山田祥平のRe:config.sys

色いろいろ




 Internet Explorer 8(IE8)の正式版が公開された。たかだかブラウザだが、おそらくはPCに向かっている時間のうち、もっとも長い時間使うであろうアプリケーションだけに、その使い勝手のよさは、PCそのものの使い勝手にも影響を与える。そして、IEはPCと周辺デバイスの進化の足かせにもなっている。

●Googleが役にたたなくなる日

 ベータテストが続いていたIE8のRC版がリリースされたのが2009年1月末のことだから、RCからほぼ2カ月で開発を完了し、正式版が公開されたことになる。最終調整をこんなに短い期間で完了させて、本当に大丈夫なのだろうかと、ちょっと心配になるくらいだ。

 手元の環境では、RCがちょっと不安定で、しょっちゅうクラッシュしていたのだが、正式版は今のところ、これといった不具合は見つからず、すこぶる快適に使えている。

 本来、ブラウザなどというアプリケーションは、あまり派手なことはしないで、縁の下の力持ちくらいのイメージで、種々のWebアプリケーションのプラットフォームとして機能してくれればそれでいいのだが、さまざまな新機能を一度使ってしまうと、やはり、それがないと物足りなくなってしまう。たとえば、IE8の目玉機能であるアクセラレータ機能などは、もはやないと困るくらいになってしまった。

 ちなみに、アクセラレータ機能は、Webページ内の文字列を選択すると、アイコンを表示し、そのクリックで、各種の設定済みアクセラレータをメニューとして提示、任意のものを実行することができる。

 つまり、トリガーとなるのは文字列の選択である。だが、Webページの中には文字列で文字を表示していないものがけっこうある。おそらくは、デザインを優先した結果なのだろう。地図のグラフィックスといっしょに住所が記載されているのに、わかりにくいデザイン地図よりGoogle Mapで見てみようと思っても、その住所の文字までグラフィックスだったりすることはよくある話だ。仕方がなく、キーを叩いて入力し、いったい何をやっているんだろうとなさけなくなる。

 また、メーカーのサイトで、製品のカタログページを見ていて、その市場価格を知りたくなって別のWebを参照して調べようとしても、その製品名がGIF画像だったりで、コピーさえできないことも日常茶飯事だ。

 Flashの普及は、巷のWebページを、とてもリッチなものにしたが、その反面、本当なら文字であるべき情報をグラフィックス化してしまう傾向まで生んでしまった。

 もちろん、グラフィックスであっても、きちんと代替テキストが埋め込まれていればいいし、あるいは、レンダラーがグラフィックスにOCR機能を働かせて、そこに描かれた文字列を抽出してくれるくらいのことをやってくれるのなら話は別だ。でも、そうはなっていない。結果として、アクセシビリティの低くなってしまっているページもよく見かける。

 世の中の多くのサイトがFlashやらSilverlightやらで構成されたものばかりになってしまったら、最悪の場合、Googleの単純検索さえ機能しなくなる日だってやってくるかもしれないのだ。

●IEが忘れたふりをしている重要な要素としての「カラー」

 ともあれ、IE8のリリースには、ずいぶん、長い時間がかかったものの、期待に応える進化を遂げていると評価はできる。

 ただ、IE8に限らず、これまでのIEが、ずっと実装を逃げてきた機能がある。いうまでもなく、それは「カラー」というビジュアル的に、きわめて重要な要素だ。

 IEは、Webページ内の画像は、そのすべてがsRGB色空間であると決め打ちしている。Vista以降はマルチディスプレイ環境であっても、ディスプレイごとに、その色空間を指定できるなど、OSのカラーマネジメント機能はどんどん進化しているし、ディスプレイそのものも、sRGBをはるかに超える色域を表現できるものが増えている。

 Webページ内に画像を配置する際は、その色が送り手側の意図したものと、受け手側が見るものとに食い違いが起こらないようにする必要がある。そうしなければ、たとえば、ショッピングサイトなどで、エンジのスカートを買ったつもりが、実際に商品が送られてきて封をあけたら朱色だったといったことが起こってしまうからだ。

 そうならないための自衛手段は、画像をsRGB空間に閉じ込めて作っておくというのが、もっとも消極的で無難な方法だ。

 本当は、画像に正しいカラープロファイルを埋め込んでおき、デバイスごとにもっとも忠実に色を再現できるようにしておくのが理想なのだ。そうしておいて、ブラウザがそのプロファイルを理解できれば、手持ちのディスプレイの最大限の能力を生かして色を再現できる。そして、それが、より本物の色に近い色を再現するための唯一の方法なのだ。

 マイクロソフトの日本法人は、IE8の公開に先立ち、本社から関係者を招致、記者説明会を開催した。そこでの説明では、IE8はOSのカラーマネジメントに忠実であるということだったが、実際にはそうはなっていなかった。つまり、開発側も、色の問題を軽視しているのだと判断せざるをえない。

 同じ画像に異なるカラープロファイルを適用して保存し、IE8で表示させると、まったく違った色味に見えるが、OSでの表示、たとえば、エクスプローラのフォルダウィンドウ内でのサムネール表示では、違いがわからない。もちろん、フォトギャラリーなどでもアプリケーションによる表示でも色の違いはわからない。これは、エクスプローラなどのアプリケーションがOSの指示通りに、画像に埋め込まれたカラープロファイルにしたがって色を出力し、OSがそのときのディスプレイの特性にあわせて色を変換しているからだ。でも、IEはそれをしてくれない。プロファイルを無視するのだ。

●もっと色を

 今後、Webアプリケーションは、ますます多岐にわたる分野で使われるようになるだろう。ショッピングなどはもちろんだし、その中には遠隔医療など、表示色がクリティカルな結末を引き起こすアプリケーションもあるかもしれない。撮像素子がとらえた皮膚の色や唇の色、喉の奥の色を正確に表現できることを前提としてこそ、的確な治療につながるはずなのだから、色の問題は重要だと思う。入出力ともに、デバイスが進化し、より広い色空間で、ありのままの色をできるだけ忠実に再現することができれば、それはアプリケーションの進化にも貢献するだろう。

 子どものころ、まだ、うちにはカラーテレビがなかった時代のこと。そのころでも、電気屋の店頭には、ちゃんとカラーテレビがあった。路上でそのカラーテレビのブラウン管を食い入るように見つめて記憶し、自宅に戻って白黒の映像を見ながら、この色は緑、この色は赤と、頭の中でカラー映像を組み立てたころを思い出す。

 IEは、世の中の色をsRGB空間に閉じ込め、Windowsは色の階調を8bitに閉じ込める。ディスプレイもプリンタもカメラも、そんな空間はとっくに卒業しているのにだ。いつまでもこれでいいはずがない。

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【3月19日】Microsoft、高速化したWebブラウザ「IE8」の正式版を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0319/ms2.htm

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(2009年3月27日)

[Reported by 山田祥平]


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