■夏のボーナス特別企画■2万円で手に入る1TB HDDを比較
日立グローバルストレージテクノロジーズ(以下HGST)が世界で初めて容量1TBを達成したHDD「Deskstar 7K1000」の登場から1年半が過ぎ、Seagate、Western Digital(以下WD)、Samsungが相次いで1TB HDDを発表・発売した。 2008年6月現在、当初5万円台だった1TB HDDが2万円前後で入手できるようになり、ようやく普及期に入ったと言える。また、ボーナスシーズンとなり、HDDの容量アップを図ろうとするユーザーも少なくないだろう。そこで今回は1TBのHDDに焦点を絞り、現時点で市場に出回っているポピュラーな5製品をテストしてみたい。 なお、テストに使用した環境は、Core 2 Quad Q6600(2.40GHz)、メモリ2GB、Intel X38 Expressチップセット(純正マザーボード)、GeForce 8800 GTビデオカード、OSにWindows Vista Ultimateを用意した。 ベンチマークはCrystalDiskMark 2.1(100MBで計測)とHD Tune 2.55を利用した。ここで改めて各ベンチマークを紹介すると、CrystalDiskMarkはHDDの開始領域のみを利用した最高速度に近い転送速度、HD Tuneは全域にわたっての読み込み速度とアクセスタイムを示すものだ。 なお、いずれの機種も、OS起動用ドライブを別途用意し、NTFSでクイックフォーマットした後、ベンチマークを実行している。このため、残念ながらOSが入っているドライブで実アプリケーション性能を計測するPCMark Vantageは実行できなかった。 以降、文中ではCrystalDiskMarkのシーケンシャル/512KBリード・ライトの結果は小数点1位を四捨五入して整数で表記する。 ●HGST Deskstar 7K1000 HGSTの「Deskstar 7K1000」は、前述のように世界で初めて1TBの容量を実現したHDDで、発売は2007年3月ともっとも古い。このため、容量200GBのプラッタを5枚内蔵するという力づくの設計となっている。部品数が多いためか、購入時の実売価格も22,000円前後とやや高い。 型番は「HDS721010KLA330」。公式スペックは、回転数が7,200rpm、キャッシュが32MB、メディア転送速度が1,070Mbit/sec、シークタイムはリードが8.2ms、ライトが9.2msとなっている。消費電力は3.7~12.3W、騒音は29dB~32dBだ。インターフェイスはSATA(3Gbps対応)。 今回入手したのは2008年4月に製造されたロットで、生産地はタイ。外観を見てすぐに気がつくのは、ペリフェラル用4ピンコネクタを備えていること。これは他社にない特徴で、旧型の電源でも利用できるよう配慮されている。
電源をつけて気になったのはその振動で、他製品と比較するとやや大きい。また、起動してから約30分放置した時の側面温度は摂氏40.1度と高かった。これは5枚プラッタを採用しているためだろう。ただし、アクセス音はそれほど耳につくものではないため、剛性がしっかりしているケースを使用すれば問題ない。 次はベンチマークしてみた。まずはCrystalMark 2.1だが、シーケンシャルリードが約66MB/sec、同ライトが14MB/sec、ランダム512KBリードが47MB/sec、同ライトが17MB/secと非常に悪い。
テストを何回か繰り返してみたもののほぼ同じ結果しか得られず、これはマザーボードとベンチマークの相性問題かもしれない。Intel X38 ExpressとDeskstar 7K1000の組み合わせで導入しようとしているユーザーは注意されたい。 そこで、マザーボードをnForce 680i SLIに変更してみると、順に86MB/sec、65MB/sec、48MB/sec、64MB/secとなった。これが本来の実力と言えるだろう。
一方HD Tune 2.55は、X38の環境で最大転送速度が80.9MB/sec、最小転送速度が36.9MB/sec、平均転送速度が61.3MB/sec、アクセスタイムは13.3msec、バースト転送レートは152.8MB/secだった。nForce 680i SLIに変更してもそれほど大きくは変わらなかった(ただし数値はやや安定する)。
□日立グローバルストレージテクノロジーズのホームページ ●Seagate Barracuda 7200.11 Seagateの「Barracuda 7200.11」は、Deskstarが登場してから約半年遅れで発売された1TB HDDだ。1TB HDDの第2世代とも言える製品で、容量250GBのプラッタを4枚搭載することで1TBを実現している。購入時の実売価格はHGSTとほぼ変わらない22,000円前後だ。 型番は「ST31000340AS」。公式スペックは、回転数が7,200rpm、キャッシュが32MB、持続データ転送レート105MB/secとなっている。シークタイムは公開されていない。消費電力は8~12W、騒音は27~29dBだ。インターフェイスはSATA(3Gbpsまたは1.5Gbps+NCQ)。 今回入手したのは2008年3月に製造されたロットで、生産地はタイ。入手してまず気がついたのは、基板のチップが見えないように装着されていることだ。従来Seagateはチップが見える方を外向きに装着しており、逆に装着する方式はWDが古くから採用していた。逆に装着する方式では衝撃などからチップを守れるというメリットがあるが、それをSeagateも採用したわけだ。
振動はDeskstarより抑えられているほか、アクセス音も耳につくほどではない。ただし30分放置後の温度は摂氏40.4度と高い。 一方、ベンチマークは優秀で、CrystalDiskMarkのシーケンシャルリード113MB/sec、同ライト110MB/sec、ランダム512KBリード45MB/sec、同ライト67MB/secだった。
HD Tuneも最大が109MB/sec、最小が53.6MB/sec、平均が88.7MB/sec、バースト転送レートは162.4MB/secと優秀。ただし、アクセスタイムが16.8msとやや遅いのが気になる。
□Seagate Technologyのホームページ ●WD Caviar GP WDの「Caviar GP」は、省電力に注力した1TB HDDである。容量250GBのプラッタを4枚搭載することで1TBを実現している。購入時の実売価格は18,000円前後と安かった。 型番は「WD10EACS-00ZJB0」。公式スペックは、最大メディア転送速度が1,160MB/sec、キャッシュが16MBとしか公開されておらず、シークタイムおよび回転数は不明のままだ。消費電力は0.98~7.4W、騒音は24dB~29dBとなっている。インターフェイスはSATA(3Gbps対応)。 注意したいのは回転数で、スペックシート上では「IntelliPower」としか記載されていない。低消費電力モデルということで、HGSTのCinemastarのように5,400~7,200rpm可変ではないかというウワサもされているようだが、IntelliPowerの説明によれば「モデルの用途によって固定された回転数を決め出荷している」という。また、シネックスなどの代理店でも5,400rpmとされている。 今回入手したのは2008年4月製造のモデル。外見を見てぱっと気がつくのはジャンパーピンを装備していることだろう。このジャンパーではSpread Spectrum ClockingのON/OFFや、3Gbps/1.5Gbps転送の切り替えなどが可能になっている。
振動と騒音については低いレベルに抑えられており、ここら辺はIntelliPowerとIntelliSeekなどの技術のおかげだろう。30分放置後の温度も摂氏36.3度と低めである。 CrystalMark 2.1の結果は、シーケンシャルリード80MB/sec、同ライト79MB/sec、ランダム512KBリード42MB/sec、同ライト65M/secと、5,400rpm製品の割には良い結果を出した。HD Tuneも最大が78.4MB/sec、最小が37.3MB/sec、平均が60.7MB/secという結果。アクセスタイムも14.9msと非常に優秀で、7,200rpm製品と遜色なく、通常利用では満足できるだろう。
なお、今回は残念ながら時間の問題で333GBプラッタのCaviar GPと、デュアルプロセッサ搭載で業界最速を謳う「Caviar Black」を試すことはできなかった。前者は既に一部で発売されているほか、後者の登場も間近とみられる。購入する際はこれらの製品も有力な選択肢となるだろう。 □Westren Digitalのホームページ ●Samsung SpinPoint F1 Samsungの「SpinPoint F1」は、今回取り上げる中で唯一334GBプラッタを採用した最新鋭のHDDだ。店頭では7,200rpmの「HD103UJ」と、5,400rpmの「HD103UI」の2種類が販売されており、今回は2モデルともテストした。購入時の実売価格は前者が18,000円、後者が17,000円前後だった。 HD103UJの公式スペックは、回転数が7,200rpm、キャッシュが32MB、メディア最大転送速度が175MB/sec、平均シークタイムが8.9ms。消費電力は0.8~8.6W、騒音が27~29dBとなっている。 一方、HD103UIの公式スペックは、HD103UJから回転数が5,400rpm、メディア最大転送速度が140MB/sec、消費電力が0.8~6.2Wに変更されている以外、特に違いはない。 今回入手したモデルはHD103UJが2008年3月、HD103UIが2008年4月に製造されたロット。いずれも外見に特徴などは見当たらないが、今回購入したのはバルク品であるにもかかわらず、取り付け用ネジ4本とインストレーションガイドが添付されていた。HDDの固定はミリネジなのかインチネジなのか区別がつかないことが多いため、親切な仕様と言えるだろう。
振動と騒音ついては最新鋭モデルらしくいずれも少ない。温度もHD103UJが摂氏37.1度、HD103UIが摂氏35.3度とクラス最低の数値で、334GBプラッタ採用によるメリットが顕著に表れている。 ベンチマーク結果は両製品ともに非常に優秀。HD103UJのCrystalDiskMarkは、シーケンシャルリードが103MB/sec、同ライトが100MB/sec、ランダム512KBリードが56MB/sec、同ライトが102MB/secと、特にランダムライトが優秀。32MBのキャッシュが十分に効果を発揮していることがわかる。
HD Tuneはさらによく、最大が112.8MB/sec、最小が55.3MB/sec、平均が92.4MB/sec、アクセスタイムが14.9ms、最大転送速度が145.1MB/secという結果。334GBプラッタの威力がフルに発揮された結果となった。
一方5,400rpmのHD103UIも結果はよく、CrystalDiskMarkは、シーケンシャルリードが95MB/sec、同ライトが94MB/sec、ランダム512KBリードが47MB/sec、同ライトが80MB/sec。HD Tuneは最大が92.3MB/sec、最小が42MB/sec、平均が71.7MB/secという結果だ。Caviar GPの結果を上回っており、ここでも334GBプラッタの優秀さが光る。
□Samsungのホームページ(英文) ●まとめ 以上、4社の1TB HDDを試してみたが、やはり最後発のSamsung製品がもっとも優秀という結果となった。これは7,200rpm/5,400rpm製品両方に言えることで、システム用なら前者、データ用なら後者を選べば特に不満はないだろう。両者ともに実売価格は18,000円前後であり、コストパフォーマンスが非常に高い。 最後に参考までに、容量300GBで10,000rpmの2.5インチHDD「VelociRaptor」の結果を掲載しておく。これはさすがに10,000rpmという回転速度で絶対的なパフォーマンスで他を圧倒したが、容量あたりのコストパフォーマンスが非常に悪く、「とにかく速いHDDが欲しい」というユーザー以外、現時点において1TB HDDの製品のほうが魅力が高いように思う。
(2008年6月16日) [Reported by ryu@impress.co.jp]
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