先週、iPhoneが発表されて以来、あまりにこの話題に引っかけた記事が多く、取り上げるのを避けていた。 それらの記事を眺めていて予想外だったのは、iPhoneの取り上げられ方の大きさ。もちろん話題の製品ではあるだろうが、今やテクノロジウォッチャーだけでなく、中学生から主婦、サラリーマンは言うに及ばず、携帯を重要なビジネスツールとして活用している水商売の御姉様方の間でも話題が沸騰中なのだとか(なんでも、SMSの履歴が宛先ごとに履歴として残って見えることと、アドレス帳の情報がリッチなところが最高に良いのだそうだ)。 もう1つは、意外にもFeliCa非搭載がネガティブな要素として話題になっていないこと。都心ではSuica電子マネーが使える場所が増えているので、確かにSuica自動チャージ機能付きクレジットカードがあれば、さほど不便ではないのかもしれない(唯一、新幹線の特急券が移動しながら買えないのが難点だが)。 “FeliCaがないからダメ”的な議論は、消費者側からはあまり聞こえてこず、携帯電話系メディアから多く聞こえるという状況なので、実はエンドユーザーはそれほど重視していないのかもしれない。 そんなわけで、筆者も“新幹線の特急券購入”機能に後ろ髪を引かれつつも、とりあえずは1台確保と考えているが、果たして本当に購入できるのかどうか。当面は供給不足が続くことは間違いないだろう。 と、導入部が長くなってしまったが、今回はiPhoneと同時に発表された「Mobile Me」について触れたい。これこそは、Microsoftが過去13年に渡って実現できなかった機能だ。Macユーザーはもちろんだが、Windows機を使うモバイルユーザーにとっても福音となるに違いない。 ●“パーソナル”なコンピュータユーザー向けの情報リポジトリサービス
すでに報道されているように、Mobile MeはMacとWinodwsの両方で活用できる情報リポジトリサービスである。“情報リポジトリ”というと、なんだか小難しそうに感じるかもしれないが、要はなんでも有用な情報を放り込んでおく情報倉庫のようなものだ。その昔に米ベンチャー企業の「fusion one」が実現しようとしていたサービスに近いとも言えるし、企業向けのExchangeサーバーやNotesサーバーの機能をパーソナルユーザー向けにアレンジしたものとも言える。 実はこのテーマは本連載の中で、数度にわたって取り上げてきた。少し古い記事だが、'99年に書いた27回目のこのコラム「個人用Notesと情報のポータビリティ」では、情報を同期させて可搬性を持たせるというテーマを、当時パーソナル向けにも販売したNotesクライアントを軸に書いた。また2000年に書いた71回目の連載「インターネット情報倉庫に対する不満と希望」では、情報リポジトリサービスを「インターネット情報倉庫」と表現してFusionOneのサービスを軸に記事にした。 このほかにもOutlookの新バージョンが出たり、あるいは自宅の環境(連載初期はNotesサーバー、途中からExchangeサーバーを導入し、現在はOS X Server)を紹介するたびに、情報を1カ所で管理し、その複製を各端末で利用するという使い方について、個人的にはかなりこだわってきた。 もっとも、情報リポジトリという考え方そのものは、決して新しいものではない。'90年代終わり頃、XML技術が登場した頃に良く議論されたテーマだし、その言葉が生まれる前からデータベースを複製する使い方はあった。それがインターネットの発達とXMLの登場で、一気に適応範囲が拡がったに過ぎない。 ところが、誰もが“それって良くある話だよね”的な情報リポジトリというテーマに対して、Microsoftは圧倒的に奥手だった。 企業向けにはExchangeサーバーによって、サーバーに情報を蓄積してその複製データを持ち歩く機能がOutlookとの組み合わせで実現されていたが、あくまでExchangeワールドというMicrosoft謹製の小宇宙での話だ。Exchangeサーバーを導入していない企業のユーザーや、ほとんどのパーソナルユーザーには縁のない話だ。 個人的にはOffice Liveに期待していたのだが、これはExchangeサーバーをオンラインサービスで提供するものではなく、アプリケーションの範囲は限定的だ。特にメールサービスがWindows Liveメールベースなので、同期という使い方とは違ってしまう。 ●シンプルな情報倉庫として活用しよう “インターネットを通じた情報リポジトリサービス”などと、ここでは難しそうな名前で言っているが、仕事でもプライベートでも、PCを情報ツールとして活用している人が「この方法はいつでも参照できるようにしておきたい」というデータを預かってくれ、それをPCでもMacでも、もちろん携帯電話でも、汎用Webブラウザでも見たい、活用したい。ただそれだけのことなのだが、これまで何度もチャンスがありながら、パーソナルユーザーには本当に使いやすいサービスを提供できていなかった。 もしかすると、MicrosoftはPC向けサービスは、PCでだけ使えればいいと考えていたのかもしれない。パーソナルユースを考えれば、1台のPCでデータを管理しておけば、何も複雑な同期機能など必要ない。何らかの業務で必要ならば、Exchangeサーバーを入れればいい。 しかし個人が使う情報端末の種類は増加している。 Mobile MeはWindowsのInternet Explorerでも動作するよう設計されているので、インターネットに繋がっているPCならば、どこからでも自分のデータにアクセスできるが、もちろん、それだけではない。Windows Liveメールクライアント、Outlook Express、Windowsアドレス帳などとデータを同期しておくこともできる。Vistaユーザーなら追加のアプリケーションは不要だ。もちろん、Outlookでも構わない。 自宅でも、会社でも、普段持ち歩いているモバイルPCでも、同じメールボックス、同じスケジュール、同じアドレス帳、同じブックマークをいつでも使える。同期の対象ではないが、オンラインストレージやWebアルバムとしても利用可能だ。 たったこれだけでも、複数のPCを持っているユーザーにはとても便利。またPCを買い換えた場合でも、これらのデータは移行する必要がない。再同期すればいいだけだからだ。 携帯電話はiPhone(あるいは携帯電話ではないがiPod touch)としか同期できないが、Windows Mobile端末よりもスマートな使い方ができる。自宅に戻って同期させなくても、無線LANスポット経由やパケット通信網経由で常に最新の情報になるから、最新のスケジュールが分からず、出先で予定を確定できないなんてこともない。 そして重要なことは、あまりむずかしいことを考えなくても動いてしまうシンプルさである。情報の管理は可能な限り簡単な方がいい。個人の場合、その原本はバックアップ管理がしっかりしているサービスプロバイダに任せた方が無難ということもある。年間9,800円という価格に対して20GBという容量も、機能を考えれば十分にフェアなものだ。 そんなわけでMobile Meは、はじめてパーソナルユースで使い物になるサービスとなるだろう。十数年来の待ち人がやっと来たという印象だ。Windowsユーザーもぜひ試して欲しい。
□Mobile Me製品情報 (2008年6月19日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
|