ここ最近盛り上がりを見せている、低価格で小型のミニノート。ミニノートの人気の火付け役となったASUSTeK Computerの「Eee PC」シリーズが登場してから、さまざまなメーカーがミニノート市場への参入を表明している。日本HPの「HP 2133 Mini-Note PC」(以下HP 2133)は、そんなミニノートの中の1台だ。HP 2133には、価格が79,800円の上位モデルと、59,850円の下位モデルの2製品が用意される。今回は、上位モデルの試作品を使用してHP 2133の特徴を紹介していく。ただし、試作品であるため、スペックが製品版と異なっていることはご了承いただきたい。 ●モバイルノートに近いハイスペックミニノート HP 2133は製品のカテゴリーとしてはミニノートであるが、同じカテゴリーのEee PCとはかなり位置づけが異なっている製品だ。ミニノートは、CPUの性能や液晶の性能、バッテリ駆動時間など、スペック面を妥協する代わりに価格を抑えていることが特徴となっている。 たとえば、ASUSTeK Computerの「Eee PC 4G-X」なら、CPUには世代が古いCeleron Mを搭載し、メモリは512MB、液晶は7型ワイドで800×480ドット(WVGA)の表示領域しかない。HDDは搭載せず、代わりにフラッシュメモリを搭載している。ただし、フラッシュメモリについてはランダムアクセスの速さや衝撃に強いというメリットも大きいので、妥協というよりは新しい選択と言ってもよいだろう。いずれにしても、ミニノートは従来の高価で高性能なモバイルノートとは異なるものだと言うことを、ユーザーが理解して使用する製品である。 ところが、HP 2133は一般的なノートPCに近いスペックとなっており、価格を抑えるための妥協が見えにくいミニノートに仕上がっている。5万円台の価格を実現している下位モデルを見ても、メモリは1GBあり、120GBのHDDを搭載している。液晶は8.9型ワイドで解像度は1,280×768ドット(WXGA)だ。CPUだけはVIA C7-M Ultra Low Voltage(ULV)の1.2GHzだが、それでもこれだけのスペックがあれば、モバイルノートとして十分に使用できそうである。日本HPも、HP 2133を“フルスペックのミニノート”と表現している。
【表1】製品スペック
なお、今回試用したモデルは上位モデルだが、試作品であるためCPUは1.2GHzのVIA C7-M ULVを搭載していた。VIA C7-M ULVは90nmプロセスで製造される省電力CPUで、パッケージサイズが21×21mmと大変小さいため、小型のデバイスに最適なCPUだ。位置付けとしては、IntelのAtomと競合するCPUである。 チップセットには、C7-M ULVをサポートするVIA 896ベースのものが使われている。このチップセットは、グラフィックス機能のChrome9 HC IGPを内蔵しており、DirectX 9世代に対応する3Dアプリケーションも実行可能だ。ただし、ミニノートやノートPC用としては十分な性能ではあるが、3Dゲームを快適に楽しめるほどのグラフィックス機能ではない。 そのほか、VIA PowerSaverという技術を搭載しており、CPUの動作周波数と電圧を自動で調整して消費電力を抑えることができる。実際、リアルタイムにクロックを表示できるソフトなどを使うと、システムの負荷に応じてCPUのクロックが変化していることを確認できる。今回の試用機が搭載する1.2GHzのC7-M ULVでは、アイドル時に800MHzまで動作周波数が落ちていた。 メモリは2GBをシングルチャンネルで搭載しており、高性能なモバイルノート並みの大容量となっている。搭載するメモリの規格はPC2-5300(DDR2-667)である。試しに、Webブラウザ、Excel、Word、Windows Media Playerと、いろいろと同時に起動して使ってみたが、メモリ容量に関しては何の問題もなく、容量が足りないと感じることはなかった。 HDDは、5,400rpmの2.5インチHDDをSATA接続で搭載する。容量は、上位モデルが160GB、下位モデルでは120GBとなっている。どちらもミニノートということを考えると十分すぎるほどの容量で、通常のノートPCと同様に使える。持ち運びを考慮して、HDDには3Dモーションセンサーを搭載しており、落としたり衝撃が加わったりしたときに保存したデータがダメージを受けにくいようになっている。 気になるバッテリ駆動時間は、上位モデルが約4.6時間駆動の6セルバッテリと、約2.3時間駆動の3セルバッテリの2本を付属している。2本合わせれば約7時間近く動かせることになり、通常の用途であれば十分だ。下位モデルには、3セルバッテリのみが付属している。また、HP ファスト・チャージ・テクノロジにより、約90分の充電時間でバッテリ容量の90%まで充電を行なえるというのがうれしい。仕事で使う場合、外出先からオフィスに戻って、また出かけるときなどに便利だ。 ●価格以上の高級感と使いやすいキーボードが魅力 本体のデザインは好みもあると思うが、本製品は価格以上の高級感があって好印象だ。安いのだから仕方がないというような妥協の跡がまったく見えず、細部まで大変良くできている。特に質感が素晴らしい。ボディにはアルミニウムとマグネシウム合金の合板を使用しており、金属による手触りの良さと、高い剛性による安心感がある。 キーボードもしっかりしており、かなり強く押しても全体がたわむことはない。ストロークが浅いので独特の軽いキータッチだ。キーボードのサイズは、フルサイズのキーボードの92%の大きさとなっており、キーピッチは約17.5mmだ。筆者の場合には、このキーボードで長い文章を打ち込んでもまったくストレスを感じなかった。安っぽいキーボードを採用するファミリー向けの低価格なノートPCと比べると、断然快適だ。 また、キーボードが英語キーボードというのも気に入った。これも完全に好みの問題だが、筆者はデスクトップPCもノートPCも、すべて英語キーボードで統一しているため、初めてこのHP 2133を触ったときから何の違和感もなくキーボードを使うことができた。日本語キーボードでなければ違和感があるという人も大勢いると思うので、キーボードの種類を選べるようにすることがベストだとは思うが、英語キーボードが好きな人にはうれしい仕様である。 そのほか、最上段の横1列と、最下段の横1列のキーはキートップがフラットになっていて、それ以外のキーが全て微妙に凹んだキートップになっているのもユニークな部分だ。一般的なノートPC用のキーボードは、すべてのキーがフラットか、またはスペースキーのみフラットになっているものが多い。使い勝手に大きく影響する部分ではないが、HP 2133への細部にまで手を抜かない作り込みが、この辺りにも見られる。また、キーの印字が従来比で50倍はげにくいという「HP DuraKeys」を採用していることも魅力の1つとなっている。これはさすがに短い試用期間では試せないが、長期間使っていても印字がはげにくいのなら嬉しいことだ。 一方、キーボードが使いやすいことで、余計に気になってしまったのがタッチパッドだ。タッチパッドは縦が短く、かなり横に長い。そして、その横長のタッチパッドの左右にクリック用のボタンが配置されている。筆者が不器用なせいもあるとは思うが、まず左ボタンに親指が届かなかった。そんな状態なので、タッチパッドを操作しながら左ボタンを押し続けることができず、ファイルのドラッグなどがうまく行なえなかった。また、右のボタンは親指で押すのはまず無理なので、薬指などで押すことになる。これは、慣れるまでかなり時間がかかるだろう。可能なら購入前に店頭などで実際に触ってみることをオススメする。 ●必要十分なインターフェイスに使いやすいスイッチ類 HP 2133のインターフェイスは、すべて左側面と右側面に集められている。背面はバッテリのみとなっており、前面には電源のON/OFFスイッチと、無線機能のON/OFFスイッチがあるだけだ。スッキリしていて使いやすい。具体的には、左側面にミニD-Sub15ピン、USB 2.0が1ポート、マイク端子とヘッドフォン端子を備えている。右側面には、Ethernet、USB 2.0が1ポート、ExpressCard/54スロットが1つ、SDカードスロットが1つだ。 前面にある無線機能のON/OFFスイッチは、無線LANとBluetoothの機能を一緒にON/OFFできるようになっている。無線機能を使わないときは、すぐに機能をOFFにできるので便利だ。 ●音楽を聞けるレベルのスピーカーを搭載 HP 2133は、液晶画面の左右にステレオスピーカーを搭載しており、このサイズのミニノートとしてはそこそこの音を鳴らす。低音がないとか、そういうことを言い始めるときりがないが、純粋にこのサイズでこの価格ということを考えると十分に聞ける音だ。 液晶画面の上部にはWebカメラも搭載しており、ビデオチャットなどを気軽に行なえる。ただし、Webカメラは上位モデルのみの機能で、下位モデルには搭載されていない。
●コンセントに直接挿せるACアダプタが使いやすい ACアダプタは、約104×45×28mm(幅×奥行き×高さ)と、持ち運ぶ際にそれ程苦にはならない大きさだ。また、ACアダプタをコンセントに接続する方法が2種類用意されているのだが、それがなかなか便利である。 1つ目の方法は通常のケーブルを使用した接続方法で、本体がコンセントから遠い場合でも使用できるので、HP 2133を机の上などに置きっぱなしで使用する場合に適している。そして、もう1つの方法は、L字型のアダプタをACアダプタに挿すことで、ACアダプタを直接コンセントに挿すというものだ。こちらは、本体を持ち運んで使用する場合に、太くてかさばるケーブルを持っていく必要がなく、かつスマートにコンセントに接続することができるので使いやすい。L字型のアダプタを付けた状態でのACアダプタの重さは約272gで、標準的なモバイルノート用のACアダプタの重さとなっている。
●低価格のモバイルノートが欲しい人にオススメ 最後に、HP 2133の使用感と、ベンチマークテストの結果を見ていこう。まず、実際に使ってみて感じたのは、全体に動作が少々重いということだ。画面のテーマを標準のWindows Vistaにして、Windows Aeroを使用した状態では、操作に対して全体にワンテンポ遅れるように感じた。画面のテーマをWindowsクラシックにすれば多少改善されるので、工夫次第でもっと快適にすることはできるかもしれない。上位モデルにはWindows XP Professionalへダウングレード権があり、Windows XP用のドライバもWebサイトで提供する予定なので、Windows XPで使用するというのも1つの方法かもしれない。 また、同様に動作に関してだが、Windows Media PlayerなどでWMAやMP3の音楽を聞いていると、CPUの使用率が60%程度にまで上がるので、Webブラウザ程度でも同時に使用すると重く感じてしまう。YouTubeなどではWebブラウザだけの使用でもCPU使用率は100%になり、動きの速い動画では少々厳しい。ミニノートなので、エンターテインメント系の性能を求めるのはちょっと違うとも言える。Wordを使うとか、Excelを使うとか、ビジネス系のアプリケーションを1つだけ使う場合には、快適に使えるので、仕事用には十分なスペックである。 Windows Media Playerで音楽を聞きながら文章を書いていたときに気付いたのだが、本体の底面と、パームレストの左部分はそこそこ暖かくなる。これも、このサイズの製品では仕方ない部分である。しかし、CPUの負荷が減るとすぐに冷えるので、本体の冷却能力は結構高い。本体内部には冷却ファンが入っているが、回っても気付かない程度の音で、動作音はかなり静かだ。 バッテリ駆動時間は、HP 2133のHP Optimizedという電源設定を使用して、Internet Explorerを使いながら、ときどきテキストエディタで文章を入力する程度の使い方で約1時間40分使用できた。Word、Excel、Power Pointなどを主に使って試した場合も同じ程度の時間使用できたので、だいたいこれくらいの時間は使えると考えていいだろう。
ベンチマークテストは、HDBENCH Ver3.40beta6とFINAL FANTASY XI Official Benchmark 3を実行し、参考としてWindowsエクスペリエンスインデックスも記録した。なお、HDBENCHはHDDのテストがWindows Vista環境では正常に行なえず、VIDEOも比較環境とOSが違い参考にならないので、掲載していない。なお、表には書いていないが、PCMark05 Build 1.2.0のPCMarkの値は630だった。本当は同じミニノートのEee PCと比較を行ないたかったのだが、OSが異なるので比較はしなかった。今回試用したHP 2133は試作品で製品版よりCPUクロックも低いので、これらの値は参考程度に考えてほしい。 【ベンチマーク結果】
HP 2133は、スペックはモバイルノートに近いとは言え、やはりミニノートなので、多少使い方を工夫する必要がある製品だ。筆者が試用した範囲では、複数のアプリケーションを同時に実行しないということを守れば、かなり快適に使用できた。デュアルコアCPUを搭載するような最近のノートPCと同じように使用したら不満を感じるのは当たり前なので、ミニノートなりの使い方をするというのがHP 2133とうまく付き合っていくポイントだ。上位モデルで79,800円、下位モデルなら59,850円なので、コストパフォーマンスはかなり高い。あとは、自分が少しだけHP 2133に合わせるだけで価格以上に満足することができるはずだ。 □日本HPのホームページ (2008年5月21日) [Reported by 小林 輪]
【PC Watchホームページ】
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