第398回
Mac OS X 10.5 Leopardレビュー(2)



Mac OS X Leopard

 先週末、Leopardが届くとスグに筆者のMacBook Pro(17インチCore Duoモデル)にインストールした。“ファーストインプレッションを書いているのに、なぜインストールDVDを持っていないのか”という質問が多かったので、その点について簡単に書いておく。ファーストインプレッションを執筆するために使ったiMacは、米Appleからの貸し出し品である。

 ご存知のようにAppleは(おそらく初登場時のインパクトを強めるため)新製品の情報管理を徹底して行ない、情報が漏れないようにしている。OSの場合、ソフトウェア開発者向けには公開する必要があるが、開発者に向けて公開されているのは製品版より前のバージョンで、正式発売後にならないとダウンロードできない。

 また製品版の先行レビュー用の機材はAppleから直接割り当てられたもので、誰に貸し出すかといった管理は米国本社で行なっているようだ。特にAppleに対して甘口というわけでもなく、猛烈なApple信仰者でもない筆者を選んだというのは、製品の質に自信があったからなのだろう。

 それはともかく、Leopardのさまざまな改良点、新機能は確実にコンピュータ、あるいはOS全体にかかわる操作感をアップしてくれる。その点は賞賛に値するすばらしいリリースだが、リリース初期にありがちなトラブルはいくつか発生しているようだ。

●互換性情報の充実を求む

 Leopardリリースにおいて、1つだけAppleに苦言を呈したいことがある。それは正式版リリースまでのプロセスだ。

10月25日に、記者向けに紹介されたLeopardの画面

 前述したようにAppleは製品発表まで、徹底した秘密主義を貫いている。このこと自体は、ほとんどの製品において正しいやり方だとは思うが、OSに関してはこの限りではない。OSの更新は、OSの機能を利用しているあらゆるソフトウェアとの互換性問題を引き起こす可能性がある。

 たとえAPIレベルの仕様は同じであっても、ちょっとしたライブラリのバージョン違いでソフトウェアが動かなくなるというのは、よくある話だ。きちんと動作しているように見えても、その実、細かな振る舞いが変化してしまう場合もある。

 これはWindowsでもLinuxでも同じ話なので批判するつもりはないが、それらのOSは発売前にかなり広範なテストを行なって出荷している。たとえばWindowsの場合、出荷候補版も含め、リリースが近くなるほど開発者向けには頻繁にアップデートリリースが行なわれ、発売前の段階で主要なデベロッパ、システムインテグレータの手元に届くよう配慮されている。

 おそらくApple社内でメジャーなソフトウェアとの互換性は検証した上で、動作しないソフトウェアに関しては連絡を取り合っていると思うが、各国固有のソフトウェアや個人でシェアウェアを販売しているケースなどでは、徹底されていない場合もあるはずだ。

 たとえば日本語IMEの定番、ジャストシステムの「ATOK」は、ATOK 2006以降ならばLeopardで動作する。LeopardはTigerで導入された、新しい入力環境のフレームワークに対応した日本語IMEしか利用できなくなったが、ATOK 2006はTiger対応ということで、そのフレームワークの上で作られていたからだ。

 ところが上書きインストールではATOK 2006を利用できるものの、新規インストールは行なえない。インストーラがLeopardで動作しないからだ。ジャストシステムはこのことを、あらかじめ発売の数日前にニュースリリースを出して告知していたが、一部にはATOKが使えないといった情報も流れていた(いくつか知り合いから質問のメールも受けた)。実際にはATOKのサイトで配布されているインストーラを用いることでインストールが可能になる(ただし、機能的な制限は若干ある)。

 筆者の場合、あまりオンラインソフトウェアを使っていないこともあり、自分のMacBook Proにインストールした後も、深刻なトラブルは抱えていない。またほとんどの場合、短期間のうちにパッチが揃うだろうと楽観的にも考えている。とはいえ、まだほとんど評判を聞かないうち、実際に身近にインストールして成功した事例を見ないうちは、製品の登場感を演出するというのは、販売戦略としては必要なことなのかもしれないが、OSというすべてのソフトウェアに関連する重要な製品なのだから、もう少しオープンにテストを行なう方が良いのではないだろうか。

 Leopardの製品紹介にも、Leopardに関連するサポートページにも、互換性に関する具体的な言及が(現時点では)ないというのは、さすがに不親切だ。掲示板形式のサポートフォーラムは利用できるが、こうした場合はアップル側で情報をまとめるべきだろう。

 少なくとも主要なソフトウェアとの互換性情報、特に対策が既に存在する場合は、その情報へのリンク。またPowerPCユーザー向けにClassic環境のサポートを行なわないこと、互換性に影響を与えると思われるライブラリの変更などについては、分かり易く一覧できるようにしてほしいものだ。

●Leopardをきっかけに仕事のスタイルを変えてみる

 Leopardの新機能に関しては、どうしても派手なアニメーションばかりが目立ってしまっているが、ファーストインプレッションでも述べたように、実際にはシステムの最深部まで含めて、実に配慮の行き届いたアップデートが行なわれている。

 あるいはLeopardは「派手な機能を追加しただけのアップデート」と考えている人もいるかもしれないが、実際にはもっと地味で渋いアップデートではないだろうか。カーネルのチューニング以外にも、各種定番アプリケーションの“チューンナップ”が、Leopardの気持ちよさを加速している。

 たとえばMail.appの機能アップについて、ファーストインプレッションでお伝えしたが、実際に自分のアカウントで新しいMailを使っていると、ずいぶんと動作のレスポンスが良くなっているように感じる。POPやIMAPのメッセージダウンロードも同じ。LeopardではMailが使うデータベースの形式が新しくなっているのだが、かなり細かいチューニングが行なわれたのではと推測している。

Mailで利用可能なメモはHTML形式でIMAPのメールボックスに保存することも可能。画像や各種添付ファイルを含んだ情報を保存できる

 加えて、たかがメモ機能と思っていたMailのメモも、意外に使えるという印象だ。このメモ機能とTo-Do機能を使いこなせば、とうとうExchangeサーバーからの卒業を実現できそうだ。

 Mailのメモ機能はメールクライアントの中にメモを置くだけという、実にシンプルな機能だ。しかし、Outlookのメモ機能に比べると、ずっと簡易ワープロに近い。画像や動画、音声なども貼り付け可能で、テキスト編集に関する機能も必要十分。もちろん、Spotlightでの検索も可能なので、これまで(Windowsの)Office OneNoteで行なってきた作業も、このメモ機能で代用できるだろう。

 そして、IMAPサーバーでメールボックスをサーバーに置き、同期しているユーザーは、メモ情報もIMAPで権利される(メールメッセージと同様の扱い)。このため、他のPCに乗り換えたり、あるいは一時的にIMAPアカウントを登録して使おうといった場合にも、メモを簡単に探せるという利点がある。

 メモが増えて来た時に分類管理するようなメタ情報を付加したり、あるいはメモを複数のフラグで仕分けるといったことができないのが難点だが、しばらくはメモ機能をより積極的に利用してみることにしたい。

 こうしたメモの中に、重要な「To-Do」を書き込んでおくというのは、よくあるやり方だろう。そうしたToDo情報の行にカーソルを置いて(あるいはメモの一部を選択状態にして)「To-Do」ボタンをクリックすると、メモの中にある文章をTo-Doリストとして登録することが可能だ。Mailで管理しているTo-Do情報はiCalとも連携している。

メール中にTo-Do項目を見つけたら、そこを選択して「To-Do」ボタンをクリック。To-Doのヒントはメール内にあることが多いため、そのメモ代わりに使うと便利。登録したTo-Doは右の画像のようにカレンダーデータとして登録される

 そのiCalは、従来の使いにくさを払拭して使いやすい製品になった。これまでは側面にドロワー(引き出し)を出し、そこに予定の詳細を表示。編集もドロワーの中で行なわなければならず、特に月間表示ではカレンダー上に予定が表示されている位置とドロワーが離れてしまい、視認性、使いやすさの両面で今ひとつの印象だった。

 その点、新しいiCalは詳細表示がカレンダー上の予定位置にポップアップ。そのままポップアップの中身を編集することで入力が可能だ。個人的に不満な点はあるが、基本的な使い勝手は十分なレベルに達している。

【お詫びと訂正】初出時、iCalについて「相変わらず、タイムゾーンを指定しての予定入力が行なえないなど」とありましたが、Leopardの機能設定で「時間帯を有効にする」をチェックすることでタイムゾーンに対応します。お詫びして訂正させていただきます。

自動的に日付を認識して予定表を入力可能。「今週の金曜日に」といった相対的な日付の指定にも対応している 予定の入力はその場でウィンドウがポップアップ メール内で入力した予定やTo-DoがiCalに反映されている

 また、ファーストインプレッションで紹介したように、Mail内のメールメッセージやメモの内容を分析し、住所や日時などを抽出。そこから簡単に予定表データやアドレス帳データを入力する機能は、言うまでもなく実に便利だ。

 しかも、新しいiCalはCalDAVに対応している。CalDAVはiCalendar形式のデータを、WebDAV拡張のプロトコルで制御するもので、グループで共有するカレンダーをWebDAVサーバーを用いて提供するための規格だ。WindowsでもOutlook 2007やSunbirdといったプロダクトが対応しており、WindowsとMac OS Xの混在環境でグループカレンダーを持つもっともシンプルな手法と言える。

iCal自身の使い勝手もかなり高まった。なお、Mailから入力されたスケジュールには、自動的に元となったメールメッセージへのリンクが張られ、簡単に元メッセージを辿ることができる こちらはアドレスデータを自動抽出した例。電話番号、メールアドレス、住所、郵便番号などを抽出したが、会社名までは抽出しなかった。とはいえ、こちらも重要データの転記ミスが減るなどのメリットが大きい

 CalDAVサーバーはLinuxなどで構築してもいいが、Mac OS X Serverの最新版(Leopard Sever)は標準対応だ。現時点ではLeopard Serverを入手できていないが、近いうちにLeopard Serverが入手でき次第、どこまで簡単にモバイル環境にも対応したマルチプラットフォームのワークグループ環境が作れるか、試してみることにしたい。

 最終的にLeopard Serverを使わないにしても、CalDAV、LDAP、IMAPといったオープン仕様をベースにすべてが構築されていることもあり、予算に応じてさまざまな使い方ができるのはうれしい。

 オープン仕様の上に成り立つMail、AddressBook、iCalが、それぞれ細かく連携し、Mailをフロントエンドにして各種の情報を操っていく。以前ならWindowsのOutlook上で行なってきたことだが、この機能を積極的に活用、さらにWindows上では同じプロトコルをサポートするツールを探し、相互運用の方法を模索していこうと思う。そう運用方法を改めてみようと思うほど、地味ながらLeopardの操作環境は改善した。

□アップルのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□関連記事
【10月29日】【本田】Mac OS X 10.5 Leopardレビュー(1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1029/mobile397.htm
【10月25日】【本田】Mac OS X 10.5 Leopardファーストインプレッション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1025/mobile396.htm
Mac OS X 10.5 Leopard関連記事リンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/link/leopard.htm

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(2007年10月30日)

[Text by 本田雅一]


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