山口真弘の電子辞書最前線

第13回 シャープ「PW-AT760」
手書き2マス入力対応、MP3プレーヤー機能搭載モデル




シャープ「PW-AT760」

5月25日 発売

価格:オープンプライス



 シャープの電子辞書「PW-AT760」は、100コンテンツを搭載した生活総合モデルだ。1マスと2マスを切り替えられる「選べる手書きパッド」を搭載するほか、MP3プレーヤー機能、音声コンテンツの搭載など、細部のブラッシュアップを図った製品だ。

●1マスと2マスを切り替えられる「選べる手書きパッド」を搭載

 昨年(2006年)11月に発表された、手書きパッド搭載のシャープ製電子辞書「PW-AT750」。その後、ライバルであるカシオも手書き入力モデルをラインナップしたことで、電子辞書の売れ筋モデルほぼすべてが、手書き入力をサポートするという状況になった。

 現在では、BCNランキングを見ても、ワンセグ搭載モデルやコンパクトタイプや除き、手書き入力モデルが上位を独占している。電子辞書の入力インターフェイスに関して、すっかり世代交代が起こってしまった格好だ。

 しかしその中で、元祖とも言えるPW-AT750は、販売台数がやや頭打ちの状況にあったのは確かだ。理由はいくつか考えられるが、後発であるカシオの手書きモデルが2マスを用いた連続入力方式をサポートし、機能面で差が付いてしまったことも、大きな要因だったと思われる。

 今回新たに登場したPW-AT760は、カシオの手書きモデルが採用していた2マス入力をサポートしつつ、従来の1マス入力にも切り替えられる「選べる手書きパッド」を搭載している。文字を連続入力する際は2マスモード、わからない漢字を調べるときは面積の広い1マスモード、といった使い分けができる製品である。

●ハードウェアは従来モデルと同一。コンテンツは音声重視で進化

 PW-AT760のハードウェアについては、従来モデルのPW-AT750とまったく同一。シルバーモデル(PW-AT760-S)のほか、新たにブラックモデル(PW-AT760-B)が追加されたが、筐体のデザインについては違いは見受けられない。手書きパネルの進化に伴って、パネル横のメニューの印字が変わったくらいだ。

製品本体。今回試用したのはブラックモデルのため従来モデルのPW-AT750とは印象が異なるが、筐体のデザインは同一 上蓋を閉じた状態。表面はヘアライン加工が施されている。やや指紋がつきやすい 手に持ったところ。胸ポケットに入れるにはやや苦しいサイズ
右側面から伸縮式のスタイラスが出し入れ可能。スタイラスは短め SDカードスロットを装備する 手書きパッド部のアップ。標準では、スーパー大辞林など5つのコンテンツが表示されている。カスタマイズも可能だ

 コンテンツ数は100と、従来モデルから増減はないが、「スーパー大辞林3.0」や「OXFORD 現代英英辞典 第7版」を搭載したことが新しい。また、合成音を用いたTTL方式の音声から、ネイティブ音声への切り替えがよりいっそう進められている。このあたりの進化の方向性は、カシオ製品とよく似ている。

 これと関連して、新しく追加された三省堂のコンテンツ「音声付き英語発音解説」が面白い。要は発音記号の発音方法を、アメリカ発音とイギリス発音、それぞれについてネイティブに収録したコンテンツなのだが、ありそうでなかったコンテンツとして興味深い。

 また「英会話とっさのひとこと辞典」に新たに追加された、音声の自動連続再生機能も興味深い。どのメーカーの電子辞書にも言えることだが、音声コンテンツは能動的に呼び出す必要があり、いわゆる聞き流しの形で利用することができなかった。本機能を使えば、通勤通学時など、英会話のよく使うフレーズを流しっぱなしで聴くことができる。地味ながらも着実に進化を遂げていると感じられる機能だ。

音声付き英語発音解説の画面。選択して決定を押すと、該当の母音/子音を用いた代表的な単語が表示され、実際に発音してくれる 「英会話とっさのひとこと辞典」に収録されている、自動連続再生機能。選択しておけば、例文を日本語、英語で連続して読み上げてくれる。聞き流しには最適なコンテンツだ

●1マスと2マスの切り替えが可能だが、文字の認識速度に難あり

 さて、冒頭でも書いたとおり、本モデルの目玉として挙げられるのが、手書きパッドの進化だ。本製品では、1マス対応だった従来モデルと異なり、左右に分割された2マスに交互に文字を書くことで、文字を連続してスムーズに入力することができる。ライバルに当たるカシオの電子辞書ではすでに搭載されている機能だが、シャープとしては本製品が初の搭載となる。

 過去の連載でも触れているが、この方式の違いは、「手書き」というインターフェイスに対する両社の位置付けが異なっているものと思われる。つまり、読みがわからない漢字1文字を入力するために手書きパッドを編み出したシャープに対し、後発に当たるカシオは連続入力できることを重要視し、マスが小さくなるのを承知で2マスを採用したわけである。

 そして今回のPW-AT760で採用された「選べる手書きパッド」は、連続入力と広い面積、それぞれのいいとこ取りを狙ったものである。わからない漢字を調べる時は1マスにしてゆっくり精細に記入、連続入力する際は2マスにしてすばやく記入。非常に理にかなった仕組みだと言える。

1マスでの手書き入力モード。連続入力には向かないが、面積を広く取れるため、画数が多い漢字でも余裕を持って書くことができる 変換候補を拡大表示することもできる
2マスでの手書き入力モード。左右に連続して書くことにより、高速に入力することができる。カシオ製品に比べると認識速度は劣る 連続して入力できるのは6文字まで。7文字目を入力する前に、あらかじめ「採用」をタップして候補文字を確定させる必要がある

 が、実際に使ってみると、同じ2マス入力とはいえ、カシオ製品と使い勝手はかなり異なることが分かる。カシオ製品では、新しい文字を書き始めると前の文字が自動認識されるが、最後の文字を書き終わった後は、一度認識ボタンをタップしなくてはならない。本製品では、最後の文字を書き終わったあと、一定秒数待つと自動的に変換が行なわれる。このあたりはシャープ製品の方が親切な印象だ。

 だが、これを瑣末な問題にしてしまうのが、文字の認識速度の違いである。というのも、シャープ製品における手書き文字の認識速度は、カシオ製品のそれに比べてかなり遅いのだ。筆記スピードを落とさなくてもスラスラ書けたカシオ製品と異なり、本製品では認識→表示までに明らかな待ち時間があり、ストレスなく書けるとは言い難いのである。

 どうやらこの認識速度の差は、従来モデルでも存在していたようなのだが、1マスしかなかったが故に気づきにくかったのが実情のようだ。1マスを中心に利用したり、あるいはゆっくり丁寧に書く人にとってはシャープ製品で問題ないだろうが、速記状態で急いで書く人には、本製品はちょっと勧めにくい。手書き入力の使い勝手にこだわる人は、実際に店頭で使い比べてみることをお勧めする。

●MP3プレーヤー機能を搭載。しかし機能の充実度はいま一歩

 次に、手書きパッド以外で、本製品に新しく追加された2つの機能/コンテンツを見ていこう。1つは「MP3プレーヤー機能」、もう1つは「音声図鑑」だ。

 「MP3プレーヤー機能」は、読んで字のごとく、SDカード内にあるMP3ファイルを、本体のスピーカーもしくはイヤフォンで再生できる機能だ。ファイル数は最大200件まで認識でき、1曲単位はもちろん、フォルダ単位のリピート再生も行なえる。再生中は、MP3ファイルのタイトルなどもきちんと画面に表示される。

新たに追加されたMP3プレーヤー機能。「便利な機能」メニューから呼び出す フォルダ内のMP3ファイルを一覧表示したところ。最大200曲まで認識可能とされている。対応ビットレートは32~192Kbps

 だが実際に利用してみると、いくつかの理由で、利用シーンが著しく制限されることに気が付く。1つは、他のコンテンツを参照しながらの再生ができないこと。つまり、MP3プレーヤー機能を利用する時はその機能を画面に表示しておかねばならないため、ほかの機能が使えないのである。逆に言うと、辞書を利用している最中は再生が行なえないのだ。

再生中の画面。ほかのコンテンツと同時使用ができないため、バックグラウンドで音楽などを流すといった用途には使えない。また、レジューム機能もないので、途中で他のコンテンツを利用した後は1曲目の頭から再生することになる 繰り返し再生設定の画面。特定のファイル、もしくはフォルダを指定してリピート再生が行なえる

 また、上蓋を閉じたままだとボリューム以外の操作は全く行なえない構造は、持ち運び時の利用にはつらい。側面にボタンをつけておいて、再生/一時停止/早送り程度は可能にしてほしかった。本家の携帯音楽プレーヤーとの比較が酷であることは、これらの仕様からも明白だ。

 もちろん、メーカーはこの機能が音楽再生用とは(少なくともプレスリリース上では)一言も言っておらず、あくまでも外国語の音声ファイルなどを再生するための学習用の機能との位置付けである。しかし「MP3プレーヤー機能」という名称からユーザーが受ける印象はそうではないだろう。やや中途半端であると評されても仕方のない仕様だ。

 余談だが、シャープの音声対応電子辞書では、イヤフォンジャックの径が市販品と同じ3.5mmプラグを用いているため、市販のお気に入りのイヤフォンと交換して利用できるメリットがある。それだけに、プレーヤーとしての機能が充実していないことが惜しまれる。もとが電子辞書だけに、あまり声高にエンタテイメント系の機能をを謳えない事情もあるだろうが、ここは1つ、ワンセグ辞書こと「PW-TC900」のような割り切りを求めたい。

●クラシックや鳥の鳴き声などを音声で再生できる「音声図鑑」を収録

 もう1つ、本製品から追加されたコンテンツとして、クラシック音楽や鳥の鳴き声を収録した「音声図鑑」が挙げられる。文字だけでは分からない音楽や声を、スピーカーやイヤフォンで聴き比べられるというわけだ。本製品の発表直後には、この機能をピックアップし「電子辞書初! 世界の名曲200曲収録」というコピーをつけ、本製品の予約販売を行なっている大手量販店もあったほどだ。

 だが実はこの機能、クラシックのサビに相当する部分、時間にして15秒ほどを再生できる機能にすぎない。また、これ自体は単独の機能というわけではなく、新しく搭載された「スーパー大辞林3.0」のコンテンツの一部に過ぎない。要するに、作曲者名のインデックスの中から、著名な曲がどんなフレーズだったかを、音で確認するための機能なのだ。

 先の量販店がつけたキャッチコピーだけを見ると、まるでクラシックのジュークボックスになるかのような印象を受けるが、そうした機能では決してないので注意が必要だ。言うまでもないが、前述のMP3プレーヤー機能ともまったく別物である。

メニュー画面。従来のシャープ電子辞書と同様のタテ型タブ方式を採用している スーパー大辞林3.0の画面。新たに「音を聞く」のメニューが追加されている
クラシックの再生画面。作曲家名が五十音順で並んでおり、そこから曲を選んで決定を押すとサビに相当する部分が再生される 同じく、鳥の鳴き声の再生画面。鳥の名前が五十音順で並んでおり、決定を押すと鳴き声が再生される。このほか、虫の鳴き声も収録されている

●際立った特徴こそないものの、優等生的なマイナーチェンジ

 全体的な印象として、従来モデルに比べて確実に進化の跡は見られるものの、どうしてもこのモデルでないとダメ、という強みは見つからない。大きな欠点こそないものの、際立った特徴がないのだ。オールマイティモデルによくありがちである。

 特に、プレスリリースに見られる新機能の多くについて、実際に使用してみるとやや不満が残る出来であることは、あまり印象がよくない。店頭でのセールストークには強いが、実際に使ってみるといろいろと不満が出てくる、そんなタイプの製品かもしれないと感じた。

 聞こえのいい新機能だけを打ち出しすぎた結果、先の「英会話とっさのひとこと辞典」に採用された「自動連続再生機能」のような、地味ながら実用的な進化が埋もれてしまっているのも惜しい。

 しかし、新しく追加された機能が決して悪い方向に向かっているわけではなく、先代のPW-AT750から見て、至って順当なマイナーチェンジモデルだと言える。先のMP3プレーヤー機能のように、プラスアルファの部分で過剰な期待をすると裏切られる部分はあるが、家族で使用する1台目としての購入や、専門性を持ったモデルが肌に合わない方にとっては、長期にわたって使い続けられるモデルだと言えるだろう。

【表】主な仕様
製品名Papyrus
PW-AT760
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ5.4型モノクロ
ドット数320×240ドット
電源単4電池×2
使用時間約140時間
拡張機能SDカードスロット
本体サイズ141.9×108.3×18.7mm
(幅×奥行き×高さ)
重量約259g(電池含む)
収録コンテンツ数100(コンテンツ一覧はこちら)

□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□製品情報
http://www.sharp.co.jp/products/pc_mobile/edictionary/prod04/pwat760b/
□関連記事
【5月17日】シャープ、入力枠数を選択できる手書きパッド搭載の電子辞書
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/sharp.htm

バックナンバー

(2007年6月26日)

[Reported by 山口真弘]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.