけの設計でなければならないわけだ。
 今後、Intelはさらに低電圧動作のモバイルPentium IIIを出荷すると言われているが、SpeedStep機能でフルパワーを出す仕組みがあるため、今後大幅に発熱量が下がることはないだろう。エンドユーザーが常にパワーアップを求めている限り、Intelも高クロック化を進めるはずだ。問題は次の製造プロセスに移行するまで継続することになる。


■ 今はレガシーフリーを考えなくていい

 WinHECのレポートで、レガシーフリーなPCとRapid Boot BIOS、Windows Millennium Editionの組み合わせでは起動時間が17秒になり、サスペンド状態からのレジューム速度も大幅に高速なると書いた。しかし、同時に指摘したように16ビットのPCカードがなくならない限り、本当の意味でのレガシーフリーとはならないため、ノートPCの恩恵は少ないだろうとも予測した。

 しかし複数のノートPCベンダーと話をしてみると、問題はPCカードだけではないことがわかってきた。たとえばキーボードとポインティングデバイス。ノートPCの場合、いずれも内蔵されているためどのように接続されているかを意識することはないが、内部的にはPS/2仕様のシリアルインターフェイスで接続されている。つまり、レガシーなのだ。
 またノートPC向けに提供されている各種コンポーネントは、ほとんどがレガシーを前提としたものになっている。デスクトップPCと比較して、ノートPCを構成するコンポーネントのUSB化は非常に遅れている(というよりも全く進んでいない)のだ。
 したがって、シリアル/パラレル両ポートを削除し、FDDをUSBのみのサポートとし、PS/2コネクタを排除、PCカードもCardBusのみにしたとしても、キーボードとポインティングデバイスを内部的にUSB接続にしなければ、レガシーフリーとはならずデスクトップのEasy PCほど高速なブートは行なえないだろう。

 Let's Note B5を最初に見たとき、レガシーポートだらけなことに、そういう要求もあるだろうとの気持ちを持つと同時に、時代と逆行する仕様への疑問を感じた。しかし、ノートPCはいずれにしてもレガシーフリー化の波に乗れそうにない。
 ノートPCのレガシーフリー化は、デスクトップPCで成果が現れ始める頃、やっと進むことになるだろう。そもそも、現在はレガシーフリーなノートPC用チップセットが存在しない。Intelの440シリーズチップセットは、デスクトップPC向けに提供されているi8x0と異なり、サウスブリッジにレガシーインターフェイスを内蔵してしまっている。
 今年の中頃に提供されるというi815チップセットのモバイル版「Solano-M」で、はじめてHUBアーキテクチャが採用される。ノートPCのレガシーフリー化は、その時点ではじめて検討できる段階にたどり着く。

□関連記事
【5月23日】松下、復活トラックボールのB5ノートなど「Let's Note」シリーズ一新
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000523/pana.htm

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp