笠原一輝のユビキタス情報局

2009年に迫り来る台湾製ネットトップに
国内メーカーは対抗できるのか




 そろそろ、今年を振り返る時期になりつつあるが、動きの速いPC業界では、もう来年の話をし出す時期だ。例年であれば、年末には翌年のモデルが発表され、早ければ年内にも「春モデル」と呼ばれる製品が販売されるようなっているだろう。まさに立ち止まることが許されないのがPC業界だ。

 と、いいつつも今年のPC業界を振り返ってみると、やはり最も印象に残っているのはネットブックの流行と、それに合わせたASUSTeK Computer、Acerという台湾のPCベンダの伸張ではないだろうか。当初は様子見を決め込んでいた日本のナショナルブランドも、この年末までに数社が参入するなど日本のPC市場に大きなインパクトを与えた出来事と言ってよいだろう。

 だが、すでに台湾PCベンダは、ネットブックの次なる動きとして、液晶一体型ネットトップの計画を進めている。これは、日本のメーカーのお家芸となっている液晶一体型デスクトップPCの販売価格に大きなインパクトを与えかねない。

●やっぱりこうきたかと思ったASUSの液晶一体型ネットトップ

ASUSTeKのEee Top

 10月のことだったと思うだが、筆者はネットブックの取材のために台湾にいた。ちょうどASUSTeK Computer(以下ASUS)の新ネットブックが発表されるタイミングで、その発表会に出席していた。その翌日に同社CEOのJerry Shen氏のグループインタビューが行なわれるというのでASUSの本社を訪問していた(その時の模様はこちら)。

 実はそのセッションの時にASUSの関係者から1つ注意されたことがあった。それは、インタビューが行なわれる会場にある1つの製品の写真撮影は遠慮して欲しいということだった。とはいえ、特にカバーがされているわけでもなく、じっくり見ることができたので、まじまじと見ていたのだが、その時の筆者の正直な感想は「ああ、やっぱりこうきたか」というものだった。

 なぜそう思ったのかは後述するとして、その製品とは、その後に概要が発表された液晶一体型ネットトップ「Eee Top」だ。CPUはAtom N270、チップセットはIntel 945GSE、1GBメモリ、160GB HDDというスペックになっている。このスペックだけを見ると、Eee PCと全く一緒だが、15.6型液晶ディスプレイを内蔵している点、ワイヤレスのキーボード、マウスがバンドルされている点が大きな違いと言える。

●Eee PCとほぼ変わらない価格設定が可能なEee Top

 気になるのは、このEee Topの価格だ。実のところASUSは今のところ価格や発売日などは明らかにしていない。だが、Eee TopとEee PCの10型モデルとのおおまかな仕様上の差は、キーボードがワイヤレスになっていることと、液晶ディスプレイが10型が15.4型になっていることくらいだ。そこで、以前の記事でネットブックのBOMモデルを考察したように、Eee Topの構成を当てはめてみると、そのコストもある程度類推できる。

 そこから分かるのは、おそらくBOMレベルでは、両者はほぼ同じかEee Topが若干高い程度で済むということだ。15.4型のパネルは、グレードにもよるが現在市場で最も安価なパネルの1つだ。Eee PC 10型モデルに採用されている液晶よりも安価に購入できるだろう。と考えると、コストアップ要因はせいぜいワイヤレスのキーボードとマウス、それとケースのプラスチックなどの部材類ぐらいだろう。となると、おそらくこのEee Topはで499ドルから599ドルの範囲になると推定することができる。

 ASUSだけでなく、同じようなことを考えている台湾ベンダはほかにもある。MSI Computerのブランド担当するビンセント・ライ副社長は、来日した時、「例えば18.4型の液晶にAtom(1.6GHz)、160GB HDD、1GBメモリなどを搭載したような液晶一体型を399ドルの実売価格で出せると思う」と、やはり安価な液晶一体型が可能であるという見解を示した。

 また、「例えば、ソニーは液晶一体型をいくらで売っていると思うか? それと比べて(我々の予定している製品を)どう思うか」と逆に質問をしてきたのだ。この時筆者は、ここに彼の、つまり台湾メーカーの狙いがあるのだなと感じた。

 今の日本のナショナルブランドがデスクトップPCとして販売しているものの大半は、液晶一体型PCとなっている。ソニーでいえばVAIO type L(15.4型)/type J(20.1型)、NECでいえばVALUESTAR N(16/19型)、富士通でいえばDESKPOWER F(16/19型)/DESKPOWER EK(19型)が、メインストリーム向けの製品となる。これらは安いものでも10万円台の前半から後半になっている。

 ここでライ氏のいった399ドル、あるいは筆者が予想したEee Topの499〜599ドルと、ナショナルブランドの10万円台という価格を比較してみよう。聞き覚えのある数字ではないだろうか。これは、まさに今年初め頃の台湾のネットブックと、ナショナルブランドのモバイルノートPCの価格であり、同じような流れが液晶一体型PCと液晶一体型ネットトップで起こりうるということは容易に予想できるのだ。

●再び大きな市場の変化が起きるのか

 ただし、液晶一体型ネットトップが日本の液晶一体型PCの市場をに割って入るには、いくつかの課題がある。

 1つにはネットトップであるため、IntelとMicrosoftの「定義」を守らないといけないことだ。すでに本連載でも何度も述べてきたように、両社はこの定義にそった製品に対しては、コンポーネント/OSの価格を従来の半額近くに下げて提供しており、それがネットブック/ネットトップが従来のPCに比べて安価になっている最大の要因となっている。この定義の中で、液晶一体型ネットトップで問題になりそうなのが、光学ドライブの取り扱いだ。両者の定義の中で、ネットブックでも、ネットトップでも光学ドライブを内蔵することは許可されていないのだが、おそらく液晶一体型ネットトップにもそれが引き継がれる可能性は高い。実際、公開されたASUSのEee Topのスペックには光学ドライブに関する記述はどこにもない。

 持ち歩くことが前提のネットブックであれば、光学ドライブの有無は弱点とはいえ、致命的なものとはならないが、据え置きが前提となるネットトップの場合には若干問題となる可能性がある。

 むしろ、日本市場の特別事情としては、地上デジタル放送を含めたデジタル放送チューナの問題がある。この問題には、地デジを使うにのにAtomではCPUパワーが充分ではないという技術的な側面と、台湾メーカーには地デジチューナのビジネスを行なった経験がなく、B-CASカードの発行をどうするのかという若干政治的な側面の2つがある。

 販売政策の面でも課題はある。ネットブックでは、ASUSにせよ、Acerにせよ、「100円PC」というマーケティング用語に代表されるように、モバイルブロードバンドのサービスを売りたいイーモバイルとうまく組んで、イーモバイルの販売網やマーケティング費用などを利用して瞬く間に市場を席巻していったという経緯がある。だが、据え置きの液晶一体型ネットトップとモバイルブロードバンドでは、ミスマッチになってしまうので、その手はなかなか使いにくい。また、固定系のブロードバンドはすでに普及がかなり進んでおり、こちらを利用するのも難しいだろう。

 とはいえ、これらは解決不可能な問題ではない。光学ドライブの問題は、別の型番をつけた外付ドライブを「バンドル」するという抜け道がある。チューナについては、バッファローが提供しているようなViXSのエンコーダ機能持つチップを搭載したチューナモジュールを利用したり、そうした日本の周辺機器ベンダと手を組んで、すでにアフターマーケット向けとして出回っているものをバンドルするという解決策はある。

 それに、ネットブックの時も、日本じゃ売れないよ、と言っていた関係者は少なくなかったが、実際にはかなりの部分でミニノートからネットブックへのシフトは進んでしまったのが現実だ。

 そこに学んで、液晶一体型PCを売っている日本のPCベンダは、早めに何らかの手を打つべきだろう。もし、台湾メーカーが液晶一体型ネットトップでも市場を持って行ったら、同じような製品で後から参入しても市場を取り返すことは難しい。それを避けるには、少なくとも来年の春に発売される製品では、何らかの答えを用意する必要があるだろう。

 そうしなければ、ネットブックで起きたような市場の大きな変化が、液晶一体型ネットトップでも再び繰り返されるだろう。

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【11月5日】ASUS、Atom+タッチパネル採用の液晶一体型PC「Eee Top」
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【9月26日】【笠原】ネットブックが、あんなに安い理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0926/ubiq228.htm

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(2008年12月16日)

[Reported by 笠原一輝]


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