Click


第54回 : それでも使いたいとは思えないスーパードッチーモ



 この連載が始まった当初、NTTドコモの携帯電話とPHSを両サポートするデュアル端末ドッチーモのレビュー記事を掲載したことがある。時を経て6月1日、iモードを統合したスーパードッチーモが発売された。

 人気のiモード携帯電話に、NTTドコモの携帯電話が不得手な高速通信に64Kbps通信が可能なPHSが加わったスーパードッチーモは、モバイルのための最強ツールとの評価もある。噂ではN502iと同じ筐体を使うスーパードッチーモも計画されていると言われ、登場前から“最強端末”の呼び声が高い。

 確かに機能的に最強ではあるだろうが、スーパードッチーモという端末そのものに、未だ違和感を感じている。それはNTTドコモに対する漠然とした不信感であり、また運用上の疑問でもある。ビジネスショウでの発表(情報としてはそれ以前からあったわけだが)以来、導入を検討してみたものの、おそらく僕がこの端末を使うことは無さそうだ。


●最強端末に新しい料金体系

 スーパードッチーモの機能を整理しておこう。これまでのドッチーモはNTTドコモのPDC端末をベースに、旧NTTパーソナルのPHS機能を統合した製品だった。高速移動時でも利用可能で、屋外では非常に広い通話エリアを誇るPDC携帯電話と、高速通信が可能なPHSを組み合わせることで、お互いの欠点を補完するという製品だ。スーパーが付いた新機種は、ベースとなる端末を502iシリーズへと変更することで、携帯電話部分を強化している。

 ベース端末が502iになったことで、iモードが利用できるようになったほか、PDCの音声通信時の音質を改善したハイパートークを利用できるのだから、最強という呼び声もあながち外れではない。携帯電話として使い、情報アクセス端末にもなる上、PCやPDAからは64Kbpsで通信が可能。PHS対応の固定電話機を持っているなら、自宅では子機としても利用できる。また、単に2台が1台になるだけではなく、電話帳がひとつで済むといった統合されるが故のメリットも考えられる。

 しかも携帯電話とPHSの両方を同時に利用するドッチーモ向けの料金体系「ドッチーモプラン」が800円値下げされ、お得感が強くなった。これによると、携帯電話とPHSの通話料金3,800円分を含む料金が8,400円、継続利用割引のいちねん割引を適用し無料通話分を差し引くと3,590円となる。


●PHSはPDCを補完するオマケなのか?

 iモードの携帯電話を使い、さらにデータ通信用にPHSも持っている僕にしてみれば、これはなかなか魅力的なオファーと言える。使っているPHSがコンパクトフラッシュタイプのパルディオ611Sなので、ケーブル接続のことを考えると多少乗り換えは気が重いのだが、iモードのおかげでPHSによるデータ通信の頻度が激減したこともあって乗り換えも悪くないと思い始めていた。NTTドコモがPHS端末の開発に積極的ではないことから、611Sの後継機種にも期待することはできず、いずれは買い換えになるのだろうから。

 しかし、そうした合理的な考えとは別に「それでいいのか?」という気持ちもある。

 そもそもPHSは事業者間の公平な競争を目的に、各キャリアは完全に独立した企業体として開始された。NTTのインフラ(それはすなわち公社=国家の遺産でもある)を公平な立場から利用するためだ。結果的にNTT系列のNTTパーソナルは敗れ去り、NTTドコモに吸収された。これは利用者保護の観点から見ても仕方がないように思える。

 が、本来は別々に運営されるべきだった携帯電話事業とPHS事業である。この両方のサービスを同時に提供する端末を、同時に利用することで割引きする料金体系で提供していいものなのだろうか(これは旧ドッチーモから感じていることだ)。絶大なるブランド力を誇るNTTドコモの携帯電話だが、そのブランド力そのものも、スタート地点が違ったことによるアドバンテージで得た(国家事業として取り組まれた携帯電話のインフラをベースにした)ものである。

 PHSもiモードも使いたいというモバイルユーザーにとって、スーパードッチーモはより良いサービスであり、NTTドコモのインフラが持つメリットを活かした製品と言うことはたやすい。しかし、中長期的な見方をしたとき、これで本当に正常な競争を続けることができるのか?という疑問も同時にわき起こるのだ。
 またNTTドコモはNTTパーソナルを吸収して以来、PHS事業の強化をあまり積極的に行なっていない。PHS事業で儲かっていないから、と言えばそれまでだが、DDIポケットがエッジ以降、品質と通話エリアの両面で大幅に強化されたのを見ると、PHS事業で本気の競争をしているようには見えない。なにしろ、ちょっと地方に行くと、高速道路のサービスエリアでさえ通話できないことも少なくないのだ。

 穿った見方かもしれないが、PHSは本業である携帯電話事業の端境期に、旧世代技術であるPDCの欠点を埋めるためのオマケのように見える。通話品質と速度の穴埋めに、NTTパーソナルが残した遺産をバンドルしているのだ。KDDIも本来別会社であるDDIポケットの技術とサービスをバンドルして出さなければ公平とは言えないし、他のワイヤレスキャリアにも同じ事が言えるが、PHSをオマケのようにバンドルできる企業はNTTドコモ以外に見あたらない。


●データ通信と音声通話を同時利用できない

 もっとも、そうした感情論だけではなく、使い勝手の面でも僕にはPHSと携帯電話を別々に持つ理由がある。携帯電話には何らかの連絡が入り、電子メールも常時配信されてくる。仕事柄、長時間PHSで接続してサイズの大きなファイルを送信したり、Webで調べものをする機会が多いのだが、スーパードッチーモでデータ通信をしてしまうと、当然ながら携帯電話を使えなくなる。

 それならば、PHSは611SからPCカード型のデータ通信専用PHS端末に切り替えてしまう方がいいと最終的に考えたからだ。DDIポケットのTwoLinkDataサービス対応のSII製MC-P210/TDであれば月額基本料金980円で、カード型のためノートPCに入れっぱなしにすれば持ち歩きの煩わしさもない。

 自分から長時間の音声通話をすることが多い人ならば、PHSから音声発呼できるスーパードッチーモが経済的だろうが、短時間の連絡が主で携帯電話の音声でも構わない(あきらめられる)ならば、特に大きなメリットがあるようには思えないという結論に達した。

□関連記事
【'99年5月11日】本田雅一の週刊モバイル通信
第5回:携帯電話+PHS=2倍オイシイ? NTTドコモの「ドッチーモ」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990511/mobile05.htm

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp