[an error occurred while processing the directive]

国内ネットブック/UMPC開発者インタビュー【ウィルコム編】
~次世代PHSサービスにも対応予定のWILLCOM D4

ウィルコム早坂忍氏


 ウィルコムは日本独自の携帯電話技術としてスタートしたPHSを、今では唯一提供しているキャリア。現在ではウィルコム同士の通話が24時間無料となっているため、低価格で友人同士と通話を楽しみたい若年層を中心に人気を集めている。しかし、本誌の読者にとっては、「W-ZERO3」や「W-ZERO3 es」のようなスマートフォンを他のキャリアに先駆けて提供を始め、データ通信に重きを置いた端末を提供するキャリアという印象が強いのではないだろうか。

 そのウィルコムはスマートフォンに続く新しい分野として、Centrino AtomベースのMIDにもチャレンジし始めている。同社が「ウルトラモバイル」と呼ぶのが、7月より販売が開始されたD4だ。D4はワイド5型のタッチパネル液晶、スライド式のキーボードなどを備えながら、重さが460gと軽量に抑えられ、新しいジャンルにチャレンジした製品となっている。

 そうしたCentrino Atomを搭載したD4を他社に先駆けて発表したウィルコム データ通信企画室 課長補佐の早坂忍氏に、その製品の企画意図などについて話を伺ってきた。

●ウィルコムのコンセプトをシャープのPC製品に反映

Q 1月にラスベガスで開催されたInternational CESでは、Intelのブースにこの製品のモックアップが展示されていたのを見ましたが、当然それ以前から開発は進められていたのですよね。

CESで展示されたD4のモックアップ。当時は製品の内容は一切明かされていなかった

早坂氏 以前からIntelさんとは、Centrino Atomを搭載した製品を他社に先駆けて世界初でやりたいんだということをお話ししていました。Intelのウルトラモビリティ事業本部を率いるアナンド・チャンドラシーカ上級副社長とも昨年からトップ同士でよくお話をさせていただき、そうした話の流れの中で1月に行なわれるCESにはぜひ何かを出して欲しいとお願いされたのです。できればもう少し進んだものを出したかったのですが、残念ながらあの時点ではIntelさんの側の準備も含めて動かすことができるものが完成していませんでした。そこで、サイズ感がわかるようなサンプルという形で、あのようなモックを出すに至ったのです。

 本当であれば、弊社としても7月というタイミングではなく、4月の上旬に行なわれたCentrino Atomの発表の時点で製品出荷までこぎ着けたかったのですが、諸般の事情でもう少し後になってしまうことがわかったので、4月の時点ではこの分野にいち早く参入するということを明らかにさせていただきました。

Q Centrino Atomを選択したのはどうしてですか。

WILLCOM D4

早坂氏 ご存じのように、このD4はシャープさんと共同で開発した製品になります。最初シャープさんとは、W-ZERO3の後継をどうしましょうかということを話しを始めました。ご存じの通り、弊社はAir Hのブランドによるデータ通信カードや、PDAプラス通信という市場でそれなりの市場をとってきました。その中で、次のレベルの製品ということで検討していくと、2つのニーズがありました。1つは電話のようにより小さく軽くしながらも本格的に使える製品、そしてもう1つがPCの機能をそのまま利用できるPCっぽい製品というものです。

 どうしたら、PCの機能をそのままにもっと簡単にということを打ち出せるのか、ということを検討していた時に、シャープさんのPC部隊から今度Intelさんが新しいモバイル向けプロセッサを出すという情報を頂き、ぜひともUMPCやMIDといった製品に取り組みたいと考えました。そして、弊社とIntelさんでトップ同士が話し合う環境などを提供いただき、協力してきたのです。

Q この製品は、シャープが製造し、ウィルコムが販売するという形になっています。両者の役割はどのように切り分けているのですか。

早坂氏 こうした製品のコンセプトや企画をつめていく場合には、やはりメーカーの皆様とよくコンセプトについてお話をさせていただき、製品化を進めていただきます。この製品も同様で、「シャープがこんな製品を作るので、ウィルコムさん買ってください」という形ではなく、最初の段階から弊社の考える新しいモバイルシーンというのを両社で共有しながら開発を進めました。

 弊社はフルOSを搭載したPCに取り組むのは今回が初めてということになりますので、実際の製品作りに関してはシャープさんの経験に頼る部分が多かったのは事実です。ただ、すでに述べたような基本コンセプト、ユーザーインターフェイス、デザイン、キーボード、操作感といった部分に関しては弊社の方でもかなり意見を言わせていただいて反映させてもらっています。

Q PCのビジネスと携帯電話のビジネスは文化が全く異なっています。そのあたりでの戸惑いはありませんでしたか。

早坂氏 おっしゃるとおりで2つの分野には大きな差があります。この製品を出すにあたり、社内でもこの製品をPCとして使うべきなのか、それとも電話として扱うのかという議論はさんざんやりました。弊社としては電話を扱うキャリアなので、やはり電話としてのクオリティにして欲しいということはメーカーさんにお伝えしました。

●カスタマイズ性などを重視してフルWindowsを選択

Q 製品を出荷した後、ユーザーに対して休止状態でのバッテリ消費に関する改善プログラムを無償で提供しています。これはどういう問題があったのでしょうか。

早坂氏 この製品では、通信機能が常時機能しています。例えばリモートロックやショートメールへの対応などがそれに該当します。それらをサポートするために常に電源をオンにしている必要があり、その消費電力が想定以上になってしまったという事態がありました。

Q でも通信モジュールであるW-SIMを外しても状況にあまり変化がないと思われますが。

早坂氏 おっしゃるとおりです、結局そういった点も含めてチューニングが足りなかった。幸いなことに、大規模な回収という形でなくとも対応できることがわかりまして、シャープさんのご判断ということで無償でサポートさせていただくことになりました。やはりユーザーの利便性を考えると、長時間放っておくと放電してしまうという問題はどうにかすべきだと考えました。

Q バッテリの駆動時間に関してはいかがでしょうか。確かに小型化のために小さな容量のバッテリを採用するというのは理解できますが、せめて2時間は欲しかったという意見はあると思います。

早坂氏 最初から1.5時間がターゲットだったわけではないのです。当初は標準バッテリで2時間がターゲットでした。2時間であれば一般的なノートPCに比べて若干短い程度に収まりますので。しかし、開発を続けていくうちに、回路の部分で消費する分が増えてしまったり、当初の予定には無かった機能を追加していったりなどしていくうちに、当初の想定よりも平均消費電力が増えてしまいました。そうしたこともあり、最終的にこの駆動時間に落ち着いたのです。

Q ユーザーの意見としては、最新のスペックが必要になるWindows Vistaではなく、やや古いスペックのPCでも動くWindows XPでも充分ではないか、という意見もあると思いますが、なぜWindows Vistaなんでしょうか。

早坂氏 1つにはWindows XPの提供期間の問題もありますし、MicrosoftさんがWindows Vistaを積極的にアピールしているということもありますので、その戦略にのっていきたいと考えました。また、他社のUMPCはWindows XPベースの製品がほとんどだったので、差別化のためハイエンドを目指すならWindows Vistaだろうとも判断しました。

Q IntelはMID向けにLinuxなどを積極的に推進していますが、Linuxを選択するという選択肢はあったのではないですか。

早坂氏 日本市場ということを考えた時に、Windowsのブランド力は他の地域に比べると非常に強いです。アプリケーションなどを完全に作り込んで、特定用途向けにだけに利用するということも考えるとLinuxもありだと考えますが、ビジネスパーソンが自分のアプリケーションを入れてカスタマイズしたいというニーズを考えると、現時点ではWindowsだと判断しました。

 すでに提供させていただいているWindows Mobileを搭載したスマートフォンもそうなんですが、ユーザーが好きなアプリケーションを追加したり、自由にカスタマイズすることができます。D4ではフルWindowsを採用していますので、Windows Mobile以上の自由度があります。それこそ、熱心なユーザー様の中にはOSそのものを変えてしまっている方もいらっしゃいますし(笑)。自宅のPCでカスタマイズしている内容や知識なんかがそのまま利用できる、この点はD4の大きなメリットかなと考えています。

Q USBポートがミニコネクタになっています。利便性を考えると、フルサイズのコネクタが欲しかったところです。

早坂氏 それはサイズのために犠牲になった部分です。コネクタサイズとその取り回しということを考えると、今回のデザインを実現するために犠牲になってしまいました。D4のデザインを決めるにあたり、移動している時とか、手軽に使っていただくということを重視してデザインしています。閉じた時のイルミネーションや、スライドしてキーボードを開いた時にキーボードが発光するなどはその一例です。そうしたこともあり、デザイン、重さ、サイズ感にはこだわっています。

 もう1つ強調しておきたいのは、本製品をサブPCとして持っていただくとしても、フルWindowsの環境を使って欲しかったということがあります。例えば、本製品では横の解像度が1,024ドットあります。これにより、多くのWebサイトを快適に見ていただくことができます。この点はスマートフォンなどにはないメリットだと考えています。

スライドしてキーボードを引き出せる そこから画面を傾けてノートPCのように置くこともできる

Q ワンセグは必要ないのではないか、という意見もありますが。

早坂氏 ワンセグの扱いは非常に難しいんです。実際に市場調査をしてみると、ワンセグの使用頻度はあまり高くないです。しかし、別の調査をしてみると、購入時のチェックポイントには入っているのです。FeliCaの機能もそうなんですが、あって当たり前、ないとマイナスポイントになってしまうという現状があるため、入れることにしました。

Q 音声の機能は必要なんでしょうか。ヘッドセットなどを接続しない限りは利用できないのであれば、いっそのこと音声機能は実装しなくてもよかったのではないかと思うのですが。

早坂氏 ワンセグと一緒で、使う、使わないにかかわらず、ないと駄目だろうと考えました。ちょっと困った時などに利用できますしね。もう1つ、この製品のコンセプトとして、電話のよいところとPCのよいところを融合していきたいと考えていました。音声はどうしようかと考えた時に、やはりウィルコムだし音声定額は利用できることはメリットかなと。W-ZEO3も当初は音声無しで出そうか、という議論はありましたが、意外に音声があることの反響は大きかったのです。そうしたこともあり、音声機能はサポートしておいたほうがよいだろうと判断しました。

●何らかの形で次世代PHSサービスWILLCOM COREに対応予定

Q すでに次世代PHSサービスである「WILLCOM CORE」のサービス開始が来年と具体的なスケジュールも見えてきています。D4でもWILLCOM COREは使うことができるのでしょうか。

早坂氏 弊社の社長がD4を次世代PHSに対応させるということすでに言っておりますので、何らかの形で対応させることになります。実現方法にはいくつかのプランがあり、今それを検討している段階です。現時点では具体的なことを申し上げる段階ではありません。

Q 現実的にはD4のW-SIMをアップデートさせるなどの対応をとる必要がありますよね。W-SIMは次世代PHSに対応できるのでしょうか。また、W-SIMのインターフェイスはどうなっていますか。

早坂氏 W-SIMのインターフェイスはUARTとUSBの2つが規定されています。音声端末の場合にはUARTを利用し、ExpressCardなどの場合にはUSBを利用しています。

Q ということは、次世代PHSのW-SIMをUSBインターフェイスでD4に接続するとかは可能なのでしょうか。

早坂氏 そういう対応はあり得るでしょうね。実際、D4のW-SIMインターフェイスはUSBになっています。

Q つまり、W-SIM形状の次世代PHSモジュールがでれば、それをD4に挿して利用することができるのですか。

早坂氏 ロジック的にはそうなりますが、次世代PHSに対応させるために、ハードウェアの方に手を加えなければならなくなる可能性はあります。

Q その場合に、具体的な対応はどうなるのでしょうか。

早坂氏 有償サポートとかの可能性はあると思いますが、現時点では未定です。W-SIMでいいのか、そもそもW-SIMがサービスインと同時にでてくるのかも現時点では明確ではありませんし。あるいはW-SIMではなく、別のモジュールの形でつけるのか、ということも含めてさまざまな可能性はあると考えています。そういうことも含めて現時点では未定なのです。ただ、現時点で明確に言えることは、何らかの形で次世代PHSには対応するということです。

Q ユーザーとしてはやっぱり次世代PHSに期待している部分は大きくて、それで買っているんだという方も少なくないと思います

早坂氏 こういったデバイスは大量のデータを扱うことができるデバイスですから、やはり最速の回線を利用したいというのはあると思います。それを提供していかなければならないと考えています。

●ネットブックに対するD4のアドバンテージ

Q Office 2007を省略して、大容量バッテリを標準にした「Ver.L」という低価格版が追加されました。ユーザーの方からOffice 2007はいらないよ、という意見が多かったのですか。

早坂氏 両方なんです。今でもOfficeが最初から導入された製品はそれなりに出ていますので、一定のニーズはあると考えています。Officeが欲しいというユーザーさんから見れば、後で追加でパッケージを購入するより、最初から入っていた方がいいということなんだろうと考えています。

 一方で、市場にはミニPCが5万円という価格で販売されている。それなのに、どうしてD4は9万円もするんだ、という意見がありました。そうなると、D4をなかなかお奨めしづらいということになってしまうのです。そこで、そうしたユーザーにも購入しやすいプランということを考え、Office 2007は削れるだろうと考えました。例えば、すでにOfficeのパッケージを持っているユーザーさんにとって、もう1つは必要ないですよね。それよりもコストを下げてよりお求めしやすいものにする、その方がユーザーに受け入れられるだろうと判断しました。

Q ライバルのキャリアではPCベンダの製品を販売する際にインセンティブをつけることで、100円PCなどの強力な価格設定をしています。そうしたことをウィルコムでは検討しなかったのですか。

早坂氏 店頭では100円だけど月々の支払いが高いのと、店頭でそれなりの負担で月々の支払いが少ないのと、どっちがユーザーにとってメリットがあるんだろう、というのは弊社でもさんざん議論しました。結局、購入された方のアンケートを見ると、自分の支払うトータルはいくらなんだろう、というのが一番に来るんです。店頭で100円であっても、トータルのコストを考えると結構いってしまうことの方が多いことを考えると、こちらの方がユーザー様にとってメリットがあるだろうと考えました。

Q なるほど、ただ店頭でのイニシャルコストが高いとすれば、やはり価格差をなんらかの形で説明する必要はありますよね。しかし、こうしたMIDのような製品は使ってもらわない限りは説明するのが難しい製品です

早坂氏 そうなんです、D4のような製品は使ってみていただいてこそ、初めて良さがわかっていただけるんです。このため、東京、大阪など各地でタッチ&トライイベントを開催させていただいていて、その良さを体感してもらっています。特によくPCをご存知の方の中に多いのですが、メモリが1GBだとWindows Vistaは動かないんじゃないかという神話みたいなものがあると思うんです。ですが、実際に触っていただくと、「あれ、結構使えるんだね」みたいな感じになっていただくことが多いのです。

Q ただ、トータルの負担額で見ると、やはりAtomベースのネットブックとは差があります。

早坂氏 AtomとCentrino Atomでは利用している部材が異なり、パフォーマンスも差があるのですが、あまりユーザーの認知度は進んでいないのが現状です。この点は我々としてももっとアピールしていく必要があると考えています。

 ネットブックとD4の違いはサイズにあると考えています。この軽さ、小ささで1GBのメモリ、40GBのHDDを搭載してWindows Vistaが動いている、この点はD4のアドバンテージだと考えています。

Q コンポーネントの違いでいえば、Centrino AtomとAtomの違いはチップセット、特にGPUの動画再生支援機能だと思うんですが、そこをもっとアピールすべきではないでしょうか。

早坂氏 D4の方は対応の再生ソフトウェアを入れていただければ、MPEG-4 AVCを低いCPU負荷率で再生することができます。この点はネットブックにはないアドバンテージだと認識しています。その点をなぜ打ち出してこなかったのかと言えば、この製品のターゲットでもあるガジェット好きやビジネスコンシューマーに対して、サイズや形状などがメインのアピール点だろうと考えてきたからです。まさかグラフィックスがアピール点になるとは考えていなかった。この点は今後の製品作りに活かしていきたいです。

 なお、本製品でもう1つターゲットにしていたのは、学生だったのです。学生が新社会人、新入生となるタイミングで出せたら、TVやPCを新たに購入しますよね。D4を計画していた頃には、フルPCの価格は15万円前後だったので、D4にクレードル、ディスプレイとかを追加してもらえれば、フルPCとして利用できるという用途もあるだろうと考えていました。もっとも、製品を発売したのが7月になってしまったので、残念ながらそういうサイクルとはあわなくなってしまったのですが。

●ネットブック市場の盛り上がりはプラスとマイナスの両方をD4にもたらす

Q 先ほど、電話なのかそれともPCなのかという話がありましたが、売り場の問題も悩ましいのではないですか。

早坂氏 売り場に関しても2つの考え方があります。携帯コーナーで売るのか、PCコーナーで売るのかは社内でもさんざん議論しました。ウィルコムが販売する以上、携帯コーナーにおいた方が目を引くというのはあるんですが、さまざまな特典を含めると非常に安価になる携帯電話のコーナーにおいておくと、ユーザーが引いてしまうのではないかという懸念もあります。だったらPCコーナーにおいてもらって、PCとしては安いよねという線を狙う方が正解ではないかとも考えていて、今では両方に置かせていただいています。

 もう1つの課題として、量販店様には最近では自主的にミニPCのコーナーを作られている場合が多いので、そこにもD4をおいていただけるように営業をしていかなければと考えています。

Q そうしたコーナーに置かれると、機能や価格帯が異なるネットブックと直接比較されることになります

早坂氏 弊社がこの製品にウルトラモバイルというカテゴリ名をつけたのも、この製品はこれまでのPCとは違うよということをアピールしたかったからなんです。昨年ぐらいからUMPCという製品はいくつかでてきてはいましたが、まだまだ市場での認知度は低かった。なので、そうした製品とひとくくりにされてしまうともったいないな、と考えていたのです。

 しかし、今となっては、台湾メーカーが私達の予想を上回る早さで製品を展開したことで、ネットブック、UMPC、MIDなどはひとくくりにミニPCというジャンルにされてしまっています。

Q 価格帯も、機能も異なる製品と比較されてしまうのは、かなり厳しいですね。UMPCとネットブックではコストモデルも違いますし。

早坂氏 我々としてはこの製品ではコスト勝負に持って行くつもりはありませんでした。他の製品に比べて良いものだから高いんだということを、お客様に理解していただいて、納得して買っていただく必要がありました。しかし、ご存じのように市場の状況はそうではなくなってしまいました。

 そうした意味で、今年の春ぐらいからのネットブックの動向は、私たちの販売戦略に大きな影響を与え、見直さざるを得なくなったのは事実です。おそらく我々だけでなく、他の国内のPCベンダも同様だと思います。ネットブックをやることは自社のノートPC市場を壊すことになるので、やってこないだろうと考えてみましたが、主要メーカーがみな取り組んでいるのが現状になってきています。

Q グローバルに展開していくネットブックと、国内だけをターゲットにしているD4では規模の経済の原則から考えても製造コストの点では不利ですよね

早坂氏 そうした問題はD4に限りません、すでに電話機でもそうした問題が表面化しつつあります。例えば、HTCは日本の複数のキャリアに製品を納入していますが、基本的にはヨーロッパなど他の市場向けに大量生産した製品を日本向けにカスタマイズしたものになっているので、コストは非常に安くなっているでしょう。これに対してウィルコムは日本向けだけに作ったスマートフォンを日本のメーカーに製造してもらっています。すでに日本の端末メーカーの売り上げも非常に厳しくなってきており、今後も弊社に魅力的な端末を供給してもらえるか、うまい仕組みを考えなければならない時期になってきています。今後海外ベンダも含めて検討していく必要があるのではないか、今社内ではそうした議論もしています。

 我々にとって誤算だったのは、国内市場にネットブックがこんなに早く展開されることになるとは予想していなかったことです。せめてもう半年待ってもらえれば、だいぶ状況はちがっていたんですけどね。

Q ネットブック市場の興隆がD4によくない影響を与えたということですか。

早坂氏 プラスマイナスの両面があると思います。もちろん競争は激化して、ライバルは国内のメーカーだけだろうと考えていたら、台湾メーカーが低価格を武器に乗り込んで来た。競争相手が増えたという意味では厳しくなっています。ただ、これまで小型PCという市場はあまり訴求されてきていませんでしたが、ネットブックが盛り上がってきたおかげで、UMPC、ミニPCなどがどっと市場に流れ込んできて、ノートPC市場の2割を占めるぐらいになってきている。そうした状況が、販売店に専用のブースを作らせるほどになってきているので、D4も市場に入っていくのが容易になったという意味ではプラスもあると考えています。

Q そうしたネットブック市場の盛り上がりに他キャリアがやってみせたような100円PCマーケティングはかなりの貢献をしたと思いますが、ウィルコムでも同じようなマーケティングを計画していくことはないのでしょうか。

早坂氏 可能性はあると思いますが、市場の動向をよく見ていく必要があるでしょう。他のキャリアがやっているような販売方法が弊社に適しているかは、よく見極めていかないといけません。

Q そうですね、現状では通信速度にも差がある現状もあります。

早坂氏 コミッションをつけてPCを安く販売するのがいいのか、それとも月額を安く抑えるのか、そうしたプランが現行のPHSで競争力があるのかなども含めて総合的に考えていく必要があると思います。半年後には次世代PHSのサービスも始まっていくという現状の中では、そこに最大化を図っていく、それも1つの戦略ではないかと思うんです。

Q 最後に読者にメッセージをお願いします。

早坂氏 ウィルコムは常にアグレッシブな製品を作っていきたいと考えています。他のキャリアさんにはできないような、新しい市場を創造していく、そうした戦略をとっていますので、ユーザーの皆様のご意見は常に大切にしています。いいことも、悪いことも、大きな声で言っていただければ、次の製品にそれを反映することができます。ウィルコムの良さはそうしたフットワークの軽さにあると思っていますので、ぜひご期待ください。

Q ありがとうございました。

□ウィルコムのホームページ
http://www.willcom-inc.com/ja/
□製品情報
http://www.willcom-inc.com/ja/lineup/ws/016sh/
□関連記事
【8月26日】ウィルコム、Officeを省き低価格化した「WILLCOM D4 Ver.L」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0826/willcom.htm
【8月22日】ウィルコム、D4の電源OFF時の省電力機能を強化する無償アップデート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0822/willcom.htm
【7月23日】【塩田】WILLCOM D4レポート【分解編】
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0723/pda84.htm
【7月14日】【塩田】WILLCOM D4 ファーストインプレッション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0714/pda82.htm
【4月14日】ウィルコム、世界初のVista/Centrino Atom搭載通信端末「WILLCOM D4」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0414/willcom.htm
【1月9日】ウィルコムのMenlow搭載プロトタイプが展示される
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0109/ces10.htm

(2008年11月26日)

[Reported by 笠原一輝]

【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
お問い合わせに対して、個別にご回答はいたしません。

Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.