笠原一輝のユビキタス情報局

低消費電力と高性能のバランスが取れたVIAの「Nano L2100」
〜Atom 230を超える性能を確認




 以前本連載で取り上げたVIA Technologiesの「Isaiah」だが、既報の通り「Nano」というブランド名で市場に投入されることが明らかにされた。Nanoは、VIAのCPUとしては初めてアウトオブオーダー型の演算器を採用しており、コアあたりの性能をIntelやAMDの最新プロセッサと同等のレベルに高めたのが大きな特徴となっている。

 今回、Nanoプロセッサを搭載したリファレンスマザーボードを入手したので、対抗製品になると思われるIntelのAtomプロセッサを搭載したマザーボードなどと比較しながら、その性能に迫っていきたい。

●VIA x86プロセッサとして初のアウトオブオーダーアーキテクチャ

 VIAの現行CPUであるC7はインオーダー型と呼ばれる、ソフトウェアからCPUに発行された命令を順序通りに実行していく。この場合、前後する命令に依存関係がある時、後の命令は依存している命令が実行が終了するまで待つ必要があり、その間は演算器の処理は停止し、結果として性能が低下する場合がある。一方、アウトオブオーダー型のCPUでは、命令の順序をCPU側で入れ替えてどんどん実行していく。このため、演算器の利用率が高まり、結果的に性能が向上することになる。

 ただし、後で実行される命令の結果に依存する命令なども存在しているので、それらは専用のエンジンを利用して予測しながら実行しないと、命令を処理しても依存していた命令との関係から結果を捨てないといけないということが起こりうる。このため、命令の分岐予測エンジンなどを備える必要があり、結果としてCPUが複雑になり、ダイサイズが大きくなり、製造コストや消費電力の増大を招くことになる。

 つまり、インオーダー型のCPUは性能はあまり高くないが、製造コストや消費電力を抑えるることができるというメリットがあり、アウトオブオーダー型のCPUは製造コストや消費電力は高めになってしまうが、性能が高くなるというメリットがあると言える。

 今回VIAがNanoでアウトオブオーダー型のアーキテクチャを採用したのは、製造プロセスルールが進化したことで、アウトオブオーダー型であっても、ダイサイズを小さく抑えることができると判断したからだ。実際、Nanoにより、浮動小数点演算性能などC7の弱点を克服しており、コアあたりの性能という観点で見れば、IntelやAMDの主力製品と遜色ない性能を実現することが可能になるのだ。

●ターゲットは薄型ノートPCからミニノートPCまで

 Nanoには以下のようなSKU(製品ラインナップ)が用意されている。製造プロセスルールは65nmプロセスで、富士通の三重工場において生産される。

 基本的なスペックは、L1キャッシュが128KB(命令64KB+データ64KB)で、L2キャッシュは1MBとなっており、これは全SKUで共通だ。各SKUの違いは動作周波数とTDP(熱設計消費電力、ピーク時の消費電力)で、1.8GHz/TDP25WのL2100から、1GHz/TDP5WのU2300までが用意されている。LシリーズはデスクトップPCやフルサイズのノートPCなどをターゲットにしており、Uシリーズはミニノートやネットブックのような超小型ノートPCをターゲットにしている。

 デスクトップはというと、VIAが「EPIA」シリーズとしてリリースしているMini ITXマザーボードによる小型のデスクトップPCなど。シングルコアプロセッサなので、メインストリームデスクトップは基本的にターゲットにしておらず、フルサイズデスクトップPCでは、エントリーレベルの低価格の製品に焦点を当てている。

【表1】NanoのSKU
モデルナンバー クロック周波数 TDP アイドル消費電力 FSB L2キャッシュ Enhanced Power Saver ターゲット市場
L2100 1.8GHz 25W 500mW 800MHz 1MB 対応 デスクトップPC
L2200 1.6GHz 17W 100mW 800MHz 1MB 対応 軽量ノートPC
U2400 1.3GHz+ 8W 100mW 800MHz 1MB 対応 ミニノートPC
U2500 1.2GHz 6.8W 100mW 800MHz 1MB 対応 ミニノートPC
U2200 1GHz+ 5W 100mW 800MHz 1MB 対応 ミニノートPC

●Atom 230を上回る性能を発揮するが、内蔵GPUは改善の余地あり

 今回筆者が入手したのは、Nano L2100(1.8GHz/TDP25W)を搭載したリファレンスマザーボードで、ベースになっているのは「EPIA SN」と呼ばれるC7 1.8GHzを搭載したMini ITXマザーボードだ。最終製品ではないため、実際にEPIAシリーズとして投入される際には仕様が変わる場合がある。チップセットはVIAのCN896+VT8251が採用されており、GPUはCN896に内蔵されているVIA Chrome9 HCというDirectX 9対応のエンジンだ。

EPIA SNをベースにしたNanoのリファレンスマザーボード Nano L2100(1.8GHz)
Nano L2100(1.8GHz)のCPU-Z表示

 比較対象として用意したのは、Intelの「D945GCLF」で、Atom 230(1.6GHz)を搭載したMini ITXマザーボードだ。チップセットはIntel 945GC Expressで、GPUは内蔵されているGMA 950を利用している。メモリは1枚で2GBのものを利用し、いずれもDDR2-667に設定している。

【表2】テスト環境
  Nano L2100リファレンスボード Intel D945GCLF
CPU Nano L2100(1.8GHz) Atom 230(1.6GHz)
チップセット VIA CN896 Intel 945GC Express
メモリ DDR2-667 2GB
GPU チップセット内蔵
ビデオメモリ 256MB
HDD HGST HDT725050VLA
OS Windows Vista Ultimate SP1

 ベンチマークとして利用したのはFutureMarkのPCMark05、PCMark Vantage、3DMark06、ペガシスのTMPGenc 4 XPRESS、MAXON ComputerのCineBench R10で、CineBench R10動作時の消費電力も計測してみた。結果は以下の通りだ。

【グラフ1】PCMark05/CPU
【グラフ2】PCMark05/Audio Compression
【グラフ3】PCMark Vantage PCMark Suite
【グラフ4】PCMark Vantage 詳細
【グラフ5】TMPGenc 4 Xpress(MPEG2 6312 to WMV 3Mbps)フレームレート
【グラフ6】3DMark06
【グラフ7】CineBench R10
【グラフ8】消費電力

 CPUの性能が結果を左右するグラフ1、グラフ2、グラフ5、グラフ6のCPU、グラフ7などの結果を見ると、いずれのテストでもNano L2100がAtom 230を上回っており、純粋にCPUの性能という意味では、明らかにNanoがAtomを上回っていることがわかる。Nanoの方がクロックが高く、しかもAtomはインオーダー型というアーキテクチャ上の利点もあり、当たり前の結果と言える。

 3DMark06の総合結果や、PCMark Vantageの結果の内、HDDとTV and MoviesでNanoがAtomに劣っていることに気が付くだろう。これらの結果はCPUよりGPUの性能に左右される項目となる。つまり、CN896に内蔵されているVIA Chrome9 HCは、Intel 945GCに内蔵されているGMA 950に比べて3D描画性能でやや劣ると言わざるをえない。現時点では製品版のNano搭載マザーボードがどのようなチップセットを搭載してくるかはわからないが、気になる点であると言える。

 ただ、EPIA SNベースのリファレンスマザーボードにはPCI Express x16スロットが標準で搭載されている。このため、ビデオカードを増設して性能向上を図る余地はある。

 気になる消費電力だが、アイドル時にはどちらのマザーボードもシステム全体で43Wだったが、CineBench R10を実行し、CPUの負荷が100%になると、VIA Nano L2100リファレンスボードは58Wに上がった。この値はスリムノートPCなどにも充分利用できるレベルと言ってよい。D945GCLFはなぜかフルロード時も同じ43Wだった。こちらは逆に、アイドル時の省電力にまだまだ改善の余地があると言える。

●今後はミニノートへの採用に期待

 このように、Nano L2100は、Atom 230に比べて性能は明らかに凌駕しており、Mini ITXマザーボードのようなコンパクトで省電力なプラットフォームでも高い処理能力を発揮することを示している。

 ただ、現時点ではNano L2100を搭載したマザーボードがいくらになるのか価格がでていないので、エンドユーザーにとってどういう存在になるのかを表現するのは非常に難しい。というのも、D945GCLFは1万円を切る低価格を実現しており、それが大きな魅力の1つになっているからだ。Nano搭載マザーボードが出てくる時には、D945GCLFと競争力がある価格設定になっていることを期待したい。

 ASUSTeK Computerの「Eee PC」のヒットなどにより、こうした低価格プロセッサにはネットブックにおいてもユーザーの大きな注目が集まっている。C7もHPのミニノートに採用され注目を集めており、すでに入手したユーザーも少なくないだろう。ぜひともデスクトップのみならず、Nanoを搭載したミニノートも期待したい。

□関連記事
【5月29日】VIA、Isaiahの正式名称を「Nano」に決定
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0529/via.htm
【1月24日】【笠原】VIA、新設計アーキテクチャCPU「Isaiah」を2008年前半に製品投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0124/ubiq208.htm

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(2008年7月30日)

[Reported by 笠原一輝]


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