NECパーソナルプロダクツは2月19日、個人向けモバイルノートPCの新製品として、新LaVie Jを発表した。 「軽さ」と「強さ」を両立することを目指して開発された新LaVie Jは、従来のボンネット構造の筐体デザインを一新し、フラットな天板を採用。さらに、ワイド液晶画面を初めて採用するなど、これまでの「VersaPro UltraLite」やLaVie Jシリーズとは見違えるほどの進化を遂げた。 また、従来は、ビジネス用途向けのVersaProシリーズに改良を加え、個人向けのLaVie Jとしていたものを、新製品では、個人向けを先行して投入するというように、製品企画の方針を大きく転換。これも、NECがこの製品に対する意気込みの強さを示すという点で、特筆できるものといえる。 では、NECは、新LaVie Jに対して、どんな想いを込めたのだろうか。 ●個人向けブランドとしてどう進化させるか
残念ながらNECには、モバイルノートPC分野での出遅れ感がある。 企業向けのVersaProシリーズでは、UltraLiteの名称で展開。生保会社に5万台単位での大量導入の実績があるものの、この分野で先行するパナソニックLet'snoteに比べると、市場シェアは明らかに低い。新幹線車内でビジネスマンが使用しているモバイルノートPCの様子を見ても、それは実感できる。Let'snoteのシェアが明らかに高いからだ。 「UltraLiteは一定の成果を収めたといえる。だが、個人向けを対象としたLaVie Jは、思ったほど伸ばせなかったという反省がある。今回の新製品に関していえば、リベンジするという気持ちが、社内には強かった」と、NECパーソナルプロダクツ PC事業本部 商品企画本部 商品技術部 島貫正治主任は明かす。 オールラウンドでPC製品を投入するNECにとって、モバイルノートPC領域は、避けては通れない領域。「高須(NECパーソナルプロダクツ 高須英世社長)も、モバイルノートPCに対しては、強い期待感を持っている。社内でも、NECが本気になってやらなくてはならない製品領域だと位置付けている」と続ける。 2006年12月。NECパーソナルプダクツ社内では、次期モバイルノートPCの開発に向けて、開発、製品企画、デサイン担当者などが集まり、意見交換会を行なった。 ここでは、モバイルノートPCを、個人向けのLaVie Jシリーズとしてどう進化させるか、がテーマとなった。
個人向けということから、新たにワイド画面を採用すること、さらに薄さを追求すること、大容量バッテリを搭載した際にもデザイン面からも改善するといった意見が出た。つまり、「薄くする」、「格好良くする」という方向では共通認識を取ることができたのだ。 だが、問題は、その実現方法であった。 なかでも、今回の製品から初めてPCのデザインを担当することになったNECデザインプロダクトデザイン1 河崎圭吾エキスパートデザイナーの「ボンネット構造をやめる」という発言は、大きな波紋を呼んだ。 「会議の雰囲気からいえば、まさにKY(空気が読めてない)だった」と、河崎氏は自嘲気味に笑うが、初代モデルから採用し、ノウハウを蓄積しつつあったボンネット構造を否定するところから始まったこの会議は、まさにモバイルノートPCを一から開発するという姿勢が明確になったともいえた。 「フラットな天板を採用する方向が打ち出されて、これは大変なことになった、というのが正直な感想」と、最初の会議の様子を振り返るのは、構造設計などを担当するNECパーソナルプロダクツPC 事業本部 開発生産事業部 モバイル商品開発部の梅津隆広主任。
「液晶ディスプレイの面強度をどう維持するか、クリアランス(隙間)をいかに確保するか、板厚をどうするか。その後、何度も何度も実験を繰り返した」と語る。 梅津主任は、点加圧試験、加圧振動試験などを繰り返し、モバイルノートPCに求められる強度を実現した。 「工夫を凝らした結果、当初想定したほど液晶部の厚みを取らずに、強度を実現できた」という。 さらに、熱処理についても、梅津主任の努力は大変なものだった。 CPUおよびチップセットが高性能化し、発熱が約2倍になる一方、新LaVie Jでは、2.5mmの薄型化を図っている。熱をどう逃がすかという設計は困難を極めた。 「ファンの径を大きくし、熱輸送のためのヒートパイプの径も変更した。サーマル部分は従来よりも5g程度重くなっているが、性能を落とすことなくサーマル対策が可能になった。ここまで大規模なサーマル変更はそれほど多く例があるものではない。だが、妥協を許さない変更に挑んだ」という。 ●異例ともいえるデザイン手法を持ち込む
一方、デザインを担当した河崎氏は、NECとしては異例ともいえるデザイン手法を持ち込んだ。 それは、一言でいえば、河崎氏が米国勤務時代に学んだ、米国の企業が採用しているデザインモデルともいえるものだった。 「まずは、とにかく話し合いをすることに時間を割いた。そして、本来はデザイナーが出ないような会議にも、ほとんど出席するようにした」 それまでのNECのデザインは、開発部門から要件が提示され、それをもとにデザイナーが「絵」を描いて、その繰り返しの結果、実際に1~2台のモックアップを作って、またそれに修正を加えるというものだった。 だが、河崎氏は、徹底的に話し合いをしたあとに、そこから導き出したコンセプト、コンフィギュレーションをもとに、モックアップを一気に7個も作り上げた。 「モックアップを作り始めたら、短期間に一気に作らないと、『もう、それくらいでいいから』という話になる」と河崎氏は冗談混じりに話すが、「短いステップで、効率的にやるには、この手法が最もいい。さらに、デザインのメリットを伝えることができる」と、この手法に自信をみせる。 実は、これだけの数のモックアップを作るということは、予算内とはいえ、誰にも言っていなかったという。だが、その手法が、ものづくりの議論を進展させた。 例えば、バッテリに関しても、図面設計上では、3セルしか入らない設計となっていたが、具体的なデザインモックアップを前に議論することで、柔軟な発想で内部構造の変更を進めることができ、4セルへと拡張することができた。さらに、天板のフラット化にこだわる理由、底面のフラット化にこだわる理由も、デザインモックアップを目の前にすると、説得力が増した。 「少し厚みを増したいという声もあった。薄く見せるデザインでそれをカバーできるはずだとの提案もあった。だが、モックアップを見せることで、最初のデザインの重要性を示した」というわけだ。 モックアップと最終製品が、ほとんど変化がなかったというのもNECのPC事業では珍しい事例だという。
もともとNECには、万人受けをする製品を作ろうとする体質がある。それは、トップシェアメーカーとしては当然のことだろう。だが、その結果、あらゆる機能を詰め込んだ上で、そこから薄く見せるため、あるいはスタイリッシュなデザインのための工夫を凝らすということが多かった。言い方は悪いが、NECのデザインが他社に比べて評価が低かったのも、こうした機能優先、スペック優先型のデザイン手法を採用していたことが背景にありそうだ。 今回の新LaVie Jには、早くも「NECらしくないデザイン」という評価が出ている。これは、誉め言葉と受け取っていいだろう。その背景には、これまでとは違ったデザイン手法が採用されていることが見逃せないのだ。
●従来製品の10倍の売り上げを目指す 島貫主任は、社内に対して、「従来モデルの10倍は売りたい」と宣言しているという。 それだけ、新LaVie Jにかける意気込みが伝わってくる。この数字目標については、「半分冗談、半分本気」と島貫主任は笑うが、この言葉からも、新製品への思い入れが並大抵ではないことが伝わってくる。 「新幹線の車内で、新LaVie Jを見かけることができたらどんなにいいだろう。そして、個人的には、NECパーソナルプロダクツが入居している大崎ゲートシティ内のスターバックスで、新LaVie Jを使っている人を見かけることができたらどんなにうれしいだろうか」と、島貫主任は、新LaVie Jの成功判断のバロメータを、身近なところに置く。 出荷数字とは異なり、「利用シーン」の観点からの尺度は、むしろ高いハードルともいえる。 言葉そのものはやさしく聞こえるが、裏を返せば、Let'snoteの牙城に対する、NECの明確な挑戦状だといえるだろう。 NECのモバイルノートPCへの挑戦は、第2章へと突入した。新LaVie Jの動きは、その第2章の行方を占う試金石となる。 □NECのホームページ (2008年2月20日) [Text by 大河原克行]
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