西川和久の不定期コラム

インクジェット複合機三つ巴の戦い その4
~今年の複合機の選び方




インクジェット複合機三つ巴の戦い まとめ

 複合機の上位機種を3機種連続でレビューする試みの4回目は、HP Photosmart C8180、Canon PIXUS MP980、EPSON Colorio EP-901Aの3機種を実際使ってみての感想などを述べ、まとめてみたい。

 筆者としても一気にこれだけのインクジェット複合機を触ったのは初めてだ。その1でHP Photosmart C8180を動かしたときは、ただ「おー!便利」と感動していたが、その2、その3と機種を変えると、その違いが段々分かるようになってきた。最終的に残ったのは……。


Text by Kazuhisa Nishikawa



●デザイン&サイズ比較

 まず2008年モデル(HPは2007年モデルだが)として、デザインとサイズの改善がかなり大きなウェイトを占めることは容易に想像できると思う。前モデルの写真を見るとやぼったい感じで、オフィスならともかく、家には置きたくない雰囲気だ。また、ボタンやいろいろな部分がむき出しでパッと見、ゴチャゴチャしている=難しそうなイメージを受ける。

 1年古いHP Photosmart C8180は、ややそれに近いデザインではあるものの、それでもまだスッキリしている方だ。Canon PIXUS MP980は2007年モデルから少し進化して閉じた状態だとフラットなコンセプト。家で銀色(の面積が多い)と言うのは今時微妙かも知れないが、それでもうまくまとまっている。EPSON Colorio EP-901Aは大変身。いかにも今風で、確かにハイソなリビングと調和しそうだ。とは言え、皆が皆ハイソなリビングを持っているわけではないし、逆に事務所だと、少し浮いた感じになる可能性もある。また指紋が目立ってしまうのも弱点だ。余談になるが、今年は、この複合機に限らず、なぜか指紋が目立つ機器に人気がある。何か良い手があれば対策して欲しいと常々思っている。

HP Photosmart C8180
HP Photosmart C8180。メディアリーダーが他の2機種とは違って上側にあるのは意外と使い易い。逆に電源スイッチが下にあるのはイマイチ

Canon PIXUS MP980
Canon PIXUS MP980。操作パネルを倒すと、見事に全てフラットになる。ただサイズの割りに少し太って見えるのが残念なところ

EPSON Colorio EP-901A
EPSON Colorio EP-901A。ADFの部分がなだらかなカーブになっている分、スマートに見える。排紙トレイや給紙トレイのプラスチックが薄めでガチャガチャするのが惜しい

サイズ比較上から
上からみるとほとんど同じサイズに見える。HP Photosmart C8180の給紙トレイは本体に収納できず出っ張ったままだ

サイズ比較横から
横から見ると随分印象が変わる。EPSON Colorio EP-901Aは逆からだとADFの部分が下がっているので低く見える

サイズ比較斜め前から
斜めから。多少の違いはあるものの、サイズは結構似たり寄ったりだ。特にMP980とEP-901Aは示し合わせたかのように数mmの違い

 仕様上のサイズはあまり変わらないものの、実際こうして並べると結構違うことが分かる。特に横から見た違いが大きく、HP Photosmart C8180は上が傾斜しているため、他の2機種と比較して高い。Canon PIXUS MP980とEPSON Colorio EP-901Aはよく似ているが、前者はフラットなので、高さは左から右まで変化無し。後者はADFの部分がなだらかなカーブになっていて、右側の高さは低くなっている。

 机の上に配置した、それぞれの写真を見ても仕様的な大きさではなく、見た目の大きさが随分違う印象を受ける。特にCanon PIXUS MP980は、操作パネルが他の面より上に飛び出る関係で余計に大きく見えてしまう。とは言え、物理的なサイズの差は最大でも2cm足らず(下の表を参照)、決定的な違いにはならない。また、デザインに関しては好みもあるので、順位を付けるような性格のものでもないだろう。

●特徴ピックアップ

 3機種を順番に使い、筆者の感じた特徴を簡単な表にまとめてみた。5年以上前とは違い、もはやこのレベルにまでなると、インクの最小ドット値やスキャナ部の解像度など、比較してもあまり意味は無く、使い勝手や機能を中心に考えるほうがベターだ。

 まず一番にあげたいのは「給紙トレイ」。Canon PIXUS MP980だけが前面トレイ=普通紙(薄い紙用)、後トレイ=専用紙や郵便はがき(厚い紙用)、他の2機種はどちらも前面2段トレイで、下が最大A4、上が最大2Lとなっている。今回、本格的に使っているわけではないので、数十枚程度の印刷だが、それでも使い勝手には大きな差が出た。昔のプリンタは、どの用紙でも後トレーだったし、それに慣れているハズの筆者でさえも前面トレイがあるのなら、こっちを使いたいと思ってしまう。写真専用のプリンタではなく、インクジェット複合機なので、用紙の多くは普通紙A4のはず。それを前面トレイへ入れ、写真用などの専用紙は曲がったり汚れたりしにくいよう、そのつど後トレイにセットするというCanonの設計も分からなくも無いのだが、目の前に両対応している機種があると、どうしても目移りしてしまう。

 次は単独でスキャンした時にPDFで保存できるかどうか。非対応なのはHP Photosmart C8180だけとなる。最近は、印刷物は何でもPDF化するので、保存したデータが自動的にPDFになっていると手間がかからず、非常に使い勝手が良い。またメディアをネットワークドライブとして扱えるため、いちいちメディアを外す必要もなくパソコンから直接アクセスできるのも便利だ。

 最後のポイントはスキャナの透過原稿対応だ。この点はEPSON Colorio EP-901Aだけが未対応。筆者はかなり早くからデジタルカメラを使っていたので、現在手元に35mmフィルムのネガやポジは無く、個人的には無くても全く困らないのだが、そうではないユーザーも多いと思う。この1点でどれを選ぶかの分かれ道になることもあるのではないだろうか。

HP Photosmart C8180 Canon PIXUS MP980 EPSON Colorio EP-901A
インク 6色独立インク/最高4,800×1,200dpi 6色インク/最小1pl、最高解像度9,600×2,400dpi 6色インク/最小1.5pl、MACH方式/5,760×1,440dpi
給紙 前面2段トレイ 前面トレイ:普通紙
後トレイ:専用紙
前面2段トレイ
スキャナ 6色光源、9,600x9,600dpi
透過原稿対応
高輝度白色LED、4,800×9,600dpi
透過原稿対応
LED光源 主走査:4800dpi/副走査:4,800dpi
ADF × ×
Bluetooth オプション オプション
両面印刷ユニット オプション 標準装備 オプション
電源 ACアダプタ 内蔵 内蔵
単独スキャン時のPDF対応 ×
本体によるネットワーク設定 ×
その他 スーパーマルチドライブ (LightScribe対応)搭載 グレーインク搭載 内蔵CD/DVDトレイ搭載
サイズ(幅×奥行き×高さ)
重量
448×392×216mm
11.4kg
470×385×199mm
約10.7kg
466×385×198mm
約10.5kg

C8180用紙トレイ
前面2段トレイ。上側は少し紙が入れにくい。作り自体は厚めのプラスチックでガッチリしている

MP980用紙トレイ
普通紙用の前面1段トレイ。写真用紙や郵便はがきなど厚めの紙は、後トレイからとなる。少し薄めのプラスチックで強度弱め

EP-901A用紙トレイ
前面2段トレイ。MP980同様、少し薄めのプラスチックなので、頼りない印象がある

C8180スーパーマルチドライブ
LightScribeに対応したスーパーマルチドライブ。3機種の中でCD/DVDメディアを直接読めるのはこのHP Photosmart C8180のみ

MP980グレーインク
左から3番目がグレーインク。同じ6色インクでもCanon PIXUS MP980だけの特徴だ。特にモノクロ写真に威力を発揮するだろう

EP-901A内蔵CD/DVDトレイ
内蔵のCD/DVDトレイ。操作パネル左下にある[CD/DVDトレイ]ボタンを押すとせり出してくる。なかなか便利そうだ

C8180 ACアダプタ
HP Photosmart C8180は唯一ACアダプタ式だ。更に付属するACケーブルはご覧のように極端に短く、本体に接続するプラグも変わった形をしている

MP980透過原稿対応
Canon PIXUS MP980の原稿台の保護シートを外すと透過原稿が使えるようになる。この構造は、HP Photosmart C8180も同じだ

EP-901A ADF
EPSON Colorio EP-901Aに標準搭載のADF。他の2機種はオプションでも未対応だ。この機能を必要とする人にはポイントが高いだろう


 個人的に気に入ったのは、EPSON Colorio EP-901AのADFとCD/DVDトレイの内蔵だ。特にCD/DVDトレイは、友人も「必要な時に限って行方不明になる」と言って笑っていた。どちらも他の2機種を大きく引き離すポイントとなっている。

●操作パネル比較

 操作パネルは3機種共それぞれタイプが違い、操作方法も異なる。ただ、この写真からも分かるように、パッとみた感じ、最も簡単そうなのは、EPSON Colorio EP-901Aとなる。理由は単純で一見ボタンの数が少なく見えるためだ。実際埋め込まれているボタンの数は大差無いものの、カレントのポジションで使えないボタンは点灯せず、必要なボタンだけ点灯している。これによってボタンの数が少なく見えるのだ。他の2機種は物理的なボタンがどのようなケースでも見えているだけに、難しそうに感じてしまうし、どのボタンを押すべきなのか悩むこともある。

C8180操作パネル
3.5型の液晶はタッチパネルになっている。操作は直感的に分かりやすい。ただ他の2機種と比較して液晶パネルのクオリティがイマイチ

MP980操作パネル
3.5型の液晶パネルと、イージースクロールホイール、各種ボタンなどで構成される操作パネル。パソコン的な操作体系だが、少しボタンが多いような気がする

EP-901A操作パネル
3.5型液晶モニタと7.8型タッチパネルで構成する操作パネル。必要の無いボタンは点灯しないのでシンプルで分かりやすい

●印刷比較

印刷比較

 毎回綺麗だと書いていたが、実際はどうなのかをプリントを並べ写真を撮ってみたので参考にして欲しい。プリントをデジカメで撮影している関係で色味やコントラストなど、多少バイアスはかかっているものの、筆者の見た目と掲載している写真は一致しているので問題は無い。

 HP Photosmart C8180は純正の「フォト用紙」(左)、Canon PIXUS MP980は「光沢 プロフェッショナル」(中央)、EPSON Colorio EP-901Aは「写真用紙<光沢>」(右)のL版を使っている。印刷の設定は全て標準、従って、CanonとEPSONは自動補正がかかった状態だ。3機種共フチなし印刷で見事に印刷領域のサイズが揃っている。

 どれを見ても十分綺麗で写真画質。ただ傾向としては、HP Photosmart C8180は若干マゼンタ被りでネムめ、Canon PIXUS MP980は明るめでガンマも浅い、EPSON Colorio EP-901Aは色が濃くハイコントラストだ。使ったのは、筆者がレタッチしたデータだが、イメージ的にはMP980とEP-901Aの間(少しEP-901A寄り)の雰囲気で作った。写真データ自体はNikon D2XのJPEG Large/Fine。4,288×2,848ピクセルの解像度となる。

 さて、その1から3で触れた横揺れ及びノイズの件、文字で表現するのは難しく、実際にこのプリントを行なう時の音を録音したので聞き比べて欲しい。給紙(MP980は後トレイから)→印刷→排紙の時間も音を聞きながらカウントすれば分かるだろう。給紙時の音はどれもそれなりにガチャガチャ鳴っているものの、印刷中かなりノイズを出すのがHP Photosmart C8180。しかもそれに伴ってテーブルが横揺れする程の振動が伴う。次モデルでは是非改善して欲しい部分だ。

HP Photosmart C8180の印刷音
Canon PIXUS MP980の印刷音
EPSON Colorio EP-901Aの印刷音
※レコーダーとの距離は全て同じ。フォーマットはMP3。

●ソフトウェア比較

 ソフトウェアに関しては、プリンタドライバとスキャナドライバの機能面で見る限り、自動補正で各社工夫は見られるものの基本性能としては大差無い。付属のアプリケーションでフォトレタッチやOCRなど、出来る事という面から見ても操作方法などは違うものの、アプローチはどれも似たり寄ったりだ。またもし不足な部分があったとしても、他のアプリケーションなどで改善できるため、ハードウェアとは違い致命的な問題とはならない。従って、ここでは筆者的に印象に残った画面キャプチャのみでまとめてみた。

C8180総合メニュー
HPの総合メニュー。インクの状態表示、消耗品をネット経由で購入などもできる。イメージは家庭用と言うよりビジネス用のように思う

MP980総合メニュー
Canonの総合メニュー。具体的な内容がボタンになっているので分かりやすい反面、機器のステータスなどは表示しない単なるメニューだ。これだけの面積を使って表示するならもうひとひねり欲しいところ

EP-901Aに総合メニューは無い
EPSONは他の2社のような総合メニューは無い。ただし、インストール時、デスクトップへ必要なショートカットが作られるので、それで十分という話もある

埋め込みWebサーバー
HPの埋め込みWebサーバー。EPSONも同機能を持つものの、Webスキャン機能は無い。構造上ドライバが不要なので、気楽にスキャンが出来、たまたま接続したノートPCからなどは重宝する

ネットワークの設定
Canonは本体でのネットワーク設定に対応していない関係で、このようにパソコン側での設定画面がある。この時USB接続する必要があり少し面倒な初期設定だ

ナチュラルフェイス
ナチュラルフェイス。[小顔補正]と[美白補正]が行なえる。技術的には良く出来ており、機能として意見を言うつもりは無いが、ネーミングの「ナチュラル」が気になるところ。一応、理論付けされているとはいえ、「フェイク」っぽさは感じる


●総論

 以上、筆者の独断と偏見による、「インクジェット複合機三つ巴の戦い」をまとめてみた。結論として、“筆者の”ベストチョイスは「EPSON Colorio EP-901A」となる。もしレビューする順番が逆だったら、途中で止めてしまうのではと思うほどの差だ。デザイン、操作性、印刷クオリティ、そしてADFやCD/DVDトレイ内蔵など、比較表からも分かるように機能面に死角が無い。今回は評価しなかったが、EP-901Aの機能に加えFAXを搭載したEP-901Fの存在もFAXが必要な人にとっては嬉しいところ。Bluetoothなどのオプションでは無く、物理的に出来ないのはスキャナの透過原稿対応のみとなる。この点に関しては、希望するユーザーが多ければ、たった1年でこれだけのインクジェット複合機へと変身できた同社なだけに、きっと次モデルで対応してくれるのではないだろうか。

 2位であるが、これは微妙。印刷クオリティーやノイズ、透過原稿対応、そしてアプリケーションなど総合的にはCanon PIXUS MP980。ただ今1つこなれていない操作パネルと、給紙が前面トレイ/後トレイに分かれているのが残念な点だ。

 HP Photosmart C8180は、タッチ式の操作パネルや前面2段トレイ、CD/DVDメディアや透過原稿対応など良い面があるものの、机が横揺れするほどの振動やノイズはいかんともし難い。昨年型機種というハンディもあるので、来年に期待したい。

 従って2位は「Canon PIXUS MP980」としておく。いずれにしても筆者にとって一気に3機種使えたこのレビューはなかなか有意義だった。一連の記事が、少しでも読者の皆さんの参考になれば幸いである。


□関連記事
【西川】インクジェット複合機三つ巴の戦い
【10月31日】その1「HP Photosmart C8180 All-in-One」編
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1031/nishikawa.htm
【11月7日】その2「キヤノンPIXUS MP980」編
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1107/nishikawa.htm
【11月11日】その3 「EPSON Colorio EP-901A」編
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1111/nishikawa.htm

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(2008年11月20日)

[Reported by 西川和久]


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