第393回
チックとタック。あなたの好みはどちら



“チックタック”モデル

 現在、米サンフランシスコで開発者会議「Intel Developers Forum 2007」を開催しているIntelだが、彼らが近年、よく使っている言葉に「“チックタック”モデル」がある。“チックタック”とは、ご存じのように時計の振り子運動を模した言葉。Intelは主にBanias(初代Pentium M)以降の省電力を意識したプロセッサや、チップセットなど周辺チップをふくめたプラットフォームに対してチックタックモデルを採用している。

 Intelは定期的に更新される製造プロセスの切り替えリズムの中に、半周期ずらしたマイクロプロセッサのアーキテクチャ変更周期を組み合わせ、リスクを最小限に抑えながら新しいアーキテクチャを定期的に投入するリズムを保っているのである。そして、同時にチップセットとプロセッサの間でも、同様のリズムを保っている。

 今回はそのリズムが現時点でどのような状態になっているのかを、ノートPC関連に話を絞ってお伝えしたい。

●少し前までのチックタックを振り返る

一定の間隔を保って製品が投入される

 Intelがチックタックモデルを本格的に意識し始めたのは、65nm世代の製品からだろう。それ以前も基本的には同じ考えで判断はしていたはずだが、現在ほど正確なリズムではなかった。

 65nm世代の最初の製品、Core Duo(即ちYonah)は、モバイルでの省電力を意識しながらデュアルコア化を果たした初めてのプロセッサだったが、処理パイプのアーキテクチャの基本はその前のPentium M(Banias/Dothan)を踏襲したものだった。デュアルコア化という大きな作業はあったものの、命令を処理するためのアプローチは大きく変わっていない。

 そして、65nmであることを活かし、トランジスタの増分を使って命令処理のアプローチにメスを入れた、ブランニューのマイクロアーキテクチャはCore 2 Duo(即ちMerom)として、Yonahの約1年後にローンチしている。

 さらに11月12日に発表されるPenrynファミリは、Meromのアーキテクチャを踏襲しながら細かな改良を加え、新しい45nmプロセスで製造される。新しい製造プロセスの導入では、予想できない状況に陥る可能性も低くないため、問題切り分けのしやすさやリスクを回避する意味からも、すでに十分に熟成しているMeromをベースにするわけだ。

 これらを振り返ってみると、実は“チック”プロセッサの出来が悪くないことがわかってくる。Meromはパフォーマンスが大いに改善されたが、Yonahとの差は意外に少なかった。もう少し遡ってみると、Dothanもまた“チック”プロセッサと言えるが、こちらもBaniasの弱点を修正して非常に手堅い成果を挙げたプロセッサだ。

 実際に製品化した製品をさらに改良し、より進んだプロセスで製造するのだから、ラディカルなアーキテクチャの革新は期待できなくとも、確実に安定した進歩が期待できるのは当然と言える。

 一方、“タック”プロセッサは、全く新しいアーキテクチャへの更新となるため、いくつかのリスクを内包することになる。実際にアプリケーションを動かしたことを想定し、シミュレーションを重ねながら内部設計を最適化しているとはいえ、想定外のことは起きるものだ。革新的に性能(必ずしも速度だけではない)が向上することもあれば、大きな弱点を抱えるアンバランスなプロセッサともなりやすい。

 たとえばPentium Proは保守的なIntelとしては、かなりラディカルな“タック”プロセッサだったが、16bit性能が低すぎる、歩留まりが悪すぎるなどの理由で主流になりきれず、次の“チック”プロセッサであるPentium IIまで、このマイクロアーキテクチャは普及しなかった。さらに言えば、Pentium世代にも同じようなことがあった。

 しかし、悪いことばかりではない。優秀な“タック”プロセッサ、初代Pentium MのBaniasのように、ノートPCの使われ方を一新するようなプロセッサが登場することもあるからだ。蓋を開けてみなければわからない、ドキドキ、ワクワク感は、圧倒的に“タック”プロセッサの方が大きい。

●45nm世代のチックタック

11月12日に発表されるPenryn

 さて、これから直近のチックタックだが、前述したように45nm世代の“チック”プロセッサであるPenrynが11月12日に発表される。もっとも、最初に発表されるのはPenrynファミリでも極端な位置付けのCore 2 Extreme後継プロセッサと、Xeonシリーズ後継プロセッサの一部のみと見られている。本格的なPenrynファミリへの移行は来年(2008年)初頭で、モバイル製品はここで登場する。

 そもそも保守的な“チック”プロセッサだけに、Meromファミリとの差はさほど大きくはないだろうが、今回は保守故の安定した性能に加え、45nm世代への移行という、近年の半導体業界のトレンドで、もっとも大きな意味を持つ出来事がある。しかも歩留まりはすでに安定しており、ライバル(AMD)との競合状況を見ながら順次発表するという、供給力に余裕を持った状況でのスタートとなる。

 このため、Penryn世代のプロセッサは間違いなく成功した製品になるはずだ。Intelの歴史を振り返ってみても、もっとも強力な“チック”プロセッサである。ただし、おもしろみがあるかと言えば、実につまらない。安定志向で確実に高性能、快適な高級セダンを選ぶようなものだ。

 一方、45nm世代の“タック”プロセッサであるNehalemは、最終的には1〜8個以上のコアを持つスケーラビリティの高い、マルチコアプロセッサだ。マルチチップパッケージ技術を用いて3次キャッシュメモリ容量を選べたり、内蔵グラフィックアクセラレータやインターコネクトインターフェイス(Quick Path)の数もいくつかのバリエーションがある、用途ごとに多様なバリエーションを持つプロセッサになる。DDR3メモリへの完全移行や、プロセッサごとにメモリインターフェイスを持つなどの変更もある。

45nm世代のプロセッサ、Nehalem 45nm世代のCPUたち

 まだ詳細については明らかにされていないNehalemだが、性能が向上することは間違いない。回路規模の肥大化も、45nm世代のリーク電流の少なさや歩留まりの良さを考えれば、さほどマイナスとはならない。ワクワク度を求めるならNehalemだし、性能面でも確かに進歩はあるだろうが、ノートPCの購入時期をNehalemに合わせてリズムを合わせるにはややリスクもある。

 Intel製品には、もう1つ別の切り口で見た場合のチックタックリズムがあるからだ。

●モバイルプラットフォームにもあるチックタックのリズム

 Intel自身が公言しているように、モバイルプラットフォームは新しいチップセットともに生まれ、それを新しいプロセッサでリフレッシュした後、次の新しいチップセットに移行するというチックタックモデルを採用している。

 新しいチップセットは新しい機能やシステム全体の性能、あるいは内蔵グラフィックスの性能向上といったものをもたらす。買い換え時はプロセッサのアーキテクチャチェンジではなく、チップセットの更新に合わせる方がいいと考えている読者もいるだろう。

 しかし、そのチップセットの性能を100%発揮させるには、リフレッシュ後を狙った方がいい場合もある。プロセッサとチップセットが連動する機能の場合、新しいプロセッサが出てくるまでは機能が有効にならない(もちろん、その逆のケースもある)。

 新チップセット登場時期は、チップセットやマザーボード、ドライバなどにバグが出るリスクが高い代わりに、最新の機能を利用できる。プラットフォームのリフレッシュ時は、十分に成熟したプラットフォームでシステムとしては安定するが、プロセッサのアーキテクチャ変更が伴う場合が多い。

 つまり、革新を狙う“タック”プロセッサは保守的な“チック”プラットフォームと組み合わされ、保守的な“チック”プロセッサは新機能を備える“タック”プラットフォームと組み合わされる。こうすることでアーキテクチャの移行に伴うリスクを分散させ、スムーズなPCシステムの進化をさせている。たとえばSanta Rosaプラットフォームの導入は、Napaリフレッシュで実績のあるCore 2プロセッサで行ない、PenrynプロセッサはCore 2で実績を積んだSanta Rosaプラットフォームに行なう(つまりSanta Rosaリフレッシュ)というリズムだ。

 現在、市販されているモバイルPCは、小型/超薄型の製品はNapaリフレッシュ、それ以外はSanta Rosaになっているが、小型/超薄型モデルがSanta Rosaリフレッシュになるには多少、時間が必要だろう。一方、一般的なフォームファクタのノートPCは、一気にSanta Rosaリフレッシュになるが、来年にはグラフィックスが強化され、WiMAXにも対応、HD DVDやBlu-ray Discのデコードや高画質表示を意識するMontevinaが登場する。

 しかし、プロセッサのチックタックとは異なり、プラットフォームのチックタックはNehalem世代で一度、リズムチェンジを行なわなければならない。システムアーキテクチャの大幅な変更が加わるため、従来のバスアーキテクチャとは異なるチップセットでなければ動作しなくなるからだ。

モバイルプラットフォームのチックタック構造 2008年にはMontevinaが登場

●Nehalem世代は“タック”+“タック”

 Nehalemについては、今後、少しずつ詳細が明らかになっていくだろうが、これまでのように新しいアーキテクチャのプロセッサに、実績のあるプラットフォームを組み合わせるという手法が通用しない。共有バスによるプロセッサとチップセットの接続ではなく、1対1でチップ間をインターコネクトしていく新しいアーキテクチャに変わるからだ。

 このため、“タック”プロセッサのNehalemに、“タック”プラットフォーム(チップセット)を組み合わせることになる。おそらくNehalemの最初のプラットフォームは、内蔵グラフィックスに関してはプロセッサ側に移動することもあって大きく進歩するはずだが、機能面ではあまり欲張らない(Montevinaとさほど変わらない)だろう。

 とはいえ、新規設計のプロセッサとチップセットを同時採用となると、保守的なユーザーは嫌うかもしれない。ただし、当たれば大きいのが新規設計チップ。“タック”+“タック”の組み合わせが、どのような新しい価値を創造してくれるのか。来年のIDF Shanghai、そしてサンフランシスコのIDF 2008と、Nehalemへの興味はつきない。

 しかし、知識欲から来る興味と自分で使う道具は異なるという保守的な考え方ならば、Santa Rosaリフレッシュは良い選択肢である。モバイルPCの場合、使われているコンポーネントの性能や機能よりも、筐体のデザインや使いやすさ、サイズなどが重視されることが多いが、ここから数年はプロセッサもプラットフォームも変革期に入る。プロセッサとプラットフォームのリズムをよく検討しながら、どの世代の製品が自分に必要かをよく見極めたい。

□Intelのホームページ(英文)
http://www.intel.com/
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/
□関連記事
【9月20日】【IDF】ポール・オッテリーニCEO基調講演
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0920/idf03.htm
【9月20日】【海外】IntelがNehalemの概要を発表、実動デモも公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0920/kaigai388.htm

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(2007年9月21日)

[Text by 本田雅一]


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