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「Griffin」から「FUSION」への道




●FUSIONがコンピューティングの革新であると強調するAMD幹部

Griffinのサンプルチップ

 AMDのモバイルCPUは、2008年の、モバイル特化型設計の「Griffin(グリフィン)」を経て、2009年にはGPUを統合した「FUSION(フュージョン)」プロセッサへと進化する。AMDは、FUSIONの製品やそのビジョンをより明確にし始めている。

 コンペティタの見積りでは、最初のFUSIONプロセッサのダイ(半導体本体)は180平方mm程度になるという。その見積りが正しければ、GPUコアをネイティブ統合するといわれている2010年頃のIntelのCPU「Sandy Bridge(サンデーブリッジ)」とほぼ同等のサイズとなる。もっとも、第1世代のFUSIONの製造プロセス技術は45nmと言われ、それに対するSandy Bridgeは32nm。そのため、統合できるコンポーネントはSandy Bridgeの方が多いはずだ。だが、AMDの45nmプロセスはIBMとの完全な共同開発となるため、FUSIONのパフォーマンスはそれなりに高いと予想される。

 FUSIONは、単一のCPUのコードネームではなく、CPUとGPUを統合したAMDの将来CPUプロジェクトの名称だ。AMDは、公式には、FUSIONをモバイルCPUから提供して行くことを発表している。FUSIONは、AMDのモバイルCPUのバリエーションの1つとして提供される。製品の位置付けとしては、グラフィックス統合チップセットをCPU側に持ってきたようなイメージだ。日本AMDも、FUSIONに置き換わるわけではなく、あくまでも製品の1形態だと説明する。

AMD Mobile Platform Roadmap(※別ウィンドウで開きます)
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 一方、AMDの技術幹部らは、FUSIONがもっと根源的なアーキテクチャ改革であると強調する。Phil Hester(フィル・へスター)氏(Senior Vice President & Chief Technology Officer(CTO))は、昨年(2006年)のインタビューで、FUSIONの究極的な目的は、GPUコアを命令セットレベルでもCPUに統合し、GPUコアをデータ並列プロセッシングユニットとして汎用的に活用することにあると明かしている。旧ATI側の技術トップであるBob Drebin氏(CTO, AMD Graphics Products Group, AMD)も、5月に開催されたWinHECのパネルディスカッションで、AMDはCPUとGPUが協調して、汎用的なコンピューティングを行なう、ヘテロジニアス(Heterogeneous:異種混合)型プロセッシングに移行すると語った。

First AMD Fusion Product:Accelerated Processor Combining CPU and GPU
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AMD CPU Die Size(一部推定)
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●ステップを経て進化するFUSION

 AMDの技術系のトップエグゼクティブの描くFUSIONは、幅広いストリームプロセッシングをGPUコアで実行する、ヘテロジニアスマルチコア型の汎用プロセッサだ。GPU型のデータ並列コアを、x87浮動小数点演算コプロセッサのようにCPUの標準的な機能として取り込むイメージだ。しかし、AMDの幹部の描くFUSIONのビッグビジョンと、AMDの現場が説明するFUSIONの製品計画にはギャップがある。

AMDのMaurice B. Steinman(モーリス・B・スタインマン)氏

 これについて、AMDのMaurice B. Steinman(モーリス・B・スタインマン)氏(AMD Fellow, Computing Products Group, AMD)は、次のように語る。

 「FUSIONはある意味、長い旅のようなものだ。複数のステップを経て進化するアプローチをとる。最初のレベルのFUSIONは、単純にCPUとGPUという2つのシリコンピースを統合したものになる。もちろん、多くの最適化は行なわれるが、この段階のFUSIONは、まだ『統合(Integration)』だ。

 その先では、我々は、1つのコンピュータドメインから別なドメインにオフロードするようなレベルの最適化を行なう。並列コンピューティング型のタスクの一部を、CPUからGPUにオフロードする『ヘテロジニアス』アーキテクチャとなる。さらにその先では、究極のパワー効率、または究極のシリコン面積の活用を実現する、より進んだヘテロジニアスアーキテクチャへと継続的な開発を行なう。しかし、これらは先のステップで、2009年の時点では、まず、統合の最初のステージとなる」

 AMDの目標は、CPUコアとGPUコアが融合されたヘテロジニアスマルチコアアーキテクチャで、さまざまなアプリケーションを効率的に処理することにある。しかし、そこに至るまでには数ステップを経る必要があるという。最初は、単純にCPUとGPUの両コアを統合した姿で、GPUがグラフィックスタスクを中心に処理する形となる。単なるGPUコアであり、標準的なデータ並列コアとして利用するわけではないので、FUSIONと、非FUSIONが混在しても問題がない。

 Hester氏が語ったような、x86命令セットへのGPU命令の統合のような、より深部でのアーキテクチャ融合が実現し、Drebin氏の描くヘテロジニアスコンピューティングが花開くのは、その先のフェイズとなる。FUSIONがAMD CPUの標準形態になるのは、2-3世代先だろう。逆を言えば、それまでの間にAMDは、GPUコアをデータ並列コンピューティングコアとして使うための、ソフトウェア層の仕組みなどを整えなければならない。

The Efficiency Benefits of Silicon-Level Integration
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●インターコネクトやメモリがカギとなるFUSIONプロセッサ

 FUSIONでは、最初のレベルのCPUコアとGPUコアの単純な統合でも、さまざまなレベルの最適化が必要となる。Steinman氏は次のように説明する。

 「FUSIONでは、特に、CPUとGPUそれぞれの性質に合わせたメモリコントローラの最適化は重要だ。また、メモリの最適化では、DRAMインターフェイスや個々のキャッシュだけでなく、チップ全体のメモリ階層を見る必要がある。例えば、CPUとGPUの間で、キャッシュを使った、より効率的なコミュニケーションなどが考えられる。統合のフェイズでは、CPUとGPUそれぞれのプロセッサの性質や重要要件を考慮して、メモリ階層を非常にインテリジェントにする必要がある」

 Steinman氏はこのように、CPUコアとGPUコアが、互いのキャッシュにアクセスできる可能性も示唆する。もちろん、コマンドストリームなどはCPUとGPU間で直接オンチップでやりとりされることになるが、それ以上のデータコミュニケーションも考えてるようだ。AMDはCPUのモジュラー化を進めており、異種コアの統合も容易に実現できるようにするという。

AMD's Flexible, Modular Design Approach for Increased Agility
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 Intelも、CPUとGPUと本格的に統合する段階では、リコンフィギュラブルなキャッシュアーキテクチャを持ち込むと見られる。また、内部インターコネクトもスケーラブルにして、コアの増減や、異なるコアの統合を容易に行なうことができるアーキテクチャにすると言われている。

 ちなみに、GPUコアの融合が容易と言われるSandy Bridgeは、ヘブライ語のコードネーム「Gesher(ゲッシャ)」から改名された。Gesherがヘブライ語で「橋(Bridge)」であったため、同アーキテクチャのファミリにはBridgeがつけられることになったという。旧コードネームは、このアーキテクチャのカギが内部コアのインターコネクト技術にあることを暗示している。

●慎重なFUSIONの浸透計画

 AMDはFUSIONをまずメインストリームのモバイルCPUエリアから投入する。デスクトップにはすぐには投入しない。また、AMDは、PC向けのパフォーマンスと消費電力レンジでFUSIONを提供する。家電や携帯機器向けのFUSIONの提供は、別なフェイズとなる。

 AMDがFUSIONをモバイルから導入する理由の1つは、FUSION化が消費電力の低減に効果があるからだ。しかし、Steinman氏は、それ以外にもマーケット側の理由があると説明する。

 「FUSIONではCPUとGPUが同じチップになり、明瞭に新しいインフラストラクチャとなる。モバイルとデスクトップを比べると、モバイルではエンドユーザーからのアップグレードの要求があまりない。そのため、モバイルでは革新的なプラットフォームの改革に導きやすい。一方、デスクトップでは、多くのエンドユーザーがアップグレードや後方互換性、BIOS互換性などを重視している。そのため、大きな改革が難しい」

 インフラに大きな変更を要求する改革は、モバイルから持ち込んだ方が楽という説明だ。

 この事情は、おそらくIntelでも同様だ。Intelも2008〜9年に投入される「Nehalem(ネヘーレン)」世代でのGPUの統合(2ダイと言われている)はモバイルが先行するからだ。Nehalemのモバイル版ではGPUコアがCPU側に統合されるが、デスクトップ版の最初のフェイズでは従来通りグラフィックス統合型の“Graphics Memory” Controller Hub (GMCH)型のノースブリッジチップが提供される。CPUとのFSB(Front Side Bus)はシリアルバスのCSIに移行するが、GPUとメインメモリインターフェイスはGMCH側に来る(ミッドレンジから上はメモリインターフェイスはCPU側)。かなり変則的だが、AMDもIntelも、GPU統合への移行にはそれだけ慎重になっている。

 AMDのFUSIONは、モバイルでもメインストリームの価格帯で提供される。

 「最初のFUSIONの実装は、メインストリームモバイル向けだ。しかし、FUSIONはアーキテクチャであり、CPUとGPUそれぞれについて、異なるレベルのパフォーマンスと電力のポイントで提供される。我々はウルトラローパワーやローエンド向けのFUSIONも考えている。コストの側面だけで考えても、2個のシリコンが1個に統合されることは、ローエンド向けとして価値があるだろう」(Steinman氏)

 FUSIONが180平方mm程度だとすると、コスト的には悪くはない。通常80〜100平方mm前後となるグラフィックス統合チップセットをCPUに統合してしまっているからだ。さらに、その先では、AMDは、FUSIONファミリも異なるコンフィギュレーションへと拡大して行くと見られる。

 また、AMDのFUSIONには、PC向けの系列とは別な“FUSION”がある。AMDは、ATI Technologiesの統合の際に、ATIの持つ家電と携帯機器向けの製品と技術を重視していることを明かした。ATIの資産に、AMDのx86 CPUコアの開発力を組み合わせて、家電と携帯向けのFUSIONを創り出してゆくプランだ。

 AMDは、こちらのFUSION計画については、まだ詳細は明かしていない。しかし、IntelがLPIA(Low Power Intel Architecture)を押し出し始めたため、AMDも明らかにし始めると推測される。

AMDのCPUアーキテクチャー進化の方向
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【5月24日】【海外】AMD初のモバイル専用CPU「Griffin」の正体
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0524/kaigai361.htm
【5月24日】【MPF】【AMD編】Griffinの詳細を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0524/mpf02.htm
【5月18日】AMD、次世代モバイルCPU「Griffin」とプラットフォーム「Puma」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0518/amd.htm

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(2007年5月28日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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