Bearlakeの開発コードネームで開発が続けられてきたIntel 3シリーズ・チップセットが、ついに正式に発表された。発表会でIntelのリチャード・マリノウスキー氏(モビリティ事業本部 チップセット事業部副社長兼チップセット事業部共同ジェネラルマネージャ)は「Intel 3シリーズの状況はヘルシー(健全)である」と述べたが、その裏ではG35のドライバソフト開発に依然として手間取っている、など課題も抱えている現状も明らかになってきている。 また、COMPUTEX TAIPEIの会場でOEMベンダなどに取材したところ、IntelがOEMベンダなどに対して2008年の計画について説明を行なっていることなどが明らかになってきた。すでに明らかになっている2008年前半予定の次期チップセットの「Eaglelake(イーグルレイク)」に続き、タイラスバーグ、サミットレイクの2製品を2008年後半から2009年にかけて計画しているという。 ●シリコンの開発は順調に進むIntel 3シリーズ・チップセット 冒頭でも紹介したマリノウスキー氏のIntel 3シリーズの状況は非常に順調だという発言は、シリコン(半導体)の状況に限ればOEMベンダ側の証言と一致している。当初DDR3-1333での互換性の問題が指摘されていたX38の状況だが、OEMベンダの関係者によれば、すでに供給が開始されている最新リビジョンでは問題はほぼ解決されているそうで、9月に予定されている発表に向けて順調に準備が進んでいるようだ。 このほか、すでにG33、P35に関しては、秋葉原に製品が出回っていることからもわかるように、製品の供給は潤沢に行なわれており、出荷も問題なく進んでいるようだ。また、G33/P35と同系統のシリコンが使われているQ35/Q33の準備も問題なく進んでおり、すでにOEMベンダは製品版のシリコンを受け取っており、第3四半期に予定されている搭載製品出荷に向けて準備が進んでいる。
【表】Intel 3シリーズ・チップセットの状況(Intelなどへの取材から筆者作成)
●DirectX 10対応ドライバの開発で足踏みを続けるG35
しかし、この中で唯一問題を抱えている製品がある、それがG35だ。すでに以前の記事でも説明したように、G35の正体は、Broadwaterの焼き直し版で、基本的な仕様はBroadwaterと大きな違いはない。ただし、Intelのチップセット&グラフィックスマーケティングディレクター スティーブ・ピーターソン氏は「G35とG965の内蔵GPUは全く同じというわけではない。DirectX 10に対応させる必要もあり、G35の方は若干改良はされている」と説明しており、シリコンそのものに若干の手が入っているようだ。 ただし、それ以外の大枠(メモリはDDR2、サウスブリッジはICH8)に関しては大きな手は入っておらず、「G35とG965はピン互換になる」(ピーターソン氏)との言葉の通り、マザーボードベンダはG965のマザーボード基盤をそのままG35に転用可能で、「ハードウェアそのものだけでよければ、明日にでも出荷できる」(あるマザーボードベンダの担当者)という状況にある。 だが、それなのに9月に予定されているG35のリリースについて、マザーボードベンダ側はそれも怪しいと考えているようだ。その答えはグラフィックスのドライバ周りにある。あるマザーボードベンダの担当者はこう説明する。「先月にα版となるグラフィックスドライバを受け取ったが、出荷に値するものじゃなかった。ドライバが完成するのは8月と聞いているが、とてもじゃないが9月に間に合うとは思えない」との通り、ドライバの開発に問題を抱えているようだ。 Intel 3シリーズ・チップセットの発表会ではこうした状況を裏付ける発言があった。Intelのマリノウスキー氏は「リリース時にはピクセルシェーダ3.0までの対応となり、ゲームでの互換性や性能などが大幅に向上する。DirectX 10のサポートは後日対応となる」と述べ、G35のリリース時にはDirectX 10への対応を見送り、後日のドライバアップデートで対応することを明らかにしている。1,333MHzのFSBへの対応をのぞけば、G35の最大の特徴はDirectX 10への対応ということになるので、それが最初のバージョンのドライバでは見送られるというのは、OEMベンダ側の「ドライバ開発が遅れている」という証言を裏付けるものだと言っていいだろう。おそらく、G35のリリースの遅れをさけるために、まずはDirectX 10には対応していないドライバでリリースし、その後DirectX 10への対応が行なわれる、そうした戦略に変更されたのだろう。 あるOEMベンダの関係者がしみじみ言っていった言葉がこの問題の本質を示していると筆者は思う。「つくづくIntelという会社の弱点はソフトウェアだと思う。Viivもそうだし、ソフトウェアが絡むIntel製品は多かれ少なかれ問題を抱えている」と。 ●NVIDIAはX38でSLIをサポートするのか、否か?
Intel 3シリーズの発表会でマリノウスキー氏はこんなことを言っていた。「X38にPCI Express Gen2やDDR3-1333などの最新技術を導入している。そうすると、いったいなぜそんなモノが必要なんだ? という質問をしてくる人がいる。確かに、エンドユーザーに対してベネフィットをすぐ説明することは重要なことであるのは疑いない。しかし、新しい技術を普及させるには、誰かが始めないといけないのだ」と。 筆者もその意見にはまったくもって賛成だ。確かに、今のところPCI Express Gen2に対応したGPUは存在していないし、DDR3-1333だって内蔵GPUを持たないX38では大多数のユーザーには意味がないというのは事実だ。しかし、それでも誰かが導入を始めない限り、これらの技術がメインストリームに降りてくることはないし、いつまでも普及しないだろう。だから、それを業界のリーダーたるIntelが率先してやるということには賛辞を送っておきたい。 その一方で、X38には依然として1つ大きな疑問符がついていることも事実だ。それが、今やエンスージアストユーザーの最大の関心となりつつあるデュアルGPUソリューションの問題だ。デュアルGPUのマーケットシェアの大多数がNVIDIAのSLIであることは疑いの余地はないが、Intelのチップセットは、SLIには対応しておらず、今やAMDとなったATIのCrossFireに対応しているだけだ。 より正確に言うのであれば、IntelのチップセットがNVIDIAのSLIに対応していないのではなく、NVIDIAのドライバがIntelのチップセットでSLI動作をサポートしていないのだ。NVIDIAが自社のチップセット以外でSLIに対応しないのは、安定動作が保証できないからと公式には説明しているが、SLI対応を自社のチップセットの売りにしたいと考えていることは想像に難くないだろう。 このため、これまでIntelのハイエンドであるIntel 975Xは、2つのPCI Express x16スロット(電気的には2×8)を備えていたが、SLIには対応できず、エンスージアストユーザーにはあまり振り向いてもらえなかった。その替わりにNVIDIAのnForce 680i SLIが大きく売り上げを伸ばしていた。このまま、NVIDIAがX38でSLIをサポートしないのであれば、X38のターゲットユーザーであるエンスージアストユーザー(ハイエンドゲーマーと言い換えてもいいだろう)に振り向いてもらえない可能性が高い。 この問題は、NVIDIAがX38でのSLI動作を認めるかどうかにかかっているので、IntelがNVIDIA側に働きかけて、NVIDIAのグラフィックスドライバでX38においてSLIが動作するようにしてもらうしかない。つまり、今のところカードはNVIDIA側にあるわけだ。 この点に関して、OEMベンダの関係者に取材したところ、2つの見解があった。1つは従来通り、Intelからは何も聞いていないというもの。もう1つは、Intelからは公式な文章は出ていないものの、口頭ベースでこの問題は解決し、X38でSLIが動作するようにNVIDIAとの交渉が済んだと伝えてきた、というものだ。 今のところ、Intelも、NVIDIAもこの件に関して公式には明らかにしていないので、実際のところどうなのかはわからない。 しかし、1つ言えることは、SLIに関してカードはNVIDIA側にあるが、Intel側も別のカードを持っているということだ。具体的には、2008年に導入される全くの新アーキテクチャであるNehalem(ネハレム)世代におけるシステムバスのライセンスというカードだ。 Nehalem世代では、メモリコントローラがCPUに統合され、システムバスは現状のパラレルのP4バスからシリアルのCSIに変更される。このため、チップセットベンダは新たにIntelとライセンス契約を結ぶ必要があると考えられている。むろん、NVIDIAもその必要に迫られる。昨年(2006年)、AMDがATIを買収したことにより、今後AMDプラットフォームのリファレンスチップセットは旧ATIのチップセットになる可能性が高いことを考えると、NVIDIAのチップセット事業にとってIntel向けの重要性は高まっており、是が非でもCSIのライセンスを入手したいところだろう。であれば、お互いに交換するカードは持っていることになるので、じゃあそれを交換しようと流れになることは容易に想像できる話だ。 こうした事情が背景にあるため、前出の関係者が話したIntelがNVIDIAがX38でSLIをサポートすると確約したと説明した話は十分あり得るのではないかと筆者は考えている。正式な答えは、X38が正式にリリースされる9月までは分からないが、注目していきたい話題だ。 ●2008年にイーグルレイク、タイラスバーグ、2009年にはサミットレイクをリリース G35のドライバ、X38のSLIという課題は引き続き残るものの、マリノウスキー氏がいうように、Intel 3シリーズ・チップセットはほぼ順調に立ち上がりつつあると言ってよい。こうしたことを受けて業界の興味は来年以降のロードマップに移りつつある。すでにIntelは来年(2008年)以降のチップセットのロードマップをOEMベンダなどに説明を開始している。 既報の通り2008年の第2四半期に、Eaglelake(イーグルレイク、開発コードネーム)と呼ばれる次世代チップセットを計画している。Eaglelakeでは、DDR3-1333、PCI Express Gen2などのX38に採用されていた技術がメインストリームに降りてくる。また、Intelのマリノウスキー氏は次世代のチップセットが65nmプロセスルールに移行することを明らかにしており、このEaglelakeは65nmプロセスルールで製造される可能性が高い。 2008年の第4四半期には、NehalemアーキテクチャのCPUとチップセットが同時に登場することになる。OEMメーカー筋の情報によれば、CPUの開発コードネームはブルームフィールドで、既報の通り3(トリプル)チャネルDDR3のメモリコントローラがCPUに統合され、クアッドコアのCPUになるという。なお、この最初の製品ではGPUコアは統合されないという。GPUコアがCPUに統合された製品は、2009年にリリースが予定されているNehalem世代のモバイル向けCPUが最初の製品となる。 このブルームフィールドのチップセットとしては、タイラスバーグとサミットレイクという2つの製品が計画されている。タイラスバーグはブルームフィールドと同時に、サミットレイクはやや遅れて2009年に入ってからのリリースが予定されているという。いずれのチップセットも、システムバスはCSIになるが、タイラスバーグはIOH(I/O Hub)と呼ばれ、PCI ExpressとICHへのスイッチという役割になるものの、サミットレイクに関しては、依然としてメモリコントローラと内蔵GPUを内蔵したGMCH(Graphics Memory Contoller Hub)になるという。
CPUとなるブルームフィールドにもメモリコントローラが内蔵されているのに、なぜサミットレイクにもメモリコントローラが内蔵されているのかと言えば、それは内蔵GPUのためだ。仮にGPUをノースブリッジ側におき、CPUのメモリコントローラを利用した場合、GPUからみたメモリレイテンシがあまりに長くなりGPUの性能がでない可能性が高い(こうした問題は同じようにメモリコントローラをCPU側に統合しているAMDのAthlon 64シリーズでも発生している)。 Intelとしてはまずブルームフィールド+タイラスバーグでハイエンドマーケットにNehalemの技術を投入し、2009年になってからサミットレイクを投入することで、よりローエンドな市場にもNehalem世代の製品を落とし込んでいくという戦略を採っていくと考えられている。ただ、仕組みが違うチップセットが2つ存在することで、OEMベンダはタイラスバーグとサミットレイク、それぞれ別のマザーボードを用意する必要がある。このため、ハイエンド製品は単体型GPUで、ローエンドは統合型で、というSKU構成を考えているOEMメーカーにとっては2枚のマザーボードを用意する必要がでてくるわけで、そのあたりが課題となる可能性があるといえるだろう。 □関連記事 (2007年6月7日) [Reported by 笠原一輝]
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