山田祥平のRe:config.sys

オフラインキャッシュが高めるモバイルPCの付加価値




 オフラインでできることが極端に少なくなっているような気がしてならない。モバイルブロードバンドが広く普及しているとはいえ、スイッチオンで即接続というわけにはいかない以上、これでは困ることも多い。

●ブロードバンドの弊害

 取材でパリに滞在している。

 覚悟はしていたが、やはり、インターネットが遅い。ホテルの部屋にはハイスピードインターネットが来ていることになっているが、アメリカ国内でアナログモデムの56Kbps接続をしているくらいに日本国内サイトへのアクセスが遅い。クリックして数十秒たってもページ全体は表示されない。これではリンクのクリックなどしていられない。読みたいページは片っ端からバックグラウンドのタブで開いておき、たっぷり時間をかけて、あとで順に開いていく。

 今年は、年初から、ラスベガス、サンフランシスコ、上海、北京と、出張が続いたが、今回のパリがいちばん遅く感じる。もちろん、.frドメインは多少ましなので、ホテルの回線事情のせいだけでもなさそうだが、とにかく仕事の効率は確実に落ちる。

 海外滞在中でも、日本の事情が手に取るようにわかると、喜んでいられたのは、インターネットを使うようになってほんの数年のことだったように思う。当時は、56Kモデムを使い、アナログ電話回線でインターネットに接続していたわけだが、あの頃のコンテンツは、その帯域にはちょうど良かったのだろう。日本国内にいるときと、そんなに遜色のないフィーリングでインターネットを使うことができた。だが、日本のブロードバンドが一気に広帯域化され、世界でも有数のブロードバンド大国になり、コンテンツが肥大化してしまった。これはうれしいことではあるのだが、その一方で、不便も強いる。今、見たい、あるいは、読みたいコンテンツが瞬時に目の前に現れないからだ。

●オンとオフのシームレス化

 PCはどうか。インターネットと切り離された状態で活用できるアプリケーションが少なくなっている。たとえば地図。GoogleMapはとても便利で重宝しているが、インターネットがなければ使えない。GoogleMapは、モバイル版があり、携帯電話などでアクセスすればGPSとも連動する。Windows Mobile端末を使っても同様にGPSと連携しながら不案内な土地で重宝する。

 ぼくの場合、外出時にPCを携帯していないということはありえない。PCにつながるGPSも持っている。だが、PC版のGoogle MapはGPSとの連携ができない。せっかく10型を超える液晶デバイスつきのPCを携帯しているのに、それが使えず、小さな液晶の携帯電話やPDAを使うしかないのだ。それも、日本国内のようにモバイルアクセスが容易ならいいが、すぐに10万円を超えそうなパケット代を覚悟しない限り、海外ではお手上げだ。言葉も不案内な土地でこそ生かしたいコンテンツなのにだ。

 オンライン依存が常識に近いものになっていくのは、時代の流れだと思うし、セキュリティ等を考えても、モバイルデバイスに重要なデータはあまりためこまないほうがいい。だが、今のように、ブロードバンドとナローバンドが混在し、そこを往来しなければならない時代には、その中間のソリューションが必要なんじゃないかと思う。

 たとえば、キャッシュだ。1kgに満たないモバイルPCでも300GB超のHDDを搭載する時代である。オフラインで見たいと思うコンテンツは、簡単な操作でどんどんキャッシュできるようにならないものか。1カ月といった期限付きでもかまわないのだ。そして、オフラインのときにも、あたかもオンラインであるかのようにコンテンツにアクセスできる環境が欲しい。

 飛行機に乗る前に、その日の朝刊をキャッシュして持ち出すといった使い方もあるだろう。このソリューションを自動化し、毎日でかけるときには、指定したコンテンツの最新版がPCにキャッシュされているといったイメージもいい。

 HTMLの時代なら、手動でサイトをファイル化すれば、それでなんとか近いことができたが、今のようにストリームが使われるようになって、それもできなくなってしまった。GoogleMapがキャッシュできてGPSと連携できれば、どんなに便利かと思うのだが、それができない。

●Googleがインターネットで天下をとるために

 パリのように、比較的容易に、その土地の地図が入手できる土地であればそれでもいいが、なかなかそうもいかないのだ。ぼくは、MicrosoftのAutoRouteという地図ソフトを愛用している。このソフトは、ヨーロッパ全体の地図を収録しているもので、米国をカバーしたStreets&Tripsと姉妹ソフトのようだ。それでも、アイスランドの地図は出てこないし、そもそも、日本国内で購入するのが難しい。Amazonの海外サイトは、ソフトウェアの発送先を日本国内に指定できないし、米国にでかけたときに購入しようにも、大手の量販店では見かけない。ぼくは、このソフトの存在を、以前、CeBITにでかけたときに知ってドイツ国内で購入した。最初に購入したバージョンはドイツ語版だった。最新版は米国のAmazonで購入し、米国居住の知り合いに受け取ってもらっておき、米国にでかけたときに入手している。こちらは英語版だ。

 このインターネットの時代に、地図ソフト1つ入手するのに、いったい何なんだろうというくらいに障壁がたくさんあっていやになってしまう。だからこそ、GoogleMapは貴重な存在なのだ。

 ちなみに、日本のGoogleで地図を表示させた場合、上海や北京の街路図を得ることはできないが、http://google.cn/から同じ手順をたどれば、ちゃんと表示される。AutoRouteに収録されていないアイスランドだって、google.frからたどれば地図がある。

 このインターネットの時代なのに、今、自分がどこにいるかを人間が把握し、それなりの手順を踏まなければ、今いる場所の地図さえ表示できないというのはどうなのだろう。インターネットで天下をとろうとしているGoogleでさえそうなのだから、他は推して知るべしだ。

 地図コンテンツの話に終始してしまったが、今のGoogleに望みたいのは、検索結果のページに、「このページの検索結果をすべてローカルにキャッシュ」というボタンを設置することと、GoogleMapのリージョン丸ごとキャッシュ機能を追加することだ。

 ここ数年のモバイルPCは、ワイヤレスのブロードバンド接続ソリューションによって、その付加価値を高めたが、今度は逆に、オフラインでの使い勝手を追求するフェイズに入っているのではないか。サイトごとにポリシーがあるだろうから、ブラウザの仕事にしてしまうのはちょっと乱暴だが、そういうソリューションがなんらかの方法で提供されれば、モバイルPCの付加価値はさらに高まるだろう。つながっていて便利なのは当たり前である。だからこそ、つながっているときと、つながっていないときを意識させないことも考慮すべきではないだろうか。

□関連記事
【2007年5月25日】【山田】ブロードバンド大国ニッポンの幸せ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0525/config160.htm
【2007年2月23日】【山田】迷えるインターネットのどこでもドア
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0223/config147.htm
【2005年8月19日】【山田】コピーを持って街に出よう
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0819/config068.htm

バックナンバー

(2008年7月4日)

[Reported by 山田祥平]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.