NECのモバイルノート「LaVie J」が新しくなった。見かけも大きく変わり、軽量だがどちらかといえば分厚いイメージのあった先代と比べ、シェイプアップした印象が強い。引き算でスリム化される製品が多い中で、その装備にはスキがない。足し算、いや、かけ算で企画されたオールマイティノートPCだ。 ●これ以上足すものがないフル装備 ディスプレイはワイド化されフットプリントは多少大きくなったが、フルフラットの天板は精悍なイメージを醸し出している。当然、カバンへの収まりもよい。A4用紙よりわずか一回り小さなサイズで容積としてはA4のコピー用紙を200枚重ねた感じだ。用紙の種類にもよるが200枚の紙は1kgを下回ることはまずない。とはいえ、1kgを切るノートPCに慣れきってしまった今、1,279gという重量は、やはりズッシリ感は否めない。 今回は、Wireless USB搭載の「LJ750/LH」と、Intel Turbo Memory搭載の「LaVie G タイプJ」の双方を評価したが、手堅くスキのない製品だという印象を強くした。 なにしろ、これ以上拡張のしようがないくらいに充実したインターフェイス類が圧巻だ。IEEE 802.11a/b/g/n(ドラフト2.0)対応無線LAN、Wireless USB、Bluetooth 2.0+EDR、FeliCaポート、指紋センサーと、もはやないものがない状態だ。といいつつ、ついに、アナログモデムが撤廃されているのにはちょっと驚いた。個人的には米国の国立公園のロッジに泊まったりするときに、未だにアナログモデムを使うことがあるので、これは、ちょっと惜しい。
気になるバッテリの持ち時間だが、公称値は6.5時間。ディスプレイの輝度を8段階中4に設定し、光学ドライブの電源をOFFにした状態で、テキストエディタで原稿を書き続けてみた。無線系はすべてがONの状態だ。フル充電で作業を開始、途中、1時間ほど休憩のためにスリープさせたが、実使用時間約4時間でバッテリの残り容量は23%となった。この使い方では、1時間あたり20%ずつバッテリが消費されていくようなので、ハラハラしないでいられる実使用時間は4.5時間といったところだろうか。 ファンの騒音はかなり低く抑えられている。負荷が高くなると回転するのがわかるが、すぐに回転数は落ち、耳をつけてようやく聞こえる程度となる。回転音はどちらかといえば甲高い。できれば周辺環境によって回転数をコントロールできるファン制御ユーティリティなどを提供して欲しかったところだ。 ●個人が使うオールマイティノート 製品のキャラクターとしては、ビジネスモバイルというよりも、個人ユーザーが自分だけで使うオールマイティノートPCを目指しているのだろう。フルスペックの15型プレミアムノートでは持ち運びが辛いし、バッテリ運用もままならないが、本機なら自室、そして移動中、さらには移動先をフルカバーできる。各種のペリフェラルとの連携に関しても、あらゆるワイヤレスソリューションで解決できるので、持ち出すときの煩雑さもない。 コンシューマを狙った製品だということは、いわゆるツルツル液晶を採用していることからもわかる。写真やビデオコンテンツの鑑賞にはやはり見栄えが違う。かといって、環境光が映り込んで邪魔になるほどの光沢ではないのがいい。メーカー側では想定していないだろうが、液晶パネルは、写真などを人に見せたりするときに、よく指でさわられるものだが、ツルツルパネルは、指紋などの汚れを拭いとりやすいというメリットもあるし、キズもつきにくい。 指紋センサーがコンシューマPCになぜ必要なのかという疑問もあるだろう。だが、今や、コンシューマがやりとりするメールにだって個人情報は満載だ。万が一に備えてパスワードでWindowsを保護するのは社会人として常識ともいえる。だが、PCを使うたびにパスワードを入れるのはめんどうな作業であるのも確かだ。でも、指紋やFeliCaで認証ができれば簡単だ。
指紋センサーはキーボードの左上に配置されている。この位置は立ったまま本機を抱えて指紋をセンスする場合、左手の親指が使えて便利だ。また、FeliCa認証の場合も、手持ちの携帯電話などが気軽に使える。コンシューマだからこそ、セキュアなログオンをできるだけ簡単な操作でできるようにするという意味で、これらが装備されているのはうれしい。ちなみに、指紋認証に関してはUPEKのProtector Suiteが、FeliCaに関してはジャストシステムの「かざしてナビ」が使われている。 ノートPCでありながら、購入後、一度も外に持ち出されたことがないノートPCがかなりあると聞くが、本機は自宅から持ち出す気になれる、まさにマイコンピュータとしての性格が色濃く盛り込まれている。ただ、1台のPCで、すべてをまかなうことを前提に考えれば、HDDが最高で160GBというのは、ちょっと心許ないようにも思う。 ●フルフラット筐体の使い心地 液晶ディスプレイにはラッチがない。不用意に開かないよう、ヒンジはある程度堅くチューニングされている。開くためには本体手前中央部のくぼみを片手で押さえ、もう片方の手で液晶を持ち上げることになるが、これがちょっと大変だ。かといってフルフラットスクエアな本体には、他に支える場所もなく、立ったまま液晶を開くなどというのは至難の業だ。ここは、本体を支えなくても液晶を持ち上げれば開く程度のチューニングでもよかったんじゃないかと思う。 キーボードは剛性感ゼロといってもいいくらいにヤワな印象を受けた。これは好みに強く依存するのでなんともいえないが、個人的には、もう少し底突き感が欲しかった。また、せっかくワイド液晶になって本体の幅が広がったのだから、あまりにも小さな右側シフトキーはなんとかならなかったのかと思う。先代のLaVie Jでは、本体のほぼ横幅いっぱいにキーボードが装着されていたが、本機では左右にかなりの余裕があるようにみえる。方向キーを下にずらすのは、FeliCaポートがあるので難しそうだが、横方向の拡張はなんとかなったのではなかろうか。
HDDの揺れ検知機構は、さほど敏感すぎることもなく、おおむね快適に使える。製品によっては、デフォルト設定が敏感すぎて、新幹線内でMPEGファイルすら満足に再生できないほどのものもあるが、これなら大丈夫だ。デフォルトで敏感に設定されているということは、それを弱めると、HDDが壊れる可能性が高くなるということなので、このあたりのチューニングはベンダー側のHDD実装機構の自信が反映されるということだ。
機構の点で目につくのは、本体左手前に配されたレバーだ。これは、本体左側に装着したPCカードを抜き去るためのもので、右にスライドさせるとPCカードが左に飛び出すようになっている。慣れれば問題はなさそうだが、最初はちょっとした違和感があった。PCカードスロットにはダミーのカードが装着され、シャッターはない。また、その下にSDHCスロットが配置されている。装着されたSDメモリーカードを押し込むとイジェクトする一般的なものだ。転送スピード的にはちょっとつらいものがあるので、大容量カードからデジカメ写真を転送するような用途では、外付けのUSBリーダを使うことを考えた方がよさそうだ。 ●PC周辺の世界を変えるワイヤレスソリューション Bluetoothは東芝スタックで、特筆すべき点はない。DUNを使った携帯電話でのインターネット接続、A2DPを使ったオーディオアダプタへのサウンド送信、ヘッドセットを使った通話など、一通り試してみたが、すべて快適に使うことができた。 一方、期待のWireless USBだが、いってみればワイヤレスのドッキングステーション的に使えるのではないかと思っていた。あらかじめペアリングされたWireless USB Hubが添付され、Hubに電源アダプタを接続するだけで、本機がその存在を検知し、通信が行なわれる。ポータブルHDDを接続してみたところ、標準画質のMPEGファイルが問題なく再生できた。
Hubにマウスやキーボードをつないでおけば、自宅に戻ったところで、電源アダプタを本機につなぎ、液晶を開いてスリープを解除するだけで、接続済みの周辺機器がすべて使えるようになるのは便利だ。 残念なのは、Wireless USBの現時点での規格上アイソクロナス転送がサポートされていないため、USBオーディオや、Webカメラなどが接続できない点だ。オーディオに関してはBluetoothがあるのでそれで補完できるのが救いだ。また、今回は試せなかったが、USB接続のグラフィックアダプタなどが実用的に使えれば、自宅ではまさに簡易デスクトップ機で周辺機器をフル装備、持ち出すときは電源アダプタを抜き去るだけという驚異的な環境ができあがる。本体からはみだすものがいっさいない状態で、こうした環境が手に入るのは素晴らしい。 Web直販モデルでは、Wireless USBか、Intel Turbo Memoryか、HIGH-SPEED対応ワイヤレスWAN内蔵は排他でセレクトできるそうだが、今なら、Wireless USBがもっとも実用度が高そうだ。 ●持ち出そうという気になるノートを作るNECの本気 ノートPCには「大」、「中」、「小」の3つのカテゴリがある。その日の利用形態に応じて3種類のうち、どれかを選ぶような使い方ができるのが理想だが、予算的にも運用的にもなかなかそうはいかない。 従来は、万が一の持ち出しを想定し、デスクトップではなくノートを選び、唯一のPCとして快適な操作性を得るために「大」を選ぶのが普通だった。中以下は、どちらかといえばモバイル重視で、常用ノートとしては物足りなかったからだ。 本機は、カテゴリとしては「中」に属するものの、唯一のPCとして選ばれるだけの装備を持っている。いわゆる拡張性は申し分ない。そして、各種のワイヤレスソリューションによって、本体から余計なケーブル等を生やすことなくあらゆる拡張ができるという点は高く評価できる。 本機のようなPCの登場によって、モバイルしてみようかという気をそそられるユーザーが増えれば、中以下のカテゴリのノートPCの充実にもつながっていくだろう。決して奇をてらったとんがった製品ではないが、NECとしては、本機でコンシューマにノートPCを持ち出してほしいと願っているに違いないし、それを現実にするだけの説得力を持つ意欲的な製品に仕上がっている。 □NECのホームページ
(2008年2月22日)
[Reported by 山田祥平]
【PC Watchホームページ】
|