NVIDIAが2007年後半に発表した、65nmプロセス版のGeForce 8800シリーズ。G92コアとも呼ばれるが、このGPUを用いたビデオカードは、これまでGeForce 8800 GT、GeForce 8800 GTSとリリースされ、いずれも好評を得ている。今回取り上げるのは、このG92コアを使った製品としては最廉価で発売される「GeForce 8800 GS」である。国内では1月中にも発売される見込みだ。 ●シェーダ部とROP部のクラスタを制限した8800 GS G92コアの新製品となる「GeForce 8800 GS」はNVIDIAから正式な発表がなされていないことから分かるとおり、主にOEM向けに出荷されるビデオカードとなる。そのスペックは表1にまとめたとおりであるが、コアクロックやメモリクロックなどはビデオカードメーカーに依存することになる。そのため、表1の内容はあくまでXFX製品のスペックとして見てほしい。
とはいえ、シェーダユニット数やROP数などの基本的な構成は、メーカーによる違いはない。シェーダ部、ROP部のクラスタ数が、GeForce 8800 GTではそれぞれ7クラスタ/4クラスタ、GeForce 8800 GTSは8クラスタ/4クラスタであったのが、GeForce 8800 GSは6クラスタ/3クラスタに制限されるのが特徴となる。 シェーダ部の制限もさることながら、G92コアとしては初めてROP部が制限されたのは大きなポイントだ。とくにメモリインターフェイスが192bitになるため、メモリ帯域幅は大きく制限されることになる。また、メモリ容量に関しても、512Mbitのチップを使っても、6枚で384MBという容量に留まってしまう。
その意味では、XFX製品のクロック設定は面白い。コアクロックは標準モデルではGeForce 8800 GT/GTSより低いものの、オーバークロック製品では両者を上回る680MHzに設定している。一方、メモリクロックはオーバークロック時にもGeForce 8800 GT以下という値に設定しており、上位モデルとは明らかにメモリ周りで仕様差を設けている。 さて、今回テストするのは、XFX製品のうち、オーバークロックモデルとなる「PV-T88S-FDD」だ(写真1)。コアクロック680MHz、メモリクロック1.6GHzで動作する製品で、テストではノーマルモデル相当のコア580MHz/メモリ1.4GHzで動作させた場合のパフォーマンスも検証したい(画面1)。 カードは6ピンの外部電源端子を1つ備えるほか、DVI×2+ビデオ出力を備える。昨今のハイエンドビデオカードと同じ標準的な構成となっている(写真2、3)。GPUクーラーはコンパクトな作りになっているが、NVIDIA製GPUを搭載したビデオカードでは最近珍しくなった、銅製のヒートシンクを用いている。そのため、見た目よりは重みのある製品になっているのが印象的だ。
●2万円中盤ビデオカードを中心に性能比較 それでは、GeForce 8800 GSのパフォーマンスを見てみたい。環境は表2に示したとおり。対抗製品となるATI Radeon HD 3850、価格帯が近いGeForce 8600 GTS、上位モデルのGeForce 8800 GTを比較対象とした。GeForce 8600 GTSはXFXの「PV-T84G-UDF3」を、ATI Radeon HD 3850とGeForce 8800 GTはリファレンスカードを使用している。 ドライバについて補足であるが、GeForce 8800 GS用のドライバとしてXFX製品に同梱されていたForceWare 169.23は、GeForce 8600 GTS/8800 GTで使用できなかったため、こちらは原稿執筆時点で最新の正式版ドライバであるForceWare 169.25を使用している。
なお、以下グラフ中に「GeForce 8800 GS(OC)」と記したものは、コアクロック680MHz、メモリクロック1.6GHzで動作させたもの。「GeForce 8800 GS」と記したものはそれぞれ580MHz/1.4GHzとして動作させた場合を示している。
では、順にテスト結果を見ていきたい。まずは「3DMark06」(グラフ1~4)と「3DMark05」(グラフ5)である。なお、Radeon HD 3850において、3DMark05の1,920×1,200/4xAA/8x異方性フィルタ適用の条件が動作しないという現象が発生したため、この結果は省略している。 まず、上位モデルのGeForce 8800 GTとの比較でみると、ここには歴然とした差があることが分かる。コアクロックで上回るOCモデルでも低解像度条件から差は大きく、SP数やメモリ帯域幅の差は大きいことが分かる。逆にGeForce 8600 GTSに対しては、はっきりした差を付けている。同価格帯でこの性能向上は大きいといっていいだろう。 一方、Radeon HD 3850との比較であるが、オーバークロック版に関しては安定してスコアを上回るものの、ノーマル版と同クロックで動作させた場合については、フィルタを適用しない場合では下回り、フィルタを適用すると逆転するという結果になった。解像度が向上した場合もGeForce 8800 GSが良化する傾向にあるが、これをメモリ帯域幅によるものとするのは早計に思う。また、そもそも単純なメモリ帯域幅の比較では、GeForce 8800 GSのほうが狭い。 3DMark06でもHDR/SM3.0テストは安定してRadeon HD 3850がスコアを上回っている。また、SM2.0世代のアプリケーションとなる3DMark05も、3DMark06 SM2.0テストとはまったく異なる傾向になっており、これら違いは、アプリケーションに対する両者の得手不得手という判断のほうが妥当だろう。似たようなセグメントにある製品だけに、アプリケーションごとに大きく性能の良し悪しが左右される両者といえる。
「F.E.A.R.」(グラフ6)の結果は、GeForce 8800 GSのノーマル版に対してRadeon HD 3850が好結果を残しているほか、フィルタを適用することで差は開く。こうした状況もあってOC版のパフォーマンスは印象がよく、低負荷の条件ではGeForce 8800 GTにも肉薄するシーンが見られる辺り、この素行の良さは目立っている。
「Crysis」(グラフ7)、「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ8)は、高負荷条件でGeForce 8800 GSが頭打ちをするという共通した傾向が見られた。Crysisでは1,920×1,200ドット、CoHでは1,920×1,200ドット/4xAA/8x異方性フィルタを適用したときがそれだ。それまで負荷が高まるに連れ、割りとリニアなスコア低下を見せているのに対し、一気に落ち込みを見せる。Crysisではオーバークロック版ではこうした影響を見せていないあたりから、メモリ帯域幅不足が原因と見られる。 ただ、高負荷条件を除けば、全般にGeForce 8800 GSのパフォーマンスはRadeon HD 3850を上回っている。実用範囲では、これらのアプリケーションはGeForce 8800 GSのほうが向いているという見方ができる。 また、この両アプリケーションは、GeForce 8600 GTSからの性能の伸びも非常に大きい。ノーマル版との比較でも、小さいところで2.5倍程度、大きいところでは4倍以上のスコアとなっている。
「World in Conflict」(グラフ9)も、GeForce 8800 GSはわりと安定した性能を見せている。ただし、フィルタ類を適用したときにもRadeon HD 3850に対して優位性は見せるものの、絶対性能でやや不足気味の印象を受ける。 極端なフィルタ適用は控えて使うべきだろうが、そうしてみると、Radeon HD 3850と比べて相対的に大きな差は付いていない。オーバークロック版はともかく、ノーマル版は互角のパフォーマンスといっていいだろう。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ10)は、もともとRadeon製品が好結果を残す傾向にあったが、GeForce 8800 GSはRadeon HD 3850に大きく引き離される結果となった。アプリケーションによっては、こうした極端な差が出る例といえる。
「Unreal Tournament 3 Demo」(グラフ11)は、アプリケーション側でアンチエイリアスの設定がないため、ドライバ側で設定を施しているが、NVIDIA製品はアンチエイリアスが効くものの、Radeon製品は実際には適用されない描画がなされる。そのため、Radeon HD 3850のアンチエイリアス適用条件はスコアを掲載していない。 結果を見ると、FlyThroughではRadeon HD 3850が好結果を見せるものの、Botを表示させると似たようなスコア差に落ち着く結果となった。RadeonのUnreal3エンジンに対する適正は感じるものの、現実のプレイにおいては両製品とも似たようなパフォーマンスを期待できそうである。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ12)の結果は、Call of Juarezとは正反対に、GeForce勢がRadeonを圧倒する。スコアの落ち方もかなりリニアである。 ただ、ここではもっとも高いクオリティセッティングを施していることもあって、GeForce 8800 GSで利用するには、1,280×720ドットあたりが限界という印象も受ける。さらに高い解像度で楽しもうと思うなら、クオリティ設定を調整したほうが良いだろう。
最後に消費電力測定の結果である(グラフ13)。GeForce 8800 GTとの比較ではアイドル時にGeForce 8800 GSのほうが高い数値を示したが、これは誤差の範囲だろう。アプリケーション実行中はノーマル版で20Wほど低い数値を示しているほか、オーバークロック版でも若干抑制されている。動作させているSP数の違いなどによる電力差はあることになる。 Radeon HD 3850との比較では、アイドル時はRadeon HD 3850が非常に低く抑えられているのが好印象だが、アプリケーション実行中はGeForce 8800 GSと同程度である。 GeForce 8600 GTSは80nmプロセスのGPUではあるものの、65nmプロセスのGeForce 8800 GSを下回る消費電力となった。根本的に動作するトランジスタの数が大幅に少ないことが、こうした結果につながっている。
●2万円台中盤~後半のパフォーマンス競争は一段アップ 今回テストしたXFX製品の国内における販売価格は、ノーマル版が26,000円前後、オーバークロック版が28,000円前後が想定されている。GeForce 8600 GTSは2万~3万円と幅広いレンジで販売されているが、この2万円中盤~後半のセグメントは、GeForce 8800 GSに取って替わると見ていいだろう。 似た価格帯になるRadeon HD 3850との3Dパフォーマンス差は、互角または一長一短という結果になっており、ミッドレンジとは格が違う好結果といえる。この価格帯に「ハイエンド製品の廉価版」が続々と投入され、競争が発生したことはユーザーにとっても恩恵が大きい。 GeForce 8800 GSは、GeForce 8800 GTが先行して発売されていることもあって登場のインパクトはそれほど大きくないが、より安い価格であることは魅力になる。とくに、この価格帯から見て、これまでミッドレンジの高性能モデルを選択していたユーザーが、ワンランク上の性能を持つハイエンドビデオカード導入の門戸を開いてくれる製品ではないだろうか。 □関連記事 (2008年1月21日) [Text by 多和田新也]
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