大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

松下電器 大坪文雄社長インタビュー(下)
徹底した「商品」へのこだわり




松下電器 大坪文雄社長

 松下電器産業の大坪文雄社長は、「商品」へのこだわりを徹底する。その徹底ぶりは、もしかしたら、前任の中村邦夫氏以上だと、言ってもいいかもしれない。そして、そのこだわりは、創業者である松下幸之助氏に通じるところがあるともいえそうだ。

 大坪社長が商品にこだわる背景には、自らが技術畑出身の社長であることも作用しているといえそうだが、それ以上に、松下電器の成長戦略には、これまで以上に「商品」にこだわることが不可欠との認識があるからだ。それは信念といえるものかもしれない。

 後編となる今回は、大坪社長体制における新生・松下電器の「商品」へのこだわりとともに、2007年1月に発表を予定している中期経営計画の基本的な考え方、そして、成長エンジンと位置付ける海外事業への取り組みなどについて聞いた。



2006年度第1四半期の海外事業の成果。成長エンジンを証明するような伸張率

-- 松下電器は、海外事業は成長エンジンと位置付けています。大坪社長体制になって、海外事業はますます重要になってきますね。

大坪: 海外事業と一口にいっても、北米、欧州、中国とそれぞれに異なったマーケットがあります。その異なるマーケットに対して、共通していることをあげるとすれば、パナソニックの優れた商品を、我々の総力として、マーケットに対して着実に投入していくことです。

 北米市場は、プラズマTVをトリガーにして、いよいよ他のデジタル商品にまで拡大していく道筋がつきはじめた。BestBuy、Circuit Cityに代表されるような大手量販店とは、価格面での交渉に留まるのではなく、お互いの資金繰りや、資金負担に関してもベストな関係を構築しようと、VMI(ベンダー・マネジメント・インベストメント)の手法を用いた関係を構築しつつある。

 また、“プラズマコンシェルジェ”という名称で、パナソニックのプラズマTVを購入していただいた方々に、一種のステータスを持っていただくために、さまざまなサービスを提供するといったことも、6月から開始している。

 欧州は、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペインといったようにさまざまな国の集合体ですから、それぞれの国の特性と、それぞれの国におけるパナソニックの力を見て、最適化した施策を打っている。北米のVMIに相当する取り組みとして、AA(オートマティック・アベイラビリティ)とか、DD(ダイレクト・デリバリー)といった手法によって、商品の供給だけでなく、新たな協業関係を深めてきています。

 欧米では、こうした特徴ある取り組みが、現実的に動きはじめ、成果をあげようとしている。

 中国も、戦略を実行するためのITインフラを整備し、ビジネスを推進する基盤が整ってきた。杭州の生産施設も中国における基盤づくりの1つです。

 中国市場は、中期経営計画の中で、今年度1兆円という売り上げ計画を出していますが、携帯電話事業の縮小もあり、まだ、どうなるかわからないところがある。今年度、計画の数字までいければ、それをベースにさらに増販を考えるし、いけなかったらその理由を考え、携帯電話事業がないという前提で、2007年度以降をどうするかを考えたい。2007年1月に発表する中期経営計画のなかで、具体的な数字は発表しますが、増販に向けた体制づくりを確実なものとし、それにふさわしい計画を明確に打ち出すことになります。

-- 2005年の今頃、大坪社長にお目にかかったとき、海外事業が思い通りに成長しないことに、かなりやきもきしていたように感じられましたが。

大坪: 当時は、PAVC社の担当でしたが、急成長を遂げようとするプラズマ事業と、シュリンクしていくブラウン管事業をどうするか、といったことを悩んでいた時期でしたね。これは、その後の成果を見てもご理解いただけるように、ダイナミックな再編をすすめてきました。今後の全社規模での海外事業という観点で見ますと、これまでPAVC社が経験したが、他のドメインではまだこれからという部分も見受けられる。もちろん、置かれた状況や、時代の早い変化を背景に、すべてがそのまま当てはまるとはいえないが、PAVC社で実践してきたことが、生かせる場面も少なくないともいえる。海外拠点をもう少し集約していく必要があるのではないか、あるいは、効率活用がもっとできるのではないか、といったことにも取り組んでいきたい。

 海外の増販、増産は大きな課題です。松下電器の主たるエネルギーを海外事業の増販へとつなげたい。そのためになにをすべきかといった答えを早急にとりまとめ、いち早く実行につなげたい。

-- 社内の声を聞いていますと、大坪社長は、考え方や議論の焦点を「商品」にまで落とし込もうとしているようですね。なぜ、「商品」にこだわろうとしているのでしょうか。

大坪: 松下電器は中村改革によって、新しい松下の形を作ることに成功した。では、なぜ、松下電器は新しい形を作り上げたのか。多くの人は、中村改革の破壊ばかりに目がいっているが、中村改革にはV商品という創造があり、破壊ばかりがあったわけではない。商品は中村改革の重要な部分なんです。

ブラウン管TV工場の再編への取り組み すべての活動は「商品」として結実

 もちろん、社内では、V商品と呼ばれる戦略製品が、改革の原動力になったことは多くの人が理解している。だが、もし、社内に、これからも継続的にV商品を投入していけば、成長を維持できるだろうという気持ちがあったとしたら、V商品は弱体化するだけです。ここでも、「闘う」ということをもっと強烈に言わなくてはならない。もっと商品にこだわろうと。最終的に松下電器が勝負するのは商品そのものなのです。

 確かに、プラズマTVやデジタルカメラ、あるいはエアコンや洗濯機でも、最近の松下電器には、他社にない商品が出てきている。だが、これで、マーケットを圧倒したのか、経営として満足できるレベルに到達したのか、というと、そんなことはない。

 ですから、このままで満足するのではなく、もっと商品のことをがんばらなくてはならない。

 繰り返しますが、松下電器がここまで戻った原動力は、商品なんです。ただ、まだ満足できない。それならば、もっと商品を強くする。これが本当のモノづくり立社なのです。

同社がV製品と呼ぶ、プラズマTV「VIERA(ビエラ)」(左)、デジタルカメラ「LUMIX(ルミックス)」(右)

-- 2007年1月に発表する中期経営計画も「商品」にこだわって立案しているようですね。

大坪: そうです。その点では、これまでの立案の仕方とは異なっています。

 各ドメインのトップから見て、重要な製品を提示し、スペック、価格、他社との競争状況、シェア、収益、ポジションを明確にして、2007年、2008年に、どうポリッシュアップしていくのか、あるいは他社と差別化するための要素はなにか、マーケティング施策はどうするか、それらを具現化するために克服する技術課題はなにか、これを主要な商品レベルにまで落とし込んで、今後3年分を明示してくれといっている。

 さらに、商品のコスト構造も明確にしてくれ、今年はこうになっているが、2009年にはこうしたいということも示してくれとお願いしている。私は、まず、商品の細かいことに、こだわりたい。薄型TVを例にあげれば、プラズマTVの50型ではどんな戦略を打つのか、42型はどうするのか。その時に、液晶TVの45型とはどう闘うのか。それを徹底的に議論していきます。

 大変なことだが、これを徹底してやる。そのシナリオがきちっと描ければ、もし数字が狂っても、修正の方法もわかる。間違った時に修正しやすくなるというのは大きな意味があります。

 就任後から、「こんにちは大坪です。」というホームページを作り、その中で、社内の公式行事で感じたことや、中期経営計画の策定に向けて、何を目指しているのかを示し、さらに策定の仕方がこう変わり、そのためには、1つ1つの商品をトップに問う、ということを示した。抽象的な、「がんばります」という言葉では認めないということも明確にしました。

 また、中期経営計画の検討会の場には、代表的も商品や技術を持ってきてくれとも言っている。冷蔵庫のような大きなもので、持ってくるのが大変ならば、それを動かす制御回路でもかまわない。とにかく「モノ」を持ってきて、自分たちで、「これは、いまこうだから、次はこうするんだ」ということを明確に言ってくれとお願いした。社員にとっても強い緊張感が生まれますし、私自身も緊張感をもって取り組む。その時に、ドメインの意見だけが通ってしまうと思われたら私の負けですから(笑)。それこそ真剣勝負です。私と、各ドメインのトップが闘いをしている。ここでも、闘う松下なんです。

-- 各ドメインからはいつ頃までに提出を求めていますか。

大坪: この方針を出したのは7月中旬です。これから年末商戦向けの新製品が相次ぐため、そちらにリソースを割かれることも考慮して、上期が終わって以降、検討を行ない、早急に取りまとめて欲しいといっています。

-- 細かいところに集中しすぎて、経営全般を見誤るということはないですか。

グローバルエクセレンスに向けて

大坪: それはないでしょう。むしろ、そうした細かいところまでを見て、冷静に判断し、足らざるところがあれば補うところに本社の役割がある。本社とドメインが知恵を出し合って、2009年度が終わったときにグローバルエクセレンスといえるだけの方針を出そうと。ここに、商品まで落とし込んで、中期経営計画を策定する意味があるのです。

 私は、各ドメインが提出してくる中期計画にすごい期待をしているんです。すべてのドメインが、モノづくり立社の考え方をベースにして、積み上げてくる数字ですからね。細かいところにまで、合理的で納得できるものが作れると考えています。

-- 2007年1月10日の経営方針発表では、「サプライズ」はあるのでしょうか。

大坪: サプライズは、きっと無いと思いますよ(笑)。グローバルエクセレンスに到達するための奇手奇策はない。むしろ、地に足がついた活動を行ない、それが年々収益の上昇に結びつく。こうした成長の実績を見て、サプライズを感じていただくことだと思っています。奇手奇策のサプライズは必要ない。結果でサプライズを感じてもらえればいいと思っています。

-- 「創生」、「躍進」ときたので、次も漢字2文字の熟語ですか(笑)

大坪: そうなる可能性は高いかもしれませんね。ただ、重要なのは、全社員が共有できる言葉であり、英語に訳しても、海外の社員にも共有してもらえる言葉を考えている。同様に年間のスローガンも、ドメインから出てくる結果を見れば、どういうものにすればいいかが、自然と出てくるはずです。イメージとしては、収益を伴った着実な成長、モノづくり立社といったことを背景にしたものになるでしょうね。本社スタッフの知恵を借りて、自分の思いを明確にしたいですね。

-- 中村前社長は、2000年6月に社長に就任してから、わずか5カ月後の11月時点で、創生21計画を発表していますね。それに比べると、2007年1月の発表は時間がかかりすぎでは。

2004年度の経営方針説明会で発表された「躍進21計画」の目標

大坪: 確かにそういう見方があるかもしれませんが、2006年度は、私が社長に就任した年であると同時に、「躍進21」のまとめの1年でもある。いま、営業利益率5%以上の達成を目指して、必死になって取り組んでいる段階です。

 グローバルカンパニーとしての生き残りをかけ、その達成に向かっていこうという1年でもある。走っている時期に、新たな方針を11月に発表するよりも、例年通り、1月10日に2009年までの計画を掲げ、それに向かって一丸に取り組んでいく方が最適だと考えています。

-- ところで、社長を退くときのイメージというのはありますか。

大坪: いや、まだ考えたことはないですが、一番いいのは、グローバルエクセレンスに向けて、あるいはその次のステップに向けて、「目処がたちましたね」と言われてやめたい。それがベストです。

-- 「パナソニック」と、国内白物家電だけに利用している「ナショナル」とのブランド統合という可能性はありますか。

大坪: 確かにそうした議論もあるでしょうが、その点については、冷静に考えてみたい。ナショナルの認知度は国内では大きいですし、白物は大きなウエイトを占めている。最近では、経験したことがないシェアを獲得している商品もある。そういう時に、あえてリスクを犯してブランドを統合しなくてもいいと思っています。もう少し時間をかけて考えればいい。いますぐ、変える必要はないでしょう。

ナショナルブランドの白物家電製品も強力な製品が出揃った

-- 中村前社長は、IT革新なくして、経営革新は成しえないとして、IT推進本部長を兼務していましたが、これは誰が引き継いだのですか。

大坪: IT推進本部長は、私が、そのまま受け継いでやっています。経営トップが自らがIT革新の先頭に立つということは大変重要なことです。

-- ところで、大坪社長は、技術畑出身社長となりますが、技術者としての自己採点は何点ぐらいですか。

大坪: 技術者としては、60点ぐらい。ぎりぎり合格点でしょうか(笑)。いやもしかしたら50点かもしれないですね。この技術では誰にも負けないとか、それをベースに大変優れた技術を開発した経験は私にはないですよ。技術者として、これを作りたいというよりも、技術をベースにマネジメントする方が自分には合っているようですね。60点もあればいい方ですよ(笑)。かつての同僚に聞いたら、「60点は多すぎる」と言われかねないですから(笑)。


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【2005年5月10日】【大河原】松下、デジタル家電事業好調の秘密
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【2004年1月9日】松下、新中期経営計画「躍進21」。営業利益率5%を目指す(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20040109/pana.htm

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(2006年8月31日)

[Text by 大河原克行]


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