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ルネサス、次世代32bitCPUコア「RX」を採用したマイコン「RX610」

次世代32bitCPUファミリ「RX」のロゴマーク

3月25日 発表



ルネサステクノロジの業務執行役員でマイコン統括本部副本部長をつとめる水垣重生氏。4月1日にはマイコン統括本部長に就任することが内定している

 株式会社ルネサステクノロジは25日、記者発表会を開催し、次世代32bit CPUコア「RX」を採用した最初のマイコン製品「RX610グループ」のサンプル出荷を6月に始めると発表した。

 「RX」はルネサステクノロジが2007年に開発を表明した次世代の32bit CISC CPUコアで、2008年には高性能版の「RX600シリーズ」と低消費電力版の「RX200シリーズ」を製品化すると公表していた。現行世代である16bit/32bit CISCマイコン「M16Cファミリ」や「H8Xファミリ」などの後継品種となる。

 記者発表会では初めに、業務執行役員でマイコン統括本部副本部長を務める水垣重生氏が同社のマイコン事業の概要とRXファミリの位置付けを説明した。

 世界のマイコン市場において同社は、ベンダー別出荷金額(2007年)で21%のシェアを占めており、トップに位置する。これを今後は30%のシェアに高めるとともに、ビット別、地域別、応用分野別のシェアでもトップを獲得することを目標としている。なお2007年の時点でビット別では32bitマイコンで3位、16bitマイコンで2位、8bitマイコンで3位である。地域別では日本とアジア(日本を除く)でトップ、欧州と米国では2位につけている。応用分野別では民生と産業でトップ、PCその他と自動車では2位である。

 またRXファミリ(RXコアを搭載したマイコン製品群)の登場により、従来は7種類のCPUコアを擁していたマイコン製品ファミリが、次世代では3種類のCPUコアに統合されることで、製品の強化と開発効率の向上が期待できると述べていた。すなわち従来はハイエンドの「SuperH」から、「R32C」、「H8SX」、「M16C」、「H8S」、「R8C」、そしてローエンドの「740」までのマイコン製品ファミリが存在していた。これが将来は「SuperH」、「RX」(「R32C」、「H8SX」、「M16C」、「H8S」を引き継ぐ)、「R8C」の3種類に統合される。

マイコン市場におけるルネサステクノロジのシェア マイコン事業の目標。世界全体でのシェア30%を目指す
CPUコアのロードマップ RXファミリの位置付け

 続いてマイコン製品技術第一部主幹技師の堀内健二氏が、「RX」コアの概要と「RX610シリーズ」の具体的な内容を説明した。まずCPUコア「RX」の特長を3つ挙げた。コード効率(プログラムの格納に必要な記憶容量)をルネサスの従来品に比べて30%高めたこと、演算処理性能を1.65MIPS/MHzと同社の従来品に比べて約2倍に上げたこと、動作周波数当たりの消費電流を0.03mA/MHzと同社従来品の1/3分に低減したことである。なお従来品とは、「R32C」と「H8SX」を指すとの追加説明があった。

 コード効率の向上では、良く使われる命令の命令長を8~24bitと短くするとともに、8~64bit長の可変長命令を採用し、アドレッシングモードを追加し、3個のオペランド(被演算子)を扱えるようにした。なお「M16C」などの同社の既存のマイコンで開発したプログラムは、新開発のCコンパイラで再利用可能にする。

ルネサステクノロジでマイコン製品技術第一部の主幹技師を務める堀内健二氏 CPUコア「RX」の特長
コード効率を高める工夫 コード効率のベンチマーク結果

 演算処理の高速化では、パイプライン処理の段数を5段に増やすとともに、ハーバードアーキテクチャを採用する、アウト・オブ・オーダー実行機能を搭載する、DSP演算機能を強化する、単精度浮動小数点演算器を内蔵するといった工夫を加えた。そして消費電流の低減では、クロックゲーティングを採用するとともに、しきい電圧の異なるトランジスタを使い分けた。

演算処理性能を高める工夫 Dhrystone2.1MIPS値のベンチマーク結果 消費電流を低減する工夫

 これらの工夫を盛り込んで開発された「RX610グループ」は、最大動作周波数が100MHz、最大演算処理性能が165MIPSの演算性能を備える。フラッシュメモリを内蔵するいわゆるフラッシュマイコンである。100MHz動作時にノーウエイトで読み出せる高速なフラッシュメモリを内蔵している。このためRXコアはキャッシュを持たない。

 フラッシュメモリの容量は最大2MB。消費電流は100MHz動作時に50mAとかなり低い。フラッシュメモリ容量の違いで8品種を用意した。パッケージは144ピンLQFPおよび176ピンBGA。価格は1万個購入時の単価で144ピンLQFP版が930円、176ピンBGA版が960円である。製造プロセスは90nm。チップ寸法はフラッシュメモリ容量が2MBの「RX6108」が5.4mm角。量産開始は2010年前半の予定で、生産規模は月産10万個。量産が安定化する時期は2011年の予定で、このときの生産規模は月産100万個となる。

 今回の「RX610グループ」は汎用マイコンだが、2009年中には通信ネットワーク用の製品グループと、モーター制御用の製品グループを発表する予定である。

「RX610グループ」の概要 フラッシュメモリ容量が2MBの「RX6108」の主な仕様
「RX6108」のチップ写真。製造プロセスは90nm。チップ寸法は5.4mm角 「RX610グループ」の製品ラインアップ。フラッシュメモリ容量の違いで8品種を用意した

 記者発表会ではこのほか、マイコンを製造済みのシリコンウェハ、スターターキット、浮動小数点演算命令を使った描画デモなどを展示していた。

 最近のマイコンベンダーでは、独自のCPUコアを開発するのではなく、CPUコアベンダーの供給するCPUコアをライセンス導入することでマイコン製品を開発する動きが活発だ。CPUコアの開発には巨大なリソース(人員と時間と設備)を投入しなければならない。にもかかわらず、CPUコアの違いでは顧客に差異をアピールしにくいと考えるベンダーが増えてきた。

 そのような中で独自アーキテクチャのCPUコアを開発したルネサスの選択は、むしろ異色に見える。技術的な挑戦としては高く評価すべきだが、技術的に優れているからといって市場に普及するとは限らない。もちろん、ルネサスはそんなことは承知の上でCPUコアの独自性に価値を見出すことにしたのだろう。独自のCPUコアを搭載したマイコンが市場にどのように評価されるか。将来を見守っていきたい。

RXファミリを製造したシリコンウェハ。直径は300mm スターターキット。「RX6108」のLQFP版が搭載されている。出荷開始は2010年第1四半期の予定 浮動小数点演算命令の有無による演算処理速度の違いを示していた。液晶画面の左ウインドウが浮動小数点演算命令を使わない場合の描画で、右ウインドウが浮動小数点演算命令を使用した場合の描画。やや見づらいが、ウインドウの下に赤い文字で計算時間が示してある

□ルネサステクノロジのホームページ
http://japan.renesas.com/
□リリース
http://japan.renesas.com/media/company_info/news_and_events/press_releases/2009/0325/20090325j.pdf
□関連記事
【2008年10月29日】【ARM】16bit/8bitマイコンの置き換えを狙うCortex-M3マイコン
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1029/arm02.htm
【2006年7月6日】ルネサス、マイコン市場で30%のシェアを狙う
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0706/renesas.htm

(2009年3月26日)

[Reported by 福田昭]

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