富士通からIntel Ultra Mobile Platform 2007を採用したUMPCとなるLOOX Uが発売された。若干のディスカウントの特典がついた100台限定のモニター募集は発表の翌日にはもう締め切られ、急遽追加での募集がかけられるなど、富士通の直販サイトのみでの受注にしては順調な船出をしたようだ。 そうしたLOOX Uをデザインしたエンジニアなどにお話を聞く機会に恵まれたので、その時の模様をお伝えしたい。また、LOOX UのPCI Express Mini Cardスロットは2つ用意されているが、うち1つは空きであった。これが何のためにあるのか、考えていきたい。 ●PCらしさにこだわって小型化したからこその“コンバーチブルデザイン”
富士通のデザインチームは、LOOX Uを設計するにあたり、実に多くのモックアップを作って、実際にどう見えるのかなどを何度も何度もチェックしたという。「今回の製品を作るに当たり、どんな機能を搭載すればいいのか、使い勝手を含めて確認するために何度も作る必要があった」(富士通 総合デザインセンター シニアデザインディレクター 石塚昭彦氏)という。 そうしたプロセスの中で特にこだわったのは、PCらしいデザインというポイントだ。「ポータブルなデジタル機器はPCのみならず、PDAやゲーム機などさまざま登場している。そうした中で富士通の独自性を出すには、と考えていった結果、すでにLOOX Pなどで実績のあるコンバーチブルに行き着いた」(石塚氏)とした。 最近このクラスの製品ではスライド式のキーボードというのが1つの流行になってきているが、「あえてPCらしいデザインにこだわってもらっている」(富士通 パーソナルビジネス本部 PC事業部 モバイルノート技術部 遠山賢治氏)と言うように、液晶が回転することでノートPCのようにも見え、タブレットPCのようにも見えるデザインになったのだ。
●液晶下部切り込みはポインティングデバイスの使い勝手を実現するため “PCらしい使い勝手”というこだわりは、液晶のデザインにも影響している。「ポインティングデバイスを、液晶のヒンジ部になる位置に設置した。これは、どちらのモードであっても操作できるというメリットがあるが、そのために液晶の下部をカットする必要がでてきたためカットした」(富士通 総合デザインセンター ユビキタス・ソリューションデザイン部 デザイナー 益山 宜治氏)との通り、液晶下部にある切り込みは、両手でLOOX Uを持ったときに親指で操作するスペースを確保するためのものだ。 「キーボードに関しても他社の類似製品に比べて大きめにした。それによりPCらしさもより強調できると思う」(益山氏)と、デザイン上の問題だけでなくキーボードの入力しやすさにもこだわったため、キーボードもこうした製品としては大きめのものを採用することにしたのだという。 筆者のデザインへの全体的な感想としては“メカっぽいな”、もう少し砕けた言い方するなら“ガンダムっぽいな”というのがあったのだが、益山氏は「そういうメカっぽい感じをイメージしたというのはあります。そういう風に感じていただけるなら成功かなと思います」と、デザイナーとしてもそういうメカっぽさを狙っていたと述べている。なお、益山氏によれば、最終案ではもう少しラインをスムーズにしてメカらしさを後退させたものと、今回のようなデザインを採用したものと2案あったのだが、メカっぽいデザインをということで今回のデザインが採用されたとのだという。
●小さなパッケージのメリットを生かすための基板デザイン 以前の記事でも説明したとおり、LOOX Uで採用されているIntel Ultra Mobile Platfrom 2007の最大の特徴は、CPU、ノースブリッジ、サウスブリッジという3つのチップの合計の実装面積が、従来製品に比べて1/3になっていることだ。そのため、より小型の基板を作ることができるのだ。 LOOX Uもその最大の特徴を活かして、従来製品よりも小型の基板を作ることに成功した。しかし、半導体チップの実装面積が小さくなった反面、基板の設計はより難しくなっている。なぜかといえば、チップからでているピンのピッチ(幅)が従来のピッチに比べて小さくなっているので、より高度な実装技術を利用しなければ効率的な配置ができないからだ。 そこで、富士通ではLOOX Uの基板設計にあたり、さまざまな小型化技術を利用したという。例えば、ノートPC向けでも超小型製品向けだけに採用されているような2段ビルドアップ(*1)の10層基板が採用されている。「設計にあたり、0.6×0.3mmといった超小型の抵抗を採用するなど、できるだけ小型化できるように部材にも注意を払っている。そのほかにも、パッドオンビア(*2)のような技術を利用してスペースを有効利用を図っている」(遠山氏)など、パッケージのサイズが小さくなったメリットを最大限に活かす基板設計が行なわれたという。 基板を見ていて気がつくのは、A110やIntel 945GUなどBGAパッケージの半導体が黒いパテのような素材で固められていることだ。これは「BGAの半導体の強度は十分だと考えているが、それでも念には念を入れてアミダーフィルという素材で補強している」(遠山氏)とのことで、より強度を増すための措置のようだ。 なお、メインメモリは512MBのモデルでも、1GBのモデルでも8チップ構成で、マザーボードの両面に実装されている。チップセットのIntel 945GUのメモリコントローラはシングルチャネル構成になっており、8チップでもデュアルチャネルにはならない。 気になる熱設計だが、右上にアクティブなファンが用意されており、これを利用してCPU、チップセットなどを冷やす設計になっている。遠山氏によればファンレスの設計も可能だったとのことだが、ワーストケースを考えて、アクティブファンを内蔵させる設計にしたという。 それでも、Intel Ultra Mobile Platfrom 2007のプラットフォーム全体での熱設計消費電力は以前の製品とほとんど変わらないレベルであるので、部分的に熱い場所(ヒートスポット)がどうしてもでてきてしまうという。そこで、「弊社のノートPCではヒートスポット対策として、ケースの裏側にカーペットを貼り付けている。これによりユーザーがヒートスポットを触ったとしても体感温度を和らげる効果がある」(遠山氏)と、対策方法を説明した。そうしたカーペットなどはつけない方が、コストや軽量化では明らかにメリットがあるが、それでも実際にユーザーが使うシーンを考えて妥協できなかったとのことだ。 (*1)ビルドアップ基板
●もう1つのPCI Express Mini Cardの使い道は? LOOX Uをバラしていくと、おやっと思うのは、PCI Express Mini Cardスロットが2スロット用意されていることだ。1スロットは購入時のオプションとして用意されている無線LANカードのためなのだが、それでも1スロットは余ってしまう。もし、このもう1つのPCI Express Mini Cardスロットが必要ないのであれば、最初から1スロットにしておいた方がコストの観点からよいのは言うまでもない。だが、わざわざ用意されているのには何らかの意図があると考えるのが妥当ではないだろうか。 筆者はこのもう1つのスロットは、間違いなく無線WAN、具体的に言うのであればHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)の内蔵モジュールのためではないかと考えている。最近、海外向けのノートPCではPCI Express Mini Cardのスロットを2つ搭載し、無線LANともう1つにHSDPAの通信モジュールを搭載させるという製品が増えてきている。実際、富士通も海外向けのノートPCで、HSDPAの機能を内蔵した製品をリリースしており、本製品も海外向けにも出される可能性が考えられる(実際IDFで展示されていたのは海外向けのモデルだった)ことも考えれば、その可能性が最も高いと言える。 重要なことは、ワイヤレスWAN、もっと俗な言い方をするのであれば“モバイルブロードバンド”は、UMPCのような製品が成功するための鍵であるといえる。Intelのアナンド・チャンドラシーカ上級副社長(ウルトラモビリティ事業部ジェネラルマネージャ)は「ウルトラモビリティの新しい市場ができるためには、定額制のモバイルブロードバンドの普及が最大の鍵だ。なぜなら、こうした製品の最大のキラーアプリケーションはインターネットだからだ」と、モバイルブロードバンドこそがUMPCの成功の鍵だと語っている。 ここで思い出してほしいのは、我々の生活が高速な定額制ブロードバンドにより変わったと言うことだ。それがなければ、Googleに代表されるような“Web 2.0”などと総称されるWebサービスを提供する会社の勃興などあり得なかったし、YouTubeのようなサービスが注目されることもなかっただろう。そうしたサービスの担い手は、未だに多くの部分がPCであり、今やそのほとんどがx86ベースとなっているのだ。 それが、今年の3月より始まったイーモバイルのHSDPAサービスや2008年にサービスが始まる予定のWiMAXなどにより、今や定額制ブロードバンドもワイヤレスになろうとしている。そうした中、さまざまな企業が提供するWebサービスなども、実際にはx86ベースのPC(今やアップルとてここに含まれる)から利用されているのがほとんどであり、定額制ブロードバンドがワイヤレスになるなら、PCとて本当の意味でワイヤレスにならないといけない、そのためにはもっともっと省電力な半導体が必要になる……そういうトレンドの中で登場してきているのがIntelのLPIAであり、AMDのBobcatなのだ。 ●CFカードを利用することで“モバイルブロードバンド”を利用可能に だとすれば、そのLPIAの最初の製品となるIntel Ultra Mobile Platform 2007を搭載するLOOX Uとて、モバイルブロードバンドを内蔵させたいと考えるのが自然な流れだし、富士通のエンジニアたちがそれに気が付いていないはずもない。 ただし、そこには日本ならではの問題が存在している。それがサービスを提供するキャリアとの関係だし、JATE(電気通信端末機器審査協会)の認定を通すという作業だ。もっとも後者のJATEの認定を通すことそのものはあまり問題でない。JATEの認定作業というのは書類をきちんと揃えて費用さえ払えば、決して通すことが難しいものではないと言われている。 とすると、ハードルとなると考えられるのは、キャリアとの関係だ。現在、日本のキャリアは、自社ネットワークに対応する機器は、端末メーカーからOEM供給してもらい自社のブランドで販売するという戦略をとっている。 まず議論しなければいけないことは、PCメーカーが端末メーカーとなりうるのかという議論だが、ここは不可能ではないかもしれない。というのも、携帯の端末メーカーをみると、NEC、パナソニック、ソニーエリクソン、富士通など、PCメーカーを兼ねているところも少なくないからだ。 残る問題は、インセンティブ販売モデルという携帯電話の特異なビジネスモデルに、PCをどう当てはめていくかという点になるだろう。一般的に、携帯電話でインセンティブがつかない本当の価格は7万円前後と言われているが、それでも本製品の14万円弱という価格からすれば半分でしかない。 個人的な理想としては、キャリアからではなく富士通のようなPCメーカーからSIMロックなしでHSDPA機能を内蔵したUMPCがリリースされることを期待したい。すでに日本でもノキアがそうした方法で、スマートフォンなどをビジネス向けに販売しているが、そのPC版という位置付けでの販売だ。もちろんPCメーカーとしては、どこかのキャリアで使えることを保証しない限り販売できないだろうから、どこかのキャリアがそうした販売方法をうんと言わない限り販売できないだろうが、ぜひともそういう動きに期待したい。 なお、本製品の場合には、CFスロットが標準で用意されているので、イーモバイルが販売しているCFカードスロット用の通信カード“D01NX”を利用することで、大都市圏では定額制のモバイルブロードバンドがすでに利用可能だ。HSDPA内蔵なんて待ってられないよ、というユーザーにはそういう使い方がお奨めとなるのではないだろうか。
□富士通のホームページ (2007年6月27日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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