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第49回 : PC2001でノートPCは変るのか?



 先週、ミシシッピー川とジャズ、ケイジャンの文化で知られるニューオーリンズに行って来た。近くなったと感じるようになった米国だが、それでもメキシコ湾にほど近いニューオーリンズはさすがに遠い。利用した航空会社のせいもあるだろうが、乗り換え待ちを含めればまる1日近い時間を費やしての旅行になる。
 そこまで時間をかけて出かけた目的は、毎年参加しているWindowsハードウェア開発者向け会議のWinHEC 2000への参加だ。例年、モバイル系のニュースもそこそこあるWinHECなのだが、残念なことに今年中心となったのは、Windowsの次世代アーキテクチャとそれに対応するPCプラットフォームのデザインガイドなどで、モバイルに関連する話題は少なかった。

 Windows CE系ではPocket PCがすでにニューヨークで発表済みであり、ハードウェア開発者にはあまり関係がないこと、省電力の話題ではACPIの仕様がバージョン2.0で落ち着いており当分は大きな変更がなさそうなこと、などが原因かもしれない。
 とはいえ、何も変わっていないかと言えば、多少は新しい情報もある。ここではノートPCのハードウェアデザイナー向けに行なわれたセッションから、ノートPC向けPC2001システムデザインガイドの話題を取り上げ、将来のノートPCについて考えてみる。

■ PC2001デザインガイドとは

 ここ数年、MicrosoftとIntelが中心となり、節目となるタイミングで次世代の標準的なPCを規定するPCシステムデザインガイドが発行されてきた。PCシステムデザインガイドに対応するPCは、それに対応するWindowsの最新機能を利用できる。しかし、実際にはWindowsが次世代で実装する予定の機能をうまく動かしたり、PCがより消費者に受け入れやすいプラットフォームにするための仕様で、結果としてWindowsの最新機能を利用できるPCの基準になっている、というのが実態かもしれない。

 いずれにしろ、PCデザインガイドがどうなるかは、PCを開発するPCベンダーはもちろん、PCの買い換えを考えているユーザーにも重要だと言えるだろう。現在検討されているのは、2001年のPCを想定したPC2001システムデザインガイド(ここではPC2001と表記する)だ。また現在販売されているPCに適用されているのはPC99システムデザインガイドで、いずれもこちらのホームページで参照することができる。
 現在のPC2001はバージョン0.7で、3月30日にリリースされたものだ。今回のWinHECまでに様々な意見を収集し5月にドラフト版の0.9をリリース。6月中に最終版がまとめられる。

 PC2001で注目されているのは、PCをもっと簡単でシンプルなものにしようというEasyPCイニシアティブの活動を反映する形で、全体のシステムデザインガイドを作成している点だ。Windows 98は、今年中にWindows Millennium Edition(Windows ME)として新しいバージョンがリリースされていることになっているが、この新バージョンの中にはPC2001対応PCと組み合わせたときに過去のしがらみを取り去ることで、起動時間を高速化したり、MS-DOSの起動プロセスを排除するといった要素が盛り込まれている。


■ PC2001対応ノートPCに期待したいことと現実

 前述の通り、PC2001の中にはシステムの起動プロセスを高速化するための規定が盛り込まれており、WinHECでデモが行なわれた20秒で起動完了するWindows ME搭載のEasyPCは、Windows MEとレガシーフリーなPC、そして高速起動をサポートするBIOSによって実現される。高速化機能の詳しい仕組みは省略するが、ハードウェア的にはレガシーデバイス(旧来のフロッピーディスク、キーボード、マウス、シリアルポート、パラレルポートなど)が排除されていれば、BIOSの対応で20秒起動を実現できるとドキュメントを見る限りは読みとれる。
 実際にはノートPCはコールドブートよりも、サスペンドもしくはハイバネートとした状態から復帰することの方が多いと思われるが、レガシーフリーPCであればそうしたモードからの復帰も、レガシーデバイスの初期化を省略できるため高速化されるようだ。実際、WinHECでインテルのパット・ゲルシンガー氏が行なったデモではサスペンド状態から5秒で復帰した。
 デモに利用したPCはデスクトップ機だったが、PCのサスペンドからの復帰にイライラしているユーザーも、5秒ならば(満足とは言えないものの)なんとか我慢できるレベルではないだろうか。昔、BIOSだけでパワーマネージメントを行なっていた時代には、できの良いBIOSによって5秒以下のレジュームを実現していた例はあるが、そのころの快適さが復活する可能性があるのだ。

 ところがEasyPCに関する記述には「Mobile PC」という言葉は全く出てこない。これまでIntel Developers Forumなどで紹介されてきたコンセプトPCや、EasyPCの話にはノートPCが全くといっていいほど出てきていないことから考えて、ノートPC版EasyPCというものはまだ存在しないのかも? という予測はこれまでもあった。
 しかし起動速度やレジューム速度の高速化は、ビジネス向けだろうがプロ向けだろうが、ノートPCにも必要なものだ。どこかに記述がないかと探してみたが、今のところあまり期待できそうにない。参考までにPC2001システムデザインガイドにあるノートPCに対する要求をまとめると……

などが必要要件になっているものの、さらに読み進めるとレガシーフリー化に関してはかなり甘いと言わざるを得ないことがわかってくる。

 たとえば外部接続のデバイスに関してはレガシーは認めていないものの、内蔵のキーボードとポインティングデバイスはPS/2デバイスでも良いことになっている。またFDCやシリアルポート、パラレルポート、ゲームポートに関しても、ドッキングステーションでそれらを追加可能なノートPCもレガシーフリーと言っていいと記されている。
 さらに16ビットのPCカードは、レガシーフリーなノートPCにも相変わらず残る。16ビットのPCカードは、技術的にレガシーそのものと言っていいISAバスを元にプラグ&プレイをサポートしたもので、モダンなインターフェイスとは言い難い。
 つまり、PC2001システムデザインガイドに対応したノートPCは、BIOSがブラッシュアップされたり最低ラインが引き上げられたり、対応するWindowsのバージョンがアップしたりといった変更はあるものの、現在主流となっている製品と大差ない可能性が高い。


■ レジューム速度は高速にならない?

 このうちPS/2ポートは内蔵デバイスに使えるため、外部ポートの有無はシステムアーキテクチャとして変化していないことになる。また赤外線ポートはISAデバイスであるスーパーI/Oチップがサポートしているため、これもレガシーと言えるだろう。さらにフロッピーディスクやシリアルポート/パラレルポートもドッキングステーションで追加する場合には、当然そのためのコントローラが搭載されている必要がある。まとめると、現行のPC2001システムデザインガイドに記されているレガシーフリーなノートPCでは、フロッピーディスク、シリアルポート、パラレルポート、外部PS/2ポートを搭載することになる。
 これでは、コネクタを省略してUSBを搭載し、表向きのデザインだけで「レガシーフリー」と言っている製品となんら変わらず、デスクトップPCで言うレガシーフリーPCとは、かなり異なると言わざるを得ない。
 ドッキングステーションやポートリプリケータは、USB接続でレガシーサポートするように推奨しているものの、もっと安価なスーパーI/Oチップだけで実現できる方法をベンダーは採用するように思う。WinHECで説明を行なったCompaqの担当者も、USB接続でレガシーポートをサポートするには、アドオンのコストが必要で、かつ全てのデバイスをサポートできるわけではないと認めている。

 結果として、BIOSの高速化やWindows ME自身の起動シーケンスの単純化などにより、起動時間の短縮は可能かもしれないが、デスクトップのEasyPCよりは遅くなる可能性が高い。また、レジューム速度も同じだろう。特に赤外線ポートが有効で、PCカードスロットにカードを入れっぱなしで使っている場合などは、現状と大差ない可能性もある。レガシーポート付きのドッキングステーションに装着しているならなおさらだ。

 デスクトップPCはPC2001の登場で大きな変化が期待できるものの、ノートPCではそうではないというのが現在の僕の予測だ。したがって、ノートPCを購入しようというユーザーがPC2001の動向を気にする必要はあまりないと思う。BIOSにさえ最新の技術を投入してくれれば、ハードウェアに大きな変更はないと思うからだ。つまり購入時に気を付けるのは、きちんとBIOSのアップデートをしてくれるベンダーを選ぶことだけということだ。

[Text by 本田雅一]


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