山口真弘の電子辞書最前線

第14回 シャープ「PW-TC920」
手書き入力に対応したワンセグカラー電子辞書




シャープ「PW-TC920」

6月29日 発売

価格:オープンプライス



 シャープの電子辞書「PW-TC920」は、ワンセグ放送に対応したカラー電子辞書だ。新たに手書きパッドを搭載したほか、従来モデルを細部にわたってブラッシュアップし、ワンセグ機能の使い勝手をさらに高めた製品だ。ヨドバシカメラでの購入価格は54,800円だった。

●「ワンセグ対応電子辞書」のマイナーチェンジモデル

 ワンセグ放送が観られる電子辞書として話題になったシャープ「PW-TC900」。量販店でも、電子辞書売場とワンセグ機器売場の両方に置かれるなど、電子辞書としては店頭のかなり広い範囲で目にすることができた。発売以来、BCNランキングでもほぼ常時5位以内につけており、一定のシェア獲得には貢献したと思われる。

 しかし、この製品が発売されてからの数カ月間で、電子辞書は「手書き入力対応」がスタンダードとなってしまい、手書きに対応しない「PW-TC900」は、電子辞書としては一世代前のモデルに見られてしまう不運な状態にあった。コンテンツ面で決して見劣りしないものの、今回の手書き入力ブームを作ったシャープとしては、春商戦以降、やや売りづらい状況にあったのではないかと推測される。

 そんな経緯からも、今回紹介する、手書き入力対応のワンセグ辞書「PW-TC920」の登場は、必然の流れだったと言えそうだ。

●外観、基本機能は従来モデルと変化なし

 従来モデルのPW-TC900はブラックおよびホワイトの2色だったが、本製品はブラックおよびレッドの2色展開。今回試用したのがレッドということで、従来モデルと違った印象を受けるが、外観上の差はほとんどない。本体が従来モデルより微妙に厚くなっているが、これにしても両モデルを並べてようやく分かる程度だ。

今回試用したのはレッドモデル「PW-TC920-R」 製品本体。レッドとシルバーのツートンカラー
従来モデルPW-TC900(左)との厚み比較。本製品(右)のほうがやや厚みがある サイズ的にはスーツのポケットにも収納可能だが、300gと重いため、あまり現実的ではない

 連続使用時間は20時間、ワンセグ使用時は5時間と、従来モデルと変わらない。本体重量は従来モデルから若干増え、約300gとなっている。

 ワンセグ辞書の大きな特徴であった、画面が180度回転する「テレビスタイル」、折りたたんで手持ちで使用する「ハンドスタイル」といったギミックは本製品でも健在。スピーカーや電源スイッチ、選局ボタンがヒンジ部にレイアウトされている点も、従来モデルを踏襲している。

 音量の調整は、上記のヒンジ部ボタンか、本体のメニュー上で行なう。ワンセグ利用時には瞬時にミュートしたい場合もあるだけに、個人的にはダイヤル式のほうが使いやすいのではと感じる。もしくはミュートボタンの実装を望みたいところだ。

液晶ディスプレイが180度回転できる 液晶を反転させた「テレビスタイル」。このほか、完全に折りたたんだ「ハンドスタイル」でも利用可能 ヒンジ部にはスピーカーのほか、電源ボタン、選局ボタンなどを装備する

 タッチペンは右側面に収納される。見た目が左側面のアンテナとほとんど変わらないため、タッチペンを取り出そうとしてうっかりアンテナを引き出してしまうことが多々ある。見た目の違いをつけるか、つまんだ際の感触で判断できるといった工夫を望みたい。

 搭載コンテンツについては、OXFORD現代英英辞典が第6版→第7版に変更されるなど、いくつかのコンテンツが最新版に差し替えられている以外は、大きな変化はない。コンテンツの総数も40のままだ。

【お詫びと訂正】初出時、「スーパー大辞林が3.0→4.0」としておりましたが、3.0のまま変更されていませんでした。ご迷惑をおかけした関係者の方にお詫びするとともに、訂正させていただきます。

 そのほか、従来モデルから引き継がれている機能として、SDカードスロット装備で簡易MP3プレーヤーとして使えること、コンテンツカードで好みのコンテンツを追加できるといった点が挙げられる。これらの機能の詳細は、「PW-TC900」のレビューをご覧いただきたい。

左側面のアンテナ先端と、右側面のタッチペンは、収納した状態では見分けが付きにくく、間違えることもしばしば 本体右側面にはSDカードスロット、タッチペンを装備

●手書きパッドを新たに搭載。2マス入力には非対応

 本製品では新たに手書きパッドが搭載されたわけだが、前回の連載で紹介した手書きモデル「PW-AT760」に搭載済みの1マスと2マスの切り替えに対応しておらず、1マスでの入力しか行なえない。PW-AT760に比べると手書きパッドの面積が狭く、実装が難しいのかもしれないが、同一メーカーの製品としてちぐはぐさを感じる。

従来モデルPW-TC900(右)との厚み比較。手書きパッドを搭載したため、本製品(左)はキーボードが上下に圧縮されており、レイアウトはかなり窮屈
キーボード手前の手書き入力パネルを用い、分からない漢字などを手書きで入力できる 手書きパッドは1マス仕様。2マスを使った連続入力には対応しない

 手書きパッドの搭載により、QWERTYキーは上下方向に圧縮されている。キートップのサイズに至ってはタテ方向でわずか5mm弱しかなく、手が大きな人がスムーズに入力するのは非常に困難だ。キーピッチもタテ方向でわずか9mm弱と、従来の電子辞書に慣れた人が使うと、かなり戸惑うことだろう。

 従来モデルで特徴的だった「辞書/テレビ」の切替ボタンは、丸型から一般的な角型に改められている。位置的に押し間違えることはないのだが、QWERTYキーと同じサイズで押しづらい。

【お詫びと訂正】初出時、必ず辞書モードで起動すると表記しておりましたが、ヒンジのボタンを押すとワンセグで起動します。ご迷惑をおかけした関係者の方にお詫びするとともに、訂正させていただきます。

辞書/テレビキーは従来モデル(右)に比べて小さくなり、押しづらくなった 辞書モードでは緑色のシルク印字、ワンセグモードでは赤色のシルク印字と、キーに割り当てられた機能が容易に判別できるようになった

 このほか、各種ファンクションキーのレイアウトも再編されている。中でも、最上段にあるメニューキーが数字キーと一体化し、「大辞林」、「英和/和英」といったシルク印字がキーボード上から消滅したのは大きな変化だ。これにより、電子辞書らしさが弱まり、AV機器的なスタイリッシュな印象が強くなっている。

上段のファンクションキーは、コンテンツ名の印字がなくなり、数字表記に統一された。これら数字キーは、ワンセグモード時にはチャンネルのショートカットとして機能する メインメニュー。従来のシャープ製品と共通の、タテ方向のタブ切り替えメニュー My辞書の設定画面。ここに登録したコンテンツは、手書きパッドにショートカットとして表示される

●ワンセグ関連機能にブラッシュアップの跡あり

 新搭載された手書きパッドの陰に隠れがちだが、ワンセグ関連の機能が細部にわたってブラッシュアップされていることは、本製品の大きな特徴だ。

 新たに搭載された機能としては、選局設定機能が挙げられる。初期設定時に必ずチャンネルをサーチしなければいけなかった従来モデルと違い、本製品は地域別のチャンネル設定がプリセットされており、スムーズに使い始められるようになった。旅行先などで利用する際、いちいちチャンネルをサーチしなくても、手軽に切り替えが行なえるのは便利だ。

 また、ワンセグの画面において、新たに番組名が表示されるようになった。従来モデルでは、チャンネル名こそ表示されるものの、番組名を表示することはできなかった。ワンセグ製品としては基本の機能であるが、細かい部分をブラッシュアップしてきた点は評価できる。

ワンセグ表示時。字幕の見やすさは従来モデル譲りだ 画面上段にテレビ局名のほか、番組名も表示されるようになった
こちらは拡大モード(480×272ドット)時。テレビ局名、番組名はこの状態でも表示可能 選局リストの設定画面。従来モデルではチャンネルをスキャンする必要があったが、本製品では地域での一発設定が可能になった

 細かいブラッシュアップとしては、もう1つ、キーボード盤面のシルク印字の強化が挙げられる。本モデルではワンセグ関連の操作がキーボード盤面上に赤字でシルク印字されており、直感的な操作が可能になった。チャンネルの切り替え1つとっても、これまでであれば上下キーでなければ行なえなかったのが、本モデルでは上部の数字キーを用いて操作できるようになっている。

 上記のように、ワンセグ視聴時の使い勝手は大幅に改善されているが、EPGやデータ放送、録画といった機能に対応しない点は、従来モデルと変わらない。実際にこれらの機能が使われるかどうかはともかく、セールストーク上はややマイナスだ。個人的には、データ放送や録画機能はともかく、EPGへの対応は望みたい。

 ちなみに、ワンセグの受信感度であるが、試用した限りでは、従来モデルとの違いは見られなかった。従来モデルと2台並べてテストを行なっている際、本製品だけが受信できるというシチュエーションもなかったわけではないが、ほとんど誤差と言ってもいいレベルに感じられた。もともと従来モデルも、ワンセグ製品としては十分な感度を持っていたわけで、これは特に問題にはならないだろう。

 1つ惜しいのは、新たに搭載された手書きパネルが、ワンセグ機能利用時にまったく活かされていないこと。ワンセグ視聴中にタッチペンを握って何かをするというのはナンセンスだが、データ放送の一部や番組名を表示するといった支援用途には使えるかもしれない。今後なんらかのメリットを打ち出してほしいと感じる。

●基本的に従来モデルのマイナーチェンジ版。ワンセグ重視派におすすめ

 従来モデルとの違いを一言で言えば「手書き入力対応」なのだが、そもそも手書き入力が標準となった現在、ようやくスタートラインに立っただけというのが正直な印象だ。実際に使った限りでは、むしろワンセグ関連機能のブラッシュアップのほうが目立つくらいだ。ワンセグ重視派であれば、使い勝手の面からも、従来モデルではなく本製品を選ぶべきだと思う。

 今回のマイナーチェンジモデルの投入は、同社がワンセグ対応電子辞書をこれからも展開していく決意の表れだとも言える。あまりサプライズと言える新機能こそなかったわけだが、次回以降で同社ならではの新機軸の機能が打ち出されることを期待したい。

【表】主な仕様
製品名Papyrus
PW-TC920
メーカー希望小売価格オープンプライス
(購入価格54,800円)
ディスプレイ4.3型カラーASV液晶
ドット数480×272ドット
電源リチウムイオン充電池
使用時間約20時間 (辞書使用時)
約5時間(TV使用時)
拡張機能SDカードスロット
本体サイズ132.0×91.7×24.0mm
(幅×奥行き×高さ)
重量約300g(電池、タッチペン含む)
収録コンテンツ数40(コンテンツ一覧はこちら)

□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□製品情報
http://www.sharp.co.jp/papyrus/lineup/pw-tc920/
□関連記事
【6月11日】シャープ、ワンセグ+手書きパッド搭載の電子辞書
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0611/sharp.htm
【2006年12月11日】【山口】第10回 シャープ「PW-TC900」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1211/jisho010.htm

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(2007年7月19日)

[Reported by 山口真弘]


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