11月6日、キヤノンよりドキュメントスキャナ「imageFORMULA DR-2510C」が発売された。同社のWebサイトには特設ページも設けられており、ここから機能を確認することもできる。 DR-2510Cは、サイズやスペック、価格などPFUの「ScanSnap S510」を強く意識していることがわかる製品だ。ScanSnapシリーズは間違いなくここまでパーソナルドキュメントスキャナのマーケットを牽引してきた主要な製品であり、果たしてこのポジションを奪えるかどうかは、非常に興味あるところだ。 原稿執筆時点では、DR-2510Cの最安値は43,000円前後。一方S510は39,000円前後といったところだ。DR-2510CはS510よりほんの少し高めに位置しているが、これはDR-2510Cが出荷開始してまだ1カ月という事を考えれば妥当なもので、ほぼ同程度の価格と考えて良さそうだ。従って問題は機能面でどうか、というあたりを確認してみたいと思う。 ●サイズ的には同等 パッケージはちょっとした大きさ(写真1)だが、重量はさほどでも無いので、持ち帰りが可能な範疇だ。同梱されるのは本体とACアダプタ、USBケーブル、ドライバ類と簡単スタートガイドといったところで、このあたりはS510と大差はない。 本体は上蓋が原稿のフィーダになり、内側に排出トレイが畳み込まれ、これもS510に酷似したスタイルだ(写真3)が、本体部は排出トレイの畳み込まれる部分にえぐりを入れた複雑な形状だ(写真4)。最大展開時は用紙ガイドが上下に広がる(写真5)。本体前後にそれなりのスペースが必要となるあたりもS510と同じだ。 背面はシンプルだが、電源スイッチがあるのがS510と異なる部分だ(写真6)。
本体にはフィードローラ(写真2でCD-ROMの手前にあるもの)が装着されていない(写真7)ので、これをはめ込むのが最初の作業だ(写真8)。このフィードローラ取り付け部の奥に、センサーとなるCIS(Contact Image Sensor)が配されている(写真9)。 大きさは微妙にS510の方が小さい(写真10~12)。もっとも、実際に並べた場合はともかく、普通に使う分にはDR-2510Cの大きさはそれほど感じられない。ただ、S510は小型化のために給排紙トレイの大きさもかなり絞りこまれており、時としてこれが給排紙を乱す事につながっていた事を考えると、DR-2510Cくらい大きい方がむしろ好ましいようにも感じる。
●使い勝手はやや微妙 DR-2510Cの使い方は ・本体右に並ぶボタンを押して直接起動する の2種類だ。まずボタンを押して直接起動だが、ここで言うボタンは本体右に並んだ3つのボタンを指す(写真13)。各々のボタンにどんな作業が当てられるかはジョブ登録ツール(写真14)で管理する。このジョブ登録ツールの中で、右クリックから設定画面を呼び出す(写真15)。 各設定項目だが モード:白黒/拡散誤差/テキスト認識/グレースケール/フルカラー/自動選択(写真16) さらに細かな設定も行なえる。まず明るさやコントラストの調整(写真23)、ガンマ値の設定(写真24)が用意されており、ここで取り込み時の傾向を一括して設定できる。
画像処理(写真25)では、画像の回転や裏映り/地色除去などの設定が可能だ。また重送検知などの指定も用意される(写真26)。 ジョブそのものはいくつか用意される(写真27)が、少々困るのは「任意のアプリケーションを設定する」方法が見つからなかったこと。例えば今回はAdobe Reader 8をインストールしてあり、スキャンしたらこれを呼び出そうと思ったのだが(写真28)、なぜかAdobe Readerは指定できないようだ(写真29)。 ファイル保存を行なう場合は、ジョブ管理メニューで保存先やフォーマットが設定可能だ(写真30)。このうちPDF(写真31)とTIFF(写真32)のみ、オプションが存在する。BMPはともかくJPEGでは圧縮設定があっても良さそうだが、これは取り込みの時の圧縮率でカバーしろ、という事かもしれない。 設定を終えて3番ボタン(ファイル保存)を押すと、画面にダイアログが表示され(写真33)、同時にタスクトレイにスキャンパネルアイコンが出現する(写真34)。このスキャンパネルアイコンをクリックすると、スキャンパネル(写真35)が表示されるが、バッチ処理などの時はともかく、ファイル保存を選ぶ限り、特にスキャンパネルに用はない。取り込みが終了すると、所定のフォルダにユニークなファイル名(基本はタイムスタンプで、2007年12月31日12:34:56なら“200712311234”が付加される)をつけて保存する。また進行ダイアログも取り込み終了を示す(写真36)。
ところで、DR-2510CのScanSnap系に対する大きなアドバンテージの1つがTWAINドライバの存在だ。技術的にはともかく、製品としてはScanSnapはTWAINに非対応という姿勢を崩さない。業務用のfiシリーズに属するfi-5110CがきっちりTWAINに対応しているあたりを鑑みるに、これは製品の差別化(と、ドライバサポートのコスト削減)なのだろうと想像されるが、この点ではTWAINを搭載したキヤノンの姿勢を評価したい。 TWAINとしての使い方は従来とほとんど変わらない。TWAIN対応アプリケーションからTWAINでの取り込みを指定すると、取り込み設定ダイアログが表示される(写真37)。ここで領域ボタンを押すと、取り込みサイズの指定画面になる(写真38)。プレビューボタンを押すと、先頭の1枚だけスキャンしてその結果を表示してくれるので(写真39)、取り込み領域を設定してOKを押せば取り込まれるという具合だ(写真40)。 さて、ここまではScanSnapと比べると、「多少癖がある」程度で済む話だが、使い勝手が悪いのはここからだ。まずスキャンすると、平均して2~3回に1回は、取り込み終了に失敗する(写真41)。「取り込み終了に失敗」ってなんだ? と言われそうだが、例えば10枚のスキャンを掛けた場合に、10枚目のスキャンも正常に行なわれ、原稿は排出される。ところが進行ダイアログは写真33で9枚目あるいは10枚目のスキャン中だと表示したまま(概ね120秒程度)待機している。約120秒後に、写真41のメッセージが表示されるので、「はい」を選ぶとPDFが作成されるが、中を見ると10枚目の原稿まで正常にスキャンされ、PDF化されている。最後に「不明なエラー」ダイアログ(写真42)が出て終了、という次第だ。(※)
例えばScanSnapでうっかり間違った設定でスキャンしてしまったとか、間違った原稿を入れてしまった、あるいは紙がジャムを起こしたとか、うっかりホッチキスを留めたままだった、などの理由で(どれも筆者の実体験だ)スキャンをすぐ止めたい場合、カバーを開く(DR-2510Cで言えば、写真8の状態)のが一番早い。ドライバは直ぐにカバーがオープンされている事を検知して取り込みを中止し、ダイアログが表示される。同じ事をDR-2510Cでやると、やっぱり120秒立ってから写真41のダイアログが表示される。ではストップボタンを押せばいいのかというと、やはり120秒待たされる。どうも筆者が見るに、DR-2510Cは細かい進行状況をレポートする機能を持っていないようで、プログラム(というか、DR-2510Cのドライバ)はデータの到着をタイムアウト(これが120秒なのだろう)まで待ち、これを過ぎたらエラーで落とすという大雑把な処理を行なっているように見える。(※) カバーオープンは百歩譲って我慢する(半分は自分の責任だからだ)としても、普通のスキャンでもかなり煩雑にタイムアウト待ちになるのはちょっと許容しがたい。なぜこんな事が起きるかというのはわからないが、例えばDR-2510Cがスキャン終了のステータスをレジスタに示す期間が短すぎて、ホスト側がこれを取り漏らすなんて事はありそうだ。このあたりは、バッチ処理関係の機能も絡んでいる気がするので、単純にドライバの作りどうこうというよりは、DR-2510Cとホストの通信プロトコルそのものに根っこがありそうで怖いが(本当にこれが根っこだとすれば、修正は結構大変だろう)、可能ならもう少し何とかして欲しいところだ。なおこのタイムアウトは、原稿の枚数とは無縁なようだ。50枚のスキャンでも1枚のスキャンでも、同程度の頻度で失敗した。(※) 【2008年6月25日編集部追記】上記(※)をつけた箇所について、本記事を受け、キヤノンが検証を行なった結果、こうした「スキャン終了の認識ミス」や「120秒待たされる」という現象は出ておらず、筆者のテスト環境の特有の現象であった可能性があることを付記させていただきます。 ●取り込みテスト 最後に、一番重要な性能と画質だ。今回は1台のPCにDR-2510CとS510を交互に接続して、取り込みを行なった。テストPCは CPU:Athlon 64 X2 5000+ という、微妙に非力なんだか強力なんだかわからないマシンだが、DR-2150CとS510の、どちらの必須とされるシステム環境も余裕でクリアしているので、今回はよしとしたい。 (1) カラー原稿20枚(両面原稿で40P) ・色数:自動認識 としている。 DR-2510Cの結果を表1、S510の結果を表2に示す。ファイルサイズの事はいったん脇に置き、時間だけを比較すると、どちらが早いとも遅いとも言いにくい感じを受ける。その一方で、ファイルサイズはというと、これは明らかにDR-2510Cの方が少ない。なにしろS510はノーマルですら12MB、対してDR-2510Cは600dpiですら20MB弱、100dpiでは3MB程度だ。40ページ分として考えると、100dpiはページあたり75KBというサイズだ。もっとも、画質は当然ながら劣化が激しい。出力結果を全部まとめると膨大なサイズになるので、各スキャン結果から40ページ目の分だけをまとめてファイル化したが、この中から更に一部だけを示してみたい。
【表1】DR-2510Cスキャン結果(カラー両面40ページ)
【表2】S510スキャン結果(カラー両面40ページ)
写真43~53は、各々の出力結果をAdobe Readerで150%表示としてキャプチャしたものだ。とりあえず100dpi~200dpiは、文字すら欠落が激しく、OCRなんぞかけるだけ無駄といったところ。画像のノイズも著しく、保存用として使うことはお勧めできない。どうにか使い物になるのは300dpi以上で、400dpiは多少ディテールがわかりやすくなる反面、ノイズがかえって目立つため、どうせなら600dpiの方が……といったところだ。
対するS510は全般的にやや眠たい画像(というか、DR-2510Cの方がシャープすぎる傾向があるのかも)になっているが、ノーマルですら300dpiと同等程度だ。スーパーファインがほぼ600dpiと同等といったところで、エクセレントはちょっとオーバークオリティだ。実際筆者は普段、スーパーファインで書類を保存しており、同等の品質をDR-2510Cで得るには600dpiが必須になってしまいそうだ。 もっともファイルサイズは画質の裏返しになってしまう。DR-2510Cの600dpiとS510のスーパーファインを比較した場合、スキャン時間はS510の方がはるかに高速だが、ファイルサイズは軽く倍だ。
(2) 白黒原稿50枚(片面原稿で49P) まず所要時間とファイルサイズを表3、表4に示す。なぜかS510はノーマルよりファインの方がスキャンが早いという現象が今回も見られているのが謎だが、ファイルサイズそのものは妥当な数字になっている。とりあえずS510のエクセレントは論外だが、DR-2510Cの600dpiや400dpiもかなりきつい。S510のスーパーファインが10枚/分、S510のファイン以下とかDR-2510Cの300dpi以下が12~15枚/分というあたりで、一般的な許容範囲はこのあたりだろう。問題は画質だ。今回はPDFは添付しないが、スキャン結果の一部を写真54~写真64に示してみた。まず一見してわかるのは、DR-2510Cの傾き補正が傾きを補正しきれていないこと。先のカラーの時は100dpi以外気にならなかったが、こちらははっきりとわかる。
【表3】DR-2510C(白黒 片面49P)
【表4】S510(白黒 片面49P)
それはともかく画質だ。とりあえずDR-2510Cの100dpi/150dpiは、文字そのものすらきちんと読めないので論外だ。どうにか普通に読めるのは300dpi以上。この300dpiがS510のノーマル相当、600dpiがスーパーファインといったあたりであろう。ただDR-2510Cで600dpiにするくらいなら、S510でスーパーファインにしたほうがファイルサイズも小さくスキャン時間も短い。DR-2510Cはこの手のスキャンはやや苦手な事が偲ばれる。 (*1)最新版は“Intel64 and IA-32 Intel Architecture Software Developer’s Manual Volume 3A:System Programming Guide, Part 1”となっているが、今回は2006年6月にリリースされたものをあえて使っている。最新のものは色が2色になり、モノクロ印刷時にやや薄く印刷されるため、これを避けるためだ。
(3) 白黒画像(PDF出力) 取り込んだ結果のファイルサイズを表5、表6に、スキャン結果からビビちゃんの額周辺を切り抜いた結果の拡大結果(いずれもAdobe Readerで200%表示にしたものをキャプチャした)を写真65~写真75に示す。出力結果そのものは別途ファイルにまとめた。
【表5】DR-2510C 白黒 BBっと画像(PDF)
【表6】S510 白黒 BBっと画像(PDF)
結果から言うと、DR-2510Cの100dpi/150dpiはまるで白黒2値かと思うほどに荒れている。200dpi/300dpiは多少マシだが、荒さは否めない。実用的なのは400dpi以上だろう。このあたり、S510もノーマルはお世辞にもマシとは言えないが、ファイン以降はそれなりにグラデーションの表現ができているのは、やはりS500以降で画像の取り扱い方法を変えた事に起因しているのではないかと想像される。もっとも全般的にScanSnapはファイルサイズが大きめになっており、このあたりはそのまま画質に直結している部分のため、それを考えればDR-2510Cが健闘していると言っても良いのかもしれない。しかし、それにしても100dpi/150dpiのクオリティはもう少し考えて欲しいところだ。 (4) 白黒画像(JPEG出力) ・スキャンモードはカラーオンリーになる(DR-2510CとS510の両方) のが異なる部分だ。 さて、まずファイルサイズと画像サイズを表7、表8に示す。ちなみにS510の場合、加増解像度は ノーマル:150dpi と設定されていた。画像は別ファイルにまとめたが、どのケースでもそれなりにグラデーションが表現されており、その一方で解像度やファイルサイズが違うから、一部だけ抜き出して拡大表示しての比較が行ないにくい。そこで出力画像全体を ・解像度を72dpiに変更 したのが写真76~写真84だ。ちなみにDR-2510Cで300dpi/400dpiが無いのは筆者のミス。設定項目はあるのにデータを取り損なっており、気づいたのが機材を返却した後だったため、追加できなかったことをお詫びしたい。
【表7】DR-2510C 白黒 BBっと画像(JPEG)
【表8】S510 白黒 BBっと画像(JPEG)
まず一見してわかるのは、DR-2510Cはそれでもちゃんと白黒のグラデーションになっているのに、S510はやや緑が強い傾向な事。これを避けるには読み取り時に白黒原稿を指定するのが早道だが、JPEGの時には白黒が選べないので、後処理で行なうしかない。また、元画像と比較すると明るくなってしまうのもちょっと欠点で、このあたりはS510のディスアドバンテージと言える(*3)。 またDR-2510Cは100dpiのときでもきちんとグラデーションが表現されており、これがPDFでも維持されればもっと評価は良かったのだが、残念だ。逆に言えば、このあたりはまだソフトウェア側で改善の余地があると言えるのかもしれない。 (*2) HamanaにGhostscriptを組み合わせるとPDFの表示は可能だが、さすがにこれをやるくらいならAdobe Readerで表示したほうが高速だ。 (*3) S510を使っているときに、モノクロとカラーが混在した原稿で自動認識を掛けると、しばしばモノクロページがカラーで誤認識されて、こんな色になることがある。筆者はこれがイヤで、あらかじめモノクロページとカラーページを分けてスキャンし、後でAcrobat上で合成するという手間のかかる作業をしばしば行なっている。このあたりはS510の欠点と言って差し支えないだろう。
●まとめ S510を強く意識したDR-2510Cだが、総評としては「まだ熟成不足」と感じる。ハードウェア的には、とにかくスキャン終了の認識ミスは、どうにかして欲しいところだ。 ソフト面でも、ScanSnapに比べて使い勝手の悪さが目立つ。もちろんバージョンアップを繰り返して使い勝手の向上を図ってきたScanSnapに一朝一夕で追いつくのは難しいのかもしれないが、改善の余地は少なくない。これはPDF出力に関しても同じで、もう少し改善してほしい。筆者の用途なら、おそらく300dpiで利用する事になるだろうが(これが概ねScanSnapのスーパーファインと同じ程度になる)、スキャン速度やファイルサイズなどにアドバンテージがあるとは言いにくい(ファイルサイズに関しては品質とのトレードオフのため、筆者ならば品質を取りたい)。ただJPEGの出力結果を見ると、ハードウェアの問題というよりはソフトウェアの問題な気がするので、このあたりがバージョンアップされれば大分変わるかもしれない。 余談になるが、DR-2510Cの稼動音は、同社のプリンタというか、コピー機を連想させるものだった。それが良いとか悪いという話ではなく(実際騒音レベルは慣れれば慣れるレベルだ)、音質がいかにもキヤノンの製品という感じだった。こうした部分でも技術の継承というか、メーカーの特色がしっかり出るのは面白い。 □キヤノンのホームページ (2007年12月27日) [Reported by 槻ノ木隆]
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