4月27日、名古屋においてImagine Cupの日本大会が開催され、世界大会への出場チームが決定した。優勝は同志社大学の「NISLab(ニスラボ)」のグローバル消費電力管理システム「ECOGRID」。このテーマで彼らはこの夏、パリで開催される世界大会へと進出する。 ●ネットワークで家電の電力消費をコントロールするECOGRID Imagin Cupは、マイクロソフトが主催、全世界の学生を対象に毎夏開催される世界最大の技術コンテストで、今年で6回目を迎える。大会には複数の部門があるが、今年、日本チームが挑戦するのはソフトウェアデザイン部門だ。部門定義としては、テクノロジの活用で問題を解決するソフトウェアで、Webサービス、.NET Framework、モバイルデバイスを活用し、テーマに沿ったオリジナルアプリケーションを作成する。今年のテーマは「環境保護」だ。 NISLabは、同志社大学の松下知明氏、加藤宏樹氏、清水誠氏、中島申詞氏らによるチームで、グローバル消費電力管理システム「ECOGRID」と呼ばれるソフトウェアで環境保護にチャレンジした。このソフトウェアは、家庭における消費電力の削減を目的としたシステムで、消費電力の大部分を占める家電機器を自動制御することによって、消費電力の削減を行なおうというものだ。ネットワークを介して世界中の家庭をつなぎ、各家庭が協調しながら消費電力の削減を行なえる環境の実現を目指す。 各ユーザーは、自動制御される機器を指定する際に自分の快適性を維持するための意思を反映した「ユーザー基準」という値を設定し、消費電力の削減のためにユーザーの生活環境の快適性を損なわないようにするようになっている。 デモンストレーションでは、消費電力の量がマッピングされた地図を表示し、無駄についている電灯を消したり、明るさを調整する様子が紹介された。デモのために、ウェブカメラで様子がわかるようにした京都の大学の研究室の電灯が、名古屋の大会会場から遠隔操作で消された。つまり、他人が消費している電力を抑えるために、他人がそれを制御することもできるシステムだ。実際のアルゴリズムについては、これから詰められていくようだが、このシステムによって、全世界の家庭における消費電力の3%を削減できるようになるらしい。 ポイントは、家電デバイスをどう使うかという協調のアルゴリズムで、完全なものを提供するのは難しいが、電力や機器の情報を公開していくことで、それを誰もが利用できるようにするのがゴールだという。ゲートウェイを使ったPLCを使って各機器を制御し、ルータやファイアウォールを超えたGRIDネットワークを作り汎用性を確保、それによって、TVを一時間消したり、待機時電力を削減したり、無駄なライトなどを消す。 ネットワークに対して公開する機器は自分で決めることができ、それを他人の制御にゆだねられるようにするとのことだが、人がいる、いない、人が見ている、聞いているといったことがわかるセンサーなどと組み合わせてもおもしろそうだ。「協調」というよりも削減をめざす「競争」の要素を取り入れるのもいいかもしれない。 ●本選に向けたもうひとつの戦いが始まる 日本大会では、NISLabとともに、東京大学大学院の「Team EMET」による、地図に時間の概念を加えて環境の変化を視覚化する新次元地図情報システム「moQmo」と、国際情報科学芸術アカデミーの「IAMAS」による、ごみのリサイクル、リユース、削減を目的としたSNSウェブサービスサイト「RECO」が世界大会出場を争った。この3チームは、4月頭に選出され、この日の本選までに、チームごとにベンチャー企業が指導のためのメンターとして割り当てられ、その内容がブラッシュアップされてきた。 日本大会では、各チームが10分間のプレゼンテーションを披露し、それぞれに対して審査員が質問するという形式で勝負が行なわれ、最終的にNISLabが優勝したが、印象としては、かなりの接戦で、どのチームが優勝してもおかしくなかった。逆の言い方をすると、各チームともに完成度は今ひとつで、プレゼンも拙かった。韓国で開催された2007年の大会で勝負を見守った立場で見ると、そのレベルから、これから相当がんばらないと優勝どころか、ベスト8入りも怪しい。厳しいようだが審査員のコメントにも、そういう意見が目立った。 世界大会は7月3日からなので、NISLabに残された時間は約2カ月だ。だが、そのたった2カ月で、日本大会での完成度の原型さえとどめないくらいにブラッシュアップされ、しっかりとしたコンセプトとプレゼンテーションを持つソフトウェアを完成させてしまうのが学生のパワーであり、例年の驚きだ。彼らには、諸先輩のがんばりを見習い、ぜひともがんばってほしいと思う。 ●がんばれることも若さゆえの才能 NISLabのメンバーは、.NET Frameworkの研究をしているときに、Imagine Cupの存在を知り応募に挑んだ。翌年のテーマが発表されるのは前年大会の終了時なので、研究開発期間は半年ちょっとということになる。だが、日本大会での評価は、その完成度ではなく、どれだけしっかりとしたコンセプトを持っているかが試されるといってもよく、この時点では、極端な話、口八丁手八丁のペーパーウェア然としたものでもかまわないようだ。残された時間にどこまで伸ばせるかという「伸びしろ」が重要らしい。 今年は、テーマがテーマだけに、かなりプランニングは難しかったのではないかと思う。そういう意味で、ひねることなくストレートに電力削減による地球環境保護をめざしたNISLabが優勝したのは、審査員側にも迷いがあったことを想像させる。 世界大会には、学生であることが条件とはいえ、すでに企業や国家から出資を受け、ベンチャービジネスとして作品を商品化して販売しているようなチームまで出場するので、そこで優れた成績をおさめるのは至難の業といってもいい。だが、世界大会もまた、作品の完成度ではなく「伸びしろ」が評価の多くの部分を占める。つまり、試されるのは可能性と夢だ。GRIDネットワークを使った世界規模の電力制御システムが、どのような形で具現化されるのかが楽しみだ。 □関連記事
(2008年5月2日)
[Reported by 山田祥平]
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