今回作るラジオは、中波ラジオです。AMラジオと言ったほうが一般的かもしれません。ブレッドボードの上に組んだ小さな回路で、音楽やニュースを聞くことができます。 ハンダ付けをしなくても済むように部品を選びました。回路の構成は、CQ出版の書籍『ブレッドボードで始める電子工作』(橋本剛著)を参考にしています。ラジオ以外の回路も扱っている、とても参考になる本で、我々の愛読書です。
我々の周囲ではさまざまな電波が飛び交っています。TV、携帯電話、無線LANなど、日常的に使うものだけでもたいへんな種類です。ラジオの回路を考えるとき、その中から欲しい電波だけを選び出す部分がまず重要で、その働きをする回路を同調回路といいます。 電子工作で作るAMラジオの場合、同調回路の主役はバーアンテナと可変コンデンサとなることが多いでしょう。可変コンデンサはツマミを回すことで容量が変わるコンデンサで、バリアブル・コンデンサあるいはバリコンとも呼ばれます。 今回の回路ではそのバリコンを使いませんでした。ブレッドボードに載せられる製品が見つからなかったためです。かわりにバリキャップという部品を使っています。 バリキャップは電圧の変化で容量がかわるコンデンサです。ただし、その正体はダイオードで、「可変容量ダイオード」が本来の呼び名のようです。使い慣れない不思議な部品ですが、トランジスタに似た形状のため、ブレッドボードに挿して使うことができます。 バリキャップのカソード側にかける電圧を調節することで、容量が変化し、同調する周波数が変わります。つまり、受信する放送局を選べるわけです。電圧の調節は可変抵抗器(回路図中のVR1)で行ないます。例によって、ブレッドボードに載せるため半固定抵抗器を使いました。この半固定抵抗器のツマミを回すことでチューニングする仕組みです。 同調回路のもう1つの主役、バーアンテナもブレッドボードに載せにくい部品です。こちらは後で説明するとおり、指先のテクニックで処理することにしました。 回路図中のL1がバーアンテナです。くるくると線がループしている記号は部品の構造をそのまま表していて、細い電線が緻密に巻かれています。このような構造を持つ部品を総称してインダクタと言います。抵抗器(R)、コンデンサ(C)と並ぶ基本的な部品で、回路図中の略号はLです。
同調回路だけではラジオになりません。受信した信号を、聞いて理解できる信号に変換する回路が必要です。今回はその部分を1つのICで済ませました。 ミツミ電機の「LMF501T」はトランジスタのような形をした3本足のシンプルな部品です。いくつかの抵抗器とコンデンサを加えるだけで機能し、ブレッドボードでラジオを組むときにはとても便利です。
組み立てのポイントはバーアンテナの処理でしょう。ハンダ付けをせずに取り付けるには、工夫が必要です。試行錯誤の結果、被覆のついていないジャンプワイアで線を押さえつけることにしました。このジャンプワイアは抵抗器のリード線の切れ端を曲げたもので十分です。バーアンテナの線はとても細いので、ピンセットが欲しくなると思います。線の先が隣の端子に触れないよう注意してください。使用しない線(緑色)は切ったりせず、他の部品に触れないようブレッドボードの空いている所に固定しておきます。 この方法により、ハンダ付け抜きでどうにかなりましたが、スマートとは言えませんね。苦肉の策です。我々がとったのとは違う、もっとうまいやり方があると思いますので、皆さん工夫してみてください。 ハンダ付けを可とするなら話は簡単になります。いちばん単純なのは、線の先端にピンを付けてしまう方法です。4連のピンヘッダを使うと扱いやすいでしょう。 バーアンテナ以外の部分では、バリキャップの極性に気をつけてください。発光ダイオード(LED)と同じく、アノードとカソードがありますが、電源に対する向きが逆になります。LEDはアノードがプラス側でした。反対に、バリキャップはアノードをマイナス(GND)に接続します。 ややこしいのは、間違ってバリキャップを逆向きに取り付けてしまったとしても、ラジオとして機能してしまう点です。ただし、その場合、同調する周波数の範囲が狭まります。つまり、聞ける局がとても少ないラジオになってしまいます(もしその狭い周波数範囲に地元の局がなかったら、なにも聞こえません)。 アンプをつないで音を聞くとサーッというAMラジオらしいノイズが聞こえてくるはずです。もし聞こえない場合は、電池の極性、ICの向き、アンプとの接続の仕方を確認してください。電池の電圧が低いとうまく動作しません。8Vくらいまで低下すると、実用になりません。 第10回で作ったヘッドフォンアンプにつなぐ場合は、このページの1枚目の写真のとおりに接続すればいいでしょう。このとき、音声はヘッドフォンの片側だけから聞こえます。 回路図には外付けのアンテナがありますが、まずはバーアンテナだけで試してみてください。都市部なら受信できる局があるはずです。運悪く受信できない場合、あるいは、より大きな音量でより多くの局を受信したい場合は、アンテナをつけると受信状態が変化します。 一番簡単に接続できるアンテナは自分の体です。ジャンプワイアの一端をバーアンテナの黄色の線と同じ位置に挿し、もう一端を指でつまみます。これだけで音が一段強くなります。もっと強力なアンテナが欲しいときは、金属製の窓枠、TVアンテナ、屋根からぶらさげた電線などが候補になります。くれぐれもカミナリには気をつけてください。こうしたアンテナを繋いだままにしないほうがいいでしょう。室内用のアンテナを自作することもできます。サーチエンジンで「中波アンテナ」を検索すると、いろんな作例が見つかります。 チューニングは半固定抵抗器を回して行ないます。まず、NHKラジオ第一を探すといいかもしれません。番組表があると、聞こえてくる話の内容で目的の局かどうかがわかります。NHKが聞こえたら、そこを基準に他の局を探してみてください。各地のNHKの中波放送の周波数は「主なラジオの周波数」というページにまとめられています。 クリアに受信できないときは、時間帯や場所を変えて試してみるのも手です。家の中でも、位置によって受信状態が変わるはずです。 ごく近くに送信所があると、その放送ばかりが聞こえて他の局が埋もれてしまうことがあります。我々のメンバーの1人は、米軍の送信所のそばに住んでいるため、どんなにいい加減な作りのラジオでも米軍放送だけは必ず受信できるかわりに、性能のよいラジオでないと、米軍放送以外がほとんど受信できません。今回のラジオの性能ではNHKとTBSがひどい混信のなかでかろうじて聞き取れるレベルです。残念ですが、遠出の際に持参して、その地で新鮮な放送を聞くことにしています。
最後に今回使用した部品をまとめておきます。このほかに9Vの電池が1本必要です。9V電池は値段の差が大きいのですが、100円ショップのマンガン電池で十分です(2本100円の店もありますね)。電池で節約すれば、部品代は800円ほどで収まるでしょう。 ●部品表
(2008年11月13日)
【PC Watchホームページ】
|