元麻布春男の週刊PCホットライン

Microsoftが超低価格PC向けにWindows XP Homeの販売期間を延長




 Nettop/Netbookを使う上で、大きな問題となりそうなのが、ネットワークとOSだ。幸い、わが国ではブロードバンドアクセスはごく当たり前のものとなり、料金設定はともかくとして、モバイルでもブロードバンドアクセスが実現している。だが、世界がそんな国ばかりではないことは明白だ。

 また、国や地域、都市としてはブロードバンドが普及していても、必ずしもそれが利用できるとは限らない。わが国だって、旅行先がブロードバンド利用の可能なホテルばかりではない。だからこそ、携帯電話各社の通信カードの需要はなくならない。今回のIDF開催地である上海でも、IDF会場の無線LANアクセスはメールも満足に受け取れないほどの状態だったし、筆者が宿泊したホテルの部屋は、DNSサーバへのアクセスが途切れることが少なくなかった。この状態で、Webアプリケーションで仕事をしろと言われても無理だ。

IDFの会場となった上海国際コンベンションセンター(夜景)

 断っておくが上海は、中国随一の大都会であり、ユニクロや無印良品にBest Buyだってある。同じ中国でも内陸部よりはずっと恵まれた環境のハズだ。今回、筆者がネットワークアクセスに難儀したのはたまたまかもしれないが、米国でのイベントでも同様な問題はしょっちゅう起こっている。ブロードバンドアクセスはどんどん利用するべきではあるものの、それを100%あてにしていると、まだ痛い目に遭う、というのが実情だ。

 自宅で固定回線によるブロードバンド接続するNettopは、比較的問題が生じにくい。アクセスポイント、アクセス方法がハッキリした日常的な生活圏で持ち運ぶ分には、Netbookもうまく働いてくれるだろう。だが、見知らぬ土地にNetbookだけを持って出張するというのは、まだかなりのリスクを伴う。Netbookがスタンドアロンで全く使えないというわけではないが、ここはまだ当分ノートPCの領域だろう。

 この問題をWiMAXで解決したい、とIntelは考えている。が、わが国におけるWiMAXの導入は早くても2009年から。全世界的にWiMAXの通信網が整備されるタイミングとなると、想像もつかない。軽量なNetbookだけを抱えて海外出張に出かけられる日は、まだ当分先のようだ。

 一方のOSだが、選択肢はLinuxとWindowsのどちらか(Appleがこの分野への参入を図らない限り)である。多くの人はWindowsに馴染みが深いわけだが、Intelが言うようにNettop/Netbookの利用がブラウザ中心であれば、OSが何であるかはそれほど大きな問題ではない。

 OSにLinuxを使うメリットは、OSコストがWindowsに比べれば低いこと、クライアントに合わせたコンフィギュレーションによりインストールサイズを小さくすることができるため大きなストレージスペースを必要としないこと、動作が比較的軽くAtomのようなプロセッサで利用するのに適していること、などだ。

 Windowsには、多くのユーザーが慣れ親しんでいることに加え、多くのアプリケーションや周辺機器が提供されているというメリットがある。が、Nettop/Netbookの利用においてユーザーがローカルアプリケーションを追加しないのであれば、アプリケーションのバリエーションはあまり重要な問題ではなくなる。Nettop/Netbookは拡張性が限られており、周辺機器の対応はPCほど問題にはならないだろう。残る強みはWindows DRMで保護されたコンテンツへの対応といったところだが、YouTubeなどDRMを付与しない動画サイトが人気となっていることを考えると、それほど大きなメリットとはならないかもしれない。

Linuxベース(左)とWindowsベース(右)のNetbook

 基本的にはMIDなど、小型・軽量を追求しフォームファクターが従来のPCと異なれば異なるほどWindowsを使うメリットは薄れる。逆に、大型のスクリーン、大容量ストレージなど、従来型のPCに近づけば近づくほどWindowsを利用するメリットは大きくなる。

 Nettop/NetbookのOSとしてWindowsを利用する上での問題は、最新版であるWindows Vistaがこの種のデバイスには全く適さないことだ。Vistaは標準的なインストールサイズが10GBを軽く越えてしまう上、快適な動作には大量のメモリとDirectX 9(できれば10)に対応したGPUが必要になる。こうした「贅沢」は、そもそも低価格を目指すNettop/Netbookには似合わない。

 しかも当初のMicrosoftのプランでは、旧バージョンであるWindows XPの販売は2008年6月30日で終了し、以降はNettop/Netbookには不釣り合いなWindows Vistaしか選択できなくなる予定だった。これでは、MIDやNettop/Netbook向けOSの市場は、すべてLinuxにくれてやると言っているようなものだ。

●Windows XP Home Editionの提供期間が延長に

 さすがにMicrosoftもこれはマズイと判断したのだろう。4月3日、MicrosoftはWindows XP Home Editionの販売期間をULCPC向けに延長すると発表した。ULCPCとはUltra Low-Cost Personal Computersの略で、要はIntelが言うNettop/Netbookと同じものだと考えられる。この発表では、ULCPCのフォーカスがモバイルPCにあてられているように見受けられるが、実際の製品としてASUSのEee PCを意識していることに加え、低価格PCでもデスクトップタイプにはVistaのStarterエディションを使って欲しいという願いがあるからだろう。

 この発表によると、販売が延長されるのはWindows XP Home Editionのみで、ほかはすべて予定通り2008年6月30日で販売が終了する。Home Editionの延長期間は2010年6月30日、もしくは次バージョンのWindowsが発売されてから1年後までで、提供形態はプリインストール用のダイレクトOEM販売のみとなっている。残念ながら、低価格なULCPC向けということで、Windows XP Home Editionのライセンス料が引き下げられるのかどうかについては、発表には触れられていない。

 どうやらこれで、Nettop/Netbook向けのOSとしてWindowsも戦列に残りそうだが、この発表でMicrosoft自身の考えも浮かび上がってきた。1つは、Microsoft自身がこのジャンルのOSとして、Windows Vistaが不向きであると認めたことだ。

 すでに述べたようにWindows Vistaは巨大で重い。低価格実現のためハードウェアリソースの制約が多いNetbookに不向きなことはわかりきった話だ。今回の発表は、そのWindows Vistaを簡単にストリップダウンして軽量版を作ることなどできないことを示している。Vistaは巨大ではあるが、無意味に巨大なわけではない。無理矢理に機能を削った軽量版を作ったとしたら、おそらく現行のWindows Vistaと完全な互換性を持たない、Vistaと似て非なる別のOSになってしまうのではないか。それではXPを延命するより悪いシナリオになってしまう。

 Microsoftとしては、XPの提供を打ち切りVista一本にしたいのは山々だ。XPの新規ライセンスをHome Editionに絞り、プリインストールのみに限定していることからも、それが伺える。だが同時に、XPの提供を打ち切って、その市場をLinuxに丸ごと持って行かれるよりは、XPの提供を続けた方がMicrosoftとしてマシなのも事実なのである。もしユーザーがLinuxのデスクトップに慣れてしまい、拒絶感を持たなくなってしまえば、VistaでおさえているPC用OS市場まで侵食される可能性がでてくるからだ。

 もう1つ興味深いのは、XP Home Editionの提供期限として、2010年6月30日、もしくは次バージョンのWindowsがリリースされて1年後、とされていることだ。これまでMicrosoftは、次バージョンのWindows(Windows 7)のリリース予定を明らかにしてこなかった。しかし、「2010年の6月30日」と「次バージョンのWindowsがリリースされて1年後」を併記しているということは、実現性はともかくとして、この2つの日付を近いものにしたいとMicrosoftが考えていることを示している(かけ離れているのであれば併記する意味がない)。このことから、次バージョンのWindows(クライアント向け)は、現行Vistaの改良型になることが伺える。早期にリリースするには、それ以外に選択肢はない。

Windows XPベースのClassmate PC(第2世代)。Classmate PCは特定市場向けのNetbookと考えられる

 また、この発表から分かるのは、次バージョンのWindowsは、Nettop/Netbookのような限られたハードウェアリソースしか持たないプラットフォームにも対応可能なものになる、ということだ。現在のVistaが大きく重くなっている理由の1つは、OSの標準機能として、.NET Frameworkのような高レベルのライブラリを搭載している点にある。

 次バージョンのWindowsでこの方針を覆す(Windows XPまでのように、.NET Frameworkをオプションにする)とは思えないが、ハードウェアリソースに応じて、あるいはエディションに応じて、サポートする機能を段階的に選択可能なものにする可能性はある。たとえば、ミニサイズの.Net Frameworkを提供する、といった具合だ。フルバージョンのWindows 7は.Net Framework 4.0を搭載し、Windows 7 for ULCPCは.NET mini Framwork 4.0を搭載する、という形である。

 とにかく今回の発表で、限られた形ではあるものの、2010年6月末まで市場でXPとVistaが併売されることが明らかになった。次のWindowsでは、このような併売を避けたいとMicrosoftは考えるだろうし、2個のOSの併売状態を一刻も早く解消しなければならないと考えるだろう。上から下まで、1つのブランドで統一したいハズだ。

 以前書いたように、筆者は2バージョンを普通に併売し、ユーザーに選択を委ねれば良いという考え方だが、似て非なるものが複数存在するのは市場に混乱を招くという考え方もある。どちらの考え方が正しいのかはともかく、低価格PCの登場で次期Windowsの開発が加速されるのは間違いないだろう。それはどんな考え方のユーザーにも望ましいことではないかと思う。

□IDF Spring 2008 レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/idfs.htm
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0206/hot532.htm

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(2008年4月7日)

[Reported by 元麻布春男]


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