今年で5年目を迎えるこの大会は、初回のスペイン・バルセロナから始まり、ブラジル・サンパウロ、日本・横浜、インド・デリーと回を重ね、今年は世界100カ国以上から約10万人が参加、ソウルでの決勝には、予選を経て、59カ国112チーム、350名弱が選抜されて集まった。10チームを送り込む中国を筆頭に、ポーランド、インド、フランス、ブラジルが続く。 ●教育をテーマに挑む大会 ImagineCupのカテゴリーには、9つの部門が用意されている。
・ソフトウェアデザイン部門 各部門それぞれで各国、各地域の予選を経て、本大会に臨むことになる。部門の分類を見てもわかるように、現在のMicrosoftにとって、きわめて重要な分野ばかりだ。写真やショートフィルムの部門に違和感を感じるかもしれないが、これとて世界一のソフトウェア会社としては欠かすことができない要素である。 今年のテーマは ~Imagine a world where technology enables a better education for all.~ だ。日本語では、「テクノロジの活用による、より良い教育の実現にむけて」と訳されている。つまるところは、ズバリ、「教育」が、今年のメインテーマだ。 多くの部門があるとはいえ、それでもやはり、花形はソフトウェアデザイン部門であり、この原稿を書いている今夕、最終選考に残ったファイナリスト6チームのプレゼンテーションが行なわれた。残ったのはジャマイカ、韓国、タイ、アイルランド、セルビア、オーストリアで、残念ながら日本チームは1回戦で敗退してしまっている。 ●勝利の女神に微笑まれるために ジャッジとして参加した英国British telecommunicationsのKevin Nickels氏にインタビューする機会が得られたので、こうした大会における勝利の女神に微笑んでもらうための方法があるのかどうかを聞いてみた。BTは、大会で発掘された優秀なプロダクツのコマーシャルベース化支援のためのソリューションプロバイダーであり、大会そのもののスポンサーでもある。Nickels氏は、90年代の始めにベンチャー企業の一員として日本に来て東京は日本橋に4年間住んでいたこともあるという親日家だ。
「学生の国籍によって、スタート地点、そして立ち位置が違います。こんなにいいアイディアがあるのだから、すぐに起業してしまおうという発想に至る環境にいる若者もいれば、そうではない若者もいます。やはり、まわりの環境の違いは、大きく影響するでしょう。 ImagineCupのような大会では、問題としてのテーマ、すなわち、今回は、教育というテーマに沿って、どうアプローチしたかを、明確にすることが重要です。日本チームは、実にファンタスティックなアイディアでしたが、テーマに密着した問題提起への到達度が不足していると感じました。汎用性が高すぎたのですね。勝利への方程式の定義は難しいものですが、そこが明暗を分けることもあるのです。 ただ、コンペティションの物差しでは漏れてしまうものの、いいものというものはあります。ですから、勝敗以外のところにも目を向けてほしいですね」(Nickels氏)
参加することにこそ意義があるというというのも正論だが、商業化を前提として大会に参加するような学生もいるそうで、それもまた正論だ。大会の規模が大きくなるにしたがって学生のスキルはずいぶん上がってきているそうだ。だからこそ、BTのようなソリューションプロバイダーの立場も重要なものになってきている。 ●大人の当たり前と若者の当たり前 日本チームは、北海道大学大学院情報科学研究科の、下田修くん、丸山加奈さん、坂本大憲くん、大和田純くんの4名からなる‘Team Someday’として、デジタルノートシステム『LinC』を出品した。大仰な言い方をすれば「集合知の視覚化」をシステムとして実現したソリューションで、彼らは「三人寄れば文殊の知恵」を、もっと大規模なシステムとして構築することを目的に開発したと言っている。 『LinC』のユーザーは、電子的なカードに思いつきや事実などのメモをとる。他のメモとの関連性があるときは、他のメモにリンクを張れるほか、システム側では、カード内に書き込まれた文字列をキーに、他のノートにリンクを張っていく。また、関連性のあるカードはグループ化することもできるようになっている。これらのカードの集合をコレクションと呼ぶ。そして、そのコレクションを視覚化して眺めるネットワークビューにおいて、意外な気づきを得られるというのが、システム全体のおおまかな働きだ。 カードとカードの距離感や、関連性が深い、浅いといった方向の要素を入れるようなことは考えなかったのかと質問したところ、ビジュアル化したときに、同じもののはずなのに、微妙に見え方が違うことが気になって実装はしなかったという答えが返ってきた。シソーラスのようなデータベースを元に、関連性の深度を表現するようなことは、おもしろいかもしれないと言ってもらえた。 いずれにしても、大人はアドバイザーと称して若者たちに、ああだこうだと意見を言うわけだが、それらの多くの意見は、彼らの中で議論済みであることが少なくないのだという。すでに理由があり、いったん実装したものの、あとからはずしたものなどに言及されることもあるらしい。 われわれ、大人が慎むべきは、大人の物差しで若者の背丈を測り、大きくなった、よくなった、悪くなったと、判断してし、本当ならとんでもなく化けるかもしれないソリューションを芽のうちにつみ取ってしまうことだ。一歩間違えば、ImagineCupのような大会そのものも、そうした危険性をはらんでいるかもしれない。 もっとも、いわゆる先進国の若者たちは、そんな大人たちの声はどこ吹く風と、自由な発想と行動力で次々に起業し、Microsoftの立ち位置を脅かすまでに成長している企業もある。これから大きく成長しようとしている国々の若者たちも、きっと、同じような道のりを歩むことになるのだろう。国にも大人の国と若者の国があるということだ。そして、彼らはしたたかな大人になっていく。 Don't believe over 30's. なんて言葉が流行ったのは、『いちご白書』の時代の話ではあるが(その6年後の『「いちご白書」をもう一度』の時代ではなく)。あの映画の中でニール・ヤングが切なく歌った『ヘルプレス』と、それから時を経て、ザ・バンド解散のときのラストワルツでさわやかに歌い上げられた『ヘルプレス』の違いに感慨を覚えてからも、すでに30年が経過した。 『戦争を知らない子供たち』で知られる北山修は、「知っていても知らないふりをするのが大人なら、私は知らないのに知ったかぶりをしたい」と言い切った。ぼくは、そんな大人になれたのだろうか。当たり前の話ではあるが、ぼくにもそれなりに若いときがあったのだ。 何十年かたって、彼らが、この大会に出たときのことを思い出したときに、どんな気持ちを抱くのか。さまざまな想いを胸に、いよいよ明日は世界第一位が決まる。がんばった人が勝利を得たときの笑顔はそれだけで見ていて気持ちがいい。すでに決まっている来年のフランス・パリでの開催では、そんな日本人の笑顔をみたいものだ。がんばれ世界の若者たち。
□Microsoftのホームページ
(2007年8月10日)
[Reported by 山田祥平]
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