Imagine Cup 2009の日本代表が決定、同志社大学の「NISLab++」が2年連続で世界大会にチャレンジすることが決定した。7年目を迎えるMicrosoftが主催する学生を対象にした技術コンテスト「Imagine Cup」だが、今年のテーマは国連ミレニアムが掲げる課題の解決だ。いわば、学生向けITオリンピックともいえるImagineCupだが、彼らは今度こそ栄冠を勝ち取ることができるだろうか。 ●ITの学生選手権ImagineCup Imagine Cupには、以下の9つの部門がある。 1.ソフトウェアデザイン部門 花形部門ともいえるソフトウェアデザイン部門以外に関しては、第2次エントリーが募集されている段階だ。 そして、今回、選出された「NISLab++」は、昨年の日本代表チームでもある。 代表が選出された「The Student Day 2009」には、最終選考に残った3チームが登場し、それぞれの作品をプレゼンテーションした。 3位になったのは、昨年のNISLab++の奮闘に刺激を受けて参加を決めた同志社大学のチーム「Mammy」で、普遍的な初等教育の達成をテーマに「Mammy's picture book」を披露した。現在の子供たちをとりまく問題は山積みで、それらを解決するには、世界中の人たちの協力が必要だ。でも、その世界そのものにも対立がある。その対立を緩和するためにも、根本的な相互理解はとても重要なテーマであり、そのソリューションとして、絵本作成システムを提案した。 ゴールとしては、異文化があることを子供たちに理解してもらい、非言語コミュニケーションを体験させ、共想像感を得てもらうことをめざした。 システムそのものは、子どもたちが手書した絵を画像データとして登録し、その説明をピクトグラムで選び、絵本を完成させていくというもので、絵本作成システムを個々のPCに置き、絵本のフレームワークだけをサーバーにゆだねることで、それ以外はP2Pでデータをやりとりし、トラフィック等の軽減をめざすというものだ。 2位は、国立弓削商船高等専門学校のチーム「White Dolphin」で、作品名は、「Heartful Assistant」。女性のみというと異色のチームだ。 テーマは、妊産婦の健康状態の改善。彼女らは、毎日世界で1,500人の妊婦が死亡している事実を重く受け止め、特に、途上国では医療体制の不備や出産時の出血、また、感染症などの脅威にさらされていることを知り、安全、安心に妊産婦が暮らしていけるようなシステムの実現を考えた。 システムとしては、一種の緊急通報システムで、妊産婦が身につけた心電センサーからの信号を受け取ったデバイスが、携帯電話と連携し、位置情報とともに、メール、電話で通報するというもので、現場に近いボランティアや家族がすぐに駆けつけることができる連絡体制を実現する。現状では、実際の事故等が起こったときに、自動的に連絡するようなソリューションがないためにきっと有効に活用してもらえると考えているとのことだった。将来的には、途上国のようなエリアでも活かせるような廉価なデバイスとして仕上げることも視野にいれているそうだ。 ●教育が芋づる式にすべての問題を解決する そして、見事、代表の権利を手に入れたのが同志社大学のNISLab++だ。 作品名は「PolyBooks」で、いわば教科書の電子配信システムとしてのプラットフォームをめざす。テーマは普遍的な初等教育の達成だ。 メンバーは、中島申詞氏(修士1年)、前山晋哉(4年)氏、加藤宏樹氏(修士1年)、門脇恒平氏(修士2年)で、門脇氏以外の3名はパリで開催された昨年度のImagine Cup 2008世界大会参加者だ。 世界的な視野でみると、たとえばスーダンでは初等教育を受けられるこどもが半分以下だといった事実を受け止め、教育こそがテーマを解決するものと彼らは信じる。そして、教員不足、教室不足、教科書不足といったさまざまな要因から、教科書不足に注目した。具体的には、Web上のフリーの教科書コンテンツに注目、せっかく教科書があるのに、発展途上国の子供たちが使えるようになっていないことをITで解決しようとした。 問題解決のためには、収集、翻訳、配布のシステムが必要だ。ITの力で、それらに必要なコストを総合的に下げ、教科書不足に歯止めをかけようというわけだ。 彼らのシステムでは、教科書が作成されてから利用されるまでの大部分をカバーすることができる。まず、Webで教科書が作成されるという現状がある。現在では、10万項目を超えるのだそうだ。それらをPolybooksに登録し、配布先としては2種類の環境を前提にする。もちろんそれは、ネットにつながっているところ、つながっていないところだ。 もし、つながっていれば、クライアントアプリからそのまま、つながっていなければバイクで運ぶという。ネット環境の整った市街地で専用デバイスにロードして、それをバイクで運ぶ。静的なコンテンツは、常時接続である必要はないからだ。原始的だが確実な方法だ。 教科書の配布段階では、言語グリッドを使った現地の言葉へのリアルタイム翻訳が行なわれる。これらは、既存の翻訳サービスを柔軟に活用するという。 さて、ここまでが教科書1.0だとNISLab++は認識している。それを2.0にするためにやるべきことは、教科書に関するコメントをやりとりすることだ。改訂版の発行は紙ベースの教科書では難しいが、電子コンテンツならたやすい。そのために、マルチメディア、音声認識、音声読み上げも実装した。 教科書の内容を編集する作業に関しては、基本的なリッチテキストエディタを用意し、たとえば、配布を受けた教科書の翻訳がおかしいと考えたときには、辞書設定で修正できる。もちろん、扱う科目に応じた辞書データを個別に用意するとのことだ。 PCを配布するくらいなら紙の本を買ったほうが安いんじゃないかという疑問もあるが、彼らはきっぱりとPCの方が安上がりだと言い切る。200~300ドルのPCを想定しているが、紙の教科書だと800ドル近くかかり、結果としてPCの方が安くあげられるのだそうだ。 ●世界大会には強豪が待っている NISLab++のやろうとしているのは、たまたま教科書が前面に出てきてはいるが、現在のクラウド上に存在する数多くのネットワークのフレームワークを組み合わせた、一種のAPIポータルなのではないかと思われる。 現状では、個々のAPIは、専用のフレームワークからしか利用できないが、それらを統合するプラットフォームを構築すれば、シームレスに個々のサービスを組み合わせて、目的を達成することができるはずだからだ。 審査にあたった東京大学情報理工学系研究科の竹内郁夫教授は、総評として「審査はもめ、どれが本当にいいんだろうと迷いに迷った」と述べ、いずれも世界に向かって発信するためには、ちょっと何かが足りないと評した。 NISLab++の作品は、電子教科書ということだが、残念ながら、この日の発表では、電子教科書ならではの紙ではできないパラダイムシフトが感じられなかった。電子ブックに書き込みができる程度のことだが、教材がWebにあり、スタティックなものであることを前提に、もっと踏み込んで計画を立ててほしかった。(審査員からの質問に、ステージ上で4名で相談するなど)国際大会で使われる常套手段の受け狙いをするよりも、何かもっとアピールするものがほしかった。これから時間があるので、そのことを念頭において作品を磨いてほしい」(竹内教授) チームのメンバーは、教育の問題が解決すれば他の問題は芋づる式に解決するだろうとし、去年の大会が終わってすぐにテーマの調査をはじめ、今年になって実際のものを作り始めたと経緯を話す。コストの話をいれるなどは、昨年の大会で経験したことがプラスになったという。 ImagineCupの世界大会は、2009年7月3日からエジプトのカイロで開催される。本選まではまだ3カ月の猶予がある。代表戦決定から、その3カ月で、プロジェクトがブラッシュアップされ、別物のように変わるのが、この大会のおもしろいところでもある。メンター企業の「学びing株式会社」のアドバイスを受けながら、まさに、目に見えるように成長していく彼らを見守りたい。果たして、今年はトップの座を勝ち取れるだろうか。がんばってほしい。 □ImagineCup 2009のページ
(2009年4月3日)
[Reported by 山田祥平]
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