発売中 価格:オープンプライス カシオの電子辞書「XD-SF6200」は、100コンテンツを搭載した生活総合モデルだ。タッチ入力に対応したメイン画面の横に、利用頻度の高いボタンを「クイックパレット」として配置したほか、本体の向きを検知するアクションセンサーの搭載により、ブックスタイルのタテ書き表示に対応したことが大きな特徴だ。 ●従来モデルに比べ薄型化、軽量化を実現 まずは外観と基本スペックから見ていこう。 筐体は、フットプリントこそ従来モデルと変わらないものの、最厚部は19.7mmと、従来モデルに比べて2.2mm薄くなった。これは後述のブックスタイルでの利用を想定した変更であり、実際に手に持った際、本体と上蓋の厚みがほぼ等しく感じられることが特徴だ。わずか2.2mmとはいえ、実際に持ってみると従来モデルとの違いがはっきりと感じられるレベルである。従来モデルのユーザーが手に取ると、きっとその違いに驚くことだろう。 また重量も約280gと、従来モデルXD-SP6600に比べて15g軽くなっている。競合であるシャープ製品では、液晶のカラー化、充電池の採用などにより本体重量が300g台の後半に達しつつあるだけに、本製品の軽さは際立っている。持ち運びが多いユーザには福音だと言える。 ハードウェア上変更になった点として、従来は電池フタの内部に設けられていたmicroSDスロットが、本製品では筐体の外周部、右側面に移動したことが挙げられる。テキストデータを転送する際、USBケーブルを利用せず、microSDを経由するのであれば従来モデルに比べて使い勝手は向上したと言える。また、電池フタと一体化していたタッチペン収納ホールが、本体右側面に移動したのも目に付く変化だ。 キーボード盤面は、電源のON/OFFキーやバックライトキーなどの形状がわずかに改められた程度で、QWERTY配列などレイアウトに大きな変更はない。キーボード手前に設けられた手書きパネルについても、5マス入力や手書きキーボードの表示といった機能は従来モデルと同様だ。 電源については、単4電池×2本での駆動のほか、エネループでの利用にも正式に対応した。駆動時間はアルカリ電池で約130時間、エネループ使用時で約90時間とされている。 メイン画面のサイズは5.0型、解像度は480×320ドットで従来と変わらない。本体メモリは50MBで、USBケーブルでPCと接続することによりマスストレージとして認識できる仕様についても従来モデルと同様である。 ●類語例解辞典やブリタニカを新規収録。「読む」コンテンツも充実 次にコンテンツについて見てみよう。 コンテンツ数は100。いわゆる生活総合モデル系のラインナップだ。以前本連載で紹介した「XD-SP6600」と比べた場合の大きな違いとして「使い方の分かる類語例解辞典」や「ブリタニカ国際大百科事典」が新たに収録されたことが大きな目玉として挙げられる。ほかにもTOEICや英検、漢検といったジャンルのコンテンツが強化されており、同じ100コンテンツでありながら、全体的にはかなり「濃く」なったイメージだ。
また、「羅生門」「舞姫」「高瀬舟」をはじめ6作品の全文を収録した読み物系のコンテンツ「朗読国語名作集」では、後述のブックスタイルでの利用を前提に、タテ書き表示に対応している。さらに本稿執筆時点では日本文学100作品を収録したCD-ROMがもらえるキャンペーンが実施されるなど、「読む」コンテンツへの注力が目立っている。
●メイン画面だけで操作が完結する「クイックパレット」を搭載 さて、タッチペンによる手書き機能に関して、本製品では大きな変更があった。メイン画面の右側に配置された「クイックパレット」がそれだ。 2008年に発売されたXD-SP6600以降、キーボード手前の子画面=手書きパネルだけではなく、メイン画面でもタッチ操作が行なえる「ツインタッチパネル」は、カシオの電子辞書の大きなウリになっていた。しかしタッチペンによる操作が中心となったことで、「決定」「戻る」といったキーを使う際だけキーボードを併用せざるを得ないという、ややいびつなインターフェイスになってしまっていた。 本製品では、メイン画面の右端に主要操作をまとめたキーを「クイックパレット」として配置し、メイン画面のみで主要な操作のすべてが行なえるように改良された。タッチペン操作の合間にキーボードを押すという複雑な操作を行なわなくて済むようになったことに加え、視線の移動距離が短くなったこともメリットだ。クイックパレットに幅を取られたにもかかわらず、メイン画面の解像度が5.0型を維持している点も評価されるべきだろう。 実際に使ってみても、これまでの製品との使い勝手の差は明らかで、ユーザーの操作の負荷は大幅に軽減されていると感じる。実はキヤノンの電子辞書の一部機種にもこのクイックパレットと類似の機能があるのだが、アイコンのわかりやすさという点で本製品のほうが勝っている印象だ。 なお、このクイックパレットは、後述のブックスタイル表示の際、親指部分で操作ができるようになっている。さまざまな利用スタイルを前提に、考え抜いたうえで実装された機能であると言えそうだ。
●アクションセンサーによりタテ書きの「ブックスタイル表示」が可能に 本製品のもう1つの目玉機能である、アクションセンサー機能について見ていこう。 この機能は、電子辞書本体の傾きを検知するセンサーの搭載により、左右に振る、回転させるという動作ごとに画面を順に送ったり、表示の向きを自動的に切り替えるという機能だ。iPhoneや携帯電話などでおなじみの機能、といえば分かりやすいだろう。 主な用途は2つだ。まず1つは、画面表示を180度反転させて表示する「対面表示」だ。これは例えば、旅行会話文のコンテンツを相手に見せながらコミュニケーションをとりたい場合に適している。本製品には旅行会話系のコンテンツとして「ひとり歩きの会話集シリーズ」「旅の指さし会話シリーズ」が搭載されており、これらと組み合わせて利用することで、海外旅行で便利に使うことができる。反転表示させた状態では文字サイズを切り替えられないといったクセはあるものの、実利用シーンを想定したユニークな機能である。
もう1つは、画面を90度回転させ、文庫本のようにタテ書き表示で読むという「ブックスタイル表示」だ。本製品にはmicroSDに保存したテキストを表示できる機能が搭載されているため、前述の「朗読国語名作集」や青空文庫のテキストと組み合わせることで、電子ブックビューアとして使用できるのである。本製品は従来モデルに比べて筐体が薄い上、本体と上蓋の厚みの差がほぼないことから、文庫本に似た感覚でタテ向きに保持しても違和感が少ないのである。 このアクションセンサーによる自動切替機能は、実際に使った限りでは、モーションセンサーを搭載した筆者手持ちの携帯電話(ソフトバンク921SH)に比べてやや切替のスピードがゆっくりではあるものの、ごく自然な切替を実現していると感じた。個人的には、筆者のようにせっかちなユーザ向けに、センサーの速度切替の設定項目があってもよかったかもしれないと思う。 表示については、タテ書き表示の際、もう少し行ピッチが開けられればよいと感じた。もともとカシオの電子辞書は行間のピッチを変更したり、行間に罫線を入れられるなど表示方式の豊富さが1つの特徴なのだが、行間のピッチは最大でも120%程度で、一般的な書籍の行ピッチに比べるとかなり狭い。フォントそのものも、タテ書きでは長体、横書きでは平体がかかったようになっており、読んでいて多少の違和感がある。それ以外は電子ブックビューアとして十分に合格点がつけられる出来である。文庫本のようにホールドした際、ちょうど親指が当たる位置にクイックパレットがあり、かんたんにページめくりが行なえるのもよい。
なお、青空文庫のビューアとして使う場合、ルビ表示に対応していない点は今後の課題の1つだろう。青空文庫では原文にルビがあった場合、青空文庫形式の独自タグでそれらを記録しているが、本製品ではそれらのタグを解釈せず、ベタなテキストとして表示されてしまうのだ。シャープ製品ではこれらのタグを正しく解釈して原文同様のルビ表示が行なえるようになっているだけに、どうしても見劣りしてしまう。タテ書き表示という大きなメリットがあるだけに、今後の進化を期待したいところだ。
●進化の余地は残すも、総合的には「買い」のモデル 本連載ではこれまでも電子ブックビューアとしての電子辞書の使い勝手に言及してきているが、日本語の電子ブックビューアとしての用途をここまではっきりと打ち出してきた電子辞書は、本製品が初である。アクションセンサーとの組み合わせで実現されたタテ書き表示というスタイルはもちろん、それに合わせて筐体そのものがモデルチェンジされるなど、かなり戦略的な製品であることは間違いない。 ただ、ブックスタイル表示が可能になったことで、いくつかの課題が目立つようになったのも事実だ。1つは液晶画面。液晶パネルの性能そのものは従来モデルと同一だと思われるが、ブックスタイル表示においては、視野角の関係でやや見づらいと感じられる場合がある。また、画面をひんぱんにスクロールさせることから、残像も気になりがちだ。従来の表示方式では問題にならなかった箇所が、タテ書き表示によって目立つようになってきたわけだ。 また、「読む」コンテンツでは同一画面を凝視することが多いせいか、バックライトが不意に消えてしまうことが度々あった。現状ではバックライトの点灯の秒数は固定されており変更はできないのだが、このあたりの手動調整が可能になってくれるとありがたいと思う。 全体的に、クイックパレットの搭載による使い勝手の向上などを考慮すると、本モデルは間違いなく「買い」であると言える。アクションセンサーについては、進化の方向性という点では異論はないものの、初めて電子辞書に触れるユーザーにとってはやや複雑に感じられるかもしれない。店頭ではPOPや動画を利用した十分なプロモーションが行なわれているようだが、製品に添付されるのは説明書のみとやや心もとないため、Webサイトなどを利用した販促レベルでの訴求を望みたい。
【表】主な仕様
□カシオ計算機のホームページ (2009年3月5日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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