第379回
日本での専用ハード発売も期待したい
Windows Home Server



 5月15日から3日間にわたって開催されたMicrosoftのハードウェア開発者向け会議「WinHEC 2007」だが、この期間中、もっとも注目を集めたMicrosoftのプロダクトは、1月のInternational CESで発表されたWindows Home Serverである。すでにβテストも広範にわたって行なわれているため、そのレポートをごらんになっている読者もいることだろう。

 家庭内での利用にフォーカスしたサーバーの新しいコンフィギュレーションとして注目されているWindows Home Serverだが、ハードウェア開発者からも多くの注目を集めていた。WinHEC最終日に開催された「Windows Home Server Deep Dive」と題されたチョークトーク(プレゼンスライドを用いず、ホワイトボードを前に自由講義スタイルで行なうセッション。質疑応答を中心に開発者自身が技術的に掘り下げた内容を講義する)は満席の上、さらに立ち見で通路が一杯になる盛況を見せた。

 かなり開発寄りの話が中心だが、それとは別に行なわれた概要解説のセッションからの情報も合わせ、Windows Home Serverに関する話題を拾っていこう。

 なおこのWindows Home Server、ソフトウェアのみのライセンスと専用ハードウェアでの提供の2つの経路が検討されているが、製品の性格からすれば、専用ハードウェアでの運用が望ましいだろう。しかし、残念ながらバッファローやアイ・オー・データ、ロジテックといった日本のNASベンダーは、搭載製品の開発を行なっておらず、商品化の計画もないようだ。ただしHewlett-PackardやDellといったメーカーが対応を表明しているので、何らかの形で日本での販売も行なわれると見られる。

●Windows Home Serverの基礎

Windows Home Serverの主要機能。自己修復可能で拡張性のあるストレージや自動バックアップ、リモートアクセスを核に、簡単なセットアップと使い勝手や高い信頼性を実現する

 Windows Home Serverの機能を簡単に言えば、インテリジェントな機能を持ったNASといったところだろう。“サーバー”にはさまざまな種類、役割があり、ソフトウェア次第で家庭向けに多くの機能を加えられるだろうが、初期状態のWindows Home Serverは、NAS+便利機能といったものに仕上がっている。

 主な機能はデータ保護された拡張可能で管理も容易な大容量ストレージサービスをネットワーク経由で提供すること。接続するクライアントPCのデータを、自動的にバックアップ保存すること。無償で提供されるダイナミックDNSサービス「Windows Live Domains」を用い、インターネットから家庭内のデータにアクセスする手段を提供すること。それにネットワークを通じて各PCのセキュリティセンターの状態を診断しモニタすることだ。

 Windows Home ServerはWindows Server 2003 R2を基礎に構築されているため、企業向けのWindows Serverが持つ機能は、一通り実装しようと思えば、どれも実装できるだろう。たとえばインターネットへのセキュアなゲートウェイとして使ったり、ブログサーバーとして機能させるといったことも不可能ではない。

 しかし敢えて機能を絞ることで、シンプルかつセキュアなプラットフォームとし、家庭内で安心して簡単に使える製品に仕上げている。Windows Home Serverのハードウェアはディスプレイへの接続が不要で、NASと同様にネットワークにつないでおき、リモートでクライアントPC側から各種の設定や操作を行なう。

 なお、後述するが、あとからアドインの形で機能を追加することもできる。

 Windows Home Serverが持つ機能の中で、単純なストレージサービスを除くと、もっとも役立つのはバックアップ機能だろう。

 Windows Home Serverのバックアップは、毎日のバックアップを自動的にネットワークを通じて実行されるため、エンドユーザーは何らかの操作を行なう必要がない。加えて同じファイルのバックアップは1個しか持たないため、たとえば4台のPCが「wordpad.exe」をバックアップしたとしても、Windows Home Server上にバックアップされるのは1個。

 さらにファイル圧縮なども行なうことで、家庭内にあるPCのバックアップを効率的に行なえるよう工夫されている。Microsoftの説明では、たとえばトータル数TBのバックアップを行なったとしても、バックアップに必要な容量は100GB程度に抑えられるという。

 こうしてバックアップを行なったファイルの復元は、ボリュームごとまるまる復元できるほか、ファイル単位に必要なデータを探していき、1個づつ取り出すといったことも可能だ。

●システムドライブの保護は?

Windows Home Server専用機のハードウェア要件

 Windows Home Server搭載の製品は、低速なx86プロセッサ(1.2GHz以上)と512MBのメモリで動作し、背面パネルには電源コネクタの他、USBとGigabit Ethernetだけのシンプルなコネクタ構成だけで動作可能。また、ハードウェアとして販売する場合のシステム要件として、ドライバ不要で拡張できる最低2個以上のHDDスロット、4ポート以上のUSB、1ポート以上のGigabit Ethernet、30dB以下の騒音レベルなどの条件クリアを必須としている。

 また、システム要件の中にはワイヤレスLANやディスプレイ接続コネクタ、シリアル/パラレルポート、キーボード/マウスポート、光学ドライブなどは搭載してはならないというものもある。ワイヤレスLANを搭載しない理由は、セキュリティ上の問題をシンプルな手法では解決できないためだ。なおHDDのスロットは2個以上装備しなければならないが、低価格を実現するためか、HDDそのものは80GB以上の1ドライブがあれば良いことになっている。

 2個以上のドライブがある場合は、必ずファイルデータは物理的に異なるHDDに2個のコピーが保存され、いずれかのドライブが破壊された場合でもデータを復旧できる。つまりミラーリングなのだが、RAIDではないそうだ。

 Windows Home Serverで扱えるボリュームは(システムボリュームは不可視なので)常に1つで、HDDを追加すると単純に容量が増えるだけ。スロットがすべて埋まっているときに、200GBのドライブを400GBに交換する場合(もちろんホットスワップには対応している)も、ユーザーはディスクの再構築に関して難しいことを考える必要はない。すべてWindows Home Serverにおまかせしておけばいい。


システムボリュームが壊れた場合は、リモートでノートPCなどからDVDの内容をプッシュし、システムボリュームを復旧させる手段を提供している

 例外はシステムボリュームが含まれるディスクが故障、あるいは交換する場合である。システムボリュームが入った1台目のディスクが読めなくなれば、当然ながらサーバーが起動できなくなる。

 このための対策として、Windows Home Serverにはシステム復旧を行なうためのファームウェアがフラッシュメモリで搭載されている。システムを起動してから、ネットワークで接続されているクライアントPCに専用の復旧用DVDを挿入すると、システムボリューム(20GBが固定で確保される)に必要な情報がサーバーにプッシュされ、システムボリュームを作成してから再起動。あとは元通りに再構築される。


●サードパーティのアプリケーション次第で家庭向けアプリケーションサーバーに

 Windows Home Serverには別途SDKが提供され、アドインプログラムをリモートインストールすることで、機能拡張を行なうことも可能だ。Windows Home Serverの標準的な管理ユーザーインターフェイスに新しいタブを追加し、そこに何らかの管理機能を加えたり、あるいはクライアントユーザーにWebベースのアプリケーションも追加できる。あるいはネット上のサービスと連携し、データを同期させたり、写真を縮小してインターネットにWebページとして発行するといった機能を追加することもできる。前述したように、基本はWindows Server 2003であり、一定のルールさえ守れば多様な機能を実装可能だ。

 たとえばサーバー上に保存されている動画や音楽のメタデータを集計、整理してカタログとして見せる機能を追加したり、CCDカメラを使った監視機能を追加したり、ブログサーバー機能、DLNAサーバー機能、ウィルス検出や不正進入防止機能を追加することもできる。これらはWindows Home Serverに標準搭載はされないが、別途製品として販売されたり、ハードウェアベンダーが自社製品の差別化の一環として組み込むなどで入手できるようになるはずだ。

Windows Home Serverのコンソールに“WinHEC Tab”というタブを追加したところ。Visual Studioを用いて、簡単にコンソールに独自タブと管理画面を追加できる クライアントPCの健康チェック機能はWindowsセキュリティセンターと連動しているが、各PCで動作するユーザーソフトウェアに、Windows Home Serverへのアラート報告機能を付けることもできる

 つまり、Windows Home Serverの標準状態は、“NAS+α”でしかないが、ソフトウェアの追加で機能が強化されていく点が、根強い人気のRAID対応NASと比べた場合の大きなアドバンテージになる。ネットワークアプライアンスではなく、あくまでもPCベースのサーバーなのだ。

アドインの開発やWindows Home Serverと連携するアプリケーション、サービスを開発することで、応用範囲はさらに広がる可能性がある Microsoftが示したアドインソフトウェアによる拡張例

 操作や管理は非常にシンプルで、知識がなくとも運用できるデータ二重化のシステムや、自動バックアップ機能など、まさに家庭にはなくてはならない機能がある魅力的な製品になりそうだ。ただし、実際にヒット製品となるかどうかは価格次第といえる。

 Microsoftは“購入しやすい価格”にすると話しているが、では購入しやすい価格とはどの程度なのかは明らかにしていない。サーバーは直接、それ自身を利用するのではなく、ネットワーク経由でサービスを受けるという性質の製品である。実体を掴みづらいこの手の製品を家庭向けに売り込むのは、なかなか難しいものだ。

 個人的には約5万円からという価格付けを期待しているが、スタート時点では7~8万円程度はするかもしれない。とはいえ、開発者たちからの注目度も高いということは、予想もしなかったような便利機能が、どんどんWindows Home Server向けに開発される可能性が高いことを示唆している。年内と言われる製品の出荷に向けて、今からその仕上がりと波及効果に期待を持たせる製品だ。

□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□WinHECのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/whdc/winhec/
□関連記事
【5月17日】【WinHEC】ビル・ゲイツ会長基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/winhec02.htm
【5月17日】【元麻布】PCの将来について4つのトピック
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/hot484.htm
【1月9日】【CES】タッチスクリーン搭載のVista PCとWindows Home Server搭載ネットワークストレージ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0109/ces6.htm

バックナンバー

(2007年5月21日)

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.