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第71回 : インターネット情報倉庫に対する不満と希望



 インターネット上に情報の倉庫を置いて、どんなデバイスからでも、いつも同じ情報を利用したい。そんなささやかな希望を唱え続けて数年が経つ。この連載でも、何度かその考え方に基づいてコラムを執筆したことがあったのだが、そううまくは世の中進んではくれない。

 情報の倉庫と言っても、なにも「あらゆる情報を自動的に収集・分類してもらいたい」、などと大胆なことを考えているわけではない。メールや、Webから切り出した記事などの情報、そして住所録やスケジュール。普段の生活に欠かせない情報を、忘れっぽい僕に代わって憶えておいて欲しいだけなのだ。


●期待が大きすぎただけに

 以前、Dosuleの紹介をしたことがあったが、残念ながら(特にYahoo!に買収後は)なかなか期待通りに進化しなかった。そんな中、今のところ僕の理想にもっとも近いサービスはFusion Oneだ。

 Fusion Oneの提供するサービスがどのようなものかは、彼らのホームページを参照して欲しいが、いずれもモバイルユーザーならごく当たり前に欲しい機能ばかり。現状、もっとも便利で洗練されたサービスだと思う。決して凄いというわけではないが、気が利いているのだ。

 ただ、僕の場合は少々期待が大きすぎたのかもしれない。機能的には大きな不満のないFusion Oneだが、柔軟性に欠けるように思える。

 たとえば会社の電子メールをFusion Oneと同期し、それを自宅や外出先から参照することができるが、ここで言う会社の電子メールシステムは、マイクロソフトのExchangeのみで、その他の電子メールシステムを使っている人は手出しできない。同じようにPDAとしてPalmをサポートしており、Fusion OneのデータベースとPalmのデータベースを同期することもできる。これも大変便利なのだが、Palm以外の選択肢はない。

 こうした制限は、システムを作る側の事情を考えれば、使用を中止するほどの不満ではないのだが、長期的に使うことを前提に考えたとき、果たしてこれでいいのかなぁ? 、と思うのだ。


●共通の言葉をしゃべろう

 それもこれも、共通に会話する言葉がないのが原因だ。
 PDAと情報倉庫サイトを同期するためには、PDAと情報倉庫サイトの両方に合わせてプログラムを作らなければならない。だから、将来的にどんなものに人気が集まるのか全くわからないのに、市場の大きなデバイスをターゲットにしなければならなくなる。Palmはやっぱりイヤだと思っても、Fusion OneのユーザーはPalmを使い続けなければならない。

 電子メールシステムとの同期も同じ理屈だ。おのおのが、勝手に決めた方法で情報を交換しようとするから、混乱が起きる。もっとシンプルに考えればいい。同じ言葉で情報を交換していれば、それが誰だろうと関係ないのだ。
 そんな思惑もあってXMLの話を以前に書いた。

 標準的に情報交換をスムースに行なえる技術が、他になにかあればそれでもいい。しかし、現在のところはXMLしかないのだ。こういうことは、早い者勝ちなのに、どこもやろうとはしない。

 Fusion Oneは、やはりXMLベースで機能を組み上げるべきだろう。XMLベースになったからといって、すぐにどうこうなるわけではない。世の中の情報をXMLで交換するのが当たり前になったとき、選択の自由が生まれるだけなのだ。しかし、そこが一番大切なところでもある。


●パワーが無いならシンプルに

 PalmでPalmScapeというWebブラウザを動かすと、それはもうとても遅くて大変なことになる。特に画像をサポートした最新版で、少し多めのニュースクリップをローカルのデータベースに同期させると、とても実用的な速度では動いてくれない。

 だからといってPalmを責めないのは、Palmには別の用途があると思うからだ。そもそもPDAでHTMLをベースにした情報を扱うことに、現状では少し無理があるのかもしれない。Webの技術は基本的にPCから発生したものだ。

 冒頭では一言で情報倉庫と書いたが、情報として持ち歩きたいもののうち、定形のものはユーザーにどう見せるか? 、というプレゼンテーションに関わる部分を排除する方が都合がいい。

 たとえばFusion Oneが管理するデータベースの中身を、そのまま利用するデバイスが参照したり、あるいは複製として持てばいいのだ。その中身を、どのように表現するかは、デバイスがそれぞれ自分に都合のいいように見せてあげればいい。

 PDAが扱う住所録やスケジュール、メモといった情報は、まさにそうした方針がピタリと当てはまる分野。データベース化されているそれらのデータを、わざわざHTMLで受け取り、プロセッサパワーが少ない中でレンダリングする必要はない。

 今のインターネット情報倉庫は、HTMLでサービスを提供することしか考えないところが、今ひとつしっくりこない原因なのかもしれない。情報を構造化してやりとりできるXMLをベースに交換できるようになれば、そんな悩みからも解放される。

 一方、デバイス側もコンテンツの開発方針を、少し整理してはどうだろう。求めているのは、サービスとして提供されるアプリケーションの機能ではなく、単に情報の倉庫でしかないのだから、なんでもかんでもHTMLベースの方法でコンテンツアクセスをするのは、あまり効率的とは言えない。

 こう書いてはいるが、近くXMLベースでのサービスを検討しているサービスベンダーもあるようだ。情報交換の形式に関して、スタンダードを引っ張ることができなければ、デバイスに依存せずあらゆる製品からアクセスできるようにはならないだけに、かなりのハードワークになることは間違いない。しかし、それでも期待せずにいられないのは、昨今のモバイル向けネットサービスに失望感を味わっているからである。今のこの状況が、次の良いソリューションを生み出すための、産みの苦しみでしかないことを願いたい。

□Fusion Oneのページ
http://www.fusionone.co.jp/

[Text by 本田雅一]


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