●パワークラスが変わるIntelのモバイルCPUロードマップ IntelはノートPC市場への「Nehalem(ネハーレン)」マイクロアーキテクチャの投入を前に、「パワークラス(Power Class)」の仕切り直しを行なった。CPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)枠を示すパワークラスは、現在、Processor Numberの前につけられたプリフィックスで示されている。パワークラスXは45W前後のエクストリーム版、パワークラスTは27~35Wの通常電圧版、パワークラスLが15~17WのLV(低電圧)版、パワークラスUが14W以下のULV(超低電圧)版の位置づけだった。これが、今年(2008年)の「Montevina(モンテヴィーナ」)プラットフォームから細分化される。 新たなTDP仕切りでは、35WレンジのパワークラスTの下に、25Wの電力最適化(Power Optimized)のパワークラスPが設けられる。また、パワークラスPとパワークラスL、そしてパワークラスUのうち10Wレンジのデュアルコア製品には、SFF(Small Form Factor)を示すと見られるプリフィックスSがつけられる。その結果、プリフィックスはそれぞれ25WがSP、17WがSL、10WがSUに変わる。また、パワークラスUの下には、Intelが「Netbook」と呼ぶローコストPC向けの4W枠のクラスNが設けられた。Nは、現状ではフォームファクタとパワークラスの両方を示していると思われる。
このTDP枠の変更は、Intelによる来年(2009年)のモバイル向けNehalemファミリの導入と関連している。 Intelは、今年(2008年)第4四半期のデスクトップ向けNehalem「Bloomfield(ブルームフィールド)」投入時には、モバイル版は投入しない。モバイル向けのNehalemファミリは、2009年中盤にクアッドコアの「Clarksfield(クラークスフィールド)」とGPUコア統合版デュアルコアの「Auburndale(オーバーンデール)」が投入される。この時点で、Intelは廉価版Nehalemファミリ向けの新しいチップセット「Ibexpeak(アイベックスピーク)」も投入する。 Clarksfieldは、PCI Express Gen2をネイティブで内蔵し、PCI Expressデバイスを直接接続できる。その代わり、Bloomfieldや上位のNehalemが備える、高速インターコネクト「QuickPath Interconnect(QPI)」は備えない。チップセットとは、DMIインターフェイスで結ぶ。対応チップセットは「PCH(Platform Controller Hub)」であるIbexpeak。システム構成は、CPUとPCHの2チップソリューションとなる。 Auburndaleは、デスクトップ向けのGPU統合デュアルコア「Havendale(ヘイブンデール)」のモバイル版。GPU統合と言っても、ネイティブのオンダイ(On-Die)統合ではなく、MCM(Multi-Chip Module)によってCPUのダイ(半導体本体)とGMCH(Graphics Memory Controller Hub)ダイを統合している。インターフェイス回りは、Clarksfieldと同じだ。Intelは、Clarksfieldを55Wと45Wの2つのTDP枠で、Auburndaleを45Wと35Wの枠で提供する予定だ。
つまり、Nehalem世代のモバイルCPUのTDP枠は、55W、45W、35Wの3レベルになると言われる。Nehalemはノースブリッジ(MCH/GMCH)機能を統合しているため、これらのTDPは、従来のCPU+ノースブリッジ(MCH/GMCH)のTDPとなる。Intelは、ノースブリッジ(MCH/GMCH)部分のTDPを10W程度と換算して、Nehalemの55WがPenryn(ペンリン)の45Wに、Nehalemの45WがPenrynの35Wに、Nehalemの35WがPenrynの25Wに相当するとしている。つまり、PenrynでのTDPパーティショニングは、そのままNehalem世代に引き継がれることになる。Nehalemのための地ならしと考えてもいいかもしれない。
●Diamondvilleがローエンドに登場 Nehalemへと引き継ぐ3レベルのTDP枠を設ける一方、IntelはローパワーエリアにNクラスのAtomプロセッサを加える。ノートPCロードマップに現れているAtomは、携帯情報機器向けの「Silverthorne(シルバーソーン)」ではなく、ローコストPC向けの「Diamondville(ダイヤモンドヴィル)」だ。SilverthorneとDiamondvilleは、どちらも新設計のLPIA CPUコア「Bonnell(ボンネル)」をベースにしている。基本的には同ダイ(半導体本体)の製品だが、フィーチャは異なっている。モバイル向けのDiamondvilleは4W TDPでシングルコア。これを、低価格ノートPCセグメントに投入する。 IntelのモバイルCPUは、初代Pentium M(Banias:バニアス)以来、マイクロアーキテクチャの拡張でパフォーマンスを増す毎に、TDPの上限も引き上げてきた。エクストリーム系の40W台中盤のTDPは、以前なら、デスクトップ系Pentium 4をノートPCに押し込んだ時のTDPに近い。ハイエンドがTDPとパフォーマンスを引き上げて行く一方で、IntelのノートPCのボトムであるULV(超低電圧)ラインは、TDPもほぼ一定だが、パフォーマンスも据え置かれたままだった。 そこに、Intelは、より低TDPでよりローパフォーマンスのDiamondvilleを導入する。そのため、全体の流れを見ると、IntelのモバイルCPUは、高TDP&ハイパフォーマンスと、低TDP&ローパフォーマンスの両極へとバリエーションを広げつつある。これをプライスレンジで見ると、また異なったビューが見える。Intelは低コストに製造できるDiamondvilleを、低価格で提供する。従来、低TDPは付加価値だったが、Diamondvilleの登場でその構図も変わる。 IntelはAtomプロセッサも短サイクルで刷新して行く。来年(2009年)後半には、GPUコアを統合した「Pineview(パインビュー)」が登場する予定だ。
●デスクトップとモバイルの45nm移行が示唆するプロセス移行の難度 IntelのモバイルCPUの45nmプロセス「Penryn」への移行は、Intelのロードマップ上では、ほぼ以前の計画通りに進む。これは、デスクトップCPUと大きく異なる。デスクトップでは、今年(2008年)前半の45nm製品の出荷ボリュームは、当初計画より大きく後退している。 デスクトップとモバイルでの45nm製品の浸透計画の違いが示唆している兆候はただ1つだ。Intelの45nm製品のアウトプットの量が少なく、減少した製品を優先的にノートPCに回した結果、デスクトップでは減っている可能性だ。
Intelをはじめとした半導体メーカーが、新プロセスの立ち上げでもたつくことは、決して珍しいことではない。しかし、今回の45nmプロセスは、特にハードルが高い。それは、トランジスタの材料の変更という、非常にリスキーな移行があるからだ。Intelは、増大するリーク電流(Leakage)の問題に対処するため、45nmプロセスからトランジスタのゲート絶縁膜に高誘電率(High-k)材料を採用した。また、トランジスタのゲートにはメタル材料を採用。その結果、45nmでは、ある程度までリーク電流を抑え、パフォーマンスを引き上げることに成功している。 しかし、それにはトレードオフがある。半導体製造では、材料の変更は量産時のリスクの増大を意味する。特に、薄いゲート絶縁膜を変えることは難しいと言われている。そのため、量産立ち上げでトラブルが発生したり、ターゲット周波数の歩留まりが落ちたりする危険があるという。 さらに、Intelは今回、45nmでは業界と歩調を合わせなかった。リソグラフィ(露光)技術では、IBMやAMD、TSMCなど多くの半導体メーカーが45nmで液浸を採用する。ところが、Intelは液浸の採用は見送った。IntelはドライのArF露光に自信を持っているが、それが妥当な判断かどうかは、まだ結論が出ていない。 こうして見ると、今回の45nmプロセスでは、これまでのプロセス移行と較べると予測が難しい材料が多いことがわかる。そもそも、ほんの2~3年前までは45nmプロセスはリソグラフィで行き詰まり、移行が遅れるとも言われていた。それを、ムーアの法則通り2年サイクルで立ち上げることは、簡単ではないだろう。 しかし、今回のIntelの45nmプロセス立ち上げのもたつきが示唆しているのは、この先のさらに険しい道のりだ。この先は、毎回のプロセスの移行毎に、45nmプロセスと同じかそれ以上の飛躍が求められている。これまでのように、同じ材料で同じ手法で、加工技術を進歩させて、トランジスタを小型化し回路線幅を狭くして行けばプロセスの微細化が進むといった時代は終わったと言われている。おそらく、今後も、こうした新プロセスの立ち上げのもたつきや遅延は、発生するだろう。どころか、その頻度がより高くなる可能性すらある。そして、それは、Intelだけでなく、先端の半導体ベンダーに共通した状況となると推定される。
□関連記事 (2008年4月1日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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